自賠責に因果関係を否定された同名半盲が、訴訟で認められた事例

今回は、交通事故により同名半盲を負ってしまった方の高額解決事例をご紹介いたします。

同名半盲とは、両眼の視野の右半分または左半分が欠損する半盲症のうち、両眼同側が欠損するものをいいます。

右同名半盲の場合、右眼でも左眼でも、右側が見えなくなります。

今回ご紹介する被害者の方は、交通事故後、右同名半盲が発症してしまいました。

自賠責保険会社は、原因となるような交通事故による外傷性の異常所見が認められないことを理由に、相当因果関係を否定する判断をしましたが、訴訟提起をしたところ右同名半盲が認められるに至りました。

以下、同名半盲に関する基本的な説明を交えながら、事例をご紹介します。

1.同名半盲とは

前提として、視覚情報が脳に伝わる経路について解説します。

下の図をご覧ください。

視覚の情報は、網膜に投影された後、視神経→視交叉→視索→外側膝状体を経て脳に伝わります。

ここで重要なことは、両眼ともに左視野の情報は大脳の右半球に、右視野の情報は左半球に伝えられるということです。

それでは、視覚の伝達経路が損傷した場合、視野はどうなるのでしょうか。

下の図をご覧ください。

このように、損傷した部位によって、欠損する視野は異なります。

例えば、視交叉が損傷した場合は、右眼の右側半分と左眼の左側半分が見えなくなります(①)。右眼でも左眼でも耳側の半分が見えなくなることから、両耳側半盲と呼ばれています。

左右の視神経が損傷した場合、全盲となります(②)。

左側の視索が損傷した場合は、両眼の右側が見えなくなります(③)。

今回ご紹介する事例の被害者が負った右同名半盲の状態です。

2.自賠責保険会社による審査~本件事故と同名半盲との因果関係を否定~

交通事故によって同名半盲の後遺障害が残存した場合、後遺障害等級は自賠法施行令別表第二第9級3号に該当します。

等級障害の程度
9級3号両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの

今回ご紹介する被害者(Aさん)は、交通事故後、右同名半盲が発症してしまいました。

治療を受けたものの右同名半盲が後遺障害として残ってしまったため、自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請を行いましたが、原因となるような交通事故による外傷性の異常所見が認められないことを理由に、相当因果関係を否定する判断をされました。

本件事故前はこのような症状がなかったために納得できなかったAさんは、自賠責保険会社に対して異議申立てをしたものの、結果が変わることはありませんでした。

そのため、右同名半盲についての適切な賠償を受けるため、やむを得ず民事訴訟を提起することになりました。

3.訴訟における相手方の主張

訴訟において、相手方代理人はAさんが右同名半盲の状態であることは認めたものの、MRI検査により左後頭葉の異常所見が認められないことを理由に、右同名半盲が本件事故の外傷を原因として発症したことを否定しました。

この点については、上述したとおり、自賠責保険会社も、交通事故による外傷性の異常所見が認められないことを理由に相当因果関係を否定しているところです。

また、相手方代理人は、頭部CTの画像所見を根拠に、過去に生じた脳梗塞に起因して右同名半盲が発症した可能性がある旨を主張しました。

つまり、Aさんの右同名半盲は、本件事故が原因ではなく、本件事故とは無関係の脳梗塞が原因だという趣旨です。

併せて、脳梗塞には、自覚症状がない無症候性脳梗塞も存在するとの指摘もなされました。

4.訴訟における当方の主張

右同名半盲と本件事故との因果関係については、自賠責保険会社からも相手方代理人からも否定されていることから、この点に関する証拠を確保することが重要でした。

その一環として、因果関係について診断・検査をしてくれる病院を探したところ、これに応じる姿勢の病院を見つけることができました。

同院にて、これまで受けていなかった様々な検査を経て、頭部打撲に起因した左視索障害による同名半盲であると考えられる旨の診断を受けるに至りました。

早速、訴訟手続において、これらの検査・診断結果を証拠として提出することにしました。

その他、訴訟手続において、当方からは、証拠を引用等した上で概ね以下の主張を展開しました。

・本件事故以前に右同名半盲の症状は存在せず、本件事故を契機に発生したものであるから、本件事故との相当因果関係があることは明らか。

・本件事故により、外傷くも膜下出血や右前頭部硬膜下血腫が生じる程の衝撃を頭部に受けており、意識障害も存在したのであるから、右同名半盲と本件事故との因果関係を肯定することは可能。

・視索障害による同名半盲の症例をまとめた21例報告によると、18例は脳腫瘍、1例は脱髄疾患、2例は頭部外傷を原因とするものであったが、相手方代理人が可能性を指摘する脳梗塞症例は0例であった。

・殊に脳については、現代の医学においても解明されていない事項が多く存在することは医師においても否定できない事柄であり、左視索に画像上異変がみられないとしても、それをもって因果関係が否定されるべきではない。

5.本件訴訟の結果~本件事故と同名半盲との因果関係を肯定~

双方からの主張が一段落した後、裁判所から、本件事故と同名半盲との因果関係があることを前提とした和解案が提示されるに至りました。

自賠法施行令別表第二第9級3号を前提とした1000万円を超える和解案です。

以上より、訴訟上の和解が成立して、訴訟事件は終結しました。

6.まとめ

自賠責保険会社においても、訴訟手続においても、後遺障害等級を審査するにあたっては、基本的には画像所見等の他覚的所見が重要となります。

そのため、今回ご紹介した事例のように、交通事故によって新たな症状が現れたとしても、他覚的所見が無い場合には、後遺障害等級に該当しない旨の判断がなされることがあり得るのです。

このような場合には、他覚的所見を補う証拠がないか模索することになります。

今回ご紹介した事例では、セカンドオピニオンに応じた病院を見つけることができました。

ここで重要となるのは、医師に対する医療照会兼回答書(質問と回答欄が一体となった書面)の作成です。

医師に書面で回答してほしい内容を、医師から的確に引き出すためには、医療照会兼回答書の内容が非常に重要となります。

ポイントを絞った照会書であれば、医師も答えやすく、またその答えが立証において有意義なものとなるためです。

後遺障害が残ってしまった場合、まずは自賠責保険会社に対する後遺障害等級認定の申請を行うことになるかと思いますが、可能であれば弁護士に依頼した方が良いものと思います。

当事務所では、自賠責保険会社に対する後遺障害等級の申請についても対応しております。

当事務所は全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

 市川雅人 弁護士

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務) 
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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