保険会社と示談する前に

1.保険会社の提示で示談しないでください!

保険会社と示談する前に

交通事故の怪我の治療が終わると、相手方保険会社から被害者の方に対して慰謝料などの示談額が提示されます。

このとき、ほとんどの保険会社が、算定表を使って治療費・通院交通費・休業損害・入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・逸失利益などの損害費目ごとに金額を計算して提示してきます。

このような算定表を見せられると、なんとなくしっかり計算されているから妥当な金額なのだろうと思ってしまい、そのまま示談を了承してしまう方が多いようです。

でも、その示談、ちょっと待ってください!

示談をする前に、一度弁護士に相談してみてください。交通事故の場合、弁護士に依頼することで、示談金を増額できる場合がほとんどです。保険会社の提示する基準や計算方法と裁判所の基準や計算方法が違うため、それぞれの損害費目を裁判所基準で算定し直すことでこのような増額が可能になるのです。

一度示談をしてしまうと、後で後悔しても取り消すことはできません。ですから、弁護士の立場としては、とにかく示談する前にご相談いただきたいのです。

2.慰謝料の保険会社基準と裁判所基準

交通事故被害者の方に支払われる慰謝料には、入院・通院させられたことに対する慰謝料である入通院慰謝料(傷害慰謝料とも言います)と後遺障害等級に認定された場合に支払われる後遺障害慰謝料の2つがありますが、それぞれについて自賠責保険基準・任意保険会社基準・裁判所基準の3つの基準があります。

自賠責保険は、交通事故被害者が最低限の賠償を得られるように加入が義務付けられている保険です。このように、自賠責保険は最低補償ですから、自賠責保険基準は3つの基準の中で一番低い基準になります。

自賠責保険基準の通院慰謝料(傷害慰謝料)は、基本的に通院1日あたりの金額4300円(2020年3月31日以前の交通事故の場合は4200円)×実通院日数×2で計算します。

ただし、通院期間が実通院日数×2よりも短い場合には、実通院日数×2ではなく、4300円×通院期間の日数で計算します。

自賠責保険基準の後遺障害慰謝料は、認定される後遺障害等級に応じて、1級の1150万円から14級の32万円まで金額決まっています。

任意保険会社基準は、一般的に自賠責基準よりは多少高く、裁判所基準よりはかなり低く設定されていますが、加害者が加入している任意保険会社の独自基準ですので、具体的な計算方法は公開されていません。

交通事故被害者の方が、直接相手方保険会社の担当者と示談する場合には、保険会社の担当者がこの任意保険会社基準で慰謝料を計算して提示してきます。

裁判所基準は、裁判所が用いている基準です。裁判所基準は、任意保険会社基準より高くなりますから3つの基準の中で一番高い慰謝料基準といえます。任意保険会社基準の1.5倍程度になることが多いです。

弁護士は、示談交渉の時点からこの裁判所基準を用いて交渉します。

裁判所基準と聞くと、実際に裁判をやらないといけないのではないかとご不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、弁護士が担当する交通事故でも実際に裁判を起こすケースはかなり少なく、ほとんど場合は裁判をせずに示談交渉で裁判所基準の慰謝料かそれに近い金額で示談になっているのが実情です。

示談交渉がうまく行かない場合には、実際に裁判を起こして裁判所に判断してもらうことになりますが、裁判になると1年前後の時間がかかることが多く、依頼者の方のご負担になってしまうこともありますから、弁護士としてはなるべく交渉で解決できるように保険会社と交渉をすることになります。

3.家事従事者の休業損害

家事従事者(専業主婦・兼業主婦)の方の場合、弁護士に依頼することで休業損害も増額できる可能性があります。

主婦(主夫)の方が、交通事故による怪我で家事ができなかった場合や支障があった場合、家事従事者としての休業損害を請求できます。

「主婦の休業損害」と言ってもイメージできないかもしれませんが、家政婦さんなどに代わりに家事を依頼すると、当然費用がかかりますし、主婦の家事労働にも価値があるといえるのです。

自賠責基準では、この家事従事者の休業損害について1日6100円(2020年3月31日以前の交通事故の場合は5700円)とされていますので、ほとんどの保険会社がこの自賠責基準で提示してきます。しかも、多くの場合、休業期間を治療期間の一部に限定していたり、ひどい場合には休業損害が全く提示されていないこともあります。

しかし、裁判所の基準では、家事従事者の休業損害について女性の平均賃金くらいの価値があるとされています。例えば、令和元年の場合は女性の平均賃金が388万0100円ですので、これを1年365日で割ると1日あたり休業損害は1万0630円となります。

そのため、弁護士はこの金額を単価として、家事従事者の休業損害を算定して請求します。また、休業期間についても、実際に家事に支障があった状況をしっかりお聞きして、実態に合ったものとなるように交渉します。

このように、家事従事者の休業損害についても、弁護士に依頼することで単価を平均賃金に上げたり、休業日数を増やしたりすることで増額する可能性が高いといえます。

また、兼業主婦の方の場合、保険会社の担当者が、勤務先を休んだ分の休業損害しか認めず、家事従事者としての休業損害が全く考慮されていない場合も多いように思います。

しかし、兼業主婦でも年収が女性の平均賃金よりも低い場合には、家事従事者としての休業損害を請求できる場合が多いです。兼業主婦の方も、家事をしているという点では専業主婦と変わらない訳ですから、当然と言えば当然のことかもしれません。

この主婦の休業損害についても、何も知らないまま示談してしまっている被害者の方が多いですが、弁護士のご依頼いただくことで増額がかなり期待できる部分といえます。

4.後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合、上でご説明した後遺障害慰謝料の他に、後遺障害による将来の減収部分に対する補償の趣旨で「逸失利益」が支払われます。

この逸失利益についても、自賠責基準と裁判所の基準が大きく異なります。

例えば、交通事故被害者に多い頚椎や腰椎の捻挫(いわゆるムチウチ)の場合、神経症状の後遺障害等級である14級9号が認定されることが多いですが、14級の逸失利益は自賠責基準では43万円とされています。

これに対して、裁判所は、14級9号の場合は年収の5%を5年間程度喪失すると考えています。ただ、5年間といっても、単純に年収の5%に×5をする訳ではなく、ライプニッツ係数というもので計算します。

これは、本来逸失利益が将来的に1年毎受け取るはずであった収入を前倒しで一括で受け取ることになるため、中間利息を差し引く必要があると考えられているためです。

仮に、年収500万円の方が14級9号の認定を受けたとすると、5年間のライプニッツ係数は「4.58」ですので(2020年3月31日以前の交通事故の場合は4.329)、裁判所基準の逸失利益は

500万円×5%×4.58=114万5000円

となります。

このように、逸失利益についても、弁護士のご依頼いただくことで増額がかなり期待できる部分といえます。

5.弁護士への依頼で示談額が3倍になることも!

上で、裁判所基準の慰謝料は任意保険会社基準の1.5倍程度になることが多いとご説明しましたが、後遺障害部分を見ると、保険会社の担当者が自賠責基準で示談額を提示してきた場合に裁判所基準が3倍以上になることもあります。

保険会社の担当者は、最低の場合、頚椎や腰椎で後遺障害等級14級9号が認定された被害者の方に対して、後遺障害慰謝料も逸失利益も自賠責基準で提示してくることがあります。

この場合、自賠責基準は全被害者共通で後遺障害慰謝料が32万円、逸失利益が43万円ですので、後遺障害部分の提示額は合計75万円となります。

この金額で被害者の方が了承すれば、全額自賠責から払われますので任意保険会社は1円も持ち出すことなく処理ができてしまいます。

加害者となった契約者が、毎年しっかり保険料を払っているにもかかわらず、いざ交通事故になると1円も出さないという姿勢で交渉に臨む保険会社があることには驚く方も多いかもしれませんが、実はこれは珍しいことではありません。

一方、裁判所基準では、14級9号の後遺障害慰謝料は110万円、逸失利益は年収の5%を5年間となり、上で見たように年収500万円の方であれば114万5000円ですから、合計224万5000円となります。

主婦の方であれば、逸失利益の基礎年収を女性の平均賃金388万0100円で計算しますので、

388万0100円×5%×4.58≒88万8543円

となります。後遺障害慰謝料との合計は198万8543円となり、主婦の方も自賠責基準の75万円の2.5倍以上の金額なります。

このように、弁護士に依頼せずに自賠責基準の提示をそのまま了承してしまった被害者の方と、弁護士に依頼して裁判所基準で示談した被害者の方では、受け取れる示談金にこんなにも大きな差が出てしまいます。

6.まとめ

上でご説明したように、保険会社が提示してくる基準と弁護士が用いる裁判所基準では大きな差がありますから、事例によって弁護士にご依頼前とご依頼後で示談額に何倍もの違いが出ることも珍しくありません。

繰り返しになりますが、一度保険会社の示談提示を了承して示談してしまうと、後で後悔してももう取り消すことはできません。

交通事故の場合、多くのケースで弁護士にご依頼されることで示談額が増額しますので、保険会社と示談してしまう前に一度は弁護士に相談してみてください。

私たち優誠法律事務所でも、無料相談をお受けしておりますので是非ご相談ください。

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