3つの慰謝料基準

1.はじめに

交通事故の被害に遭われた方は、交通事故によって被った損害の賠償を請求することができます。

この損害には、大きく分けて車両等の物に関する損害と身体に関する損害の2つがあります。また、身体に関する損害には、治療費、交通費、休業損害や慰謝料などを一般的な例としてあげることが可能です。

この記事では、特に慰謝料について解説します。


2.慰謝料とは

慰謝料とは、交通事故の被害に遭った方が身体に傷害を負うこと、またはその怪我を直すために通院を余儀なくされることに対する精神的な損害を言います。

よく、慰謝料と示談金の違いについて質問を受けることがありますが、示談金とは、相手方から支払われる損害賠償金として合意した金額を言い、慰謝料はその内訳となる損害項目のひとつであるという整理でよいかと思います。

慰謝料は、精神的な損害ですので、本来ひとりひとり被害者の方ごとに異なった額であることになりますが、そうしますと最終的に裁判官ごとに慰謝料の認定額が全然違うということになりかねず、被害者の方の公平を保つことができません。

そこで、慰謝料の額をある程度客観的に算出することができるよう、基準を設けようということになるわけです。


3.慰謝料基準

上記のとおり、慰謝料の額をある程度客観的に認定するために、裁判所としては慰謝料基準を設けようということになるわけですが、実は、多くの場合保険会社は裁判所の慰謝料基準とは異なる基準で慰謝料を算出しています。

また、交通事故被害者のために最低限度の補償を定めた強制加入保険である自賠責保険では、また異なった慰謝料基準が採用されています。

(1)自賠責基準

自賠責保険での慰謝料基準は、以下のとおりです。

  • (2020年3月31日以前に発生した交通事故)
    4200円×(「実通院日数×2」と「総通院期間」の少ない方)
  • (2020年4月1日以降に発生した交通事故)
    4300円×(「実通院日数×2」と「総通院期間」の少ない方)


(2)任意保険会社基準

任意保険会社の基準は、それぞれの保険会社の内部基準でありまちまちです。

一般的には自賠責基準より高く裁判所・弁護士基準より低い金額となります。

私の経験上では、裁判所・弁護士基準の7割前後の金額となっていることが多いように思います。


(3)裁判所・弁護士基準

地域ごとにまた細分化されていますが、東京地方裁判所では、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)」(いわゆる「赤い本」)に記載されている別表に基づき計算されています。


4.具体例

例えば、2020年4月1日以降に交通事故で「頚椎捻挫・腰椎捻挫」(いわゆる、むち打ち症(ただし、他覚所見はない))の傷害を負った被害者の方が、5か月(150日)の通院期間のうち、実際に40日通院したとしましょう。

その場合の慰謝料額は、上記の3つの基準毎に以下のようになります。

  1. 自賠責基準 4300円×40日×2=34万4000円
  2. 任意保険会社基準 79万円×70%=55万3000円
  3. 裁判所・弁護士基準 79万円

このように、裁判所・弁護士基準で慰謝料を算出すると慰謝料が最も高くなります。

しかし、裁判所・弁護士基準は、その名のとおり、弁護士に依頼をした場合や裁判や類似の法的手続きをとった場合に採用される基準であり、交通事故の被害に遭った方が自ら相手方保険会社との交渉によってその基準で算出される慰謝料の額を獲得することは困難であると言わざるを得ません。


5.まとめ

慰謝料は、交通事故の被害に遭った方が自分で適切な金額を判断することが難しいものです。他方で、慰謝料の金額は、交通事故の被害に遭った方が相手方に請求することができるものの中で最も金額が大きくなることも珍しくありません。

治療が終了し、相手方保険会社から損害賠償の金額の提示を受けた場合には、その慰謝料の額が適正であるのか等、まずは専門家である弁護士に相談してみてください。

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