死亡事故と相続の問題について

1.死亡事故で発生する相続の問題

日本の民法では、被相続人(故人)の死亡によって相続が開始するとされています。そのため、交通事故で被害者の方が亡くなってしまう死亡事故の場合、その死亡と同時に相続の問題が発生します。

死亡事故による損害は、大部分が死亡慰謝料や死亡逸失利益など被害者本人の死亡によって発生する損害ですので、こちらも死亡と同時に被害者本人の権利として損害賠償請求権が発生します。

しかし、被害者本人は亡くなってしまうため、この被害者の損害を請求する権利は相続財産として相続人に遺されます。

相続人として被害者の損害賠償請求権を相続できるのは、民法で定められている配偶者や子、親、兄弟姉妹の法定相続人たちとなります。

例えば、被害者に妻と子供2人がいる場合は、この3人が相続人として損害賠償請求権を相続し、加害者や加害者側保険会社に損害賠償請求をすることができます。

しかし、相続人が相続するのは死亡事故の損害賠償請求権だけではありません。相続人になると、被相続人(被害者)の資産の全てが相続財産となり、不動産や預金・有価証券などプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、全てを相続しなければなりません。


2.死亡事故の被害者に債務があったらどうする?

相続人になると、被相続人のプラスの財産だけでなく、債務についても相続しなければなりません。しかし、相続人の意思によって、相続人になることをやめることは可能です。

つまり、法定相続人には相続放棄という選択肢があり、法定相続人であっても相続したくない場合には、相続しないということができるのです。

ただし、一部の財産だけ(例えば借金だけ)の相続を放棄することはできず、相続放棄をする場合には、プラスの財産もマイナスの財産も全てを放棄することになります。

そのため、相続放棄をするかどうかは、被害者である被相続人の資産状況・債務状況をしっかり確認した上で判断する必要があります。ただ、相続放棄は、被害者の方が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に手続きをする必要があります。

一般的に、加害者側保険会社は死亡事故の場合、四十九日の法要が終わるまでは被害者遺族と示談の交渉はしないという運用をしていますので、被害者が亡くなってから3ヶ月以内に示談がまとまらないことも多いです。

そのため、示談の話が進んだ段階では既に相続放棄の期間が過ぎてしまっているということも考えられます。

もし、被害者に債務があって相続放棄を検討する場合には、相続放棄の手続きができる期間を延ばしてもらう「熟慮期間の伸長」という手続きを家庭裁判所することができますから、この手続きをしておいて示談金の金額が決まってから相続放棄をするかどうか決めるということもできます。

ただ、被相続人の預金などの資産を使ってしまうと、「単純承認」(普通に相続)したものとされてしまい、相続放棄はできなくなりますので、注意が必要です。

また、相続人であった人が相続放棄をすると、もともとその相続人がいなかったことと同じ扱いになります。そのため、第一順位の相続人である被害者の子が相続放棄した場合には、第二順位の相続人である被害者の親が相続人になります。

さらに、被害者の親も相続放棄すると、第三順位の相続人である兄弟姉妹が相続人になります。ですので、高額の債務があって相続放棄する場合などでは、第三順位の相続人まで相続放棄をしなければ誰かが代わりに債務を相続することになりますので、この点にも注意が必要です。


3.遺族固有の慰謝料は相続の対象外

死亡事故の場合、亡くなった被害者本人の損害の他に、被害者の遺族にも遺族としての慰謝料が認められます。

これは、近親者を亡くした精神的苦痛に対する遺族自身の慰謝料ですので、被害者本人の損害賠償請求権を相続することとは別の話になります。この遺族の慰謝料は、被害者からの相続するのではなく、もともと遺族自身に帰属するものということになのです。

この遺族の慰謝料が認められるのは、自賠責保険では被害者の配偶者、被害者の子、被害者の父母ですが、裁判上では兄弟姉妹や祖父母などにも遺族としての慰謝料が認められる場合もあります。

ですから、遺族の慰謝料が認められるのは、必ずしも民法上の相続人に限られる訳でもありません。

そして、この遺族としての慰謝料は相続とは関係がない以上、これらの遺族は、仮に相続放棄をしていたとしても、遺族としての慰謝料は受け取れることになります。


4.実際は死亡事故で相続放棄しなければならないケースは少ない

死亡事故によって亡くなった被害者に債務があった場合、相続放棄という選択肢があるとご説明しましたが、結局、相当高額の債務がない限りは相続放棄の必要はないと思われます。

つまり、死亡事故の死亡慰謝料や死亡逸失利益は高額となることが多く、数千万円の損害賠償請求権が相続されることになりますので、被害者に債務が残っていても、多くの場合はその示談金で債務を返済できると思われます。

住宅ローンなどの高額のローンが残っている方でも、死亡によって債務が亡くなるような保険に入っていたり、抵当権などが設定された担保で精算できることが多いですから、死亡事故の示談金以上の債務が残る被害者はかなり少ないと考えられます。

実際には、債務のある方が死亡事故で亡くなった場合、多くのケースで遺族が示談金やその他の遺産で債務を精算して、残った財産を分配することになります。

そのため、被害者に債務があっても、数千万円単位の高額債務でない限りは、それほど深刻に心配する必要はないかもしれません。


5.まとめ

死亡事故で家族を亡くした場合、相手方への損害賠償だけでなく、相続でもお困りになって弁護士に相談される方もいらっしゃいます。

突然の事故で親族を亡くした上に借金の心配までしないといけないというのは精神的にもかなり大変なことだと思います。また、不動産などのプラスの財産が残る場合でも、相続人同士での遺産分割協議や相続登記、相続税の申告など相続人がやらなければならないことはたくさんあります。

私たち優誠法律事務所では、死亡事故の損害賠償請求に関するご相談だけでなく、相続に関するご相談も初回無料でお受けしております。お困りことがございましたら、是非お気軽にご相談ください。

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