修理費少額の軽微な事故で受傷前提の和解ができた事例

今回は、交通事故での受傷の有無が争点となりやすい軽微な事故の事案(加害者側保険会社から怪我をしていないと主張されるケース)についてご紹介します。

交通事故に遭った場合、被害者が怪我を負ってしまうことは珍しくありません。

しかしながら、被害車両の損傷が軽微な事故の場合、被害者が怪我を負っていたとしても、相手方保険会社が受傷自体を否定してくることが多く見受けられます。

このような事故の場合、どのような事情から受傷の有無は判断されるのでしょうか。

また、今回は、損傷が軽微な事故であるにもかかわらず、訴訟において怪我との因果関係が存在することを前提とした解決ができた事例をご紹介しますので、同様のことでお困りの皆様のご参考にしていただけますと幸いです。

なお、サイドミラー(ドアミラー)同士の接触事故で受傷前提の解決ができた事例については、別記事(サイドミラー(ドアミラー)同士の接触事故で受傷前提の解決ができた事例)で掲載していますので、こちらも併せてご参照ください。

1.主張立証責任について

民事裁判では、被害者が交通事故に基づく損害賠償請求をする場合、次の点について被害者側が主張立証責任を負うものとされています(被害者側が立証できなければ、主張が認められないということになります。)。

① 権利または法律上保護されるべき利益を有すること

② ①の権利または利益を侵害したこと

③ ②について故意があることまたは過失があることを基礎づける評価根拠事実

④ 損害が発生したことおよびその額

⑤ ②の加害行為と④の損害との間に相当因果関係が存在すること

受傷の有無が争点となる場合、上記のうち②、④、⑤が問題となるといえます。

もっとも、交通事故においては、被害者の身体が損なわれることが一般的であるといえることから、被害者が交通事故に遭ったことに加えて、医師が作成した診断書や診療報酬明細書等があれば、これらの点について一応の立証がなされたと考えられることが多いでしょう。

相手方保険会社が受傷の有無について特に争わず、損害賠償額の提示をするケースにおいては、相手方保険会社は上記のように考えているものといえます。

一方、受傷したか必ずしも明らかではない軽微な事故の場合は事情が異なります。

相手方側としては、事故態様を具体的に明らかにするとともに、被害者が主張する受傷機序の不自然性を主張すること等により、身体に対する侵害がないこと、すなわち②権利または利益の侵害がない旨の反論をすることになります。

2.受傷の有無が争点となった場合の考慮要素

受傷の有無が争点となった場合の重要な考慮要素として、被害者に加えられた衝撃の程度が挙げられます。

衝撃の程度を判断するに当たっては、衝突時における被害者の姿勢が問題となり、受傷機転として重要となります。

なお、一般論としては、ドアミラーへの衝突の場合は、車の構造上、車体本体は衝撃を受けませんが、ドアミラーに対する衝突であっても、衝突の部位・角度、速度等によっては被害者の身体に一定の衝撃が加わることも考えられるため、事案に応じて慎重に判断されるべきです。

次に、重要な考慮要素として、症状の内容・経過、治療経過が挙げられます。

例えば、特に理由もなく事故から相当期間を経過してから受診している場合、このように遅れて受診していることは受傷の存在を疑わせる事情となるため、受診が遅れた合理的な理由を説明する必要があります。

その他の考慮要素としては、既往症の有無、過去の交通事故歴や保険金請求歴、生活状況や稼働状況等を挙げることができます。

3.事例の紹介~修理費用6万円程度の損傷が軽微な事故~

依頼者Aさんは、駐車場の駐車区画に前向きに駐車していたところ、後方から相手車両がAさん車両に向かって後退してきました。

その後、相手車両の後部とAさん車両の後部が接触するに至り、本件事故が発生しました。

この事故でAさんは頚椎捻挫の怪我を負い、約4ヶ月通院しました。

しかしながら、相手方保険会社は、Aさん車両の修理費用が6万円程度であり、軽微な事故であることや、神経学的所見の検査に異常がないことを理由に、裁判外で解決するとしても一部の治療費しか支払えないと主張してきました。

そこで、Aさんの担当医に医療照会したところ、相手方保険会社が考えているよりも長く通院が必要との見解であったため、その旨の回答書面を作成してもらうことになりました。

その後も相手方保険会社が治療費の支払いをしなかったため、私たちが自賠責保険会社に対して被害者請求をしたところ、Aさんが通院していた約4ヶ月の期間について、本件事故と相当因果関係があることを前提とする認定がなされ、自賠責保険金(治療費・傷害慰謝料など)が支払われるに至りました。

もっとも、自賠責保険会社から支払われた傷害慰謝料は、裁判基準で計算した場合の傷害慰謝料と比較して30万円以上も下回っていました。

これは、慰謝料の基準が自賠責基準と裁判基準で大きく異なるためです。

この点については、別の記事でも解説していますので、こちらもご覧ください(「低額な慰謝料基準と高額な慰謝料基準」、「3つの慰謝料基準)。

そのため、Aさんは、交通事故に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、裁判基準で計算した傷害慰謝料の請求をすることにしました。

4.本件訴訟における争点~受傷の有無~

今回の訴訟において、相手側は、Aさんが通院していたことは認めるが、本件事故による衝撃は非常に軽微であることを理由に、Aさんが本件事故で受傷したことを否認しました。

そのため、相手側はAさんの治療費は全て支払わない旨の主張を展開し、訴訟ではAさんの受傷の有無が争点となりました。

このように、裁判外では一部の治療費を認めていたにもかかわらず、訴訟では全ての治療費を否認することに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。

しかしながら、裁判外で認めていたことが訴訟で撤回されることは珍しくありません。

相手側は、Aさんが通院していた約4ヶ月の期間について、自賠責保険会社が本件事故と相当因果関係があることを前提とする認定をしたことに関し、無関係の出来事である旨の主張をしました。

この点については、自賠責保険会社は、損害保険料率算出機構による調査をもとに自賠責保険金を支払うのであるから、事故との因果関係の有無について判断を示していることは明らかであり無関係ではない旨の反論をしました。

また、文献を引用した上で、少なくとも現在の工学的問題状況としては、低速度追突事案ではむち打ち傷害は発症しないとの一般的法則性は否定されていると言ってよいことを主張しました。

同じように修理費用が低額で軽微な事故について受傷を肯定した裁判例も引用しました。

それに加えて、事故当時のAさんの姿勢についても主張を展開しました。

本件事故当時、Aさんは、シートベルト外し、運転席に座りながら、助手席のダッシュボードの探し物を見つけるため、身体を助手席側に傾けていました。

Aさんは、このように体勢が不安定で衝撃に無防備な状態で被害車両から接触されたものであり、受けた衝撃の程度は大きかったのです。

5.本件訴訟の結果

双方からの主張が一段落した後、裁判所から、本件事故によってAさんが受傷したことを前提とする内容の和解案が提示されました。

Aさんとしても納得できる金額であり、相手方もこれを了承したため、この和解案の内容で訴訟上の和解が成立するに至りました。

6.まとめ

このように、修理費用6万円程度の損傷が軽微な事故であっても、本件事故によって受傷したことを前提とする和解を成立させることができました。

車両の損傷が軽微な事故は、他の事故類型と比較して治療費等の損害額は少ない傾向にありますが、争点や主張内容については奥深く難しいものです。

そのため、弁護士費用特約を利用することができる場合には、交通事故を専門とする弁護士に依頼するべき事故類型であるといえます。

私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。

全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

 市川雅人 弁護士

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務) 
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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