今回は、初年度登録年月から6年以上経過した国産車の「評価損」が認められた事例をご紹介いたします。
交通事故において発生する損害は、人的損害と物的損害に分けられます。
このうち人的損害の方が中心的な問題として取り上げられ、様々な議論が深められているところです。
ですが、物的損害も、高価な車両の場合は算定方法により賠償金額は大きく異なりますし、所有者が損害額を強く争うこともあります。
本記事では、この物的損害の中でも争点になることが多い評価損を取り上げます。
評価損は「格落ち損害」と言われることもありますが、その概念については様々な見解があるところです。
また、どのような場合に評価損が認められるのか、評価損が認められる場合はどのような方法で金額を算定するのかについても種々の議論があります。
本記事では、これらの点について触れた後、冒頭の事例を紹介させていただきます。
このページの目次
1.評価損とは
そもそも評価損とは、どのような損害なのでしょうか?
大前提として、交通事故により車両が損傷を受けた場合、その損傷を修理することで当該車両が事故前の状態に戻るのであれば、修理費用が賠償されることで損害は回復することになります。
もっとも、修理をしても欠陥が残ってしまったり、事故歴があるという理由で中古車市場において価格が低下してしまったりすることもあります。
このような、事故当時の車両価格と修理後の車両価格との差額を評価損といいます。
2.評価損の分類
評価損は、技術上の評価損と、取引上の評価損に分けて考えることができるとされています。
技術上の評価損とは、修理によっても機能や外観に回復できない欠陥が存在していることにより生じた評価損のことをいいます。
技術上の評価損が認められること自体については、ほぼ争いがありません。
もっとも、現在は、修理技術の進歩等によって、技術的に修理できないというケースはかなり少ないと思われることから、技術上の評価損が認められるケースはほとんどないのではないかとの指摘がなされているところです。
次に、取引上の評価損とは、車両の修理をして欠陥が無くなったとしても、事故歴により商品価値が下落した場合の評価損のことをいいます。
評価損が争点となっている場合、この取引上の評価損が問題になっていることが多いです。
また、取引上の評価損については、そのような損害を否定する見解や裁判例もあるところであり、損害保険会社は否定的な考えを示す傾向が強いです。
その理由として挙げられるのが、事故後直ちに下取り等に出さず被害車両の使用を継続する場合は交換価値の低下という損害は現実化しないこと、修理によって原状回復され欠陥が残存していないのであるから客観的には価値の低下は存在していないことなどです。
一方、裁判所においては、取引上の評価損自体は肯定した上で、具体的な事情に応じて、その有無・金額を判断しているという印象です。
これは、技術上の評価損が存在していなかったとしても、中古車市場では事故歴のある車両として買取価格が低下するという傾向があることは否定できず、これによる交換価値の低下を一切保護しないということは妥当でないとの価値判断が働いているように思います。
3.評価損の算定方法
評価損の算定方法については、以下の考え方があるところです。
⑴ 原価方式
事故時の時価と修理後の時価との差額を損害とする方法
⑵ 時価基準方式
事故時の時価を基準として、その一定割合を損害とする方法
⑶ 金額表示方法
事故車両の種類、使用期間、被害の内容・程度、修理費用等諸般の事情を考慮して、損害を金額で示す方法
⑷ 修理費基準方式
修理費を基準として、その一定割合を損害とする方法
一般的に、車両の損傷の程度が大きいほど修理費は高額になり、車両の価値の低下も大きくなるといえることから、修理費の一定割合とする方法がとられることが多いです。
そして、取引上の評価損が認められるかどうか、認められるとしてその損害額はどのくらいか、を検討するにあたっては、初年度登録年月からの期間、走行距離、損傷の部位や程度(中古車販売業者に修復歴の表示義務があるか否か)、車種等の事情を総合考慮して判断することになります。
この点については、外国車又は国産人気車種で初年度登録年月から5年(走行距離6万キロメートル程度)以上、それ以外の国産車では3年以上(走行距離で4万キロメートル程度)を経過すると、評価損が認められにくい傾向があるとの指摘もあります。
4.事例の紹介~初年度登録年月から6年以上経過した国産車の評価損が認められた~
当事務所の依頼者Aさんは、スーパーの駐車場に自動車(車種はミニバン。以下「Aさん車両」といいます。)を駐車して買い物をしていたところ、加害者が、ブレーキとアクセルを踏み間違えたことにより、Aさん車両に衝突してしまいました。
この事故によりAさん車両は大きな損傷を受け、その修理費用は200万円を超えるほどでした。
このような大きな事故であったにもかかわらず、事故当時、Aさんは車外にいたため身体が無傷であったことは不幸中の幸いでした。
Aさんとしては、自動車が大きく損傷されてしまったことから、修理費用だけではなく、評価損の請求もされたいとのご希望でした。
しかしながら、Aさん車両は、初年度登録年月から6年以上経過している国産車であったため、評価損が認定されるハードルはかなり高いものでした。
もっとも、Aさんは、認定されるハードルが高くても請求をしたいとの強いお気持ちあり、弁護士費用特約に加入されていて費用倒れにならないことから、ご依頼をお引き受けすることになりました。
私たちは、委任契約書を取り交わした後、早速、相手方保険会社の担当者と交渉をしましたが、担当者から「自動車登録してからこんなに年月が経過している車両について、格落ちが認められている裁判例は見たことがない。」と言われ、全く話し合いに応じない様子でした。
そのため、裁判所外における話し合いの段階ではあるものの、準備を整えた上で裁判のように当方の主張内容を書面化し、相手方保険会社宛てに提出することにしました。
修理後の車両の価値を立証する1つの資料として、日本自動車査定協会による事故減価額証明書があります。
日本自動車査定協会は、自動車メーカー等が出資した財団法人で、経済産業省と国土交通省の指導下に設立され、自動車の客観的評価額を査定する団体です。
本事例においても、日本自動車査定協会にAさん車両の事故減価額証明書を作成してもらい、相手方保険会社宛てに提出することにしました。
また、中古車販売業者には一定の修復歴についての表示義務が課されており、このような場合には事故歴と交換価値の低下との関連性がより強く認められるところです。
そのため、Aさん車両の修理見積書から、骨格部位の損傷に関する具体的な記載を抽出した上で、相手方保険会社に対して主張することにしました。
これらの点も含めて準備が整ったことから、当方の主張内容を書面化した上で、相手方保険会社に対して評価損の主張をしました。
5.相手方保険会社との交渉結果~修理費用の10%が認められる~
交渉の結果、最終的に、相手方保険会社から評価損として修理費用の10%が提示されるに至りました(修理費基準方式)。
Aさん車両の修理費用は200万円を超えていたことから、評価損として20万円を超える金額を獲得できたことになります。
Aさんとしても、難しいと思われていた評価損が認められ、希望していたとおりの結果を引き出すことができたと喜ばれていました。
6.まとめ
このように、今回の事例では、初年度登録年月から6年以上経過した国産車であるにもかかわらず、評価損の存在を前提とした示談を成立させることができました。
取引上の評価損は、争点になることが多い上、金額等を含めた認定にあたっては様々な事情を総合的に考慮する必要があります。
このように、取引上の評価損は交通事故事件の中でも専門的な分野であるといえますから、取引上の評価損についての請求を検討されている場合には、交通事故を専門とする弁護士に相談するべきです。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール
これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」