12級や14級の後遺障害等級において通常より高い労働能力喪失率が認められた裁判例

今回は、12級や14級の後遺障害等級において通常(12級の労働能力喪失率14%、14級の労働能力喪失率5%)より高い労働能力喪失率が認められた裁判例をご紹介します。

後遺障害等級が認定された場合、通常は後遺障害による逸失利益を相手方に請求していくことになります。

ただ、その算定方法については、同じく後遺障害等級が認定された場合に請求する後遺障害慰謝料と比較すると、やや難解なところがあります。

そのため、今回はまず、後遺障害による逸失利益の算定方法について説明します。

この説明をご覧いただければ、労働能力喪失率というものが、後遺障害による逸失利益の算定方法の中でどのように位置付けられているかが分かるかと思います。

その上で、冒頭に記載したとおり、12級や14級の後遺障害等級において通常より高い労働能力喪失率が認められた裁判例をご紹介します。

交通事故被害者の方の中には、12級や14級の後遺障害等級が認定されたものの、これらの等級の通常の労働能力喪失率以上に労働能力が失われてしまっているという方もいらっしゃいますので、ご参考にしていただけますと幸いです。

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1.後遺障害による逸失利益の算定方法

後遺障害による逸失利益の算定方法については、次のとおり「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)に計算式が記載されています。

①有職者または就労可能者

基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

②18歳未満(症状固定時)の未就労者

基礎収入額×労働能力喪失率×(67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数)

例えば、症状固定時の年齢が50歳で年収500万円の会社員の男性が傷害を負い、その後遺障害により労働能力が14%低下した場合の後遺障害逸失利益は、次の計算式になります。

500万円×0.14×13.1661=921万6270円

このように、基本的には、

第1に後遺障害がなければどれだけ所得があったか(基礎収入額

第2にこれが後遺障害によってどのくらい減少したか(労働能力喪失率

第3にその影響がどの程度継続するか(労働能力喪失期間

を順次判断していくことになります。

2.労働能力喪失率とは

労働能力喪失率とは、労働能力の低下の程度をいいます。

基本的には、労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発551号)別表による、次の労働能力喪失率表記載の喪失率を認定基準として採用することが多いといえます。

等級1級2級3級4級5級6級7級
喪失率100%100%100%92%79%67%56%
等級8級9級10級11級12級13級14級
喪失率45%35%27%20%14%9%5%

もっとも、労働能力喪失率表は極めて概括的であり、工場労働者を対象に作成されたものである上、労災の補償日数をベースにしたものであって科学的根拠も乏しいものです。

また、後遺障害の部位・内容・程度が同じであっても、被害者の職業、年齢、性別等によって労働に対する影響の程度も異なります。

そのため、上記の表はあくまで参考資料にとどまり、労働能力喪失率は、被害者の年齢・職業、後遺障害の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体的にあてはめて評価すべきであると考えられています。

3.裁判例の紹介~14級において通常より高い労働能力喪失率が認定~

⑴ はじめに

上の労働能力喪失率表によりますと、14級の後遺障害等級における労働能力喪失率は5%です。

しかしながら、以下に抜粋した裁判例では、様々な事情を総合的に判断して、5%よりも高い労働能力喪失率を認定しています。

⑵ 甲府地方裁判所 平成17年10月12日判決

本件事故は、眼科医である被害者(原告)が自動車で病院に通勤していたところ、相手方の運転する自動車に追突されたことで発生したものです。

本件事故により原告には頚椎捻挫ないし外傷性頚部症候群の傷害が生じ、後遺障害として頚部痛、後頭部痛、眼精疲労、眼科医として手術をしようとする際の左手の振戦(ふるえ)などの症状が残り、14級の後遺障害等級が認定されました。

この裁判の判決では、労働能力喪失率については、次のとおり判示し、12%の労働能力喪失率を認めました。

「原告は現在も頚部痛、後頭部痛、眼精疲労を感じており、眼科医として手術をしようとすると左手の振戦が現れる。本件事故前は、原告は眼科医として数多くの手術をこなしていたが、本件事故後はこの左手の振戦により手術ができなくなった。そのため原告は手術をあきらめ研究職の眼科医に転向せざるをえなくなった。・・自賠責等級第14級の後遺症の労働能力喪失率は5%とされている。しかし、上記のような原告の症状、職業、職場環境を考慮すると、原告の場合、5%にとどまらない労働能力が失われているといえる。すなわち、従来、原告が高額の収入を得ることができたのは、手術のできる眼科医だったためである。しかし、本件事故後、後遺症である左手の振戦のために手術ができなくなり、この前提が崩れたため、平成11年当時と同様の収入が得られる保証はなくなった。平成17年5~8月の収入をみると、現実にかなりの収入の減少が生じていることが認められる。そこで、これらの事情を総合的に勘案し、さらに、原告の主張もふまえ、原告の労働能力喪失率は12%とする。」

⑶ 大阪地方裁判所 平成8年1月12日判決

本件事故は、型枠大工である被害者(原告)が自動車に同乗していたところ、相手方の運転する自動車に衝突されたことで発生したものです。

本件事故により原告には頚部損傷、左膝内障、腰部打撲の傷害が生じ、後遺障害として左膝に一定の運動可能領域の制限が存在し、左膝の引っ掛かり感をもっていること、長時間の歩行に困難をきたしている等の症状が残り、14級の後遺障害等級が認定されました。

この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、10%の労働能力喪失率を認めました。

「原告の後遺障害の程度は、等級表14級7号に該当するものであり、労災及び自賠責実務上その労働能力喪失割合は5%と取り扱われていることは当裁判所に顕著である。しかしながら、型枠大工の作業は膝の屈曲を多く伴なうものであって、右の障害があった場合、その作業能率の低下が5%にとどまるとは思えないこと、L病院においてもしゃがみこみの姿勢は半月板に負担をかけるのでこの動作を行わないように指導していること(証拠略)、しかも原告には生来の難聴という障害があり(証拠略)他に職を求めることが比較的困難であることを考え併せると、その労働能力喪失率は10%とみるべきである。」

4.裁判例の紹介~12級において通常より高い労働能力喪失率が認定~

⑴ はじめに

上記の労働能力喪失率表によりますと、12級の後遺障害等級における労働能力喪失率は14%です。

しかしながら、以下に抜粋した裁判例では、様々な事情を総合的に判断して、14%よりも高い労働能力喪失率を認定しています。

⑵ 東京地方裁判所 平成6年9月27日判決

本件事故は、タクシー運転手である被害者(原告)が自動車を運転していたところ、一時停止することなく交差点に進入した相手車両に左側面を衝突されたことで発生したものです。

原告は本件事故により右膝内側側副靭帯断裂、右膝内側半月板損傷、頚椎捻挫等の傷害を受け、後遺障害として①右膝関節に可動制限はないものの、正座や胡座は疼痛のため、短時間しかできない、②右膝内側側副靱帯部及び内側関節間隔に圧痛があり、長時間立っていたり、物を持って歩くと膝内側に圧痛がある、③頸部前屈時に左頸附根部に疼痛や圧痛があり、また、左母指、示指の末節にしびれ、知覚麻痺があるという症状が残り、12級が認定されました。

この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、25%の労働能力喪失率を認めました。

「原告は、本件事故のため、右膝関節に12級の後遺障害を残したが、同関節障害のためアクセルを踏み込む動作に支障を来たし、長時間の運転ができず、また、重量のある物の運搬に重大な支障を来たしている。このため、タクシー運転手としての業務遂行は不可能となったが、甲15、19、原告本人によれば、本件事故がなければ、64歳まではC会社の正勤の乗務員として、65歳からは嘱託の乗務員として正勤の乗務員と同一の給与のベースで、それぞれタクシーの運転手の業務を継続することができたことが認められる。そして、現在はC会社で車庫の管理の仕事を行い、月給22、3万円の賃金を得るに止まること、原告がタクシー運転手としての業務を継続するとしても、歩合給の率が高い右業務の賃金体系に照らせば、加齢とともに収入が減ることが予想されることを斟酌すると、平成元年度の給与を基礎とすれば本件事故により労働能力が25%喪失したものと認めるのが相当である。」

⑶ 仙台地方裁判所平成13年6月22日判決

本件事故は、理容店兼美容院を経営する被害者(原告)が自動2輪車を運転していたところ、後方から同一方向に進行してきた相手車両に追突されたことで発生したものです。

原告は本件事故により左腎損傷、頸椎捻挫、肋骨骨折、右小趾基節骨骨折、胸椎・腰椎捻挫、左肩・臀部・腹部・左膝打撲、急性胃炎等の傷害を受け、左腕神経損傷の後遺障害が残り、12級が認定されました。

この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、35%の労働能力喪失率を認めました。

「・・原告は、前記受傷により、左腕神経損傷の後遺障害が残存し、左腕の肩から指先にかけてのしびれ、左肩関節痛の自覚症状を有し、左上肢の皮膚温低下、感覚鈍麻、筋力低下、巧緻性の低下が認められること、理容師及び美容師の作業は、両手、指先の動きの巧緻さを要し、原告は、同後遺障害のため、作業中にはさみで自己の指を傷つける等理容師及び美容師としての技術を十分に駆使し得ない状態となったことの事実が認められる。そうすると、原告は、本件後遺障害により、少なくとも理容師及び美容師としての労働能力の35%を喪失したものと認めるのが相当である。」

.まとめ

既に解説したとおり、労働能力喪失率については、労働能力喪失率表記載の喪失率を認定基準として採用することが多いです。

そのため、14級については5%、12級については14%が認定されることが多数です。

もっとも、今回紹介した裁判例においては、後遺障害の程度・部位と、被害者の職業に対する具体的な影響の程度を詳細に認定した上で、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る認定をしています。

これは裏返して言うと、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る主張をする被害者は、労働能力喪失の実態について適切な立証をしなければならないということです。

一般の方が、これらの立証をすることは難しいですから、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る主張をされたい場合には、交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。

私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。

全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

 市川雅人 弁護士

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務) 
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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