高次脳機能障害

1.高次脳機能障害とは?

交通事故によって脳挫傷、クモ膜下出血、硬膜下血腫、びまん性軸索損傷などの脳外傷を負ってしまった場合、記憶・思考・知覚・学習などの脳の認知機能に障害が生じたり、怒りっぽくなったり感情をコントロールできなくなるなど、「高次脳機能」に障害が発生することがあります。

これを高次脳機能障害といいます。

高次脳機能障害には、

  • 遂行機能障害(計画を立てて実行することができない等の症状)
  • 注意障害(気が散りやすい。ものごとに集中できない等の症状)
  • 記憶障害(新しいことが覚えられず、何度も同じことを質問する等の症状。)
  • 行動障害(周囲に合わせた行動ができない、マナーやルールを守れない等の症状)
  • 人格変化(怒りっぽくなる、無気力になる等の症状)
  • 失語症(文字で書かれた文章が理解できない等の症状)
  • 失認症(眼は見えるのにそれが何か分からない等の症状)
  • 病識欠落(自分が障害を持っていることの認識がうまくできない等の症状)

といった症状がありますが、人それぞれ表れる症状やどのように表れるかが異なります。そして、これらは仕事にも日常生活にも大きな支障が生じる障害ですが、傍目には特に異常が見られないことが多く、周りの人でも気付きにくい障害といえます。

その上、病識が欠落している被害者の方が多く、被害者自身で高次脳機能障害であることを認識している人は少ないですから、周りの人が気付かないと見逃されてしまうおそれもあります。

この高次脳機能障害も後遺障害に該当しますので、症状次第で後遺障害等級が認定されます。

ただ、高次脳機能障害の認定は各要件を満たす必要があり、必要な検査や症状に関するテストを行い、ご家族に必要な報告書をまとめていただくなど、しっかりと準備を行っていかなければ容易には認定を受けられません。

以下では、高次脳機能障害の後遺障害等級の認定基準などをご紹介します。


2.高次脳機能障害の後遺障害等級

高次脳機能障害の場合、症状に応じて以下の後遺障害等級が認定されることになります。

  • 第1級1号
    神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
  • 第2級1号
    神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
  • 第3級3号
    神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
  • 第5級2号
    神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  • 第7級4号
    神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  • 第9級10号
    神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
  • 第12級13号
    局部に頑固な神経症状を残すもの
  • 第14級9号
    局部に神経症状を残すもの


3.高次脳機能障害の後遺障害認定要件

自賠責保険の高次脳機能障害の後遺障害認定においては、以下の3つの要件が前提となります。そのため、これらの要件が満たされないと、高次脳機能障害を伺わせる症状があっても後遺障害認定を受けることはできません。

  1. 頭部外傷の診断がなされていること
    具体的には、病院の診断書に脳挫傷、クモ膜下出血、硬膜下血腫、びまん性軸索損傷などの傷病名が記載されている必要があります。
  2. 脳の画像で異常所見が認められること
    脳のMRIやCT画像で出血や血種などの異常所見が認められることが必要です。
  3. 交通事故後の意識障害が認められること
    6時間以上意識障害が継続した場合には、高次脳機能障害が残りやすいと考えられています。医師に「頭部外傷後の意識障害についての所見」という資料を記載してもらったり、救急隊の記録や病院の診断書・カルテ等から事故後に意識障害があったことを証明する必要があります。

もちろん、これらの要件に加えて、残存している高次脳機能障害の症状について、後遺障害診断書や医師の意見書、家族の日常生活状況報告書等の必要書類で証明する必要があります。


4.高次脳機能障害の認定基準

上記の要件が満たされ、高次脳機能障害の症状が評価されると、それぞれの症状に応じて後遺障害等級が認定されますが、審査では以下の4能力の喪失や低下の有無・程度によって評価されます。

  • 意思疎通能力(記憶力、認知力、言語力等)
    主に記憶力、認知力、言語力の側面から、職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定されます。
  • 問題解決能力(理解力、判断力等)
    主に理解力、判断力、集中力の側面から、作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるかどうかについて判定されます。
  • 作業負荷に対する持続力、持久力
    精神面における意欲、気分または注意の集中の持続力・持久力から、一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定されます。その際、意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感を含めて判断されます。
  • 社会行動能力(協調性等)
    主に協調性の有無や不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロールの低下による場違いな行動等)の頻度によって、職場において他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定されます。

この4能力について、以下の「高次脳機能障害整理表」に基づいてA~Fの6段階で評価されます。複数の能力に障害がある場合には、基本的に一番重いもので認定されます。

A:多少の困難はあるが概ね自力でできる(能力をわずかに喪失。第14級)

B:困難はあるが概ね自力でできる(能力を多少喪失。第12級)

C:困難はあるが多少の援助があればできる(能力の相当程度を喪失。第9級)

D:困難はあるがかなりの援助があればできる(能力の半分程度を喪失。第7級)

E:困難が著しく大きい(能力の大部分を喪失。第5級)

F:できない(能力の全部を喪失。第3級)

 意思疎通能力 (記銘・記憶力,認知力,言語力等)問題解決能力 (理解力,判断力等)作業負荷に対する持続力・持久力社会行動能力(協調性等)
A①特に配慮してもらわなくても,職場で他の人と意思疎通をほぼ図ることができる。
②必要に応じ,こちらから電話をかけることができ,かかってきた電話の内容をほぼ正確に伝えることができる。
①複雑でない手順であれば,理解して実行できる。

②抽象的でない作業であれば,1人で判断することができ,実行できる。
概ね8時間支障なく働ける。障害に起因する不適切な行動はほとんど認められない
B①職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり,ゆっくり話してもらう必要が時々ある。
②普段の会話はできるが,文法的な間違いをしたり,適切な言葉を使えなかったりすることがある。
AとCの中間AとCの中間AとCの中間
C①職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり,意味を理解するためにはたまには繰り返してもらう必要がある。
②かかってきた電話の内容を伝えることはできるが,時々困難を生じる。
①手順を理解することに困難を生じることがあり,たまには助言を要する。
②1人で判断することに困難を生じることがあり,たまには助言を必要とする。
障害のために予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督がたまには必要であり,それなしには概ね8時間働けない。障害に起因する不適切な行動がたまには認められる。
D①職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり,意味を理解するためには時々繰り返してもらう必要がある。
②かかってきた電話の内容を伝えることに困難を生じることが多い。
③単語を羅列することによって,自分の考え方を伝えることができる。
CとEの中間CとEの中間CとEの中間
E①実物を見せる,やってみせる,ジェスチャーで示す,などのいろいろな手段と共に話かければ,短い文や単語くらい理解できる。
②ごく限られた単語を使ったり,誤りの多い話し方をしながらも,何とか自分の欲求や望みだけは伝えられるが,聞き手が繰り返して尋ねたり,いろいろと推測する必要がある。
①手順を理解することは著しく困難であり,頻繁な助言がなければ対処できない。
②1人で判断することは著しく困難であり,頻繁な指示がなければ対処できない。
障害により予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督を頻繁に行っても半日程度しか働けない。障害に起因する非常に不適切な行動が頻繁に認められる。
F職場で他の人と意思疎通を図ることができない。課題を与えられてもできない。持続力に欠け働くことができない。社会性に欠け働くことができない。


5.まとめ

高次脳機能障害は症状が人それぞれですし、軽度であれば周りの人でも気が付かないことがあります。また、被害者ご本人が障害を自覚していることはほとんどありません(逆に、私たちの経験上、「自分は高次脳機能障害です」と言って相談に来られた方は、ほとんど高次脳機能障害としての後遺障害等級は認定されていません。)。

ですから、私たちも脳外傷があった被害者の方からご相談をお受けした際には、注意して症状を伺い、高次脳機能障害が疑われる場合には必要な検査を受けていただくようお勧めしています。

高次脳機能障害の後遺障害認定は、必要資料が多くなり、手続きが大変ですので、交通事故に詳しい弁護士のサポートを受けなければ、適切な後遺障害等級の認定を受けることは難しいように思います。

色々な検査を受けていただく必要があることも考えると、症状固定前の治療中に弁護士にご相談いただいた方が後遺障害申請がスムーズにできると思います。

私たち優誠法律事務所でも、高次脳機能障害の被害者のサポート経験は豊富にありますので、まずはお気軽にお相談ください。

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