低額な慰謝料基準と高額な慰謝料基準

1.弁護士への依頼で慰謝料が増額する!?

皆さんは、交通事故の慰謝料は弁護士に依頼すると増額するということを聞いたことはありませんか?

最近は、インターネットなどですぐに調べることができますから、相手方保険会社から慰謝料の提示を受けて、この慰謝料が本当に妥当な金額なのか気になって調べる方も多いのではないかと思います。

そのように弁護士に依頼した方がいいのか気になって検索しているうちにこのページに辿り着いた方もいらっしゃると思いますので、結論からお伝えすると、交通事故被害者の方の場合、多くのケースで「慰謝料は弁護士に依頼すると増額」します。

交通事故の慰謝料は、事故の怪我で入通院させられたことに対する入通院慰謝料と後遺障害が認定された場合の後遺障害慰謝料の2つがありますが、それぞれに自賠責基準、任意保険基準、裁判基準(弁護士基準)の3つの基準があり、計算方法が違います。

弁護士に依頼することで慰謝料が増額するのは、この各慰謝料基準による計算方法の違いが理由です。つまり、弁護士に依頼しない交通事故被害者の方に対しては、相手方保険会社は自賠責基準か任意保険基準で慰謝料を支払いますが、弁護士が依頼を受けると裁判基準で慰謝料を請求します。

それぞれの基準に大きな差があることで、弁護士に依頼すると慰謝料が増額するのです。


2.自賠責基準の計算方法

自賠責保険は、交通事故を起こしてしまった場合に、被害者に対して最低限の補償をするために加入が強制されている保険です。そのため、自賠責基準は3つの基準の中で一番低いものになります。

自賠責基準の通院慰謝料は、通院1日あたり4300円(2020年3月31日以前の交通事故の場合は4200円)として、「通院期間」か「実通院日数の2倍」の少ない方の日数を対象として計算します。

例えば、治療期間が6ヶ月間(180日間)、そのうち通院した日数=60日間の被害者の方の場合、6ヶ月間(180日間)と60日間×2=120日間を比べて、少ない方が通院日数として計算されますから、通院日数120日として算定されます。

また、自賠責基準の後遺障害慰謝料は、以下のように等級によって決まっています。

第1級第2級第3級第4級第5級第6級第7級
1150万円998万円861万円737万円618万円512万円419万円
第8級第9級第10級第11級第12級第13級第14級
331万円249万円190万円136万円94万円57万円32万円


3.任意保険基準の計算方法

任意保険基準は、加害者が加入している任意保険独自の基準になりますから、具体的な計算方法が公開されている訳ではありません。そのため、被害者側の弁護士が計算方法をご説明することは難しいですが、基本的に自賠責基準よりは多少高く、次にご説明する裁判基準よりはかなり低い基準に設定されています。

基本的に、加害者側保険会社の担当者は交通事故被害者の方と示談交渉をする際、この任意保険基準か自賠責基準で示談額を提示してきます。


4.裁判基準の計算方法

裁判基準は、裁判所で用いられている基準です。3つの慰謝料基準の中で一番高いのは、この裁判基準ということになります。もちろん事案にもよりますが、任意保険基準と比べると、1.5倍程度高額になることが多いです。この裁判基準は、裁判所が適切な慰謝料と考えている基準ということですから、弁護士は実際に裁判をしない場合でも示談交渉の時点からこの裁判基準を用いて交渉します。

そのため、弁護士基準というのは、裁判基準と同じ基準ということになります。


5.具体例で見る慰謝料の差

それでは、以下では、実際に具体例で慰謝料基準による差額のイメージしていただきたいと思います。

交通事故被害者の方の大多数が頚椎・腰椎のお怪我をされますので、そのような典型的なお怪我の事例を基にご紹介します。

●具体例
治療期間が6ヶ月間(180日間)、そのうち通院した日数=60日間、症状固定後に14級9号の後遺障害等級が認定された被害者の方の場合


⑴ 自賠責基準の慰謝料

上でご説明したように、自賠責基準の通院慰謝料は、通院1日あたり4300円として、「通院期間」か「実通院日数の2倍」の少ない方の日数を対象として計算します(1ヶ月は30日として計算します。)。今回の被害者の方の場合、6ヶ月(180日)と60日×2=120日を比べて、少ない方が通院日数として計算されますから、通院日数120日として次のように算定されます。

4300円×120日=51万6000円

自賠責基準の後遺障害慰謝料は、上の表のように決まっていますので、14級9号は32万円となります。

以上より、この事例では、通院慰謝料と後遺障害慰謝料の合計が83万6000円となります。


⑵ 任意保険基準の慰謝料

任意保険の基準は、公開されていませんので正確に計算することはできません。

ただ、私たちの経験上、この事例であれば、自賠責基準と同じくらいか少し多い程度の提示となることが多いです。

具体的には、通院慰謝料が55万円程度、後遺障害慰謝料が32万円での提示が多いように思います(保険会社や担当者によって大きく異なる場合はあります。)。

保険会社も営利企業なので、できる限り保険金の支払いを低く抑えたいのが本音でしょう。ひどい担当者に当たってしまうと、上記の自賠責基準のまま示談提示して来る場合もあります。その示談提示で被害者が了承すると、一旦加害者側任意保険会社から被害者に示談金を支払いますが、加害者任意保険会社はその後に自賠責保険から同額を回収します。

つまり、被害者の方が自賠責基準で了承してくれれば、加害者側保険会社は1円も持ち出さないということになります。

このような事実をご説明すると、「何のための保険だ!」とご立腹になる方もいますが、実際にこのようなことはよくある話です。


⑶ 裁判基準の慰謝料

裁判基準は、地方によって使用されている基準が若干違う場合もありますが、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」という書籍(通称:赤い本)の基準が用いられることが多いです。

この赤い本の通院慰謝料は、通院日数ではなく治療期間で算定します。頚椎捻挫・腰椎捻挫で6ヶ月間治療された場合の通院慰謝料は、89万円とされています。

また、赤い本の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって以下のように算定されます。

第1級第2級第3級第4級第5級第6級第7級
2800万円2370万円1990万円1670万円1400万円1180万円1000万円
第8級第9級第10級第11級第12級第13級第14級
830万円690万円550万円420万円290万円180万円110万円

14級の場合の後遺障害慰謝料は、110万円とされています。

以上より、この事例では、通院慰謝料と後遺障害慰謝料の合計が199万円となります。

自賠責基準では83万6000円、任意保険基準でも自賠責基準より少し多いくらいですから、裁判基準で算定すると2倍以上になります。

後遺障害等級が認定されなかったケースでは、慰謝料は通院慰謝料だけになりますが、それでも51万6000円(自賠責基準)89万円(裁判基準)ですので、1.5倍以上の違いがあります。


6.まとめ

このように、交通事故は慰謝料基準の違いによって、同じ被害者の方でも大きな差が出ます。弁護士に依頼せずにご自身で直接相手方保険会社と示談する場合には低額な自賠責基準や任意保険基準で示談せざるを得ませんが、弁護士にご依頼いただくと弁護士は高額な裁判基準を基に交渉します。

その結果、「交通事故の慰謝料は弁護士に依頼すると増額する」ことになるのです。

私たち優誠法律事務所では、基本的に裁判前の示談交渉でも裁判基準満額もしくはそれに近い金額で示談できるよう、妥協しない姿勢で保険会社と交渉しています。

無料相談もお受けしておりますので、お気軽にご相談ください。

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