醜状痕について

1.はじめに

交通事故の被害に遭って、顔や体に傷やあざが残ってしまった。

このような場合、加害者に対する損害賠償の額にどのような影響があるのでしょうか。

この記事では、いわゆる醜状痕について解説します。


2.後遺障害の認定基準

(1)後遺障害とは

交通事故の被害に遭い、身体に傷害を負った方は、責任のある相手方(加害者や加害者の加入する任意保険等)に対し、その交通事故によって被った損害の賠償を請求することができます。

この損害には一般的に、治療費、交通費や慰謝料などがあります。

この点、例えば慰謝料については、慰謝料が精神的な損害を指しますので、本来的には一人ひとり異なる損害額であるべきではあるようにも思えますが、裁判所による公平な認定のために、治療の期間や実通院日数によってその損害額を算定しています。

しかしながら、そうすると、最終的に残ってしまった後遺障害ついては慰謝料の基礎とすることができないということになってしまいます。

そこで、後遺障害については、別途これが残存したと認められる場合には、後遺障害が残存したことに対する慰謝料や逸失利益といった将来の労働能力の減退に対応する損害が、交通事故と因果関係のある損害として認められています。

そして、後遺障害に該当するか否かについては、原則として、自動車損害賠賠償保障法施行令の別表に定められている後遺障害等級表のいずれかに回答するか否かによって判断されています。


(2)後遺障害としての醜状痕

交通事故によって傷跡やあざが残ってしまった場合の後遺障害については、自動車損害賠賠償保障法施行令の別表において、大きく、「『外貌』に醜状を残すもの」と、「『露出面』に醜いあとを残すもの」の二つがあります。


ア 『外貌』に醜状を残すもの

外貌とは、頭部、顔面部や首のように、上肢(肩から先)及び下肢(股間左折から先)以外の日々露出する部分をいうとされています。

そして、その程度に応じて、以下の3つが外貌に醜状を残すものとして後遺障害に認められています。

  • 第7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
  • 第9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
  • 第12級14号 外貌に醜状を残すもの

「著しい醜状を残す」とは、頭部にあっては手のひら大以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損、顔面部にあっては鶏卵大以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没、首部にあっては手のひら大以上の瘢痕をいうとされています。

「相当程度の醜状」とは、原則として、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状のあとで、人目につく程度以上のものをいうとされています。

そして、「醜状」とは、頭部にあっては鶏卵大以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損、顔面部にあっては10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状のあと、首部にあっては鶏卵大以上の瘢痕をいうとされています。


イ 『露出面』に醜いあとを残すもの

露出面とは、上肢にあっては肩関節以下、下肢にあっては股関節以下をいうとされています。

そして、その部位や程度に応じて、以下の3つが露出面に醜いあとを残すものとして後遺障害に認められています。

  • 14級4号 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
  • 14級5号 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
  • 12級相当 下肢又は上肢の露出面に手のひらの大きさの3倍の醜いあとを残すもの

なお、この手のひらの大きさとは、指の部分を含みません。


3.損害の額について

(1)後遺障害慰謝料

最終的に残ってしまった傷跡やあざが、上記の後遺障害に該当する場合、その等級に応じて、以下の金額を目安として、後遺障害が残存してしまったことに対する慰謝料を請求することができます。

7級に該当する場合 1000万円
9級に該当する場合 690万円
12級に該当する場合 290万円
14級に該当する場合 110万円

 

(2)逸失利益

一般的に、後遺障害が残存した場合、身体の機能の一部が失われることによって労働能力の全部または一部が減退することによる損害(逸失利益)が発生することが考えられます。

醜状障害についても例外ではありませんが、傷跡やあざが労働能力に影響を及ぼさないことも考えられるため、必ず請求することができるわけではないということには注意が必要です。


(3)後遺障害に該当しない程度の醜状痕

後遺障害に該当する程度ではないものの、傷跡やあざが残ってしまった場合、これに対する慰謝料が一切認められないということではありません。

残存してしまった傷跡やあざの程度や部位によって、これに対する慰謝料を別途請求することは十分に考えられます。


4.慰謝料基準について

上記で触れた後遺障害慰謝料の金額の目安は、いわゆる裁判所・弁護士基準に基づく金額です。

別の記事でも触れていますが、慰謝料の算定方法には、保険会社が採用し主張してくる基準と、裁判所や弁護士が採用し主張することができる基準等があります。

一般的に裁判所や弁護士が採用し主張することができる基準が最も慰謝料の金額が高額になり、保険会社の言い値で示談してしまうと損害の賠償に不十分な金額しか獲得できない可能性があるということに注意が必要です。


5. まとめ

傷跡やあざが残存した場合には、後遺障害等として損害の賠償を請求することが可能です。どのような傷跡やあざであればどのような請求が可能であるのか、又は保険会社の提示金額の妥当性については、弁護士に相談してみましょう。

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