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1.はじめに
交通事故の被害に遭って、治療を継続してきたけれども、最終的に症状が残存してしまったということもあるかと思います。
後遺障害の内容には、様々な内容がありますが、この記事では、特に骨折後の上肢又は下肢の関節機能障害や変形障害(偽関節)、短縮障害に関し解説します。
2.関節機能障害について
(1)関節機能障害とは
関節機能障害とは、骨折や脱臼等の傷害を負ったのちに関節の可動域に制限が生じる(曲げ伸ばしができなくなってしまう)ことを言います。
(2)認定基準
ア 上肢(手指を除く)の関節機能障害
上肢の関節機能障害については、自動車損害賠償保障法施行令別表二において、以下のような後遺障害が定められています。
- 両上肢の用を全廃したもの 1級4号
- 1上肢の用を全廃したもの 5級6号
- 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 6級6号
- 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 8級6号
- 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの 10級10号
- 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 12級6号
「上肢の用を全廃した」とは、3大関節(肩関節、ひじ関節及び手関節)のすべてが強直し、かつ、手指の全部の用を廃したものをいうとされています。
関節の強直とは、関節の完全強直又はこれに近い状態にあるものをいうとされており、原則として、健側(障害を負っていない方)の関節可動域角度の10%程度以下に制限されているものをいいます。
「関節の用を廃する」とは、次のいずれかに該当するもの言います。
a)関節が強直した
b)関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にある
c)人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている
「関節の機能に著しい障害を残す」とは、次のいずれかに該当するものを言います。
a)関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている
b)人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、「用を廃した」程度にいたらない
「関節の機能に障害を残す」とは、関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されていることを言います。
イ 下肢の関節機能障害
下肢の関節機能障害については、自動車損害賠償保障法施行令別表二において、以下のような後遺障害が定められています。
- 両下肢の用を全廃したもの 1級6号
- 1下肢の用を全廃したもの 5級7号
- 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 6級7号
- 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 8級7号
- 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの 10級11号
- 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 12級7号
「下肢の用を全廃した」とは、3大関節(股関節、ひざ関節及び足関節)のすべてが強直し、かつ、手指の全部の用を廃したものをいうとされています。
「関節の強直」「関節の用を廃する」、「関節の機能に著しい障害を残す」、「関節の機能に障害を残す」の各意味については、上肢と同様です。
3.変形障害(偽関節)について
(1)偽関節とは
偽関節とは、骨折後に骨の癒合ができず、骨折部が安定しなくなる状態のことを言います。
(2)認定基準
偽関節が残存してしまったことに対する変形障害については、自動車損害賠償保障法施行令別表二において、以下のような後遺障害が定められています。
- 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 7級9号
- 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 7級10号
- 1上肢に偽関節を残すもの 8級8号
- 1下肢に偽関節を残すもの 8級9号
「偽関節を残し、著しい運動障害を残す」とは、上腕骨・橈骨及び尺骨の両方・大腿骨・脛骨及び腓骨の両方・脛骨のいずれかの骨幹部又は骨幹端部(以下「骨幹部等」といいます。)に癒合不全を残し、かつ常に硬性補装具を必要とすることを言います。
「偽関節を残すもの」とは、上腕骨・橈骨及び尺骨の両方・大腿骨・脛骨及び腓骨の両方・脛骨のいずれかの骨幹部等に癒合不全を残し、「著しい運動障害を残す」程度にいたらないもの及び橈骨又は尺骨のいずれか一方の骨幹部等に癒合不全を残し、時々硬性装具を必要とするものを言います。
4.短縮障害について
(1)短縮障害とは
骨折や脱臼等の傷害を負ったのちに、上前腸骨棘と下腿内果下端間の長さが健側と比べて短くなることをいいます。
(2)認定基準
短縮障害については、自動車損害賠償保障法施行令別表二において、以下のような後遺障害が定められています。
- 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの 8級5号
- 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの 8級8号
- 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの 8級8号
短縮障害は、下肢にのみ認められ、上肢には認められていないことに注意が必要です。
5.後遺障害に該当したときの効果
後遺障害に認定されるとどのような効果があるでしょうか。
交通事故の被害者は、加害者に対し、交通事故によって被った損害の賠償を求めることができます(民法709条)。
そこで、どこまでを損害として請求することができるのかが問題となりますが、時的な限界のようなこととして言いますと、治療が終了したときまでを損害として請求することができるというのが原則です。
すなわち、治療費、交通費、休業損害及び慰謝料等について、その損害額は交通事故の発生から治療終了時までの損害として算定することとなります。
そして、この治療終了時とは、「治癒」と「症状固定」の2つがあります。「治癒」は、症状が完治することをいい、「症状固定」は、これ以上治療を継続したとしても治療の効果が得られなくなる状態をいいます。
そのため、症状が残存していたとしても、「症状固定」に至り、それ以降の慰謝料等については請求することができないということになりえるのです。
他方で、症状固定に至ったということは、症状が残存していますから、この症状が後遺障害に認定されるということがあります。
その場合には、症状固定後も残存する症状(後遺障害)があることに対して、別途損害を算定することができるのです。
具体的には、後遺障害が残存してしまったことに対する慰謝料や将来の収入が減額することに対する逸失利益等を請求することが可能です。
そして、その金額は、認定された後遺障害の等級によって定められた基準によって算定されるということになりますが、注意が必要なのは、結局は基準の取り方等に解釈を挟みますので、加害者や保険会社が裁判所や弁護士が考えるような金額を提示してこないことが往々にして認められるということです。
6.まとめ
後遺障害が認定される場合には、そうでない場合に比べて相手方に対して請求することができる損害賠償の金額が数百万円から数千万円単位で異なることがあります。
そのため後遺障害が適切に認められることは、交通事故被害者の損害の適切な補償という観点からは非常に重要です。
しかしながら、後遺障害の認定の見通しをつけるには、医療や保険などの専門的な知識が必要であり、これを交通事故被害者自らが行うことは困難です。
そのため、後遺障害について少しでも不安に感じられてる方は、早めに弁護士に相談してみてください。