今回は、後遺障害診断書が作成されていないにもかかわらず、訴訟上において後遺障害等級14級9号前提で和解できた事例をご紹介します。
実務上、交通事故によって受傷し、残存してしまった症状について、後遺障害等級の認定を求める場合、後遺障害診断書を作成してもらうことがほぼ必須となります。
しかしながら、様々な理由により、担当医から後遺障害診断書の作成を断られてしまう事例も存在します。
今回のBさんも後遺障害診断書が作成されなかったのですが、訴訟上において後遺障害等級14級9号前提で和解することができました。
同様に後遺障害診断書を作成してもらえずに困っておられる方がいらっしゃいましたら、参考にしていただけますと幸いです。
このページの目次
1.後遺障害とは
交通事故によって受傷した場合、治療によって回復することもありますが、治療を継続しても症状が固定(これ以上よくならないという状態)していまい、不完全な状態で残ってしまうことがあります。
損害賠償の分野においては、このような状態を「後遺障害」と呼ぶことが多いです。
もっとも、単に「後遺障害」が残ったというだけで、直ちに後遺障害に関する損害(例えば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益)が認められる訳ではなく、後遺障害等級表に定められている、いずれかの障害に該当する必要があります。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/jibai/payment_pop.html
そのため、まずは、事故の相手方が加入している自賠責保険会社に対して、後遺障害等級認定の申請をすることが基本となります。
また、民事訴訟において、後遺障害等級に該当する旨の主張をすることもあります。
2.後遺障害診断書の重要性
自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請する場合も、民事訴訟において後遺障害等級に該当する旨の主張をする場合も、後遺障害診断書を作成してもらうことがほぼ必須となります。
特に、自賠責保険会社に対して申請する場合は、後遺障害診断書が「請求に必要な書類」の1つとして組み込まれているところです。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/jibai/kind.html
後遺障害診断書は、医者が作成する診断書となります。
しかしながら、冒頭で述べたとおり、様々な理由で医者が後遺障害診断書を作成してくれないことがあります。
この場合、後遺障害等級の認定を求めることは非常に困難となります。
3.事例の紹介~後遺障害診断書が作成されずに14級9号前提で和解できた事例~
依頼者Bさんは、自身が乗車していたバイクを直進させていたところ、相手車両が、Bさんの進行を塞ぐような形で対向から右折してきたため、Bさんはなす術もなく相手車両に衝突してしまいました。
その結果、Bさんが乗車していた車両は転倒し、自身の身体も道路に投げ出されて道路に激しく身体が打ち付けられてしまいました。
この事故でBさんは、膝内障や腰部捻挫等の怪我を負いました。
事故後、約6年もの年月が経過していたものの、
①膝周辺から足にかけての冷感・痺れ
②膝が締め付けられるという感覚
が残ったままでした。
そのため、これらの症状について後遺障害等級の認定がなされることを強く希望していたものの、「最初から診ていない」、「症状固定後から時間が経過し過ぎている」などの理由から後遺障害診断書が作成されなかったため、自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請ができないという状態でした。
当然ながら、相手方保険会社も、Bさんの後遺障害等級を認めてくれません。
そのため、やむを得ず、交通事故(不法行為)に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、同手続内で、後遺障害等級(14級9号)に該当する旨の主張をすることにしました。
4.本件訴訟における争点
民事訴訟において、相手方代理人からは、「Bさんの主張する症状について、後遺障害診断書すら作成されていない。そうすると、症状が残存することについて、医師による診断がなされていないのであるから、裁判所においても後遺障害の認定を行うことはできない」といった主張がなされました。
しかしながら、後遺障害診断書は、自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請をする場合の必須書類ではありますが、民事訴訟において後遺障害等級に該当する旨の主張をする場合、そのような拘束がされている訳ではありません。
また、民事訴訟における後遺障害等級の認定は、訴訟に現れた全証拠から、自由な心証に基づいて、裁判所が、その障害等級に該当するのかを判断するものです(自由心証主義)。
したがって、「後遺障害診断書が作成されていないため、裁判所は後遺障害の認定を行うことはできない」という相手方代理人の主張は誤りである旨を指摘しました。
また、本件訴訟においては、概ね以下の対応をしました。
①症状が一貫していなければ通常しなかった行動を複数取り上げて主張。
②画像所見を認めていると受け取られるような相手方保険会社の顧問医による記載があり、これに強く焦点を当てる。
③相手方保険会社作成の医療照会兼回答書の各項目に、後遺障害診断書で記載されるべきことが網羅されていることを挙げる。
5.本件訴訟の結果
双方からの主張が一段落した後、裁判所から、14級9号を前提とする和解案が提示されました。
そして、この和解案はBさんとしても納得できる金額であったため、訴訟上の和解が成立するに至りました。
6.まとめ
このように、Bさんの事例では、後遺障害診断書が作成されていなかったにもかかわらず、民事訴訟において、14級9号前提で和解することができました。
後遺障害診断書が作成されない場合、自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請をすることが事実上できなくなるため、後遺障害等級の認定を求めることは非常に困難となります。
そのため、訴訟が必要となりますので、このようなケースでは交通事故を専門とする弁護士にご相談することをお勧めします。
また、Bさんのように交通事故から時間が経ってしまうと、弁護士が対応できることが限られてしまいますので、できる限り早めにご相談ください。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
☎0120-570-670
投稿者プロフィール
これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」