【解決事例】死亡慰謝料と死亡逸失利益の「一家の支柱」性について紛争処理センターで有利な判断を得られた事例

これまで、交通事故の被害者が亡くなった場合の、死亡逸失利益や死亡慰謝料について何度かご説明してきました。

今回は、81歳の高齢者の死亡事故で、死亡逸失利益と死亡慰謝料の増額に成功した事例をご紹介します。

この事例では、相手方保険会社が「一家の支柱」ではないと主張し、紛争処理センターのあっせん案でも一家の支柱と認められませんでしたが、審査会での裁定で逆転、約500万円の増額を勝ち取りました。

この事案に基づいて、実務のポイントを弁護士が解説します。

実際の解決事例として、ご遺族の方には参考にしていただけるのではないかと思います。

1 死亡逸失利益と死亡慰謝料

死亡事故が発生した場合の死亡逸失利益と死亡慰謝料については、以下の記事で説明しております。

ここでもざっと振り返っておきますと、まず死亡逸失利益とは、被害者が交通事故に遭わなければ将来得られたはずの収入や利益を補償するもので、基本的に以下の計算式で行われます。 

死亡逸失利益 = 基礎収入額 × (1 – 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 

以上の計算式から分かるとおり、生活費控除率が小さいほど、死亡逸失利益の金額が増えることになります。

そして、「一家の支柱」と判断されれば、生活費控除率はより小さいものが適用され、死亡逸失利益は大きくなる傾向にあります。

一方、死亡慰謝料とは、交通事故によって亡くなった被害者本人およびその遺族が被る精神的苦痛に対する賠償金のことです。

こちらについても、「一家の支柱」と判断されれば、慰謝料の基準額が高額になる傾向にあります。

したがって、ご家族がいる方が被害者となった死亡事故の場合、被害者が「一家の支柱」に該当すると言えるか否かで、示談金の額に大きな差が出てくることになります。

以下では、この点について正面から争いとなり、紛争処理センターに申立てを行い、解決に至った事例をご紹介します。

2 事案の概要

本件の被害者Aさんは、事故時81歳で、奥さん、ご子息お二人の4人家族で暮らしていました。

Aさんには年金収入が年間200万円程度あったほか、清掃員として稼働もしており、その稼働収入が年間150万円程度ありました。

奥さんには年間70万円程度の年金収入がありました。

ご子息はお二人とも成人しておられましたが、仕事はしていない状況でした。

そのような中、自転車運転中だったAさんに加害者が横から突っ込む形で事故が発生し、数ヶ月の入院治療の甲斐なく、Aさんはお亡くなりになりました。

3 加害者側の提案内容

その後、ご遺族は相手損保とそれを引き継いだ相手弁護士と、示談金の交渉を行いました。

話し合いの結果、相手損保からは3400万円弱の示談案の提示がありましたが、色々と調べたところ、適切な額ではないのではないかと考えるに至り、当事務所にご相談にいらっしゃいました。

事故後、入院・治療を経てお亡くなりになったという事案でしたので、示談金の費目は、治療費、通院交通費、入院雑費、休業損害、傷害慰謝料、葬儀費用、死亡逸失利益、死亡慰謝料と多岐にわたりました。

相手弁護士からの提示書をみると、ほとんどの項目で適切な額の提案がなされていましたが、死亡逸失利益の生活費控除率について、給与部分は50%、年金部分は70%と高い率を適用したうえで計算されており、そのために死亡逸失利益の金額が低く抑えられていました。

具体的には、以下の計算式で算出されていました。

・給与部分
基礎収入額約150万円× (1-生活費控除率50%) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 3.7171=約280万円

・年金部分
基礎収入額約200万円× (1-生活費控除率70%) ×平均余命8年に対応するライプニッツ係数 7.0197=約420万円

・死亡逸失利益合計 約700万円

(なお、ライプニッツ係数が給与部分と年金部分とで異なるのは、高齢者の場合、給与については平均余命の2分の1に対応するライプニッツ係数を、年金については平均余命に対応するライプニッツ係数を用いるとされているためです。)

また、死亡慰謝料については、2000万円が提示されていました。

これらは、Aさんを「一家の支柱」とせず、単に年金受給者の男性として算定された金額です。

Aさんが一家の支柱とされれば、生活費控除率はより低いものとなって死亡逸失利益の金額は上昇し、死亡慰謝料の基準も上がることになります。

ご遺族のお話を伺ったところ、Aさんが一家の支柱と認定される可能性があると考えられたため、当事務所で事件をお受けすることになりました。

4 紛争処理センターでの手続き

ご依頼後、担当弁護士は、相手方代理人弁護士と交渉を試みましたが、返答がご依頼前とほぼ変わらず、賠償金額が大きいことや、一家の支柱の該当性という法的評価の問題が争いになることから、交渉では埒が明かないと考え、早々に紛争処理センターへの申立てを行うことにしました。

(紛争処理センターでの手続きについては、以下の記事でご説明していますので、こちらもぜひご覧ください。)

紛争処理センターへの申立てに際しては、Aさんが一家の支柱に該当することを前提に、当方からは、従前のご遺族と加害者側の交渉経緯も踏まえ、以下の内容で損害賠償を請求しました。

死亡逸失利益に関する生活費控除率については、給与部分については30%、年金部分については60%を主張しました。

具体的には以下の金額になります。

・給与部分
基礎収入額約150万円× (1-生活費控除率30%) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 3.7171=約390万円

・年金部分
基礎収入額約200万円× (1-生活費控除率60%) ×平均余命8年に対応するライプニッツ係数 7.0197=約560万円

・死亡逸失利益合計 約950万円

死亡慰謝料については、赤い本の一家の支柱の基準に従い、2800万円を主張しました。

その上で、Aさんが一家の支柱であったことについて、Aさん及びご遺族の収入状況や、一家の収入と支出の状況などを、源泉徴収票や通帳、ご遺族の陳述書などを提出して立証していきました。

特に、Aさん一家はかなり倹約されており、収入のほとんどをAさんに頼っていた一方で給与収入については預金に回せている状況でもあったので、この点は家計の内容と併せて主張しました。

また、高齢者について一家の支柱と判断している裁判例を証拠として提出しました。

紛争処理センターでは、何度か期日を行い当事者双方が主張立証を行った後、あっせん委員から和解案(斡旋案)の提案がなされます。

担当弁護士は、上記の主張立証についてある程度の手ごたえを感じていたのですが、あっせん委員からの斡旋案では、Aさんを一家の支柱と認定しない内容でした。

その理由としては、高齢者は一般に一家の支柱とならないと考えられることや、たまたまご子息が稼働していなかったとしても加害者がそれを知ることは出来ないことなどが挙げられていました。

しかしながら、確かに高齢者の場合に一家の支柱と判断されることは被害者が若年の場合に比べると少ないかもしれませんが、それでも一家の支柱と判断した裁判例は存在します。

また、たまたまご子息が稼働していなかったことを加害者が知り得ないという点は、それを言うのであれば交通事故案件は、通常、加害者にとって被害者の属性は不明ですから、賠償金は一律にすべきという結論になるはずですが、それが不当なことは明らかです。

したがって、ご遺族と相談し、斡旋案を受諾するのではなく、審査会の審査へと進んで、裁定を得ることにしました。

審査会へと進むと、別途審査期日が設けられ、事前の書面提出のほか、期日にて審査員に口頭で説明することになります。

審査期日の前には、これまでのまとめの主張と、和解あっせん時にAさんが一家の支柱ではないとされた理由に対する反論の書面を提出しました。

また、審査期日では、ご遺族の事故前後の生活状況や、Aさんの生前にはAさんの給与収入で貯金もできていたことを再度強調しました。

5 審査会の結果

そうしたところ、審査会の裁定では、Aさんを一家の支柱と認められ、その前提で死亡逸失利益と死亡慰謝料が算定されました。

死亡逸失利益の生活費控除率については、給与部分について40%、年金部分について60%とされました。

具体的には以下のとおりです。

・給与部分
基礎収入額約150万円× (1-生活費控除率40%) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 3.7171=約335万円

・年金部分
基礎収入額約200万円× (1-生活費控除率60%) ×平均余命8年に対応するライプニッツ係数 7.0197=約560万円

・死亡逸失利益合計 約895万円

死亡慰謝料については、2800万円とされました。

既払い金の処理について、交渉段階では主張していなかった内容を加害者側が主張した部分もありましたが、それでも示談金総額としては3900万円弱となり、示談金としては約500万円の増額を果たすことができました。

当初の紛争処理センターからの斡旋案には落胆しましたが、審査会で逆転することができ、ご遺族にも喜んでいただけ、本当に良かったです。

6 まとめ

今回は、死亡逸失利益と死亡慰謝料について、紛争処理センターを利用してこちらに有利に解決できた事例をご紹介しました。

そもそもこれらの項目については、法的な評価が問題になるうえ、金額も大きいものになりますので、示談とする前に弁護士の意見を参考にされることをお勧めいたします。

また、今回のケースではあっせん案の内容から審査会へ進んで逆転できましたが、審査会に移行してもあっせん案の段階の心証から変わらないということも多くあります。

審査会に移行して金額が増額できるかという点についても、弁護士の意見を確認されることをお勧めいたします。

私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。

全国からご相談いただいておりますので、是非お気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

弁護士栗田道匡の写真
 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

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