交通事故で脊髄損傷を負った方へ|後遺障害等級の認定基準と慰謝料相場を弁護士が解説

今回は、「脊髄損傷」に関する後遺障害等級について、解説いたします。

脊髄損傷は、交通事故や転落事故などによって引き起こされる重篤な損傷であり、その後の生活に重大な影響を及ぼします。

適切な後遺障害等級が認定されることは、正当な賠償を受ける上で非常に重要です。

しかし、「どのような基準で後遺障害等級が認定されるのか」「後遺障害等級認定の申請をするためには、どのような書類が必要なのか」など、脊髄損傷に関する後遺障害等級は難しいと感じる方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。

交通事故により脊髄損傷を負った被害者の方は、手足の麻痺や感覚麻痺など、日常生活に大きな制限が残る「後遺症」を抱える可能性があります。

こうした後遺症が残った場合には、自賠責保険や相手方保険会社に対して「後遺障害等級」の認定請求を行うことが極めて重要です。

適切な等級が認められれば、後遺障害慰謝料や将来にわたる介護費・生活補償など、相当額の賠償金を受けられる可能性があります。

しかし、認定される等級によって金額は大きく変わるため、認定の段階での対応が非常に重要となります。

この記事では、脊髄損傷に関する後遺障害等級の認定基準と、申請に必要な書類について詳しく解説します。

特に、画像所見の重要性についても掘り下げて解説しますので、現在、脊髄損傷による後遺障害でお困りの方、またはその可能性のある方は、ぜひご一読いただき、適切な補償を獲得するための一助としていただけますと幸いです。

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1.脊髄損傷とはどんな状態?後遺障害の基礎知識を深掘り

⑴ 脊髄損傷のメカニズムと症状の多様性

そもそも脊髄とは何かについて、ご説明いたします。

脊髄とは、脳から連なる中枢神経系の一部をいいます。

脊髄は神経であり、直径わずか1cmほどの細い組織の中に、運動神経や知覚神経の繊維が詰まっています。

脊柱管によって守られてはいますが、わずかな病変が生じても四肢麻痺などの症状が出現し得るため、脊髄は非常に繊細なものです。

そして、脊髄損傷とは、交通事故などによる外力が脊髄に加わって、脊髄が損傷された状態のことをいいます。

脊髄損傷は、脊椎(いわゆる背骨)の脱臼や骨折を伴って生じることが多いです。

このうち、脊髄全横断面にわたって神経回路が断絶したものを完全損傷、一部でも保たれたものを不完全損傷といいます。

脊髄損傷の症状は、「完全損傷」と「不完全損傷」で大きく変わります。

完全損傷の場合、脳からの命令が断たれるため、四肢・体幹の運動機能が失われるだけでなく、感覚機能も失われ、体温調節機能や代謝機能も困難になってしまいます。

一方、不完全損傷の場合、神経が完全には断裂していないため、症状の有無や程度には広範囲の差異があるとされています。

脊髄損傷によって生じる症状は、損傷した脊髄の「部位」によって大きく異なります。

・頚髄(首の脊髄)を損傷した場合:手足(上肢・下肢)の麻痺、呼吸機能低下など

・胸髄を損傷した場合:体幹の保持が困難になり、歩行障害や姿勢保持が困難になる場合がある

・腰髄を損傷した場合:下肢の運動障害や感覚障害が生じやすく、歩行に支障が出ることが多い

このように、損傷部位と神経の走行が深く関係しているため、症状の「程度」や「残る後遺症」は個人によって大きく異なります。

⑵ 後遺障害等級とは何か

後遺障害等級は、自賠責保険会社や裁判所等において認定がなされます。

等級が認定されることは、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益といった適正な賠償の支払いに向けた大きな前進です。

一方、等級が認定されない場合、後遺障害が残っていても基本的には賠償対象にならないことから、等級認定の重要性は極めて高いです。

2.脊髄損傷の後遺障害は「等級」がカギ! 具体的な認定基準と分類

このように、脊髄損傷に関する後遺障害の等級認定は、その後の賠償額を大きく左右します。

ここでは、どのような基準で等級が判断されるのかを具体的に見ていきましょう。

⑴ 「神経系統の機能または精神の障害」としての評価

脊髄損傷の後遺障害は、主に「神経系統の機能または精神の障害」として評価されます。

その等級ですが、症状の程度や日常生活への影響、介護の必要性などによって細かく分類されています。

具体的には、別表第1と別表第2に分かれており、重度な麻痺を伴う場合、別表第1の等級(第1級、第2級)が認定される可能性があります。

これは、常時介護や随時介護が必要な状態を指し、非常に重いものとされています。

後遺障害の等級認定がされるのか、されるとしても等級は何かを判断する要素としては、麻痺の程度(徒手筋力テストの数値など)、麻痺の範囲(四肢、対麻痺)、感覚障害の範囲・程度、排泄機能の障害の有無・程度などが挙げられます。

⑵ 脊髄損傷で認定される等級の目安

【常時介護が必要な状態:別表第1の第1級1号】

広範囲な麻痺により、日常生活のほぼ全ての動作(食事、入浴、排泄、着替えなど)に常時介護が必要となる状態です。

【随時介護が必要な状態:別表第1の第2級1号】

運動能力や感覚機能が著しく低下し、歩行が困難で、日常生活の重要な動作に随時介護が必要となる状態です。

【労働能力に支障が生じた状態:別表第2の第3級~第9級】

脊髄損傷により、手足の麻痺や体幹機能の障害が残ることで、仕事に大きな制限がかかったり、今後仕事に就くことが困難になったりする状態です。

具体的な等級は、麻痺の程度や、どの程度の労働能力が失われたか等によって判断されます。

【局部に頑固な神経症状を残している状態:別表第2の第12級13号】

例えば、筋緊張の亢進が認められるもの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの等が挙げられます。

後遺障害等級認定までの流れ

① 医師による診断書作成と画像検査(MRI・CT)

② 症状と画像所見に整合性があるかの確認

③ 自賠責保険へ後遺障害等級認定の申請

④ 認定された等級に応じ、慰謝料・逸失利益・将来介護費などの損害賠償を請求

この「流れ」を正しく踏むことで、適正な賠償の獲得に繋がります。

3.等級認定の成否を分ける「画像」の全貌

脊髄損傷に関する後遺障害の等級認定においては、医師の診断書や各種証明書のほか、特に重要なのがMRIやCTなどの「画像」所見です。

これらが認定の成否を分けると言っても過言ではありません。

その理由ですが、脊髄損傷は、外からは分からない神経の損傷であるものの、MRIやCTといった画像検査によって、この損傷を客観的かつ視覚的に捉えることができるためです。

画像は、骨折や脱臼の有無だけでなく、脊髄そのものの損傷部位、損傷の程度、脊髄がどの程度圧迫されているかといった重要な情報を提供します。

そのため、等級認定の審査にあたっては、MRIやCTなどの「画像」所見と、症状の内容や程度等との間に整合性はあるか否かが重要になります。

ここで、「画像」所見が重要であることを示す裁判例(京都地裁平成16年6月16日判決)をご紹介いたします。
この裁判例は、「画像」所見について次のとおり判示するとともに、結論として原告の頚髄(脊髄の一部)損傷を否定しました。

「頸髄損傷は、頸髄に対する器質的な損傷があり、頸髄実質内に出血や浮腫を伴い、事故直後から重度の麻痺を呈する傷害であって、その診断はMRI検査で頸髄に輝度変化があること、事故直後から四肢麻痺などの神経症状のあることが重要であり、さらに電気生理学的検査を総合して判断することになる(弁論の全趣旨、当裁判所に顕著な頸髄損傷の病態)が、(ア)原告には、受傷直後に四肢麻痺が発生したかについては、前記のとおり、事故の翌日に左上肢痛、挙上不可及び指尖の知覚異常を訴えたが、他の部位の知覚はあったのであり、上記麻痺があったとは窺えず、(イ)病的反射はみられず、エックス線写真、CT、MRI検査上頸髄損傷を疑わせる異常所見もみられず、(ウ)その他、頸椎第4・第5間、第5・第6間に突出部があったとしても、これが片麻痺の原因とはなり難く、麻痺、知覚異常を訴える部位は上記変性部の神経支配域とも一致しないことからすれば、原告が本件事故により頸髄損傷を受傷したと認めることはできず、この点の原告の主張は採用できない。」

保険会社は、被害者にとって「最も有利な等級」が認定されるように動いてくれるわけではありません。

むしろ、後遺障害が「軽い」と判断されることで、支払う慰謝料や逸失利益が低額で済むため、保険会社側としては被害者にとって不利な等級が認定される方が都合が良いともいえます。

そのため、後遺障害の等級認定は「保険会社任せにしないこと」が非常に重要です

特に脊髄損傷は、画像所見の読み取りや診断書の記載内容、神経症状の証明など、医学的・法的な観点での整理が必要となるため、適切なサポートを受けずに申請すると本来認められるべき等級よりも低く評価されてしまうケースがあります。

当事務所では、脊髄損傷に関する後遺障害認定について

診断書の記載内容の確認 

MRI/CTなどの画像所見の分析 

必要資料の収集 

自賠責保険への申請手続き 

までを一貫してサポートいたします。

無料相談も随時承っておりますので、おひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。

4.まとめ:脊髄損傷による後遺障害は、お一人で悩まず専門家にご相談ください

脊髄損傷に関する後遺障害の等級認定は、賠償額を大きく左右する極めて重要なものです。

このとき、MRIやCTなどの画像所見は、あなたの症状を客観的に証明する強力な証拠となります。

しかし、その内容を適切に評価し、等級認定に繋げるための主張立証は、一般の方には難しいものと思われます。

優誠法律事務所では、脊髄損傷による後遺障害でお困りの方をサポートいたします。

無料相談も可能ですので、まずは一度ご相談ください。

専門知識を持つ弁護士が、これまでの解決事例も踏まえて親身に寄り添い、解決へと導きます。

弁護士費用についても、ご依頼いただく際に明確にご説明いたしますのでご安心ください。

投稿者プロフィール

 市川雅人 弁護士

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務) 
2018年3月 ベリーベスト法律事務所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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