死亡事故における死亡慰謝料の基準を解説~一般的な相場より増額された裁判例もご紹介~

今回のテーマは、死亡交通事故における死亡慰謝料です。

交通事故の被害者がお亡くなりになった事故(死亡事故)の場合には、ご遺族は「死亡慰謝料」の請求ができます。

今回は、交通事故の死亡慰謝料の相場はどの程度とされているか、裁判所の基準などをご説明します。

また、相場と異なる判断をした裁判例(増額された事例)もいくつかご紹介し、その裁判例の判断の背景などもご説明します。

示談交渉の際、保険会社は、相場よりも低い金額の提示をしてくるケースもありますので、交渉には相場感を把握した上で臨むことが必要です。

被害者の死亡という重大な結果が生じてしまっている以上、いくら金銭(慰謝料)を増額しても、ご遺族が納得できるものではないとは思いますが、せめて保険会社の提示を受け入れて相場よりも低い基準で示談してしまわないよう、示談交渉の際の参考にしていただければと思います。

1 死亡慰謝料とは

死亡慰謝料とは、交通事故によって亡くなった被害者本人およびその遺族が被る精神的苦痛に対する賠償金のことです。

被害者本人の慰謝料に加え、遺族の精神的苦痛についても慰謝料を請求できます。

2 死亡慰謝料の基準

死亡慰謝料についても、傷害慰謝料や後遺障害慰謝料と同様に、自賠責基準、任意保険基準がありますが、最も高額な裁判所・弁護士基準では以下のとおり説明されます(いわゆる「赤い本」基準)。

一家の支柱  2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他    2000万円~2500万円

上記の金額は、被害者本人の慰謝料に加え、遺族の慰謝料も含めた金額です。

「一家の支柱」とは、通常、主に一家の生計を維持している者を指すと説明されます。

そのような方が亡くなった場合は遺族の事故後の生活への影響が大きいと考えられることから、高めの基準が示されています。

また、「その他」には独身の男女、子ども、幼児等が含まれます

3 死亡慰謝料の増額事由

基本的には上記の基準が示されている死亡慰謝料ですが、事故態様が悪質な場合、慰謝料が増額されることがあります。

例えば以下のような場合です。

・飲酒運転

・著しい速度超過

・信号無視

・居眠り運転

・無免許運転

・わき見運転

事故後の加害者の対応が著しく不誠実、悪質な場合も、慰謝料が増額されることがあります。

以下のような場合が該当します。

・加害者が事故後に逃走した

・警察に虚偽の説明をしたり、証拠隠滅を図ろうとした

・事故後に被害者を罵倒するなどした

被害者側の事情から慰謝料が増額されるケースもあります。

以下のような場合です。

・被害者が妊娠しており、胎児と共に死亡した場合

・遺族が事故後に精神疾患を患った場合

また、独立していないお子さんが多いケース、被害者の社会的地位が高いケースなども、慰謝料増額があり得ると思います。

4 死亡慰謝料を増額した裁判例

ここからは、死亡慰謝料を増額した裁判例をいくつか紹介したいと思います。

①神戸地方裁判所平成25年3月11日判決

被害者の属性:66歳男性、無報酬の会社役員、年金・配当収入あり

原告の主張:被害者本人の慰謝料3000万円、遺族(注:原告は妻と子2人の計3名)固有の慰謝料各500万円の合計4500万円

裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2500万円、妻300万円、子2人各100万円の合計3000万円

被害者を一家の支柱と考えても、上記の基準では2800万円の慰謝料額になるところですが、裁判所は合計3000万円の慰謝料を認めています。

判決理由中では、衝突時高速度であったこと、妻を扶養していたこと、報酬は得ていなかったものの取締役として外部の交渉一切を担当していたことが挙げられています。

被害者の社会的地位が慰謝料に影響すると判断したものと捉えられる判決だと思います。

②大阪地方裁判所平成25年3月25日判決

被害者の属性:30歳男性、妻と2歳の子あり

原告の主張:被害者本人の慰謝料8000万円、遺族(2人)固有の慰謝料各1000万円の合計1億円

裁判所の判断:被害者本人の慰謝料3500万円、遺族(2人)固有の慰謝料各250万円の合計4000万円

一家の支柱の基準額である2800万円から1200万円の増額を認めている裁判例になります。

事故態様として、無免許運転、飲酒運転があり、事故後逃走し約2.9kmにわたって故意に被害者を引きずるなど非常に悪質なものであること、30歳と若年で養育すべき妻子がいることなどが判決理由として挙げられています。

特に事故態様については、「通常の交通事犯の範疇を超えて殺人罪に該当する極めて悪質かつ残酷なものである」と判示されており、強く非難されています。

③神戸地方裁判所平成28年5月25日判決

被害者の属性:81歳男性、年金受給中

原告の主張:被害者本人の慰謝料2800万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各150万円の合計3400万円

裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2200万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各150万円の合計2800万円

高齢の年金生活者について、2800万円と一家の支柱と同等の慰謝料額を認めた事例になります。

事故後の慰謝料の交渉では、被害者が高齢で年金生活者の場合に、稼働して収入を得ているわけではないので一家の支柱とは言えないとして、「その他」の2000万円~2500万円の基準でしか慰謝料は支払えないと保険会社が主張することが多くあります。

しかし、裁判例では、本判決のように、年金生活者であっても、主として被害者の収入によって世帯の生計が維持されている場合、「一家の支柱」の基準による慰謝料を認めるケースがあります。

保険会社の主張は一見あり得そうですが、このような裁判例もありますので、あきらめずに粘り強く交渉していくことが必要です。

④千葉地方裁判所松戸支部平成27年7月30日判決

被害者の属性:45歳男性、会社員

原告の主張:被害者本人の慰謝料3000万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各100万円の合計3500万円

裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2800万円、妻固有の慰謝料250万円、子2人固有の慰謝料各100万円の合計3250万円

慰謝料金額に関する認定について、裁判所は、被害者が家族との平穏な生活を奪われ、妻と未だ独立していない2人の子を残し、本件事故3日後に意識を取り戻すことなく死亡したこと、妻については夫であり子らの父である被害者を失い、夫婦の平穏な生活を奪われ、大きな喪失感を抱いていること、子らについては未だ学生であったにもかかわらず頼るべき父親を失ったことを挙げています。

本事案に限りませんが、死亡慰謝料額を通常の基準よりも増額している判決では、原告側が遺族固有の慰謝料をしっかり主張している傾向にあると考えられます。

遺族の固有の事情についても、詳細に主張していくことが重要と考えられます。

⑤大阪地方裁判所令和4年2月18日判決

被害者の属性:39歳男性、給与所得者

原告の主張:被害者本人の慰謝料2800万円、妻及び子3人に固有の慰謝料各200万円の合計3600万円

裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2100万円、妻固有の慰謝料400万円、子3人固有の慰謝料各200万円の合計3100万円

本件では、被害者の妻が、慰謝料とは別に、事故後3人の子を1人で養育することになり育児休業を1年延長したことについての休業損害として650万円弱を請求していました。

この点について裁判所は、事故前から予定されていた時期に職場復帰をすることは、決して容易ではないが不可能ではないと考えられるために、事故と妻の休業損害の因果関係を認めることは出来ず、休業損害を正面から認めることはできないとしています。

他方で、このような事情は慰謝料の金額面で考慮するとして、妻固有の慰謝料額を原告主張額よりも増額しています。

5 まとめ

今回は、死亡慰謝料について、算定基準と基準から増額された事案のご紹介をしました。

死亡慰謝料については、交渉では基準どおりの示談を行うことが多いですが、裁判となった場合には、基準からの増額を主張することが多い印象です。

決まり切った取り扱いがある部分ではありませんので、示談する前に、ぜひ一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。

私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

弁護士栗田道匡の写真
 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

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