死亡交通事故における高齢者の死亡逸失利益の算定方法について解説!~給与収入と年金収入の両方がある場合~

今回のテーマは、死亡交通事故における死亡逸失利益の算定方法です。

交通事故の被害者が亡くなった場合、その遺族は被害者が将来得られたであろう利益を死亡逸失利益として請求することができます。

今回は、その死亡逸失利益の算定について、特に被害者が高齢者で、給与収入と年金収入の両方がある場合に、どのように考えるべきかを裁判例も紹介しながら解説していきます。

なお、死亡事故の場合には、死亡慰謝料なども請求できます。

死亡事故の場合に請求できる費目については、以下の記事も参考にしていただければと思います。

1 死亡逸失利益とは

死亡逸失利益とは、被害者が交通事故に遭わなければ将来得られたはずの収入や利益を補償するものです。

死亡交通事故では、被害者が亡くなっていますので、亡くなった交通事故被害者の遺族が、加害者側に損害賠償として請求することになります。

この死亡逸失利益については、被害者が交通事故に遭わずに生存していた場合には収入の一部を生活費に使うことになり、収入の全てが手元に残る訳ではありませんので、この生活費に当たる部分は損害賠償から控除するという考え方が採用されています。

そのため、死亡逸失利益の計算は、基本的に以下の計算式で行われます。

死亡逸失利益 = 基礎収入額 × (1 – 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

2 生活費控除率

上記の計算式には「生活費控除率」というものが出てきます。

生活費控除率とは、被害者が交通事故に遭わずに生きていた場合に自分自身の生活のために使うはずだった収入の割合を指します。

この割合が小さいほど、獲得できる死亡逸失利益は高額になります。

生活費控除率の割合については、いわゆる赤い本によれば以下のように記載されています。

・被扶養者が1人の一家の支柱 40%

・被扶養者が2人以上の一家の支柱 30%

・女性(主婦、独身、幼児等を含む) 30%

・男性(独身、幼児等を含む) 50%

一家の支柱の場合で扶養する家族が増えるほど生活費控除率が減っているのは、被扶養者が増えれば自分の生活のみにあてられる金額が減少するだろうという考え方から来ています。

男女で割合が異なるのは前時代的かもしれませんが、この点は、平均賃金等の収入格差からくる賠償額の差を解消するために機能している等と説明されることがあります。

3 年金収入の生活費控除率

生活費控除率については概ね以上のように考えるのですが、被害者が高齢者で年金収入がある場合は別の考慮が必要になります。

というのも、年金は、稼働収入に比べて、生活費に使われる割合が大きいと考えられるためです。

そのため、通常より生活費控除率を高く設定される傾向にあります。

具体的には、50%から80%の範囲で、多くの事案では60%程度の割合を採用するケースが多いと思われます。

4 年金収入に加えて給与収入もある場合

それでは、被害者に年金収入に加えて給与収入もある場合は、生活費控除率をどのように考えるべきでしょうか。

当然、保険会社としては生活費控除率を少しでも高くして賠償金を少なくしたいと考えるわけで、この部分は争点になることが多いです。

これについてはいくつか考え方があり、年金と給与両方の収入を合算した上である程度高い生活費控除率を設定する場合や、年金と給与それぞれ異なる生活費控除率を設定する場合などがあります。

そのうち、年金と給与を分けて生活費控除率を検討した裁判例をご紹介いたします。

5 東京地方裁判所平成25年9月18日判決

本件の被害者は65歳の男性Aさんであり、遺族が加害者に損害賠償を求めて提訴しました。

裁判の中では、過失割合等に加え、死亡逸失利益を算定する上での生活費控除率をどのように設定するかが争点の1つとなりました。

Aさんには給与収入と年金収入の両方があり、原告側はいずれの収入についても生活費控除率を40%とすべきと主張しました。

他方で、被告側は、給与収入部分については50%,年金収入部分については60%とすべきであると主張しました。

以上の事案について、裁判所は、給与収入部分と年金収入部分についてそれぞれ生活費控除率を設定し、まずは給与収入部分について以下のとおり判示しました。

「証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,亡Aは,本件事故の約5年前に妻であるEを病気で喪い,本件事故当時,原告ら(注:ご長女及びご二女)と同居していたこと,原告X1(注:ご長女)は,本件事故当時,35歳であり,勤務を開始してから1年10か月程度であったこと,原告X2(注:ご二女)は,本件事故当時,32歳であり,Eの看病のため,その生前に仕事を辞めていたところ,本件事故の約1か月前に勤務を開始したこと,原告X2の平成20年の給与収入は,63万5630円であったことが認められる(なお,原告X1の同年の給与収入は,明らかではない。)。
 そうすると,本件事故当時,亡Aにおいて原告らに対する生活援助が一定程度必要であったとしても,その程度は,通常の扶養の場合とは事情を異にするものと認めるのが相当であり,亡Aの生活費控除率については,50%とするのが相当である。」

給与収入部分については、稼働し始めて間もないお子さんと同居していたものの、お子さんは既に収入を得ており、一家の支柱とまでは言えないとして、生活費控除率を50%と設定したものと思われます。

次に、年金部分については以下のとおり判示しています。

「亡Aの年金収入分の逸失利益のうち,亡Aが給与収入を得られる蓋然性があった9年間(対応するライプニッツ係数は7.1078)については,生活費控除率を亡Aの給与収入分と異にする理由はなく,50%とするのが相当であるが,亡Aが年金収入のみを得ることとなる残りの約9年間(対応するライプニッツ係数は11.6896から7.1078を減じた4.5818とするのが相当である。)については,原告らに対する生活援助の必要性も減少しているものと推認するのが相当であるから,生活費控除率を60%とするのが相当である。」

年金収入部分については、給与収入を得られると考えられる期間とその後(働かずに年金収入だけになるであろうと考えられる期間)に分け、前者については給与部分と同じく50%、後者については60%と生活費控除率を設定しています。

判決では、年金収入のみになった後は、お子さんへの生活援助の必要性が減少するだろうということが理由として述べられていますが、給与と年金両方ある場合と年金のみの場合では、収入のうち自身の生活費に充てなければならない部分も変わってくると考えられるため、納得できるものと思われます。

6 まとめ

今回は、死亡逸失利益算定のための生活費控除率について、特に年金収入と給与収入の両方がある場合について解説しました。

ご紹介した裁判例は1つの例に過ぎないものではありますが、説得的な理由付けをしており、解決の参考になるかと思います。

その他、被害者がご高齢の場合の生活費控除率については、生前の貯蓄の推移なども資料になると思われます。

この点は、決まり切った取り扱いがある部分ではありませんので、保険会社と示談とする前に、ぜひ一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。

私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

弁護士栗田道匡の写真
 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

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