今回は、死亡交通事故の訴訟において死亡慰謝料の増額が実現した事例をご紹介します。
後に解説するように、実務上、交通事故における死亡慰謝料の金額には基準があります。
もっとも、具体的な事案によっては、死亡慰謝料は増額されるべきであり、必ずしもこの基準に拘束される訳ではありません。
しかし、相手方保険会社が、このような死亡慰謝料の増額に関する主張を認めてくれることは少ないという印象です。
そのため、死亡慰謝料の増額を求める場合には、今回ご紹介する事例のように、通常は民事訴訟を提起せざるを得ないことになります。
このページの目次
1.死亡慰謝料の基準とは
交通事故における慰謝料については、「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)に算定の基準が記載されています。
現在、死亡慰謝料に関しては、次の基準が示されています。
一家の支柱 2800万円 母親、配偶者 2500万円 その他 2000万円~2500万円 |
補足ですが、「その他」とは独身の男女、子供、幼児等をいいます。
また、本基準は、死亡慰謝料の総額であり、近親者の慰謝料等(民法711条所定の者とそれに準ずる者の分)も含まれています。
なお、以前は、次の基準が示されていました。
一家の支柱 2800万円 母親、配偶者 2400万円 その他 2000万円~2200万円 |
現行では、「母親、配偶者」の基準が以前よりも100万円上がっていることが分かります。
これは当時、「母親、配偶者」の裁判例の多くが2400万円~2500万円の水準であったことが考慮されたようです。
また、「その他」についても、基準の上の金額が以前よりも300万円引き上げられていることが分かります。
これは当時、子供を中心とした若年の単身者については、全国的な裁判例の水準が2200万円~2500万円の間にあったことが考慮されたようです。
2.慰謝料増額事由とは
精神的損害を算定するにあたり、どのような事情を、どのように考慮するかについて、特別な定めが設けられている訳ではありません。
そのため、従来から裁判例は、慰謝料の金額について、各場合における事情を考慮し、裁判官が自由な心証をもって算定すべき旨を判示しています。
また、慰謝料の算定にあたっては、被害者側の事情のみならず、加害者側の事情も考慮してよいとされています。
なお、赤い本においては、慰謝料増額事由に関して、次の記載がなされています。
加害者に故意もしくは重過失(無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、ことさらに)信号無視、薬物等の影響により正常に運転ができない状態で運転等)または著しく不誠実な態度等がある場合
3.事例の紹介~死亡事故の訴訟において死亡慰謝料増額が実現した事例~
被害者は、横断歩道を青信号で歩行していたところ、加害者が運転するトラックに撥ねられたことにより、亡くなってしまいました。
事故状況はドライブレコーダーに映っていましたが、なぜ加害者は被害者に気がつかなかったのか分からないほど、加害者の過失は非常に重大なものでした。
また、加害者の事故後における態度が、あまりにも不誠実なものでした。
このような状況で、私たちは被害者のご遺族であるBさん・Cさん・Dさんからご相談を受け、損害賠償請求事件についてご依頼いただくことになりました。
まずは、自賠責保険金を回収するため、加害者加入の自賠責保険会社に対して被害者請求を行いました。
その結果、加害者加入の自賠責保険会社から、自賠責保険金の上限額である3000万円が支払われました。
次に、加害者加入の任意保険会社に対して、裁判基準で計算した損害額を請求するとともに、死亡慰謝料については慰謝料増額事由が認められる旨の主張をしました。
しかしながら、加害者加入の任意保険会社からは、「その他」の基準である2000万円~2500万円しか認定できない旨の回答がなされました。
そのため、やむを得ず、交通事故(不法行為)に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、裁判内で、死亡慰謝料について慰謝料増額事由が認められる旨の主張をすることにしました。
4.本件訴訟における争点は慰謝料増額事由の有無
民事訴訟においては、次の点が死亡慰謝料の増額事由に該当する旨の主張を展開しました。
①加害者の過失が一方的かつ重大な過失であること
②加害者の事故後の態度が著しく不誠実であること
一方、相手方代理人からは、上記①及び②は慰謝料増額事由に該当しない旨の反論がされるとともに、死亡慰謝料は「その他」の基準である2000万円~2500万円しか認定できない旨の反論がなされました。
上記反論のうち、上記①及び②が慰謝料増額事由に該当しないという反論に対しては、実況見分調書を含む捜査記録等を精査した上で説得的な主張を展開するとともに、陳述書等の資料を作成した上で証拠提出を行うといった主張・立証活動を行いました。
また、上記反論のうち、死亡慰謝料は「その他」の基準である2000万円~2500万円しか認定できない旨の反論に対しては、概ね次の主張を展開しました。
⑴赤い本に記載されている基準は、必ずその幅の中に収めなければならないという絶対的な基準ではないこと
⑵「その他」の類型にあたる被害者の事案について、2500万円を上回る認定がなされている裁判例が相当数確認できること
⑶本件と類似した状況を踏まえて判示された裁判例においても、2800万円の死亡慰謝料が認定されていること
5.本件訴訟の結果~死亡慰謝料が2800万円に増額~
双方からの主張が一段落した後、裁判所から、2800万円の死亡慰謝料を前提とする和解案が提示されました。
また、詳細については割愛しますが、上記和解案では、死亡逸失利益の基礎収入額についても、当方が主張したとおりの金額で計算がなされていました。
以上より、訴訟上の和解が成立するに至りました。
その結果、既に支払われている自賠責保険金と合わせて、合計1億円の賠償金が保険会社から支払われました。
6.まとめ
交通事故で身内が亡くなった場合、保険会社から十分な賠償金を受け取ったからといって、心の傷が癒えるものではありません。
しかし、保険会社から十分な賠償金を受け取ることが、一つの区切りになることも確かです。
もっとも、保険会社から十分な賠償金を受け取るためには、保険会社との間で交渉する必要があります。
大切な人を失った傷がまだ完全に癒えない段階で、このような交渉をご遺族自身が行うことはかなりの負担です。
また、弁護士に依頼することにより、多くの場合で保険会社から得られる示談金が増額します。
今回ご紹介した事例のように、弁護士に依頼して民事訴訟を提起することによっても、受け取る賠償金が多くなることもあります。
優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
死亡交通事故の場合は、保険会社との対応が負担になると思いますし、弁護士に依頼することによるメリットも大きいといえますので、弁護士への相談や依頼を積極的に検討することをおすすめします。
弊所は全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
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投稿者プロフィール
これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」