交通事故における症状固定について解説!

今回は、交通事故における「症状固定」について解説します。

保険会社は、例えばむち打ち等のお怪我を負った交通事故被害者の方の場合、事故後3ヶ月~6ヶ月を経過すると、治療を打ち切るよう促してきたり、実際に治療費を打ち切ったりしてくることがあります。

これは主として、被害者の方が症状固定したと判断したことを理由とするものですが、当の本人である被害者の方は、症状固定の概念についてよく分かっていないことが多いという印象です。

私たちが症状固定についてご説明した際、「そのような説明は保険会社から全くされませんでした」と言われる被害者の方もいらっしゃいます。

症状固定という概念は、損害賠償論の中でも基本的かつ重要な概念になりますので、交通事故の被害に遭われて怪我をされた方は、本記事をご覧いただき、症状固定について理解しておくことをお勧めします。

1.症状固定とは

症状固定とは、文字どおり症状が固定した状態をいいます。

事故により傷害を負った場合、通常、治療を継続していくことにより徐々に症状が改善していきます。

その後、症状が残るとともに、かつ治療を継続してもその症状が改善しなくなってしまった状態を症状固定といいます。

この症状固定の意義について触れている裁判例をご紹介します。

⑴ 横浜地裁平成23年10月25日判決

「・・原告は、平成19年5月10日にA病院において症状固定と診断されたこと、また、B接骨院での施術も、平成19年5月9日には治療期間が5か月に及び長期になったことからとの理由で治療が中止されたこと、前記症状固定後はA病院での治療は一旦終了し、再度受診したのは5か月後の同年10月であったこと、平成20年4月7日付診断書は原告の依頼により作成されたことなどの事情によれば、原告の頚部痛は、最初の症状固定日の時点で、それ以上の治療効果が期待できない状態であったと推認できるから、頚部痛についても平成19年5月10日に症状固定したものと認めるのが相当である。」

⑵    大阪地裁令和5年2月7日判決

症状固定とは、それ以上の治療を継続しても医学的に治療効果を得ることが見込まれない状態をいうものであるが、上記症状経過によれば、平成30年10月時点から歩行状態(T字杖歩行)に著変がなく、この頃には症状固定に至っていたと評価することも十分に考え得る。もっとも、平成30年10月以降のK病院における通院リハビリは、同病院医師の判断に基づいて継続されたものと推察できる上、「筋力upしてきている」(甲19:25頁)、「筋肉痛↓」(同26頁)など全く治療効果が得られなかったとまでは認められないことによれば、平成31年3月29日までの通院リハビリ(K病院)について本件事故との間に相当因果関係がないとまではいえない。他方で、被告Y1は、その後も令和元年11月28日までH医療センターに通院しているが、その通院は「骨頭壊死と股関節症のフォロー」のためのものであり(甲15:287頁)、治療効果を得るための積極的治療行為が行われたものではないから、令和元年11月28日を症状固定日とすることはできず、以上によれば、被告Y1の損害については、平成31年3月29日を症状固定日とし、同日までの入通院治療につき本件事故との間に相当因果関係があるものとして算定するべきである。」

2.症状固定と損害賠償額

治療費との関係で重要なことは、症状固定「後」、原則として、仮に通院を続けていても、その費用は事故による損害の範囲内とは認められないということです。

上で述べた症状固定の意義を前提にすると、症状固定後の治療というのは、効果がなく、症状を改善させるものではないということになるためです。

休業損害や傷害慰謝料についても、原則として症状固定後は考慮されません。

このように、症状固定の時期をいつの時点にするかによって、損害賠償額に差が生じることから、症状固定時期がいつなのかが争点になることは多いです。

争点になる場合、通常、加害者側からは、被害者が主張する症状固定時期よりも早い時期に症状固定していたとの主張がなされます。このように主張することによって損害賠償額を減らそうとしてくる訳です。

また、後遺障害等級の認定申請は、担当医から症状固定の診断を受けた後に行うことができます。

そのため、被害者としては、治療によって症状が改善傾向にあるか、どの時点で後遺障害の認定申請をするかを総合的に考慮して、担当医と相談の上、症状固定の診断を受け、後遺障害診断書を作成してもらうか検討することになります。

3.手術による症状の改善が見込まれる場合

やや応用的な話になりますが、手術による症状の改善が見込まれるものの、身体に与える負担を考えると手術を受けたくないという意思が被害者にある場合、症状固定時期についてはどのように考えればよいかという問題が生じます。

これは例外的なケースですが、手術をしないで症状固定にすれば重い後遺障害等級が認定されて賠償金額が大きくなる可能性がある一方、手術をすれば症状が改善し軽い後遺障害等級しか認定されず賠償金額が少なくなる可能性がある場合に争点となり得ます。

争点になる場合、被害者側からは手術をしないでも症状固定になると主張し、加害者側からは手術をしなければ症状固定にならないと主張することになります。

一見、症状が改善する可能性のある治療方法が存在する以上、症状は固定していないと考えるのが素直であると思われます。

ただ一方で、身体の負担を考えると手術を受けたくないという被害者の意思も尊重すべきであるように思われます。

この点について判示している裁判例を、ご紹介します。

⑴ 東京地裁平成24年3月16日判決

「治療(特に手術)は、その性質上、身体への侵襲を伴うものであり、また、その効果の確実性を保障することができないものであるから、交通事故の被害者に対し、治療を受けることを強制することはできない。したがって、一般的に考えられ得る治療をすべて施しても症状の改善を望めない状態に至らなければ、症状固定とはいえないとすることは相当でなく、被害者がこれ以上の治療は受けないと判断した場合には、それを前提として症状固定をしたものと判断するほかなく、治療の内容及び身体への侵襲の程度、治療による症状改善の蓋然性の有無及び程度、被害者が上記判断をするに至った経緯や被害者の上記判断の合理性の有無等を、交通事故と相当因果関係のある損害の範囲を判断する際に斟酌するのが相当である・・以上を踏まえて検討するに、本件においては、上記(1)で認定した治療経過等に照らし、原告は、平成22年4月22日に症状固定に至ったものと認めるのが相当である。そして、上記(1)で認定したとおり、原告には、上記症状固定後も、右手関節の変形癒合(橈骨短縮変形)、これによる疼痛・可動域制限、右手の握力低下の症状が残存しているところ、右手関節の可動域(他動)は健側の可動域(他動)の2分の1以下に制限されていることから、症状固定後の上記症状は、後遺障害等級表でいえば10級10号に該当するものと認められる。」

⑵ 東京地裁平成24年7月17日判決

 「被告らは、偽関節手術により症状が改善する可能性があることを理由に、原告の症状はまだ固定していない旨を主張する。被告らの上記主張の実質は、交通事故による受傷が治療によって改善する見込みがある以上、当該治療を受けた後に、症状の固定の有無を判断し、症状が固定したと認められる時点で残存している症状を後遺障害として評価すべきであり、当該治療を受けない限り、被害者の症状を後遺障害として評価し、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を認めることは許されないとすることにある。しかしながら、被害者が身体の侵襲を伴う手術を拒んでいるということを理由に、直ちに症状固定や後遺障害の存在を否定し、被害者に残存した症状による損害の発生を一切否定することは、実質的に、被害者に対して身体の侵襲を伴う治療を強いる結果となり、また、加害者を不当に利することにもなりかねず、相当ではない。そうすると、被害者が治療効果の期待できる手術を拒んでいる場合であっても、そのことを前提に症状固定を認めてその時点の症状を後遺障害として評価すべきであり、治療効果を期待できる手術を被害者が受けなかったことについては、交通事故と後遺障害(後遺障害による損害)の相当因果関係の有無・範囲や過失相殺の検討において考慮するのが相当である。したがって、被告らの上記主張は採用することはできない。」

このように、上記裁判例では、症状が改善する可能性のある治療方法が存在していても、(被害者がそれ以上の治療を拒否する等により)現実的に治療することが難しい場合には症状固定であると判断されています。

4.まとめ

実務では当たり前のように使われている症状固定について解説しました。

基本的かつ重要な概念ではありますが、どの時点で症状固定であるかを判断するのは容易なことではありません。

自覚症状については被害者の方しか感じることができず、第三者からは分からないということも、判断を難しくしている一要因であるものと思われます。

そのため、保険会社から治療費を打ち切られた場合に、一般の方が症状固定時期について保険会社に反論することは難しいと思いますから、症状固定時期について主張をされたい場合には、主治医や交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。

私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。

全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

 市川雅人 弁護士

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務) 
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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