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死亡事故における死亡慰謝料の基準を解説~一般的な相場より増額された裁判例もご紹介~
今回のテーマは、死亡交通事故における死亡慰謝料です。
交通事故の被害者がお亡くなりになった事故(死亡事故)の場合には、ご遺族は「死亡慰謝料」の請求ができます。
今回は、交通事故の死亡慰謝料の相場はどの程度とされているか、裁判所の基準などをご説明します。
また、相場と異なる判断をした裁判例(増額された事例)もいくつかご紹介し、その裁判例の判断の背景などもご説明します。
示談交渉の際、保険会社は、相場よりも低い金額の提示をしてくるケースもありますので、交渉には相場感を把握した上で臨むことが必要です。
被害者の死亡という重大な結果が生じてしまっている以上、いくら金銭(慰謝料)を増額しても、ご遺族が納得できるものではないとは思いますが、せめて保険会社の提示を受け入れて相場よりも低い基準で示談してしまわないよう、示談交渉の際の参考にしていただければと思います。
1 死亡慰謝料とは
死亡慰謝料とは、交通事故によって亡くなった被害者本人およびその遺族が被る精神的苦痛に対する賠償金のことです。
被害者本人の慰謝料に加え、遺族の精神的苦痛についても慰謝料を請求できます。
2 死亡慰謝料の基準
死亡慰謝料についても、傷害慰謝料や後遺障害慰謝料と同様に、自賠責基準、任意保険基準がありますが、最も高額な裁判所・弁護士基準では以下のとおり説明されます(いわゆる「赤い本」基準)。
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他 2000万円~2500万円
上記の金額は、被害者本人の慰謝料に加え、遺族の慰謝料も含めた金額です。
「一家の支柱」とは、通常、主に一家の生計を維持している者を指すと説明されます。
そのような方が亡くなった場合は遺族の事故後の生活への影響が大きいと考えられることから、高めの基準が示されています。
また、「その他」には独身の男女、子ども、幼児等が含まれます。
3 死亡慰謝料の増額事由
基本的には上記の基準が示されている死亡慰謝料ですが、事故態様が悪質な場合、慰謝料が増額されることがあります。
例えば以下のような場合です。
・飲酒運転
・著しい速度超過
・信号無視
・居眠り運転
・無免許運転
・わき見運転
事故後の加害者の対応が著しく不誠実、悪質な場合も、慰謝料が増額されることがあります。
以下のような場合が該当します。
・加害者が事故後に逃走した
・警察に虚偽の説明をしたり、証拠隠滅を図ろうとした
・事故後に被害者を罵倒するなどした
被害者側の事情から慰謝料が増額されるケースもあります。
以下のような場合です。
・被害者が妊娠しており、胎児と共に死亡した場合
・遺族が事故後に精神疾患を患った場合
また、独立していないお子さんが多いケース、被害者の社会的地位が高いケースなども、慰謝料増額があり得ると思います。
4 死亡慰謝料を増額した裁判例
ここからは、死亡慰謝料を増額した裁判例をいくつか紹介したいと思います。
①神戸地方裁判所平成25年3月11日判決
被害者の属性:66歳男性、無報酬の会社役員、年金・配当収入あり
原告の主張:被害者本人の慰謝料3000万円、遺族(注:原告は妻と子2人の計3名)固有の慰謝料各500万円の合計4500万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2500万円、妻300万円、子2人各100万円の合計3000万円
被害者を一家の支柱と考えても、上記の基準では2800万円の慰謝料額になるところですが、裁判所は合計3000万円の慰謝料を認めています。
判決理由中では、衝突時高速度であったこと、妻を扶養していたこと、報酬は得ていなかったものの取締役として外部の交渉一切を担当していたことが挙げられています。
被害者の社会的地位が慰謝料に影響すると判断したものと捉えられる判決だと思います。
②大阪地方裁判所平成25年3月25日判決
被害者の属性:30歳男性、妻と2歳の子あり
原告の主張:被害者本人の慰謝料8000万円、遺族(2人)固有の慰謝料各1000万円の合計1億円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料3500万円、遺族(2人)固有の慰謝料各250万円の合計4000万円
一家の支柱の基準額である2800万円から1200万円の増額を認めている裁判例になります。
事故態様として、無免許運転、飲酒運転があり、事故後逃走し約2.9kmにわたって故意に被害者を引きずるなど非常に悪質なものであること、30歳と若年で養育すべき妻子がいることなどが判決理由として挙げられています。
特に事故態様については、「通常の交通事犯の範疇を超えて殺人罪に該当する極めて悪質かつ残酷なものである」と判示されており、強く非難されています。
③神戸地方裁判所平成28年5月25日判決
被害者の属性:81歳男性、年金受給中
原告の主張:被害者本人の慰謝料2800万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各150万円の合計3400万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2200万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各150万円の合計2800万円
高齢の年金生活者について、2800万円と一家の支柱と同等の慰謝料額を認めた事例になります。
事故後の慰謝料の交渉では、被害者が高齢で年金生活者の場合に、稼働して収入を得ているわけではないので一家の支柱とは言えないとして、「その他」の2000万円~2500万円の基準でしか慰謝料は支払えないと保険会社が主張することが多くあります。
しかし、裁判例では、本判決のように、年金生活者であっても、主として被害者の収入によって世帯の生計が維持されている場合、「一家の支柱」の基準による慰謝料を認めるケースがあります。
保険会社の主張は一見あり得そうですが、このような裁判例もありますので、あきらめずに粘り強く交渉していくことが必要です。
④千葉地方裁判所松戸支部平成27年7月30日判決
被害者の属性:45歳男性、会社員
原告の主張:被害者本人の慰謝料3000万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各100万円の合計3500万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2800万円、妻固有の慰謝料250万円、子2人固有の慰謝料各100万円の合計3250万円
慰謝料金額に関する認定について、裁判所は、被害者が家族との平穏な生活を奪われ、妻と未だ独立していない2人の子を残し、本件事故3日後に意識を取り戻すことなく死亡したこと、妻については夫であり子らの父である被害者を失い、夫婦の平穏な生活を奪われ、大きな喪失感を抱いていること、子らについては未だ学生であったにもかかわらず頼るべき父親を失ったことを挙げています。
本事案に限りませんが、死亡慰謝料額を通常の基準よりも増額している判決では、原告側が遺族固有の慰謝料をしっかり主張している傾向にあると考えられます。
遺族の固有の事情についても、詳細に主張していくことが重要と考えられます。
⑤大阪地方裁判所令和4年2月18日判決
被害者の属性:39歳男性、給与所得者
原告の主張:被害者本人の慰謝料2800万円、妻及び子3人に固有の慰謝料各200万円の合計3600万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2100万円、妻固有の慰謝料400万円、子3人固有の慰謝料各200万円の合計3100万円
本件では、被害者の妻が、慰謝料とは別に、事故後3人の子を1人で養育することになり育児休業を1年延長したことについての休業損害として650万円弱を請求していました。
この点について裁判所は、事故前から予定されていた時期に職場復帰をすることは、決して容易ではないが不可能ではないと考えられるために、事故と妻の休業損害の因果関係を認めることは出来ず、休業損害を正面から認めることはできないとしています。
他方で、このような事情は慰謝料の金額面で考慮するとして、妻固有の慰謝料額を原告主張額よりも増額しています。
5 まとめ
今回は、死亡慰謝料について、算定基準と基準から増額された事案のご紹介をしました。
死亡慰謝料については、交渉では基準どおりの示談を行うことが多いですが、裁判となった場合には、基準からの増額を主張することが多い印象です。
決まり切った取り扱いがある部分ではありませんので、示談する前に、ぜひ一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
よろしければ、関連記事もご覧ください。
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死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算
死亡交通事故における無職者(失業者)の死亡逸失利益の算定方法を解説!
投稿者プロフィール

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)
死亡交通事故における無職者(失業者)の死亡逸失利益の算定方法を解説!
交通事故で被害者の方が亡くなった場合、被害者遺族は加害者側に対して、死亡慰謝料や死亡逸失利益などの賠償を求めることができます。
以前の記事(死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算)で、若年労働者(概ね30歳未満)が死亡交通事故で亡くなった場合の死亡逸失利益の計算方法などについて解説しましたが、今回は交通事故被害に遭った際にたまたま失業中であった場合など、無職の方が被害者となってしまった死亡交通事故について、その死亡逸失利益の算定方法などを過去の裁判例もご紹介しながらご説明させていただきます。
死亡交通事故の損害賠償額の大部分を占めるのが死亡逸失利益になりますので、この逸失利益の金額が少ないと、全体的に示談金が少ないという印象を受けると思います。
死亡交通事故の賠償請求の場合、弁護士にご依頼になると使用する慰謝料の基準の違いなどで、保険会社の提示額より大幅に増額されることが多いですが、特に被害者が無職の場合は死亡逸失利益の計算方法で示談金が大きく変わる可能性があります。
また、死亡交通事故でなくても、被害者が後遺障害を負った交通事故であれば、同じように後遺障害による逸失利益の算定方法が問題になりますから、無職の方が交通事故に遭って後遺障害を負った場合にも、本記事の内容が参考になると思います。
交通事故の示談でお困りの方のご参考になれば幸いです。
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死亡事故における死亡慰謝料の基準を解説~一般的な相場より増額された裁判例もご紹介~
1.死亡逸失利益の計算方法
⑴ 被害者遺族が賠償請求できるもの
死亡交通事故で被害者遺族が加害者側に賠償請求できるものは、主に死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用の3つになります。
死亡慰謝料などについては、以前の記事で解説していますので、そちらもご覧ください。
死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算
⑵ 死亡逸失利益の計算方法
死亡交通事故の被害者遺族が加害者側に請求できるもののうち、死亡逸失利益は、被害者が交通事故で死亡しなければ将来得られたであろう収入を補償するもので、以下の計算方法で算出されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入は、基本的に被害者の交通事故前年の年収額を用いて計算されます。
生活費控除は、被害者が死亡しなければ将来必要になったであろう生活費分を収入から差し引くという考え方です。
生活費控除率は、被害者の家族構成や性別、年齢などによって異なり、それぞれの状況によって30~50%くらいの範囲で計算されます。
就労可能年数は、裁判所が基本的に67歳まで就労可能と考えているため、被害者が死亡した当時の年齢から67歳までの期間で計算します(高齢者など平均余命の半分の期間の方が長くなる場合には平均余命の半分で計算します)。
⑶ 無職者の基礎収入の考え方
上でご説明したように、基本的に死亡逸失利益の基礎収入は、被害者の交通事故前年の年収額で計算されます。
しかし、たまたま交通事故に遭ったときに失業中であった場合など、無職者の場合は、収入がありませんので、基礎収入をどのように算定するかが問題となります。
病気や怪我など諸々の事情で、交通事故前から働いておらず、将来に渡って働く可能性がなかった人であれば、交通事故に遭わなかった場合でも将来収入を得られなかったということになりますから、死亡逸失利益は無いということも考えられます。
しかし、たまたま交通事故に遭ったときに失業中だったというだけで、労働能力と労働意欲があって、将来働く蓋然性があった被害者の場合には、死亡逸失利益が認められます。
この場合、本来的には再就職後に得られたであろう収入を基礎収入とするべきですので、転職先から内定が出ていた場合などは、その転職先の労働条件を参考にして算定されることになります。
具体的な転職先が決まっていなかった場合には、失業前の収入を参考として算定されることになります。
また、失業前の収入が平均賃金以下の場合で、将来的に平均賃金を得られる蓋然性があれば、男女別平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とする場合もあります。
次では、無職者の基礎収入について過去の裁判例でどのように扱われているかを紹介します。
2.税理士試験受験生(24歳男性)の場合
【東京地方裁判所平成19年6月27日判決】
この交通事故は、いわゆる右直事故と言われる類型で、被害者のAさんが自動二輪車で交差点を直進しようとしたところ、対向から同交差点に進行してきた相手方(被告)車両が右折してしまい、被告車両の左前部にAさん車両が衝突して、Aさんは車両とともに路上に転倒して、脳挫傷によって死亡してしまいました。
Aさんは、交通事故当時24歳でしたが、大学卒業後に会計事務所に7カ月ほど勤めた後、税理士試験の勉強に集中するために退職した直後で無職の状態でした。
この交通事故の裁判では、Aさんの遺族が、死亡逸失利益の算定について、事故の年の平成14年賃金センサスの大卒男子平均賃金(674万4700円)を基礎とすべきと主張しました。
一方、被告側はこれを争い、賃金センサスを用いるとしても平成16年度の平均年収額657万4800円とすべきと主張しました。
この裁判の判決では、裁判所がAさんの遺族側の主張を認め、「本件事故に遭わなければ、67歳まで43年間就労可能であったというべきであるから、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、賃金センサス平成14年第1巻第1表による産業計・男性労働者・大卒・全年齢平均年収額を基礎とし、生活費控除率を5割とし、~~~~5917万915円を認めるのが相当である。」と判示しました。
3.番組制作ADなど断続的に職を変えていた32歳男性の場合
【横浜地方裁判所平成18年2月13日判決】
この交通事故では、加害者車両が、駐車車両を避けるために一旦右に進路変更をして、駐車車両の横を通過した後、元の車線に戻ろうとした際に、左後方から走ってきた被害者のBさんの二輪車に気が付かず、道路左側に寄せて行ってしまい、Bさんが縁石に接触して転倒してしまいました。
そして、転倒したBさんの頭部を加害者車両の後輪が轢いてしまい、Bさんは開放性頭蓋骨骨折,脳挫傷の傷害を負って死亡してしまいました。
Bさんは、大学中退後、技術職や番組制作アシスタント・ビデオ制作アシスタントなどとして働いていましたが、職を転々としており、交通事故当時は無職でした。
この交通事故の裁判では、Bさんの遺族が、死亡逸失利益の算定について、事故前年の平成13年賃金センサスの男性学歴計平均賃金(565万9100円)を基礎収入とすべきと主張しました。
一方、被告側はこれを争いました。
この裁判の判決では、裁判所はBさんが大学中退後に技術職として働いていた当時に約1年間で合計342万3550円の収入があったことや、その後の8か月間に番組制作アシスタント・ビデオ制作アシスタントとして働いていた当時に合計131万8986円の収入があったこと、その後も職を変えて断続的に相当程度の収入を得ていたことなどから、平成13年の賃金センサスの男性高専・短大卒平均賃金(501万8300円)を基礎収入とするのが相当であると判断しました。
そして、稼働期間を67歳までの35年間、生活費控除率を50%とし、4151万8403円の死亡逸失利益を認めました。
4.元教職員(65歳男性)の場合
【神戸地方裁判所平成29年12月20日判決】
この交通事故では、信号機のない交差点で道路を横断していた当時65歳の歩行者の男性(Cさん)が、交差点を直進してきた加害者車両に衝突され、重傷頭部外傷の傷害を負って死亡してしまいました。
Cさんは、交通事故に遭う直前まで約40年に渡って教職に就いていましたが、事故当時は無職で就職活動を行っていました。交通事故前年の年収は282万9600円でした。
この裁判では、Cさんの遺族が死亡逸失利益について、Cさんに就労の蓋然性があったとして事故前年の平成27年度賃金センサスの男子年齢別平均賃金(372万0400円)を基礎収入として計算すべきと主張しました。
また、仮に賃金センサスを採用できなくても上記の事故前年の年収を基礎収入として算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、Cさんがハローワークで求職の申込みをしたのは雇用保険の受給が目的で特段の求職活動をしていなかったと主張して就労の意思を争い、死亡逸失利益は認められないと主張しました。
また、仮に死亡逸失利益を認めるとしても,賃金センサス男子労働者年齢別平均賃金程度の収入を得た蓋然性はなく、Cさんが就労先として希望していたのは年間27日程度の試験監督のアルバイトなどであるとして、そのアルバイト程度の収入を基に計算すべきと主張しました。
この裁判の判決では、裁判所は基本的にCさんの遺族側の主張を認め、Cさんは事故の前年度まで再雇用で教員として勤務していたことなどから、「就労の意思も能力もあり、本件事故による死亡がなければ、就労する機会及び事故前年の年収程度の収入を得る蓋然性は十分にあったものと認められる。」と死亡逸失利益を肯定しました。
その上で、事故前年の年収である282万9600円を基礎収入とし、稼働可能年数は平均余命の半分の10年間、生活控除率を40%として、1310万9593円の死亡逸失利益を認めました。
5.まとめ
今回は、交通事故当時に無職だった方が亡くなった死亡交通事故での死亡逸失利益の基礎収入について、実際の裁判例を踏まえて解説しました。
無職の方が亡くなった場合、今回のCさんのようにある程度高齢の被害者に対しては、相手方保険会社が無職である以上死亡逸失利益は無いと主張してくることもあります。
このような事案では、将来収入を得られた蓋然性があったことを主張する必要がありますが、被害者遺族がご自身で保険会社と交渉するのは大変だと思います。
交通事故の示談は、多くの事案で弁護士に依頼することで示談金が増額しますが、特に死亡交通事故の場合は、今回ご説明した死亡逸失利益の計算などで大きな違いが出ることがあり、増額幅が大きくなることが多いといえますから、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)
死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算
今回のテーマは、死亡交通事故の被害者が若年労働者であった場合の死亡逸失利益の算定方法についてです。
不幸にも交通事故で被害者の方が亡くなってしまった場合、被害者遺族は加害者側に対して、死亡慰謝料や死亡逸失利益などの賠償を求めることができます。
以前の記事で(高齢者の死亡交通事故で家族が請求できるもの~示談金の相場~)、高齢者が死亡交通事故で亡くなった場合の死亡逸失利益の計算方法などについて解説しましたが、今回は若年労働者(概ね30歳未満を指します)が被害者となってしまった死亡交通事故について、その死亡逸失利益の考え方などについてご説明させていただきます。
死亡交通事故で被害者遺族の方からのご相談をお受けすると、加害者側の保険会社が提示してきた示談金が少ないのではないかとのご質問が多いです。
これは、保険会社の基準で示談金を提示して来ているためで、弁護士にご依頼になって裁判所の基準で算定すると大きく金額が加算させることも多いですが、特に被害者が若年の場合には死亡逸失利益の計算方法で示談金が大きく変わることがあります。
結論としては、若年労働者の場合、実際の収入額ではなく平均賃金を基に計算できる場合が多いですが、以下で過去の裁判例などもご紹介しつつ、ご説明します。
死亡交通事故の示談などでお困りの方のご参考になれば幸いです。
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1.死亡逸失利益の計算方法
⑴ 被害者遺族が賠償請求できるもの
まず、死亡交通事故で被害者遺族が加害者側に賠償請求できるものは、大きく分けて以下の3つになります。
・死亡慰謝料
・死亡逸失利益
・葬儀費用
このうち、死亡慰謝料は、亡くなった被害者本人の死亡慰謝料と近親者の慰謝料があります。
慰謝料には、自賠責保険基準と任意保険会社基準、裁判所基準の3つの基準がありますが、裁判所基準では被害者の立場によって以下の金額が基準になるとされています(近親者の慰謝料も含んだ総額)。
・被害者が一家の支柱の場合:2800万円
・被害者が母親・配偶者の場合:2500万円
・被害者がその他の場合:2000~2500万円
(※その他とは、独身の男女、子供、高齢者などといいます。)
葬儀費用については、基本的に150万円が上限とされており、実際に支出した費用が150万円未満の場合には、実費での賠償となります。
そして、死亡交通事故の損害賠償の中で最も金額が大きくなるのが、死亡逸失利益です。
⑵ 死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、被害者が交通事故で死亡しなければ得られたはずの収入に対する賠償のことをいい、以下の計算方法で算出されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入は、被害者の収入額で、基本的に交通事故の前年の年収額を用いて計算されます。
生活費控除は、交通事故がなければ被害者がその後の生涯を生きていく上で生活費を支払う必要があり、事故後の収入の全てが手元に残るという訳ではないので、その生活費分を収入から控除するという考え方です。
被害者の生活費は、家族構成や性別、年齢などによって異なりますので、以下のようにそれぞれの被害者の立場によって生活費控除率も異なる割合で計算されます。
・被害者が一家の支柱の場合
扶養家族が一人:40%
扶養家族が二人以上:30%
・被害者が独身男性の場合:50%
・被害者が独身女性や主婦の場合:30%
就労可能年数については、裁判所が基本的に67歳まで就労可能と考えていますので、基本的に被害者が死亡した当時の年齢から67歳までの期間で計算します(高齢者の場合は別の計算方法を用います)。
⑶ 若年者の基礎収入の考え方
上でご説明したように、基本的に死亡逸失利益の基礎収入は、被害者の交通事故前年の年収額で計算されます。
しかし、まだ働き始める前の学生などの18歳未満の未就労者の場合には、収入がありませんので、将来平均賃金くらいの収入は得られたものとして、全労働者の平均賃金の値を基礎収入として計算することになっています。
この平均賃金は、毎年厚生労働省の調査によって算定されており、男女別・学歴別(中卒・高卒・短大卒・大卒)・年齢別などでそれぞれ金額が算出されています(これを「賃金センサス」といいます。)。
ですから、例えば「男性・大卒・40代前半」という同じ条件でも年によって金額が異なり、死亡逸失利益を算定する際には、交通事故の年の賃金センサスを用いることになります。
そして、18歳未満の未就労者の場合は、基本的に賃金センサスから男女別の全年齢・全学歴平均の数値を用いて計算することとなります。
そのため、令和5年の賃金センサスの数値を用いた場合、男性は569万8200円、女性は399万6500円を基礎収入として死亡逸失利益を計算することとなります。
一方、有職者の場合は、基本的に交通事故の前年の収入を基礎収入としますが、特に10代~20代の労働者の場合、全年齢平均より収入が少ない方が多く、実収入を基礎収入としてしまうと死亡逸失利益の計算上かなり不利になります。
一般的には年齢とともに収入が増えていくことが多く、交通事故で死亡していなければ得られたであろう将来の収入の賠償である死亡逸失利益を計算する上では、若年労働者について実収入を基礎収入とすることは不適切と考えられます。
また、学生ですら全年齢平均賃金を基礎収入にして計算することも考えると、不公平な結論になってしまいます。
そのため、概ね30歳未満の若年労働者の基礎収入については、慎重に検討する必要があり、学生の場合と同様に全年齢の平均収入の数値を用いることが原則とされています。
次では、若年労働者の基礎収入について実際の過去の裁判例でどのように扱われているかを紹介します。
2.居酒屋アルバイト(19歳女性)の場合
【東京地方裁判所平成26年3月28日判決】
この交通事故では、信号機のある交差点で、普通自動二輪車と普通乗用自動車が衝突し、自動二輪車の後部座席に同乗していた当時19歳の女性(Aさん)が高位頚椎損傷による呼吸障害により死亡してしまいました。
Aさんは、当時、モデルクラブに所属してモデルを目指しつつ、居酒屋でアルバイトをしていました。
この交通事故の裁判では、Aさんの遺族が、相手方乗用車の運転手とAさんが乗っていた自動二輪車の運転手の共同不法行為であるとして両者を訴えましたが、Aさんの死亡逸失利益の基礎収入についても争いになりました。
Aさんの遺族側は、基礎収入額を賃金センサス男女学歴計全年齢(男女別ではなく男女計・全学歴・全年齢)で計算するべきと主張しました。
一方、被告側は、自動二輪車の運転手は賃金センサス女子高卒全年齢の294万0600円とすべきと主張し、乗用車の運転手は本件事故直前の現実の収入額を基礎収入にするべきと主張しました。
そして、この裁判の判決では、裁判所がAさんの遺族側の主張を認め、基礎収入額は賃金センサス男女学歴計全年齢の470万9300円とすることが相当であると判断しました。
また、生活費控除率45%、労働可能年数48年(67歳まで)としたため、死亡逸失利益は4682万2026円が認められました。
3.専門学校卒の保育士(20歳女性)の場合
【東京地方裁判所平成23年10月7日判決】
この交通事故では、信号のある交差点で、横断歩道の歩行者用青色信号に従って自転車で進行していた当時20歳の女性(Bさん)が,交差点を右折してきた加害者車両が衝突されて死亡してしまいました。
Bさんは、交通事故に遭う3ヶ月前に専門学校卒業して,保育士として働き始めたばかりでした。
この交通事故の裁判では、Bさんの遺族が死亡逸失利益の算定について、基礎収入を賃金センサス女性高専・短大卒全年齢平均で算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、基礎収入を賃金センサス女性学歴計全年齢平均(女性・全学歴・全年齢)とすべきと主張しました。
つまり、この裁判では、被告側も平均賃金を用いることは争わず、高専・短大卒の平均賃金にするか、全学歴計の平均賃金にするかという点が争点になりました。
そして、この裁判の判決では、裁判所がBさんの遺族側の主張を認め、Bさんの専門学校卒の学歴は、高専・短大卒と同視できると判断して,基礎収入は賃金センサス女性高専・短大卒全年齢平均賃金額を採用すべきと判断しました。
また,生活控除率は30%、労働可能年数47年(67歳まで)としたため、死亡逸失利益は4840万4672円が認められました。
4.大卒の上場企業会社員(30歳男性)の場合
【東京地方裁判所平成25年1月11日判決】
この交通事故では、道路を横断していた当時30歳の男性(Cさん)が、道路を走行してきた大型貨物自動車に衝突されて死亡してしまいました。
Cさんは、大学卒業後、一部上場企業に就職して勤務しており、交通事故前年の年収は559万2483円でした。
この裁判では、Cさんの遺族が死亡逸失利益について、勤務先会社が設けている大卒事務総合職のモデル賃金に基づいて定年(60歳)までの給与額を計算すべきと主張しました。
また、60歳から67歳までは賃金センサス大卒男子年齢別平均値を基礎収入として算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、Cさんの勤務先会社の基本給は年齢給と職能給からなるところ,職能資格の上昇は本人の資質によるところが大きく予測が困難であるとして、モデル賃金で算定することを否定し、基礎収入を交通事故時の実収入として死亡逸失利益を算定すべきと主張しました。
そして、この裁判の判決では、裁判所は基本的にCさんの遺族側の主張を認め、60歳までの死亡逸失利益は勤務先会社のモデル賃金に基づいて算定すべきと判断しました。
また、60歳~67歳については、賃金センサス男女計学歴計を基礎収入として算定すべきと判断しました。
裁判所がモデル賃金での算定を認めたのは、被告側が主張したように職能給の存在などから将来支給される給与の具体的金額を予測することは相当困難であることは否めないとしつつも、モデル賃金には時間外労働の割増手当,通勤手当や海外勤務手当等は含まれておらず、控え目な数値であること,Cさんの交通事故時の収入額が30歳時点のモデル賃金を上回っていることなどから、モデル賃金が定める程度の給与を取得する蓋然性が認められると判断されたためでした。
また、生活控除率は50%とされ、差額退職金や60~67歳までの逸失利益も認められ、死亡逸失利益の総額は7686万3820円が認められました。
5.まとめ
今回は、若年労働者が亡くなった死亡交通事故での死亡逸失利益の基礎収入について、実際の裁判例を踏まえて解説しました。
死亡交通事故の示談金は、死亡逸失利益の金額次第で最終的な金額が大きく変わります。
特に、若年労働者の場合は、基礎収入をどのように設定して主張するかで逸失利益の金額が大きく増減しますので、慎重に検討する必要がありますが、ご家族を亡くされた被害者家族が色々と調べて加害者側保険会社と交渉するのは大変だと思います。
弁護士へのご依頼で死亡慰謝料の増額も期待できますので、まずは一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)
裁判で死亡慰謝料を増額させることができた事例
今回は、死亡交通事故の訴訟において死亡慰謝料の増額が実現した事例をご紹介します。
後に解説するように、実務上、交通事故における死亡慰謝料の金額には基準があります。
もっとも、具体的な事案によっては、死亡慰謝料は増額されるべきであり、必ずしもこの基準に拘束される訳ではありません。
しかし、相手方保険会社が、このような死亡慰謝料の増額に関する主張を認めてくれることは少ないという印象です。
そのため、死亡慰謝料の増額を求める場合には、今回ご紹介する事例のように、通常は民事訴訟を提起せざるを得ないことになります。
1.死亡慰謝料の基準とは
交通事故における慰謝料については、「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)に算定の基準が記載されています。
現在、死亡慰謝料に関しては、次の基準が示されています。
一家の支柱 2800万円 母親、配偶者 2500万円 その他 2000万円~2500万円 |
補足ですが、「その他」とは独身の男女、子供、幼児等をいいます。
また、本基準は、死亡慰謝料の総額であり、近親者の慰謝料等(民法711条所定の者とそれに準ずる者の分)も含まれています。
なお、以前は、次の基準が示されていました。
一家の支柱 2800万円 母親、配偶者 2400万円 その他 2000万円~2200万円 |
現行では、「母親、配偶者」の基準が以前よりも100万円上がっていることが分かります。
これは当時、「母親、配偶者」の裁判例の多くが2400万円~2500万円の水準であったことが考慮されたようです。
また、「その他」についても、基準の上の金額が以前よりも300万円引き上げられていることが分かります。
これは当時、子供を中心とした若年の単身者については、全国的な裁判例の水準が2200万円~2500万円の間にあったことが考慮されたようです。
2.慰謝料増額事由とは
精神的損害を算定するにあたり、どのような事情を、どのように考慮するかについて、特別な定めが設けられている訳ではありません。
そのため、従来から裁判例は、慰謝料の金額について、各場合における事情を考慮し、裁判官が自由な心証をもって算定すべき旨を判示しています。
また、慰謝料の算定にあたっては、被害者側の事情のみならず、加害者側の事情も考慮してよいとされています。
なお、赤い本においては、慰謝料増額事由に関して、次の記載がなされています。
加害者に故意もしくは重過失(無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、ことさらに)信号無視、薬物等の影響により正常に運転ができない状態で運転等)または著しく不誠実な態度等がある場合
3.事例の紹介~死亡事故の訴訟において死亡慰謝料増額が実現した事例~
被害者は、横断歩道を青信号で歩行していたところ、加害者が運転するトラックに撥ねられたことにより、亡くなってしまいました。
事故状況はドライブレコーダーに映っていましたが、なぜ加害者は被害者に気がつかなかったのか分からないほど、加害者の過失は非常に重大なものでした。
また、加害者の事故後における態度が、あまりにも不誠実なものでした。
このような状況で、私たちは被害者のご遺族であるBさん・Cさん・Dさんからご相談を受け、損害賠償請求事件についてご依頼いただくことになりました。
まずは、自賠責保険金を回収するため、加害者加入の自賠責保険会社に対して被害者請求を行いました。
その結果、加害者加入の自賠責保険会社から、自賠責保険金の上限額である3000万円が支払われました。
次に、加害者加入の任意保険会社に対して、裁判基準で計算した損害額を請求するとともに、死亡慰謝料については慰謝料増額事由が認められる旨の主張をしました。
しかしながら、加害者加入の任意保険会社からは、「その他」の基準である2000万円~2500万円しか認定できない旨の回答がなされました。
そのため、やむを得ず、交通事故(不法行為)に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、裁判内で、死亡慰謝料について慰謝料増額事由が認められる旨の主張をすることにしました。
4.本件訴訟における争点は慰謝料増額事由の有無
民事訴訟においては、次の点が死亡慰謝料の増額事由に該当する旨の主張を展開しました。
①加害者の過失が一方的かつ重大な過失であること
②加害者の事故後の態度が著しく不誠実であること
一方、相手方代理人からは、上記①及び②は慰謝料増額事由に該当しない旨の反論がされるとともに、死亡慰謝料は「その他」の基準である2000万円~2500万円しか認定できない旨の反論がなされました。
上記反論のうち、上記①及び②が慰謝料増額事由に該当しないという反論に対しては、実況見分調書を含む捜査記録等を精査した上で説得的な主張を展開するとともに、陳述書等の資料を作成した上で証拠提出を行うといった主張・立証活動を行いました。
また、上記反論のうち、死亡慰謝料は「その他」の基準である2000万円~2500万円しか認定できない旨の反論に対しては、概ね次の主張を展開しました。
⑴赤い本に記載されている基準は、必ずその幅の中に収めなければならないという絶対的な基準ではないこと
⑵「その他」の類型にあたる被害者の事案について、2500万円を上回る認定がなされている裁判例が相当数確認できること
⑶本件と類似した状況を踏まえて判示された裁判例においても、2800万円の死亡慰謝料が認定されていること
5.本件訴訟の結果~死亡慰謝料が2800万円に増額~
双方からの主張が一段落した後、裁判所から、2800万円の死亡慰謝料を前提とする和解案が提示されました。
また、詳細については割愛しますが、上記和解案では、死亡逸失利益の基礎収入額についても、当方が主張したとおりの金額で計算がなされていました。
以上より、訴訟上の和解が成立するに至りました。
その結果、既に支払われている自賠責保険金と合わせて、合計1億円の賠償金が保険会社から支払われました。
6.まとめ
交通事故で身内が亡くなった場合、保険会社から十分な賠償金を受け取ったからといって、心の傷が癒えるものではありません。
しかし、保険会社から十分な賠償金を受け取ることが、一つの区切りになることも確かです。
もっとも、保険会社から十分な賠償金を受け取るためには、保険会社との間で交渉する必要があります。
大切な人を失った傷がまだ完全に癒えない段階で、このような交渉をご遺族自身が行うことはかなりの負担です。
また、弁護士に依頼することにより、多くの場合で保険会社から得られる示談金が増額します。
今回ご紹介した事例のように、弁護士に依頼して民事訴訟を提起することによっても、受け取る賠償金が多くなることもあります。
優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
死亡交通事故の場合は、保険会社との対応が負担になると思いますし、弁護士に依頼することによるメリットも大きいといえますので、弁護士への相談や依頼を積極的に検討することをおすすめします。
弊所は全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
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投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」
高齢者の死亡交通事故で家族が請求できるもの~示談金の相場~
死亡交通事故でご家族を亡くされた方からのご相談をお受けすると、多くの場合、示談金が少ないのではないかとのご質問をいただきます。
特に、年金で生活されている高齢者が交通事故で亡くなった場合、死亡逸失利益というものが少なくなりますので、死亡事故なのに示談金が少ないという印象を受ける方が多いのだと思います。
これまで私たちがご依頼やご相談をお受けしてきた死亡交通事故の中では、圧倒的に被害者が高齢者(年金生活者)である場合が多いのですが、これは死亡交通事故の被害者が高齢者である場合が多いということに加えて、現役世代と比べて「人が亡くなっているのに示談金が少ない!」というご不満を感じて、弁護士に相談しようと思う方が多いからではないかと思います。
そこで、今回は、高齢者の死亡交通事故で被害者家族が請求できるものや示談金の相場などについてご説明します。
1.死亡交通事故で請求できるもの
死亡交通事故で被害者家族が、加害者側に請求できるものとしては、以下の3つのものがあります。
・死亡慰謝料
・死亡逸失利益
・葬儀費用
これらに加えて、即死ではなく、事故から数日後に被害者が亡くなった場合には、亡くなるまでの期間の治療費・休業損害・入院慰謝料なども請求できることになります。
以下、それぞれご説明します。
⑴死亡慰謝料
①被害者本人の死亡慰謝料
これは、文字通り、亡くなった方の交通事故で死亡したことによる精神的苦痛に対する慰謝料ですが、被害者ご本人は亡くなっていますので、ご家族がこの慰謝料請求権を相続して請求するということになります。
死亡交通事故の慰謝料には、自賠責保険基準と任意保険会社基準、裁判所基準の3つがあります。
自賠責保険基準は、最低限の補償ということで一番低く、任意保険会社の基準は、自賠責基準より少し高いか同じくらいの水準になります。
被害者のご家族が、弁護士に依頼せずに加害者側保険会社と示談する場合は、この自賠責保険基準か任意保険会社基準で示談することになります。
裁判所の基準は、裁判所が妥当な慰謝料として考えている基準で3つの基準中で一番高くなります。
弁護士は、裁判前の示談交渉の段階でもこの裁判所基準で加害者側保険会社に慰謝料を請求します。
・自賠責保険基準
死亡交通事故の被害者本人の慰謝料:400万円
(※2020年3月31日以前の事故は350万円)
・任意保険会社基準
社内基準のため非公開。自賠責基準より少し高い程度。
・裁判所基準(近親者の慰謝料も含んだ総額)
被害者が一家の支柱の場合:2800万円
被害者が母親・配偶者の場合:2500万円
被害者がその他の場合:2000~2500万円
(※その他とは、独身の男女、子供、高齢者などとされています。)
②近親者の慰謝料
死亡交通事故の場合、亡くなった被害者本人の他に、被害者のご家族にもご家族としての慰謝料が認められます。
これは、近親者を亡くしたことによる精神的苦痛に対する慰謝料で、被害者本人の死亡慰謝料とは別のものですが、相手方保険会社から慰謝料を提示される際には、特に区別されずに、「死亡慰謝料:2000万円」などと被害者本人の死亡慰謝料と合計した金額で提示されることが多いと思います。
この近親者の慰謝料は、必ずしも民法上の相続人に限られる訳ではなく、自賠責保険では被害者の配偶者、被害者の子、被害者の父母となっていますし、裁判例では、生前の被害者との関係性などによって、兄弟姉妹や祖父母などにも近親者としての慰謝料が認められているものもあります。
なお、死亡交通事故で損害賠償請求ができる相続人や死亡慰謝料の相場については、こちらの記事(死亡事故で損害賠償できる相続人について)でも説明していますので、よろしければご覧ください。
⑵死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者が交通事故で死亡しなければ、得られたはずの収入のことをいいます。
死亡逸失利益は、以下の計算で算出されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入とは、被害者の年収額で、基本的には交通事故の前年の年収額を基に計算されます。
生活費控除とは、被害者が交通事故で死亡しなければ、その後も収入から生活費を支払って生活するため、将来の収入の全てが手元に残る訳ではないので、その生活費分は将来得られたはずの収入額から差し引くということです。
被害者が負担する生活費は、被害者の家族構成や性別、年齢などによって違いますので、それぞれの状況から収入に対する生活費の割合を出しますが、この割合を生活費控除率といいます。
具体的には、被害者が一家の支柱の場合、扶養家族が一人なら生活費控除率40%、扶養家族が二人以上なら30%とされており、独身男性の場合は50%、独身女性や主婦の場合は30%とされています。
就労可能年数は、裁判所は基本的に67歳まで就労可能としていますので、死亡時の年齢から67歳までの年数で計算します。
ただし、高齢者の場合は、簡易生命表で定められているその年齢の平均余命の半分を就労可能年数とします。
また、67歳以下でも、67歳までの年数よりその年齢の平均余命の半分の方が長い場合には、平均余命の半分の年数で計算します。
簡易生命表〈男性〉
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-06.pdf
簡易生命表〈女性〉
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-07.pdf
ライプニッツ係数や生活控除率については、他の記事(死亡事故は早期に弁護士へご相談ください)でもご説明していますので、こちらも併せてご覧ください。
⑶葬儀費用
葬儀費用については、基本的に150万円が上限とされています。
実際に支出した費用が150万円未満の場合には、実費での賠償となります。
ただ、過去の裁判例では、亡くなった被害者の個別事情によって150万円を超える葬儀費用が認められている事例もあります。
2.高齢者(年金生活者)の死亡逸失利益の計算方法
⑴有職者の場合
高齢者であっても有職者の場合は、基本的に交通事故前年の収入を基礎収入として計算します。
なお、事故当時は無職であっても、就労の蓋然性があれば、平均賃金などを基礎収入として計算できる場合もあります。
例えば、死亡した被害者が70歳男性で、交通事故前年の年収が250万円、扶養しているのが奥さん一人であった場合、以下の計算になります。
基礎収入250万円×(1-生活費控除率40%)×平均余命の半分の8年のライプニッツ係数(7.0197)=1052万9550円
⑵主婦(家事従事者)の場合
主婦の場合、家で家事をしてもお金をもらえるわけではありませんが、家政婦さんなど別の人に家事を頼めば当然費用がかかりますから、主婦の家事労働も経済的価値があるものと考えられており、その金額は女性の平均賃金とされています。
ただし、誰かのために家事をしていることが前提になりますので、一人暮らしの高齢者の場合は家事をやっていても家事従事者にはなりません。
例えば、死亡した被害者が70歳の主婦だった場合、以下の計算になります。
基礎収入388万0100円×(1-生活費控除率30%)×平均余命の半分の11年のライプニッツ係数(9.2526)=2513万0709円
⑶年金について
年金収入については、その内容によって逸失利益として考えられるかという点に争いがあります。
老齢年金や恩給については、逸失利益として認められている裁判例がある一方で、遺族年金などは、受給者の生存中の生計の維持を目的とするものという考え方で逸失利益性を否定されている裁判例があります。特に、受給者が年金保険料を拠出していない無拠出制のものについては逸失利益性を否定されています。
3.高齢者の死亡交通事故の示談金の相場
上記でご説明したとおり、死亡交通事故の示談金は、基本的に死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用を合計した金額となりますが、死亡慰謝料や死亡逸失利益については、弁護士に依頼するかしないかで大きな差が出ることが多いといえます。
これは、弁護士が死亡慰謝料について裁判所基準で交渉することが大きな理由です。
ご家族が加害者側保険会社と交渉する場合は、保険会社は裁判所基準よりもかなり低額な任意保険基準で示談金を支払いますので、この慰謝料の基準による違いが大きな差となります。
また、弁護士は、死亡逸失利益についても、裁判例を参考にして、基礎収入や生活費控除率、喪失期間(就労可能年数)が適正なものになるよう交渉します。
その結果、弁護士に死亡交通事故の示談を依頼した場合、依頼せずにご家族が示談するより示談金が高額になります。
そして、弁護士に依頼した場合、高齢者の死亡交通事故の示談金の相場がどのくらいの金額になるかという点についてですが、私たちが過去にご依頼いただいて示談交渉をしてきた事例を考えると、総額で4000万円前後(3500万円~4500万円)くらいが目安ではないかと思います(過失割合0:100の場合)。
直近の死亡当時73歳の女性(主婦)のケースでも、最終的な示談金がちょうど4000万円になりました。
もちろん、示談金は、亡くなった被害者の年齢や性別、収入によって大きく異なりますので、これは参考程度とご理解ください。
4.まとめ
今回は、被害者が高齢者である事例を中心に死亡交通事故で被害者のご家族が請求できるものやその基準などについてご説明しました。
特に、高齢者が被害者のケースでは、死亡慰謝料や死亡逸失利益の金額次第で最終的な示談金は大きく変わります。
一度示談してしまうと、もうやり直すことはできませんので、示談する前に一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
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投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)