死亡交通事故における無職者(失業者)の死亡逸失利益の算定方法を解説!

交通事故で被害者の方が亡くなった場合、被害者遺族は加害者側に対して、死亡慰謝料死亡逸失利益などの賠償を求めることができます。

以前の記事(死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算)で、若年労働者(概ね30歳未満)が死亡交通事故で亡くなった場合の死亡逸失利益の計算方法などについて解説しましたが、今回は交通事故被害に遭った際にたまたま失業中であった場合など、無職の方が被害者となってしまった死亡交通事故について、その死亡逸失利益の算定方法などを過去の裁判例もご紹介しながらご説明させていただきます。

死亡交通事故の損害賠償額の大部分を占めるのが死亡逸失利益になりますので、この逸失利益の金額が少ないと、全体的に示談金が少ないという印象を受けると思います。

死亡交通事故の賠償請求の場合、弁護士にご依頼になると使用する慰謝料の基準の違いなどで、保険会社の提示額より大幅に増額されることが多いですが、特に被害者が無職の場合は死亡逸失利益の計算方法で示談金が大きく変わる可能性があります。

また、死亡交通事故でなくても、被害者が後遺障害を負った交通事故であれば、同じように後遺障害による逸失利益の算定方法が問題になりますから、無職の方が交通事故に遭って後遺障害を負った場合にも、本記事の内容が参考になると思います。

交通事故の示談でお困りの方のご参考になれば幸いです。

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1.死亡逸失利益の計算方法

⑴ 被害者遺族が賠償請求できるもの

死亡交通事故で被害者遺族が加害者側に賠償請求できるものは、主に死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用の3つになります。

死亡慰謝料などについては、以前の記事で解説していますので、そちらもご覧ください。

死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算

⑵ 死亡逸失利益の計算方法

死亡交通事故の被害者遺族が加害者側に請求できるもののうち、死亡逸失利益は、被害者が交通事故で死亡しなければ将来得られたであろう収入を補償するもので、以下の計算方法で算出されます。

基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

基礎収入は、基本的に被害者の交通事故前年の年収額を用いて計算されます。

生活費控除は、被害者が死亡しなければ将来必要になったであろう生活費分を収入から差し引くという考え方です。

生活費控除率は、被害者の家族構成や性別、年齢などによって異なり、それぞれの状況によって30~50%くらいの範囲で計算されます。

就労可能年数は、裁判所が基本的に67歳まで就労可能と考えているため、被害者が死亡した当時の年齢から67歳までの期間で計算します(高齢者など平均余命の半分の期間の方が長くなる場合には平均余命の半分で計算します)。

⑶ 無職者の基礎収入の考え方

上でご説明したように、基本的に死亡逸失利益の基礎収入は、被害者の交通事故前年の年収額で計算されます。

しかし、たまたま交通事故に遭ったときに失業中であった場合など、無職者の場合は、収入がありませんので、基礎収入をどのように算定するかが問題となります。

病気や怪我など諸々の事情で、交通事故前から働いておらず、将来に渡って働く可能性がなかった人であれば、交通事故に遭わなかった場合でも将来収入を得られなかったということになりますから、死亡逸失利益は無いということも考えられます。

しかし、たまたま交通事故に遭ったときに失業中だったというだけで、労働能力と労働意欲があって、将来働く蓋然性があった被害者の場合には、死亡逸失利益が認められます。

この場合、本来的には再就職後に得られたであろう収入を基礎収入とするべきですので、転職先から内定が出ていた場合などは、その転職先の労働条件を参考にして算定されることになります。

具体的な転職先が決まっていなかった場合には、失業前の収入を参考として算定されることになります。

また、失業前の収入が平均賃金以下の場合で、将来的に平均賃金を得られる蓋然性があれば、男女別平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とする場合もあります。

次では、無職者の基礎収入について過去の裁判例でどのように扱われているかを紹介します。

2.税理士試験受験生(24歳男性)の場合

【東京地方裁判所平成19年6月27日判決】

この交通事故は、いわゆる右直事故と言われる類型で、被害者のAさんが自動二輪車で交差点を直進しようとしたところ、対向から同交差点に進行してきた相手方(被告)車両が右折してしまい、被告車両の左前部にAさん車両が衝突して、Aさんは車両とともに路上に転倒して、脳挫傷によって死亡してしまいました。

Aさんは、交通事故当時24歳でしたが、大学卒業後に会計事務所に7カ月ほど勤めた後、税理士試験の勉強に集中するために退職した直後で無職の状態でした。

この交通事故の裁判では、Aさんの遺族が、死亡逸失利益の算定について、事故の年の平成14年賃金センサスの大卒男子平均賃金(674万4700円)を基礎とすべきと主張しました。

一方、被告側はこれを争い、賃金センサスを用いるとしても平成16年度の平均年収額657万4800円とすべきと主張しました。

この裁判の判決では、裁判所がAさんの遺族側の主張を認め、「本件事故に遭わなければ、67歳まで43年間就労可能であったというべきであるから、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、賃金センサス平成14年第1巻第1表による産業計・男性労働者・大卒・全年齢平均年収額を基礎とし、生活費控除率を5割とし、~~~~5917万915円を認めるのが相当である。」と判示しました。

3.番組制作ADなど断続的に職を変えていた32歳男性の場合

【横浜地方裁判所平成18年2月13日判決】

この交通事故では、加害者車両が、駐車車両を避けるために一旦右に進路変更をして、駐車車両の横を通過した後、元の車線に戻ろうとした際に、左後方から走ってきた被害者のBさんの二輪車に気が付かず、道路左側に寄せて行ってしまい、Bさんが縁石に接触して転倒してしまいました。

そして、転倒したBさんの頭部を加害者車両の後輪が轢いてしまい、Bさんは開放性頭蓋骨骨折,脳挫傷の傷害を負って死亡してしまいました。

Bさんは、大学中退後、技術職や番組制作アシスタント・ビデオ制作アシスタントなどとして働いていましたが、職を転々としており、交通事故当時は無職でした。

この交通事故の裁判では、Bさんの遺族が、死亡逸失利益の算定について、事故前年の平成13年賃金センサスの男性学歴計平均賃金(565万9100円)を基礎収入とすべきと主張しました。

一方、被告側はこれを争いました。

この裁判の判決では、裁判所はBさんが大学中退後に技術職として働いていた当時に約1年間で合計342万3550円の収入があったことや、その後の8か月間に番組制作アシスタント・ビデオ制作アシスタントとして働いていた当時に合計131万8986円の収入があったこと、その後も職を変えて断続的に相当程度の収入を得ていたことなどから、平成13年の賃金センサスの男性高専・短大卒平均賃金(501万8300円)を基礎収入とするのが相当であると判断しました。

そして、稼働期間を67歳までの35年間、生活費控除率を50%とし、4151万8403円の死亡逸失利益を認めました。

4.元教職員(65歳男性)の場合

【神戸地方裁判所平成29年12月20日判決】

この交通事故では、信号機のない交差点で道路を横断していた当時65歳の歩行者の男性(Cさん)が、交差点を直進してきた加害者車両に衝突され、重傷頭部外傷の傷害を負って死亡してしまいました。

Cさんは、交通事故に遭う直前まで約40年に渡って教職に就いていましたが、事故当時は無職で就職活動を行っていました。交通事故前年の年収は282万9600円でした。

この裁判では、Cさんの遺族が死亡逸失利益について、Cさんに就労の蓋然性があったとして事故前年の平成27年度賃金センサスの男子年齢別平均賃金(372万0400円)を基礎収入として計算すべきと主張しました。

また、仮に賃金センサスを採用できなくても上記の事故前年の年収を基礎収入として算定するべきと主張しました。

一方、被告側は、Cさんがハローワークで求職の申込みをしたのは雇用保険の受給が目的で特段の求職活動をしていなかったと主張して就労の意思を争い、死亡逸失利益は認められないと主張しました。

また、仮に死亡逸失利益を認めるとしても,賃金センサス男子労働者年齢別平均賃金程度の収入を得た蓋然性はなく、Cさんが就労先として希望していたのは年間27日程度の試験監督のアルバイトなどであるとして、そのアルバイト程度の収入を基に計算すべきと主張しました。

この裁判の判決では、裁判所は基本的にCさんの遺族側の主張を認め、Cさんは事故の前年度まで再雇用で教員として勤務していたことなどから、「就労の意思も能力もあり、本件事故による死亡がなければ、就労する機会及び事故前年の年収程度の収入を得る蓋然性は十分にあったものと認められる。」と死亡逸失利益を肯定しました。

その上で、事故前年の年収である282万9600円を基礎収入とし、稼働可能年数は平均余命の半分の10年間、生活控除率を40%として、1310万9593円の死亡逸失利益を認めました。

5.まとめ

今回は、交通事故当時に無職だった方が亡くなった死亡交通事故での死亡逸失利益の基礎収入について、実際の裁判例を踏まえて解説しました。

無職の方が亡くなった場合、今回のCさんのようにある程度高齢の被害者に対しては、相手方保険会社が無職である以上死亡逸失利益は無いと主張してくることもあります。

このような事案では、将来収入を得られた蓋然性があったことを主張する必要がありますが、被害者遺族がご自身で保険会社と交渉するのは大変だと思います。

交通事故の示談は、多くの事案で弁護士に依頼することで示談金が増額しますが、特に死亡交通事故の場合は、今回ご説明した死亡逸失利益の計算などで大きな違いが出ることがあり、増額幅が大きくなることが多いといえますから、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

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 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

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