今回のテーマは、車線変更(進路変更)の交通事故の過失割合です。
進路変更中の交通事故では、「どちらにどれくらいの過失割合があるのか」が大きな争点になります。
特に、
・直進していただけなのに、保険会社から3割の過失を主張された
・ウインカー(合図)を出していなかったと言われ、不利な判断をされた
・車線変更のタイミングが問題にされた
といったケースで、「この過失割合は本当に正しいのか」と疑問を持たれる方が非常に多くいらっしゃいます。
進路変更事故の過失割合は、事故の状況や道路環境、当事者の位置関係などによって判断が分かれ、保険会社の説明が必ずしも正しいとは限りません。
例えば、進路変更しようとした車両と後続の直進車が衝突した事故の基本過失割合は進路変更車70%:直進車30%ですが、ウインカー(合図)なしで進路変更した場合は、直進車側の過失が大きく減る、または0%と判断される可能性があります。
また、ほぼ並走状態で進路変更しようとして接触した事故であれば、直進車側で事故を回避することは難しく、進路変更車100%:直進車0%と判断されるケースもあります。
交通事故の分野で広く参照される最新版の「別冊判例タイムズ38号」(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版)では、交通事故の事故態様・道路状況ごとに、事故当事者の過失割合の判断基準が提示されていますが、この中の【153】図は、「進路変更車と後続直進車の四輪車同士の事故」として、過失割合が設定されています。
本記事では、この【153】図を基に進路変更事故における基本的な過失割合の考え方や判断の流れを整理した上で、その基本過失割合に固執する相手方保険会社の主張を覆し、依頼者の過失を軽減した当事務所の具体的な解決事例をご紹介します。
このページの目次
1. 進路変更事故における過失割合の基本~判例タイムズ【153】図とは?~
判例タイムズ【153】図は、あらかじめ前方にある車両(進路変更車)が進路変更を行ったものの、後方から直進してきた他の車両(後続直進車)の進路と重なり、両車両が接触したという態様の事故について過失割合の基準を示したものです。

この図が定める基本の過失割合は、次のとおりです。
・進路変更車 70%
・後続直進車 30%
それではなぜ、このような割合になるのでしょうか?
まず、道路交通法上、進路変更車は、みだりにその進路を変更してはいけません(法26条の2第1項)。
また、進路変更車は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度または方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはなりません(法26条の2第2項)。
進路変更車にはこのような義務が課されているため、基本的には進路変更車の過失が大きくなるのです。
一方、後続直進車についても、道路交通法上、安全運転の義務(法70条)を負っています。
これは、車両の運転者は、当該車両のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し(安全操作履行義務)、かつ、道路、交通及び当該車両の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない(安全状態確認義務)というものです。
あらかじめ前方にいる進路変更車の進路変更は、進路変更と同時に急ブレーキを掛けたような場合でもない限り予測可能な運転行動であることもあり、後続直進車についても過失が問われることになるのです。
このように、判例タイムズ【153】図は、上記で示した進路変更車の過失と後続直進車の過失の割合を、7対3で評価したものといえます。
2.進路変更事故の過失割合はどのような流れで判断されるのか
進路変更事故における過失割合は、感覚や一方的な主張で決まるものではなく、一定の判断プロセスに沿って検討されます。
一般的には、以下のような流れで判断されるのが基本です。
① どちらが進路変更を行った車両か
② 相手車両は直進中であったか
③ 進路変更の合図(ウインカー)が適切に出されていたか
④ 前方・後方の位置関係や並走状態であったか
⑤ 衝突時の速度や回避の可能性
⑥ 道路交通法に違反する運転がなかったか
これらの要素を総合的に検討したうえで、判例タイムズ【153】図などの基準を参考にしながら、過失割合が判断されます。
そのため、保険会社が示す過失割合が、必ずしも事故状況を正確に反映しているとは限りません。
3.過失割合を修正する「修正要素」の詳細
判例タイムズ【153】図の過失割合である30%(後続直進車):70%(進路変更車)は、あくまでも「基本の」過失割合です。
一方で、判例タイムズ【153】図では「修正要素」も定められており、個別の状況に応じて過失割合が修正されることになります。
このうち、進路変更車の運転に関する修正要素は次のとおりです。
①進路変更禁止場所 -20%
進路変更車が、進路変更禁止場所で進路変更をしていた場合、後続直進車について20%の減算修正がなされます。
②合図なし -20%
進路変更の合図は、後続直進車の前方注視義務違反の基礎として重要な意味を持つため、進路変更車が合図をしていなかった場合、後続直進車について20%の減算修正がなされます。
③著しい過失 -10%
例として、わき見運転や携帯電話の画像を注視しながらの運転などが挙げられます。進路変更車に著しい過失がある場合、後続直進車について10%の減算修正がなされます。
④重過失 -20%
重過失は、著しい過失よりもさらに重い、故意に比肩する重大な過失をいい、例として、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転が挙げられます。進路変更車に重過失がある場合、後続直進車について20%の減算修正がなされます。
例えば、進路変更車が、進路変更禁止場所で進路変更したことにより交通事故が発生した場合、後続直進車について20%の減算修正がなされることから、後続直進車の過失割合は10%(基本過失割合30%-修正要素20%)になります。
4.判例タイムズ【153】図の適用範囲
冒頭述べたとおり、判例タイムズ【153】図は、あらかじめ前方にある車両(進路変更車)が進路変更を行ったものの、後方から直進してきた他の車両(後続直進車)の進路と重なり、両車両が接触したという態様の事故について過失割合の基準を示したものです。
なお、進路変更事故といっても、すべての事故が必ずしも判例タイムズ【153】図に当てはまるわけではありません。
事故が発生した場所や当事者の交通手段によっては、過失割合を判断する際に重視される要素が大きく異なる場合があります。
例えば、
・交差点付近で進路変更を行った結果、事故が発生したケース
・ゼブラゾーンへの進入中に進路変更して接触した事故
・駐車場内での車両同士の接触事故
・自転車と自動車との間で発生した進路変更事故
などでは、車線の明確性や進行優先関係、安全確認義務の範囲などが問題となり、【153】図の基本的な過失割合がそのまま適用されないことも少なくありません。
そのため、例えば次の場合は本基準の対象外となり、具体的事情を考慮して過失割合を検討することになります。
①進路変更車が、隣の車線の前方を走行していた他の車両を追い抜いた直後、進路を変えて当該車両の進路前方に出たところ衝突した場合
②進路変更車が、進路を変更した後の車線における前車との車間距離が十分ではなかったため、車線を変更した後、前車への追突を避けるために直ちに急ブレーキを掛けたために衝突した場合
③進路変更を完了した後の進路変更車に対して、後続直進車が追突した場合。
5.保険会社が主張する過失30%を0%にした解決事例
ここでは、相手方保険会社が杓子定規に判例タイムズ【153】図の基本過失割合30%(後続直進車):70%(進路変更車)を主張してきたにもかかわらず、当事務所がそれを覆した具体的な解決事例をご紹介します。
⑴ 事案の概要と相手方の主張
当方車両(依頼者):後続直進車
相手車両:進路変更車
事故状況:当方車両が、片側2車線直線道路の第1車線を直進走行していたところ、第2車線を直進走行していた相手車両が第1車線への車線変更を開始し、当方車両に衝突したもの。
相手方の主張:判例タイムズ【153】図に基づき、基本過失割合である30%(後続直進車):70%(進路変更車)を主張。
⑵ 当事務所による反論と決定的な証拠の立証
当事務所は、基本過失割合の適用を安易に認めず、事故態様の詳細な立証に注力しました。
まず、当方車両に備え付けられていたドライブレコーダーの映像を分析しました。
その上で、本件事故当時、第2車線にいた相手車両が車線変更を開始したタイミングが、当方車両とほぼ並走状態のときであったこと、そのため相手車両はほぼ真横にいた当方車両に一方的に衝突したものであることを指摘しました。
また、当方車両を運転していた依頼者としても、ほぼ並走状態の相手車両が突然進路変更してくることなど予見することはできません。
そのため、依頼者には過失がないことも併せて主張しました。
その他にも、本件事故は判例タイムズ【153】図の適用範囲外であることを主張したり、同様の事故について直進車の過失を否認した裁判例を提示しました。
⑶ 解決結果と意義
このような主張立証活動の結果、相手方保険会社は、当事務所の主張を受け入れ、過失割合0%(当方車両):100%(相手車両)での解決をすることができました。
本事例は、判例タイムズ【153】図はあくまで「基準」であり、絶対ではないことを示しています。
保険会社が主張する基本過失割合に対して納得できない場合、客観的な証拠(特に車両の損傷状況やドラレコの映像)を踏まえて、基本過失割合からの修正を主張できるかどうかが結果を大きく左右します。
6.よくある質問(進路変更事故の過失割合)
Q.保険会社が提示する過失割合は、必ず従う必要がありますか?
A.いいえ、必ずしも従う必要はありません。
示談が成立する前であれば、事故状況や証拠をもとに、過失割合の修正や交渉を行うことが可能です。
特に、進路変更事故では、ウインカーの有無や車両の位置関係、当時の速度などが十分に検討されていないまま、保険会社の杓子定規な考えだけで過失割合が提示されるケースも少なくありません。
Q.過失割合について弁護士に相談すると、費用はかかりますか?
A.事務所によって異なりますが、交通事故については「無料相談」を実施している弁護士も多くいます。 当事務所でも、進路変更事故を含む交通事故のご相談は無料でお受けしています。
Q.どの段階で弁護士に依頼すべきでしょうか?
A.保険会社から過失割合の提示を受けた段階、または示談書に署名する前にご相談いただくのが望ましいです。一度示談が成立すると、その後に過失割合を修正することは原則として困難になります。
7.まとめ
保険会社が提示する過失割合は、必ずしも正しいとは限りません。
交通事故の被害に遭われた際、相手方保険会社からは、保険会社側の視点に基づいた被害者にとって不利な過失割合を提示されることがあります。
また、判例タイムズ【153】図のように、後続直進車に基本的に30%の過失が課せられる類型の事故では、この30%をいかに減らすかが、最終的に手元に残る賠償額に直結します。
ご自身の過失割合に疑問や不満をお持ちでしたら、示談に応じる前に、交通事故の専門知識を持つ弁護士にご相談ください。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
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投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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