駐車場内での交通事故は、道路上での事故と比べて特殊なケースが多く、「保険会社から提示された過失割合に納得がいかない」というご相談が多く寄せられます。
そのうちの1つに、「通路から駐車区画に進入しようとする四輪車と、駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故」があります。
「お互い様だから50対50です」と保険会社から言われることも少なくありません。
過失割合については、「判例タイムズ(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)」において判断基準が示されており、実務上広く浸透しています。
最近、この判断基準が改訂(全訂5版⇒全訂6版)されたことにより、「通路から駐車区画に進入しようとする四輪車と、駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故」についても新たに基準【Ⅷ-6】が設けられました。
この記事では、交通事故案件に注力する弁護士が、新設された基準【Ⅷ-6】の解説と、まだこの基準がなかった改訂前に「当方10%:相手方90%」という有利な判決を獲得できた実際の解決事例をご紹介します。
同様の交通事故のご相談も多く寄せられていますので、お困りの方は参考にしていただけますと幸いです。
このページの目次
1.判例タイムズで新設された【Ⅷ-6】の基準とは?
判例タイムズが改訂される前、駐車場内における四輪車同士の事故については、次の3つの類型しか判断基準が設けられていませんでした。
①通路の交差部分における四輪車同士の出会い頭事故
②通路を進行する四輪車と、駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故
③通路を進行する四輪車と、通路から駐車区画に進入しようとする四輪車との事故
もっとも、駐車場内の交通事故の態様は様々であるため、当然ながら、上記①~③の類型には当てはまらない事故は多く存在していました。
そのような場合、判例タイムズでは直接該当する判断基準が示されていなかったことから、どのようにして過失割合を判断するのかという点で揉めることが多かったのです。
しかしながら、今回の判例タイムズの改訂により、駐車場内における四輪車同士の事故について新たな基準が複数設けられました。
そのうちの1つが、今回取り上げる「通路から駐車区画に進入しようとする四輪車と、駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故」についての基準【Ⅷ-6】になります。
2.【Ⅷ-6】の基本過失割合と考え方
「通路から駐車区画に進入しようとする四輪車と、駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故」の基準【Ⅷ-6】における基本過失割合は、それぞれ次のとおりです。
通路から駐車区画に進入しようとする四輪車:20%
駐車区画から通路に進入しようとする四輪車:80%

このような割合になっているのは、通路から駐車区画に進入しようとする四輪車よりも、駐車区画から通路に退出する車の方が重い注意義務が課されていることが理由とされています。
なお、双方の四輪車がそれぞれ前進であるか後退であるかにかかわらず適用されます。
また、通路を挟んで向かい合う駐車区画からの退出車両と反対側の駐車区画への進入車両とが衝突した場合にも適用されます。
もっとも、上記の割合はあくまでも「基本過失割合」です。
次の修正要素が認められる場合には、基本過失割合から修正されることになります。
・著しい過失:±10%
・重過失:±20%
また、「通路から駐車区画に進入しようとする四輪車と、駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故」であったとしても、そもそも各車両の過失の有無自体が問題となる態様の事故については、基準【Ⅷ-6】によらず、個別的に過失割合を検討すべきであるとされています。
例えば、駐車区画進入車が既に駐車区画への進入を開始しているのに、駐車区画退出車が駐車区画からの退出を開始して駐車区画進入車の進路上に進行した場合などは、機械的に駐車区画進入車に20%の過失があるとは評価されず、個別の事故状況に即して判断されることになります。
3.【解決事例】改訂前の事故で「当方10%:相手方90%」の判決を獲得!
基準【Ⅷ-6】が設けられる前、「通路から駐車区画に進入しようとする四輪車と、駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故」について明確な判断基準が示されていなかったこともあり、保険会社から、特に根拠も示されず不合理な過失割合を主張されてしまうことがありました。
ここで、私が実際に「通路から駐車区画に進入しようとする四輪車と、駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故」を担当し、訴訟(裁判)に発展したケースをご紹介します。
・当方(原告): 通路から駐車区画に進入(前進)しようとする四輪車
・相手方(被告): 駐車区画から通路に進入(後退)しようとする四輪車
・相手方保険会社の当初の主張: 最大限譲歩しても当方の過失40%
この事案では、明確な基準(Ⅷ-6)がまだ存在していなかったため、相手方保険会社は当方にも相応の過失があると強硬に主張してきました。
しかしながら、本件における当方の過失割合が40%というのは不当であると考え、訴訟提起するに至りました。
以下のポイントに着目し、裁判で徹底的に争いました。
⑴ 類似の基準から、駐車区画退出車の方が顕著に重い過失責任を負うこと
判例タイムズ上、通路を進行する四輪車(通路進行車)と駐車区画から通路に進入しようとする四輪車(駐車区画退出車)との事故において、駐車区画退出車の方が重い過失責任を負うこととされ、基本過失割合が、通路進行車30%:駐車区画退出車70%と設定されています。
一方、判例タイムズ上、通路進行車と通路から駐車区画に進入しようとする四輪車(駐車区画進入車)との事故の場合、通路進行車の方が重い過失責任を負うこととされ、基本過失割合が、通路進行車80%:駐車区画進入車20%と設定されています。
そのため、注意義務は「駐車区画退出車>通路進行車>駐車区画進入車」とされていて、駐車区画進入車が一番軽く、駐車区画退出車が一番重いことから、駐車区画退出車は駐車区画進入車と比較して顕著に重い過失責任を負うと主張しました。
⑵ 相手方(被告)の過失が重大であること
相手方(被告)が急ハンドルを切りながら後退したことで、相手車両は駐車区画から飛び出してしまい、当方車両が進入しようとしていた駐車区画に進入してしまいました。
一方、当方車両は駐車区画の枠内に収まって進入していた以上、相手車両が駐車区画から横に飛び出さなければ本件事故は発生していなかったという点で、相手方(被告)の過失が重大であると主張しました。
⑶ ドライブレコーダー映像に基づく綿密な主張
ドライブレコーダー映像の表示時間を指摘しながら、相手車両のバックランプが点灯した時点では相手車両の前輪が傾いていなかったこと(ハンドルが切られていなかった)や、その直後に相手車両が駐車区画から飛び出して後退してくる様子を主張しました。
結果として裁判所は、「当方(原告)10%:相手方(被告)90%」という、依頼者にとって非常に有利な判決を下しました。
明確な基準がない中でも、事故の具体的な状況を丁寧に立証することで、適切な過失割合を勝ち取ることができた事例になります。
4.駐車場事故でお悩みなら弁護士へ
駐車場内の事故は、「徐行していたのだから過失割合は五分五分に近い」と安易に処理されがちです。
しかし、今回ご紹介したように、専門家である弁護士がドライブレコーダー映像のような客観的証拠をもとに、過失割合を大きく覆すことができるケースもあります。
判例タイムズに新基準【Ⅷ-6】が設けられた現在でも、「基本割合からどう修正要素を主張するか」や「そもそも過失の有無自体が問題となるケースではないか」といったことが問題となります。
・保険会社から提示された過失割合に納得がいかない
・怪我をしているにもかかわらず、保険会社から「駐車場内の事故だから怪我をしていない」と言われている
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投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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