交通事故で負傷する部位のなかでも、大腿骨(太ももの骨)の骨折は特に重篤な損傷のひとつです。
手術やリハビリに長期間を要するうえ、後遺症が残るケースも少なくありません。
そのような事情もあり、交通事故で大腿骨を骨折した場合、治療期間に応じた入通院慰謝料に加え、後遺障害等級が認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求でき、受け取れる賠償金は大きくなります。
大腿骨骨折では、股関節や膝関節の可動域制限、下肢の短縮、変形癒合、偽関節、痛みやしびれなどが後遺障害として問題となります。
後遺障害慰謝料の目安は、等級により弁護士基準で110万円から1,180万円程度ですが、実際の賠償額は入通院期間、収入、年齢、仕事への影響、過失割合、他の怪我の有無によって変わります。
なお、後遺障害が認定されない場合でも、治療費、入通院慰謝料、休業損害、通院交通費などは請求できます。
本記事では、交通事故による大腿骨骨折の基礎知識から、後遺障害等級の認定基準・慰謝料相場・弁護士に相談するメリットまでを、交通事故案件に注力している弁護士の監修の下わかりやすく解説します。
このページの目次
1. 交通事故による大腿骨骨折の基本知識
大腿骨の役割と重要性
大腿骨は人体最大かつ最強の骨であり、大腿部(太もも)に位置して股関節と膝関節をつなぐ重要な役割を担っています。
体重の支持・歩行・走行・立ち上がりなど、日常のあらゆる動作に不可欠です。
大腿骨は構造上、①大腿骨頭・頸部・転子部(股関節側)、②骨幹部(中央部)、③遠位端(膝関節側)の3つに大別されます。

それぞれ骨折の様相や治療法・後遺障害リスクが異なります。
交通事故での大腿骨骨折のメカニズム
大腿骨骨折は、交通事故のなかでもバイク事故・自転車事故・歩行者と自動車の衝突などで多く発生します。
直接的な衝撃(相手車両への膝の激突など)や、転倒時の体重のかかり方によって骨折が生じます。
| 骨折部位 | 主な受傷メカニズム | 特徴・リスク | 後遺障害で確認する主な点 |
| 大腿骨頚部骨折 | 側方からの衝突・転倒時の捻転力 | 高齢者に多い。股関節の機能障害が残りやすい | 股関節の可動域制限、疼痛、人工骨頭・人工股関節置換後の機能 |
| 大腿骨転子部骨折 | 直接打撲・転倒 | 歩行困難となる場合や足が短縮する場合もある | 下肢短縮、股関節の可動域制限、歩行状態 |
| 大腿骨骨幹部骨折 | 車両との正面衝突・強い外力 | 大量出血リスク。髄内釘固定が一般的 | 下肢短縮、変形癒合、偽関節、股関節・膝関節の可動域、神経症状 |
| 大腿骨遠位端骨折 | 膝の強打 | 膝関節の機能障害が残りやすい | 膝関節の可動域制限、膝痛、変形癒合、歩行への影響 |
2. 大腿骨骨折の症状と治療法
大腿骨骨折の主な症状
大腿骨骨折は骨折部位によって症状が異なりますが、共通して現れる主な症状は以下のとおりです。
- 激しい疼痛
- 大腿部の変形・腫脹(骨がずれると著明な腫れが生じる)
- 患肢の短縮・回旋変形
- 歩行・起立不能
- 出血・血腫形成(骨幹部骨折では大量出血)
- 神経・血管損傷症状(しびれ・冷感・チアノーゼ)
⚠️ 注意:大量出血について
大腿骨骨幹部骨折では、骨折部への出血だけで1,000〜2,000mLに達することがあります。救急搬送後の輸血・ショック対応が必要となるケースもあり、生命に関わる重篤な外傷です。
治療方法とリハビリテーション
大腿骨骨折の治療は基本的に手術療法が選択されます。骨折部位・年齢・骨折型によって術式が決まります。
| 治療法 | 対象・特徴 | 入院期間の目安 |
| 髄内釘固定術 | 骨幹部骨折に最も多く用いられる。骨髄腔にチタン製の釘を挿入して固定する。 | 2〜4週間 |
| プレート固定術 | 遠位端骨折など複雑な形状の骨折に有効。プレートとスクリューで固定。 | 2〜6週間 |
| 人工骨頭置換術 | 頚部骨折(特に高齢者)に対し、骨頭を人工物に置き換える。 | 3〜6週間 |
| 人工股関節全置換術(THA) | 骨頭壊死・変形性股関節症が生じた場合に選択される。 | 3〜6週間 |
術後はリハビリテーションが不可欠です。
早期から関節可動域訓練・筋力訓練・歩行訓練を行い、機能回復を目指します。
骨折の重症度・合併症の有無によって、リハビリ期間は数カ月〜1年以上に及ぶことも珍しくありません。
📋 リハビリの流れ(例)
STEP 1:術直後〜2週間(急性期リハビリ)→ ベッド上での関節可動域訓練・筋力維持・浮腫軽減
STEP 2:2〜8週間(荷重・歩行訓練)→ 部分荷重から全荷重へ段階的に移行。松葉杖・歩行器使用
STEP 3:2〜6カ月(機能回復訓練)→ 筋力強化・バランス訓練・日常生活動作(ADL)の回復
STEP 4:6カ月以降(社会復帰へ向けたリハビリ)→ 職場復帰訓練。症状固定の判断も行われる
3. 大腿骨骨折による後遺障害の種類
大腿骨骨折では、適切な治療・リハビリを行っても症状が残存するケースがあります。
これを後遺障害といい、自賠責保険の後遺障害等級が認定されると、慰謝料・逸失利益などの賠償額が大幅に増加します。
主な後遺障害は「短縮障害」「機能障害」「神経障害」の3つです。
短縮障害とその影響
骨幹部骨折などで骨がずれたまま癒合すると、患肢が健側より短くなる短縮障害が生じます。
| 短縮の程度 | 後遺障害等級 | 主な影響 |
| 5cm以上短縮 | 8級5号 | 跛行(はこう)が顕著。骨盤傾斜・脊椎側弯が生じる。長距離歩行が困難 |
| 3cm以上短縮 | 10級8号 | 跛行(はこう) |
| 1cm以上3cm未満短縮 | 13級8号 | 軽度の跛行。靴底のリフトアップで対応できるケースも多い |
機能障害の具体例
骨折後の関節拘縮・筋萎縮・骨癒合不全などにより、股関節や膝関節の可動域が制限される機能障害が残ることがあります。
| 障害の内容 | 後遺障害等級 |
| 股関節または膝関節の用廃(まったく動かない・健側の10%以下) | 8級7号 |
| 股関節または膝関節の可動域が健側の1/2以下に制限 | 10級11号 |
| 股関節または膝関節の可動域が健側の3/4以下に制限 | 12級7号 |
神経障害の症状と影響
骨折に伴う神経損傷や手術による神経への影響で、下肢のしびれ・感覚障害・疼痛(神経障害性疼痛)が残存することがあります。
- 坐骨神経障害:大腿後面から下腿にかけてのしびれ・感覚低下・筋力低下
- 大腿神経障害:大腿前面のしびれ・感覚低下、膝伸展力の低下
- 神経障害性疼痛(CRPS含む):持続する灼熱感・アロディニア
- 足の変形:下垂足(腓骨神経麻痺)による歩行困難
| 神経障害の程度 | 後遺障害等級 |
| 1関節の完全弛緩性麻痺等 | 8級7号 |
| 1下肢の軽度の麻痺・神経症状(しびれ等) | 12級13号または14級9号 |
4. 交通事故で大腿骨を骨折した場合の慰謝料・賠償金の相場
大腿骨骨折で請求できる賠償金の内訳
交通事故で大腿骨を骨折した場合、請求できる可能性がある賠償金は後遺障害慰謝料だけではありません。
検索で「慰謝料」と調べる方の多くは、最終的に受け取れる賠償金全体を知りたいと考えていると思いますので、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、休業損害、逸失利益、治療費、通院交通費、装具費などに分けて確認することが重要です。
| 項目 | 内容 |
| 入通院慰謝料 | 入院・通院を余儀なくされた精神的苦痛に対する補償 |
| 後遺障害慰謝料 | 後遺障害等級が認定された場合の精神的苦痛に対する補償 |
| 休業損害 | 治療のために仕事や家事ができず、収入等が減少した損害 |
| 後遺障害逸失利益 | 後遺障害により将来の収入が減ると見込まれる損害 |
| 治療関係費等 | 治療費、通院交通費、装具費、付添費など |
後遺障害等級の認定基準
後遺障害等級は1級〜14級まであり、1級が最も重篤です。
大腿骨骨折で認定される等級は、後遺症の種類・程度によって異なります。
複数の後遺障害が残る場合は、併合によって等級が上がることがあります。
| 等級 | 大腿骨骨折に関連する典型例 |
| 6級 | 1下肢の膝関節及び股関節が用廃(複数関節) |
| 8級 | 1関節の用廃・5cm以上の短縮障害・完全弛緩性麻痺 |
| 10級 | 1関節の可動域1/2以下制限・3cm以上の短縮障害 |
| 12級 | 1関節の可動域3/4以下制限・変形癒合・神経症状(他覚所見あり) |
| 13級 | 1cm以上3cm未満の短縮障害 |
| 14級 | 神経症状(他覚所見なし) |
慰謝料の相場と計算方法
交通事故の慰謝料には①自賠責基準・②任意保険基準・③弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。
弁護士基準が最も高額になるため、弁護士に依頼することで慰謝料が大幅に増額するケースが多いといえます。
| 後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準(目安) |
| 6級 | 512万円 | 1,180万円 |
| 8級 | 331万円 | 830万円 |
| 10級 | 187万円 | 550万円 |
| 12級 | 94万円 | 290万円 |
| 13級 | 57万円 | 180万円 |
| 14級 | 32万円 | 110万円 |
具体例(機能障害に関する慰謝料・逸失利益)
機能障害(8級7号・10級11号・12級7号)に対応する後遺障害慰謝料は上記表のとおりですが、これに加えて逸失利益が算定されます。
📐 逸失利益の計算式
逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 67歳までのライプニッツ係数
例:年収500万円・8級認定(喪失率45%)・45歳の場合
500万円 × 0.45 × 15.9369 ≒ 約3,586万円
5. 後遺障害認定を受けるためのポイント
症状固定の重要性
後遺障害として申請できるのは、症状固定(これ以上治療を続けても症状が改善しない状態)と医師が判断した後です。
- 症状固定の判断は担当医師が行う。保険会社に促されても、症状の改善が見込まれる状況であれば治療継続を主治医に相談した方がよい
- 症状固定日は後遺障害等級の認定に影響する。あまり早期に設定しないよう注意が必要
- 症状固定後は、主治医に後遺障害診断書の作成を依頼する
後遺障害診断書の確認ポイント
後遺障害診断書の記載内容が、等級認定の可否を大きく左右します。
以下の点を必ず確認してください。
- 可動域の計測値:健側・患側の両方を正確に記載。数値が欠けていると適切な等級が認定されないリスクがある
- 画像所見の記載:X線・MRIなどの画像所見が明記されているか。変形癒合・骨萎縮の有無を確認
- 神経症状の他覚所見:しびれ・感覚障害を訴えるだけでなく、腱反射低下・MMT結果など他覚的所見が必要
- 短縮の計測値:健側・患側の具体的な数値が記載されているか
⚠️ 後遺障害診断書は弁護士と一緒に確認を
後遺障害診断書の記載が不十分・不正確な場合、本来認定されるべき等級が認定されないことがあります。提出前に弁護士に確認を依頼することを強くお勧めします。
6. 弁護士に相談するメリット
適正な賠償金の獲得
保険会社は任意保険基準(自賠責基準に近い低い金額)で示談交渉を行います。
弁護士が代理人として交渉することで、弁護士基準(裁判基準)での請求が可能となり、慰謝料・逸失利益が大幅に増額するケースが多いといえます。
| 項目(具体例) | 弁護士なし(保険会社提示額の例) | 弁護士あり(弁護士基準) |
| 後遺障害慰謝料(12級) | 約100〜140万円 | 約290万円 |
| 後遺障害慰謝料(8級) | 約340〜400万円 | 約830万円 |
| 入通院慰謝料(6カ月入通院) | 約80〜100万円 | 約116万円〜 |
交渉のプロセスとサポート
弁護士に依頼することで、以下のサポートをすべて受けられます。
- 事故直後からの証拠保全アドバイス:警察・保険会社への連絡方法、診断書・画像の保管方法などを指導
- 後遺障害申請のサポート:後遺障害診断書の確認・被害者請求・異議申立て手続きの代行
- 保険会社との示談交渉:弁護士基準での慰謝料・逸失利益等の請求。不当な過失割合の修正も対応
- 訴訟・調停への対応:示談交渉が不調の場合、訴訟・ADRへの対応も一貫サポート
✅ 弁護士費用特約を活用しよう
多くの自動車保険には弁護士費用特約が付帯しています。
弁護士費用特約があれば、弁護士費用(着手金・報酬金)が保険でまかなわれるため、実質無料で弁護士に依頼できるケースが多くあります。
まずは加入中の保険を確認してください。
7. 大腿骨骨折に関するよくある質問
Q. 治療にかかる期間はどのくらいですか?
A. 大腿骨骨折の治療期間は骨折の部位・重症度・年齢・合併症の有無によって大きく異なります。
一般的には入院:1〜3カ月、リハビリ期間を含めた症状固定まで:6カ月〜1年以上かかることが多いです。
後遺症が残る場合、治療期間中から弁護士に相談しておくことが重要です。
Q. 大腿骨骨折で後遺障害が残る可能性はどのくらいですか?
A. 大腿骨骨折は人体最大の骨への重篤な損傷であるため、適切な治療・リハビリを行っても何らかの後遺症が残るケースは少なくありません。
症状を粘り強く医師に訴え、画像検査・神経学的検査を受けることが重要です。
Q. 後遺障害の認定に納得できない場合はどうすればよいですか?
A. 後遺障害の認定結果に納得できない場合は「異議申立て」を行うことができます。
新たな医学的証拠(追加の検査結果・医師意見書など)を添付して再審査を求めることが可能です。
弁護士に相談することで、適切な証拠収集・申立て書類の作成を任せることができます。
Q. 示談を急かされていますが、どうすればよいですか?
A. 症状固定前・後遺障害等級認定前に示談してはいけません。
示談が成立すると、原則として追加請求ができなくなります。
まずは弁護士に相談し、現在の状況を確認したうえで示談のタイミングを判断してください。
8. まとめと今後のステップ
交通事故後の行動指針
大腿骨骨折を負った場合、以下のステップで行動することで、適正な賠償金を受け取れる可能性が高まります。
- すぐに医療機関を受診・記録を残す:事故直後の診断書・画像(X線・CT・MRI)を保管。受診記録・治療記録をしっかり残す
- 早期に弁護士へ相談する:事故直後から弁護士に相談することで、証拠保全・治療方針へのアドバイスが受けられる。無料相談を活用しよう
- 症状固定まで治療を継続する:症状が残っている間は治療を継続。保険会社に促されても主治医の判断に従う
- 後遺障害診断書を確認・申請する:弁護士と一緒に後遺障害診断書を確認し、被害者請求で後遺障害等級の認定を申請する
- 弁護士基準で示談交渉・訴訟:後遺障害等級認定後、弁護士基準(裁判基準)での慰謝料・逸失利益を請求し示談交渉を進める
優誠法律事務所では、交通事故被害のご相談は無料で対応しております。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
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投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベストベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
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交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
