片賠とは?物損事故を片賠で解決できた事例

こんにちは、優誠法律事務所です。

これまで公式ブログなどで何度かご説明してきたとおり、交通事故の際に過失割合が争点となった場合には、実務上「別冊判例タイムズ38号」を参照します(基本過失割合についてのご説明はこちらの記事をご覧ください→「過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その1~」)。

この書籍には数百の事故類型がまとめられていますが、実際に発生する交通事故は多種多様なため、ぴったり当てはまらないこともあります。

今回は、そのような別冊判例タイムズ38号の類型に当てはまらない態様の事故について、「片賠(片側賠償)」と呼ばれる方法で解決できた事例について、「片賠」とは何かという点も併せてご紹介いたします。

1.事案の概要~変則交差点での交通事故~

本件の交通事故は自動車同士の事故ですが、変わった交差点で発生したものでなかなか言葉で説明することが難しいです。

文字だとわかりづらいので、以下で図示します。

事故発生状況図

Bさんの右折先にはポールが立っており、そのまま進むと逆走してしまうことになります。

どうやらBさんはそのことに右折後に気づいて、慌てて進路を変えたところ、Aさんに衝突してしまったようでした。

不幸中の幸いですが、Aさんと同乗の方にはお怪我はありませんでした。

Aさんは、事故後のBさんの対応にご不満があったことや、Bさん加入の保険が使用できないかもしれないという話があったこと(結果的に使用できましたが)、当初0:100での解決を希望されておりご自身加入の保険会社が示談代行で介入することが難しかったこと、Aさんが弁護士費用特約に加入されていたことなどから、当事務所にご相談いただき、ご依頼を受けることになりました。

2.相手損保の主張と「片賠」をご提案した理由

私たちはご依頼後、早速相手損保と交渉に入りました。

争点は過失割合です。

そうしたところ、相手損保からは、当初、別冊判例タイムズ38号の153図や137図に則った解決を提案されました。

153図や137図は以下のような類型です。

判例タイムズ153図
判例タイムズ153図
基本過失割合 30(Ⓐ):70(Ⓑ)
判例タイムズ137図
判例タイムズ137図
基本過失割合 20(Ⓐ):80(Ⓑ)

ご覧いただければわかる通り、153図はそもそも交差点ではない場所での交通事故を想定しており、本件とはかなり類型が異なります。

また、137図は交差点での交通事故についての類型ではありますが、先行のBさんの異常な挙動を反映させたものとは言えません。

したがって、当方からは、別冊判例タイムズ38号のこれらの類型に無理やり当てはめて解決するのではなく、あくまで個別の事情に基づいて解決すべきであると主張しました。

その上で、依頼者Aさんとのお打合せを行いました。

そうしたところ、Aさんとしても当該交差点はわかりにくい交差点であることは従前からご存じであり、何が何でも0:100でなければ示談に応じないというわけではないとのことでした。

弁護士としても、交差点内の双方進行中の事故であり、裁判になったとしても0:100の解決となるとは言い切れないことから、可能であれば示談で終わらせることが望ましいと思われました。

ただ、Aさんにはご自身加入の対物賠償保険や車両保険を使いたくない(保険の等級を下げたくない)というご希望がありました。

そこで、0:10ではないにせよ、こちらの希望を最大限主張する0:95という「片賠」を提案することになりました。

3.「片賠」とは?

交通事故の過失割合は、0:100や、50:50、30:70等、合計で100%となるのが通常であり、理論的にはそうなるべきですし、実際、裁判ではそうなります。

例えば、被害者:加害者が10:90の物損事故の場合、被害者は、自身の車両損害の9割を加害者に請求でき、加害者の車両損害の1割を負担することになります。

他方で、示談交渉の実務では、0:90等の合計100%にならない形での解決が時々あります。

被害者:加害者を0:90で解決した場合、被害者が自身の車両損害の9割を加害者に請求できるのは10:90の場合と同様ですが、0:90の場合は、被害者側は加害者の車両損害の1割を負担する必要がありません

このような当事者の片方だけが賠償する形での解決(もう一方が賠償しないため、過失割合の合計が100%になりません)を実務上「片賠(片側賠償)」と呼んでいます。

このような取扱いには理論的な裏付けがあるわけではなく、あくまで示談交渉上の妥協の産物と言えます。

片賠となれば、被害者は加害者の車両損害を負担する必要がありません。

したがって、被害者が自身の対物賠償保険を使わずに済みます

さらに加害者の責任割合が大きければ、自身の車両損害について自己負担分が出たとしても、被害者加入の車両保険も使用せずに修理をできることもあります

この点は片賠の大きなメリットと言えます。

4.交渉結果(0:95で解決!)

片賠には以上のようなメリットがあり、今回のAさんの事例では特にそのメリットが活かされると思われたため、弁護士からAさんに0:95の片賠で相手損保へ提示することを提案したところ、了承いただきましたので、その内容で引き続き交渉を行いました。

そうしたところ、相手損保からはいくつかの主張がなされましたが、交渉を重ねたところ、最終的には0:95の片賠での解決で合意できました。

5.まとめ

今回は、判例タイムズの基準にしっかりと当てはまらない事案について、0:95の片賠で解決できた事例についてご説明しました。

片賠には理論的裏付けがあるわけではなく、必ずその内容で解決できるというものでもないですが、実現できれば被害者に大きなメリットがある示談方法です。

物損事故の解決について、参考としていただければと思います。

優誠法律事務所では交通事故のご相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

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 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

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