交通事故で「過失割合」が争点になると、慰謝料の金額にも大きく影響します。
たとえば1割の過失修正で数十万円以上の違いが出ることも珍しくありません。
本記事では、過失割合と慰謝料の関係、保険会社との交渉の流れ、そして実際に過失割合を有利に修正し、慰謝料を獲得できた事例を解説します。
交通事故はいつ、どこで起こるかわかりません。特に、多くの車両や歩行者が行き交う駐車場内の事故は、誰もが遭遇する可能性があります。
公道とは異なり、明確なルールが定まっていないことが多い駐車場内での事故は、当事者同士の主張が食い違い、話し合いが難航する傾向もあります。
「バックしていたところ、その途中で相手が急に突っ込んできた」、「いや、私はずっと停車していた」等の水掛け論が続く中で、どのようにして正しい過失割合を導き出し、納得のいく解決を目指せば良いのでしょうか。
基本的に鍵となるのは客観的な証拠であり、その代表格はドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像です。
もっとも、本稿では、訴訟において相手方から提出された防犯カメラ映像と、それを基に作成された「鑑定書」の信用性を否定することに成功し、過失割合を有利に修正できた事例も紹介いたします。
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このページの目次
1.駐車場内の事故における過失割合の考え方
駐車場内の事故における過失割合を検討するにあたっては、東京地裁民事交通訴訟研究会が編集した別冊判例タイムズ38号(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準【全訂第5版】)が重要な参考資料となります。
この判例タイムズには、様々な駐車場内の事故類型について、基本となる過失割合が示されています。
四輪車同士の事故については、3つの事故類型が定められています。
⑴ 通路の交差部分における四輪車同士の出会い頭事故【判例タイムズ334図】
基本過失割合は、直進又は右左折のために進入した車(Ⓐ)50%:直進又は右左折のため交差通路から進入した(Ⓑ)50%となります。

これは、交差部分に進入した四輪車同士の出会い頭の衝突事故が発生した場合、原則として、双方が同等の責任を負うとされているためです。
⑵ 通路を進行する四輪車と駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故【判例タイムズ335図】
基本過失割合は、通路進行車30%(Ⓐ):駐車区画退出車(Ⓑ)70%となります。

これは、通路進行車の方が優先であり、駐車区画退出車の方が重い注意義務が課されているため、事故が発生した場合は、原則として駐車区画退出車が相対的に重い過失責任を負うとされているためです。
⑶ 通路を進行する四輪車と通路から駐車区画に進入しようとする四輪車との事故【判例タイムズ336図】
基本過失割合は、通路進行車80%(Ⓐ):駐車区画進入車(Ⓑ)20%となります。

これは、駐車場の特性上、駐車区画進入車が駐車行為に入っている場合には駐車区画進入車が優先となり、通路進行車の方が重い注意義務が課されているため、事故が発生した場合は、原則として通路進行車が相対的に重い過失責任を負うとされているためです。
もっとも、これらの基本過失割合は、あくまで「スタートライン」に過ぎません。
実際は、「修正要素」が加味されて最終的な過失割合が決定されるためです。
また、そもそも、これらの基本過失割合を適用すべきか否かが問題になることがあります。
例えば、通路を進行する四輪車と駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との事故(【判例タイムズ335図】)であったとしても、通路進行車が急制動の措置をとっても停止できない距離に近づいた段階で駐車区画退出車が通路への進入を開始した場合は、基本過失割合(通路進行車30%:駐車区画退出車70%)によらず、通路進行車の過失は問われるべきではない(過失0%)とする考え方もあるところです。
2.過失割合が慰謝料に与える影響
過失割合が変わると、慰謝料・治療費・休業損害といった損害賠償額に直接影響します。
① 過失割合による金額差の具体例
例えば、慰謝料300万円が認定された場合でも、過失割合が20%であれば被害者が実際に受け取れる金額は240万円に減額されます。
さらに、過失割合が30%に上がると210万円となり、1割の違いで数十万円もの差が生じます。
このように、過失割合の修正は慰謝料の増減に直結するため、交渉や裁判において極めて重要な争点となります。
② 後遺障害・逸失利益がある場合の影響
後遺障害が認定された場合や逸失利益が発生するケースでは、過失割合の修正がさらに大きな金額差を生み出します。
例えば、後遺障害等級が認められた場合の賠償額は数百万円から数千万円に及ぶこともあり、過失割合が1割変わるだけで数百万円単位の増減となることもあります。
したがって、後遺障害や逸失利益が関わる事案では、弁護士の専門的な判断を得ながら適正な過失割合を主張することが極めて重要です。
3.保険会社との示談交渉の流れと注意点
交通事故後は、まず任意保険会社から示談金額が提示されます。
しかし、この提示額は適正な水準(裁判所基準)よりかなり低いことが多いのが実情です。
被害者側が正しい計算方法や基準を知らなければ、不当に低い金額で解決してしまう可能性があります。
弁護士に依頼すれば、交渉や裁判で適正な額を請求できるため、結果として大幅に増額されるケースも少なくありません。
4.弁護士に依頼するメリットと費用対効果
弁護士に依頼する最大のメリットは、損害賠償請求額を適正な水準に近づけられる点です。
多くの法律事務所では交通事故の相談を無料で受け付けており、着手金なし・成功報酬型で依頼できる場合もあります。
弁護士費用が発生しても、最終的な慰謝料や休業損害が増額されれば被害者にとって大きなメリットとなります。
5.客観的証拠の代表格であるドライブレコーダー映像・防犯カメラ映像
交通事故事件において、ドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像は非常に重要な資料です。
なぜなら、ドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像は、当事者の記憶や主観に頼ることなく、事故の状況が客観的に記録されているためです。
特に、以下のような場面でその真価を発揮します。
① 事故発生の瞬間
衝突時の映像は、接触の角度や衝撃の強さを正確に記録します。
② 当事者間の主張の食い違い
相手方から「急ブレーキをかけた」「猛スピードだった」など、事実と異なる主張をされた場合、ドライブレコーダー映像が反論の決定的な証拠となります。
③ 加害者特定の困難な事故
当て逃げ事故や、後方からの追突事故など、加害者の特定が難しい場合でも、ドライブレコーダー映像から車種やナンバープレートを特定できる可能性があります。
しかし、ドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像は万能ではありません。
映像が不鮮明であったり、複数の車両や歩行者が絡む複雑な状況では、映像解析なしで正確に分析することは困難です。
また、相手方から「映像だけでは速度はわからない」などと反論されるリスクもあります。
こうした事態を回避し、より説得力のある証拠を提示するために、専門業者による映像解析を依頼する方もいらっしゃいます。
6.専門業者による鑑定書
ドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像の解析を専門とする業者は、単なる映像の再生・提示にとどまらず、以下のような分析を行います。
① フレームごとの詳細な解析
1秒間に数十コマという高速で記録された映像を、コマ送りで詳細に分析します。
これにより、事故発生の瞬間の車両の動きや、ブレーキランプの点灯タイミングなどを正確に把握しようとします。
② 速度の特定
映像内に映り込んでいる物体(道路標識、白線、隣の車両など)との相対的な動きを解析し、衝突時の正確な速度を算出します。
これは、相手方の「猛スピードだった」という主張を覆す上で重要な分析となります。
③ デジタル処理による映像補正
映像のブレやノイズを除去し、ナンバープレートや信号の色などを鮮明にします。
これにより、より正確な事実関係の確認が可能となります。
④ 専門的な意見書の作成
これらの分析結果を、詳細な図やグラフ、そして専門家の見解を添えた鑑定書としてまとめます。
この鑑定書は、裁判所や保険会社に対し、ドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像を補強するために提出されることがあります。
7.鑑定書に基づく相手方主張を排斥し過失割合を有利に修正できた事例
⑴ はじめに
上で客観的証拠の重要性をご説明しましたが、ドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像の鑑定書も万能ではありません。
以下では、訴訟において、鑑定書に基づく相手方主張を排斥し、過失割合を有利に修正できた事例を紹介いたします。
⑵ 今回の依頼者
今回の依頼者は、コンビニの駐車場内において、自動車を運転して通路を進行していました。
前方では相手車両も通路を進行していましたが、通路左側の駐車区画に進入し、全ての車輪が駐車区画に収まりました。
そのため、依頼者は、引き続き通路を進行していたところ、駐車区画内にいた相手車両が後退を開始し、依頼者の車両と衝突するに至りました。
今回の事故は、先程紹介した3つの類型のうち、一見すると通路を進行する四輪車と通路から駐車区画に進入しようとする四輪車との事故【判例タイムズ336図】に該当します。
そのため、基本過失割合は、通路進行車である依頼者80%:駐車区画進入車である相手方20%になりそうです。
しかしながら、「・・駐車区画進入車の全ての車輪がいったん駐車区画内に収まった後に、駐車位置の修正等のため、再発進して通路に進入する場合は、本基準によらず、【335図】の基準を参考にして過失相殺率を検討すべきである。」との考え方があります。
【335図】の基準とは、先程紹介した3つの類型のうち(通路進行車30%:駐車区画退出車70%)を指します。
そのため、本件においては、【336図】の基本過失割合(80:20)を適用すべきではなく、【335図】の基本過失割合(30:70)を適用すべき旨の主張を展開しました。
⑶ 相手方の主張~判例タイムズ336図で過失割合80:20~
相手方は、「そもそも通路左側の駐車区画には進入していない」と主張し、その証拠として防犯カメラ映像と、解析業者が作成した鑑定書を証拠として提出しました。
たしかに、防犯カメラ映像に映っている車両は、通路左側の駐車区画には進入していないようにも見えました。
しかしながら、防犯カメラ映像に映っている車両は著しく不鮮明であったことから、そもそも本件事故の映像ではないとの反論を展開しました。
また、鑑定書に記載された事故状況には、相手車両が切り返しのために停車してから衝突するまで約40cmしか後退していなかったような記載がなされていました。
これは、相手車両の速度が殆ど出ていない状態で依頼者の車両に接触したことを示しますが、依頼者の車両の損傷箇所が大きく凹んでいることと明らかに矛盾する旨の反論も展開しました。
⑷ 訴訟の結果~過失割合が逆転~
裁判官からは、通路を進行する四輪車と通路から駐車区画に進入しようとする四輪車との事故に関する基本過失割合(判例タイムズ336図。駐車区画進入車20:通路進行車80)を参考にするのは相当ではなく、相手車両の過失の方が大きいとの心証が示されました。
具体的には、過失割合を依頼者30%:相手方70%とする和解案が裁判官から示され、最終的に双方が了承したため、同和解案にて和解が成立しました。
この過失割合の修正により、依頼者が受け取れる慰謝料の金額は、当初保険会社から提示されていた額よりも約50万円増額されました。
過失割合の見直しが、最終的な損害賠償額に大きな影響を与える典型的な事例です。
通路を進行する四輪車と通路から駐車区画に進入しようとする四輪車との事故に関する基本過失割合(判例タイムズ336図)が、通路進行車80%:駐車区画進入車20%であることを踏まえると、依頼者に有利な形で過失割合の大小が逆転したことになります。
8.まとめ
このように、ドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像は、単なる記録に留まらず、専門家による解析を通じて強力な証拠になり得る一方、必ずそのとおりに認定される訳ではありません。
鑑定書を作成してもらうには費用が発生するため、弁護士と相談しながら、費用対効果を慎重に判断することが重要です。
また、安易に相手方の主張に妥協することなく、客観的な根拠を積み重ねていくことで、より公正で納得のいく解決に繋がる可能性が高まります。
ドライブレコーダー映像や防犯カメラ映像を「活かす」という視点が、交通事故の解決においてますます重要になっていると言えるでしょう。
交通事故の過失割合や慰謝料は、保険会社の提示をそのまま受け入れると大きな損をしてしまう可能性があります。
優誠法律事務所では交通事故被害者のご相談を【無料】で承っております。
全国対応ですので、お気軽にご相談ください。
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また、公式ブログにも過失割合を修正できた交通事故事例も多数ご紹介しておりますので、そちらもご覧ください。
過失割合を逆転させた事例~当事務所の弁護士が駐車場内の交通事故で0:100の判決を獲得~
過失割合を逆転させた事例~丁字路交差点で右折車の右側からバイクが追い抜こうとした際の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号なし・相手方に一時停止あり)の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号なし・一時停止なし・同幅員(左方優先の交差点))の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号あり・双方青信号・右直事故)の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号あり・双方青信号)での右直事故の右折車側~
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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