手首(手関節)の可動域制限は何級?橈骨遠位端骨折の後遺障害と慰謝料を弁護士が解説

交通事故で橈骨遠位端骨折の怪我を負い、治療が終わっても、手首(手関節)が思うように曲がらない、反らせない・・・。

こうした「可動域制限」が残ると、後遺障害等級が認定される可能性があります。

ただし、「手首の動く範囲が狭くなっていれば、等級が認定される」というわけではありません。

可動域制限で後遺障害の認定を受けるためには、その原因となる骨や関節の損傷が、X線・CT・MRIなどの画像で確認できること(画像所見による裏付け)が重要です。

この記事では、橈骨遠位端骨折による手関節(手首)の可動域制限について、等級の認定基準、画像所見の重要性、測定や診断書の注意点、慰謝料・逸失利益の考え方を解説します。

併せて、当事務所の弁護士が担当した10級10号の事例もご紹介します。

この記事のポイント

  • 手関節の可動域制限は、健側(ケガをしていない側)と比べて、可動域が1/2以下なら10級10号、3/4以下なら12級6号の後遺障害等級が認定される可能性があります。
  • 可動域が制限されているだけでは後遺障害は認定されません。制限の原因となる器質的な損傷を、X線・CT・MRIなどの画像所見で裏付ける必要があります。
  • 画像を撮るだけでなく、主治医に画像所見を確認してもらい、後遺障害診断書に反映してもらうことが大切です。
  • 10級10号の後遺障害慰謝料は、弁護士基準で550万円(自賠責基準は190万円)です。慰謝料とは別に、逸失利益も請求できます。

このページの目次

1.手関節の可動域制限とは

⑴手首の構造と動き

手関節(手首の関節)は、前腕の橈骨(親指側の骨)と、手の付け根にある手根骨との間の関節です。

手首は、次のような方向に動きます。

動き内容参考可動域角度
屈曲(掌屈)(主要運動)手のひら側へ曲げる動き90度
伸展(背屈)(主要運動)手の甲側へ反らす動き70度
橈屈(参考運動)親指側へ倒す動き25度
尺屈(参考運動)小指側へ倒す動き55度

後遺障害の認定では、原則として、主要運動である屈曲と伸展の可動域が評価の中心になります。

⑵橈骨遠位端骨折で可動域制限が残る主な原因

橈骨遠位端骨折は、手首の可動域制限の原因として代表的な骨折です。

治療後に可動域制限が残る原因には、次のようなものがあります。

  • 骨が変形したままくっついた(変形治癒)、または骨が短くなってしまった
  • 関節の面にずれ(段差やすき間)が残った
  • 骨がうまくくっつかなかった(癒合不全)
  • 関節の周りの組織が固くなった(拘縮)
  • 靱帯やTFCC(三角線維軟骨複合体)などの損傷

2.手関節の可動域制限で認定される後遺障害等級

手関節の機能障害は、次の3つの等級に区分されます。

等級認定基準可動域の目安(健側との比較)後遺障害慰謝料(自賠責基準)※後遺障害慰謝料(弁護士基準)
8級6号1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したものほとんど動かない(強直またはそれに近い状態)331万円830万円
10級10号1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの1/2以下に制限190万円550万円
12級6号1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの3/4以下に制限94万円290万円

※自賠責基準は、2020年4月1日以降の事故の場合です。

手関節では、屈曲と伸展を合計した可動域を、健側と比較します。

たとえば、健側が参考可動域角度どおり(屈曲90度+伸展70度=160度)であれば、合計が120度以下で12級6号、80度以下で10級10号が目安になります。

実際には、健側の実測値と比較して判断されます。

3.可動域制限だけでは等級は認定されない:画像所見による裏付けが必要

⑴「可動域制限あれば必ず認定される」は誤解です

「手首が動かないのだから、後遺障害に認定されるはずだ」と考える方は少なくありません。

しかし、可動域制限の後遺障害では、可動域が制限されているという事実だけでは足りず、制限の原因となる器質的な損傷(骨や関節などの物理的な損傷や変化)が、画像などで医学的に証明できることが求められます。

痛みや、動かすことへの不安などで動かせない場合や、画像で原因が確認できない場合には、可動域制限そのものは評価されず、痛みやしびれなどの神経症状(14級9号・12級13号)にとどまる可能性があります。

認定されるもの後遺障害慰謝料(弁護士基準)労働能力喪失率
手関節の機能障害 10級10号550万円27%
神経症状 14級9号110万円5%

このように、可動域制限が評価されるかどうかで、賠償額は大きく変わります。

⑵画像検査で確認される所見の例

橈骨遠位端骨折では、次のような検査で、可動域制限の原因となる所見を確認します。

どの検査が必要かは、骨折の状態や症状によって異なり、主治医の判断になります。

検査わかること確認される所見の例
X線(レントゲン)骨の位置や形、癒合の状態、関節の隙間など橈骨の短縮や傾きの変化(変形治癒)、癒合不全、関節面の不整、外傷後の関節の変化
CT骨や関節面の細かい形を、立体的に確認できる関節面の段差やすき間、骨片のずれ、癒合の程度
MRI靱帯・軟骨・腱など、骨以外の組織や、骨の内部の状態TFCC損傷、手根骨どうしをつなぐ靱帯の損傷、骨の内部の変化

なお、拘縮のように画像に写りにくい変化もあります。

その場合は、他の所見と併せて、可動域制限の原因を説明していく必要があります。

⑶画像所見を医師に確認してもらうことが重要

画像を撮影しただけでは十分とはいえません。

画像に写っている所見が、可動域制限の原因であることを、主治医に確認してもらい、後遺障害診断書に反映してもらうことが大切です。

次の点に注意しましょう。

  • 症状固定の前に、主治医に確認する:可動域制限の原因が、画像でどのように確認できるかを、症状固定の前に相談します。
  • 症状固定の時期に近い画像を撮影してもらう:骨癒合の状態、変形、関節面の状態などが、現在どうなっているかを確認できる画像が必要です。事故直後や手術前後の画像とあわせて、経過を時系列で示せるようにしておきます。
  • 画像所見を診断書に具体的に記載してもらう:後遺障害診断書の「他覚症状および検査結果」欄に、骨折部位、癒合の状態、変形の有無や程度、関節面の状態など、可動域制限の原因となる所見を具体的に書いてもらいます。
  • 画像を申請書類に添付する:後遺障害等級の申請では、診断書だけでなく、X線・CT・MRIなどの画像(CD-Rなど)を提出します。相手方保険会社による事前認定では、提出される資料が必要最低限にとどまる可能性があるため、被害者請求を検討しましょう。

4.可動域の測定方法と診断書の注意点

⑴測定は「他動値」が原則、健側との比較で評価

可動域は、次の点に注意して測定します。

  • 他動値が原則:医師や理学療法士が手首を動かしたときの角度(他動値)が、評価の基準になります。自分で動かした角度(自動値)は、運動神経の麻痺や腱の断裂などで動かせない場合など、例外的に用いられます。
  • 角度計で測定:角度計(ゴニオメーター)を用いて、決められた方法で測定します。
  • 健側と比較する:ケガをしていない側の手首も測定し、患側と比較します。

主要運動の可動域が基準をわずかに上回る場合には、参考運動(橈屈・尺屈)も考慮され、参考運動が基準以下に制限されていれば、等級が認められることがあります。

そのため、参考運動も測定してもらうことが大切です。

⑵測定値の食い違いに注意

後遺障害診断書の測定値が、治療中の診療録や、保険会社から主治医への医療照会の回答に記載された測定値と食い違っていると、保険会社が測定値の信頼性を争い、示談が進まなくなることがあります。

診断書を受け取ったら、提出の前に、測定方法(角度計を使ったか)や測定値を確認しましょう。

5.10級10号の賠償額はいくら?

手関節の可動域制限で10級10号が認定されると、次のような賠償を請求できます。

項目内容10級10号の目安
後遺障害慰謝料自賠責基準・任意保険基準・裁判基準(弁護士基準)がある550万円(弁護士基準)
逸失利益基礎収入×労働能力喪失率(27%)×ライプニッツ係数年収400万円、喪失期間20年((47歳)の場合:約1,607万円※
自賠責保険からの支払い慰謝料と逸失利益を合わせた限度額461万円(自賠責基準は190万円)

※逸失利益は、400万円×0.27×14.8775(20年のライプニッツ係数)で計算した例です。

実際の労働能力喪失期間は、症状固定時の年齢によって変わります。

自賠責保険からは、等級ごとに定められた限度額(10級は461万円)が支払われます。

弁護士に依頼した場合は、裁判所基準(弁護士基準)と自賠責限度額の差額を、加害者側の任意保険会社に請求します。

6.解決事例:橈骨遠位端骨折で10級10号が認定され、合計1,561万円を獲得したケース

※この事例は、当事務所の弁護士が担当した事例です。個人が特定されないよう、内容を一部編集しています。結果は事案によって異なり、同様の結果をお約束するものではありません。

⑴事案の概要

項目内容
事故の状況福岡県内の交差点で横断歩道を歩行中に、右折してきたタクシーと衝突
ケガ橈骨遠位端骨折など
治療複数の医療機関を受診(入院含む)して約6か月後に症状固定
後遺障害手関節の可動域制限について10級10号が認定
主な争点①可動域の測定値の食い違い ②逸失利益(60歳以降の基礎収入)
結果自賠責保険(被害者請求)から461万円、訴訟上の和解で1100万円、合計1561万円(傷害部分は約180万円で先行示談しているので、賠償金合計額は1740万円)

⑵争点1:可動域の測定値の食い違い

本件では、10級10号の後遺障害認定を受けた後、加害者側の任意保険会社に損害賠償を請求しましたが、保険会社は5か月間、具体的な回答をしませんでした。

その理由とされたのが、可動域の測定値の食い違いです。

保険会社が治療中に主治医へ行った医療照会への回答書に記載された測定値と、後遺障害診断書の測定値が異なるため、慎重に判断する必要がある、というものでした。

そこで主治医に確認したところ、医療照会に回答した際の測定は目測で、器具を使って正確に測定したのは後遺障害診断書を作成したときだけであり、診断書の測定値が正確である、との回答を書面で得ることができました。

それでも保険会社が支払いに応じなかったため、訴訟を提起しました。

傷害部分は先に示談が成立していたため、訴訟では、後遺障害部分(逸失利益と後遺障害慰謝料など)のみを請求しました。

⑶争点2:逸失利益(60歳以降の基礎収入)

訴訟では、保険会社側から、逸失利益について「60歳以降の基礎収入を下げるべきだ」との反論がありました。

最終的に、裁判所が60歳以降については平均賃金を基礎収入として採用して和解を促すこととなり、1,100万円で訴訟上の和解が成立しました。

⑷結果

  • 自賠責保険への被害者請求(訴訟前):461万円(10級の後遺障害分)
  • 訴訟での和解:1,100万円
  • 合計:1,561万円

なお、この事案は事故当時の法定利率(年5%)で逸失利益を計算しました。

2020年4月1日以降の事故に適用される現在の年3%で計算し直すと、逸失利益は約1,591万円になります(事故当時の年5%では約1,352万円)。

⑸この事例のポイント

  • 可動域の測定値は、測定方法(角度計か目測か)や測定した時期まで含めて、診療録・診断書・回答書の間で整合していることが重要です。食い違いがある場合は、主治医に確認し、書面で明確にしておくことが有効です。
  • 後遺障害の等級が認定された後でも、逸失利益の基礎収入や喪失期間をめぐって争いになることがあります。
  • 認定後も交渉が進まない場合は、訴訟を選択することもあります。

7.保険会社が可動域の測定値を争ってきたときの対処法

  • 主治医に確認する:測定の方法(角度計か目測か)、他動か自動か、測定した日、測定した人(医師か理学療法士か)を確認します。
  • 書面で明確にしてもらう:食い違いの理由や、どの測定値が正確かを、診断書や回答書などの書面にしてもらいます。
  • 診療録・リハビリ記録を確認する:可動域の経過を、時系列で確認します。
  • 画像所見を整理する:可動域制限の原因となる器質的な損傷が、画像でどのように確認できるかを整理します。
  • 異議申立てや訴訟を検討する:後遺障害の認定結果に不服がある場合は、異議申立てができます。また事案によっては訴訟も選択肢になります。

8.後遺障害の認定に向けて治療中に気をつけたいこと

  • 通院とリハビリを続ける:医師の指示に従い、必要な治療とリハビリを継続します。
  • 早めに画像検査を受ける:症状や骨折の状態に応じて、X線に加えて、CTやMRIが必要かどうかを主治医に相談します。
  • 症状固定の前に主治医と相談する:後遺障害診断書に、可動域の測定値と画像所見を、それぞれ記載してもらいたい旨を伝えます。
  • 健側も測定してもらう:可動域は、健側との比較で評価されます。
  • 保険会社から治療費の打ち切りを打診されてもすぐに応じない:症状固定の時期は、主治医が医学的に判断するものです(ただ、訴訟では、裁判官が提出される証拠から妥当な治療期間を判断します。)。保険会社が早期に治療費を打ち切ろうとすることがありますが、症状が残存している場合には、主治医に相談して症状固定時期についての見解を示してもらい、保険会社と交渉するべきといえます。

9.弁護士に依頼するメリット

  • 診断書と画像所見の整合を確認できる:弁護士が、後遺障害診断書に可動域の測定値と画像所見が適切に反映されているかを確認して、必要に応じて医師に追記・修正を依頼します。
  • 被害者請求を任せられる:弁護士が、画像や必要書類をそろえて、後遺障害等級の申請を被害者請求で行います。
  • 認定結果に不服があるときに異議申立てができる:弁護士が、必要に応じて新たな医証を取り付け、異議申立てを行います。
  • 逸失利益を適切に主張できる:弁護士が、適切な逸失利益を算定し、後遺障害による仕事や収入への影響を具体的な資料で主張します。
  • 示談交渉や訴訟を任せられる:保険会社とのやり取りを全て弁護士に任せることで、負担が減り、治療に専念できます。

なお、弁護士に依頼すれば必ず後遺障害等級が認定されるというわけではなく、結果は事案によって異なりますが、相手方保険会社に手続きを任せる事前認定よりは認定される可能性が上がると考えられます。

ご自身やご家族が加入している保険に「弁護士費用特約」が付いている場合、弁護士費用や法律相談料を保険会社が負担してくれます。

一般に、弁護士費用は300万円、法律相談料は10万円までが上限とされていますので(契約内容により異なります)、多くの場合で自己負担をすることなく、弁護士に依頼することができます。

10.よくある質問

Q1. 手首の可動域が制限されていれば、必ず後遺障害に認定されますか?

いいえ、必ずではありません。可動域制限の原因となる骨や関節の損傷が、X線・CT・MRIなどの画像で確認できることが重要です。画像で原因が確認できない場合は、可動域制限が評価されず、神経症状にとどまる可能性があります。

Q2. 可動域の制限が健側の1/2以下にならない場合は、どうなりますか?

1/2以下でなくても、健側の3/4以下に制限されている場合は、12級6号が認定される可能性があります。また、主要運動の可動域が基準をわずかに上回る場合には、参考運動(橈屈・尺屈)も考慮されます。

Q3. 自分で動かせる範囲と、医師が動かしたときの範囲では、どちらで評価されますか?

原則として、医師などが動かしたときの角度(他動値)で評価されます。運動神経の麻痺や腱の断裂などで自分では動かせない場合には、自動値が用いられることがあります。

Q4. リハビリを頑張って可動域が改善すると、等級に不利になりますか?

後遺障害の認定は、症状固定時の状態で判断されます。可動域を改善するためのリハビリは、治療として大切です。等級のことを考えて、リハビリを控えたり、測定のときにわざと動かさなかったりすることは避けてください。医師の指示に従って治療を続けることが、結果として適切な評価につながります。

Q5. 診断書の測定値が、保険会社の資料と違うと言われました。どうすればよいですか?

まず、主治医に測定の方法や時期を確認しましょう。その上で、どの測定値が正確なのかを、書面で明確にしてもらうことが有効です。対応に迷う場合は、早めに弁護士へご相談ください。

11.まとめ

  • 手関節の可動域制限は、健側と比べて1/2以下で10級10号、3/4以下で12級6号の後遺障害等級が認定される可能性があります。
  • 可動域が制限されているだけでは認定されず、X線・CT・MRIなどの画像所見による裏付けが必要です。
  • 画像所見は、主治医に確認してもらい、後遺障害診断書に反映してもらうことが大切です。
  • 10級10号では、後遺障害慰謝料(弁護士基準550万円)に加えて、逸失利益も請求できます。

手首の可動域制限や後遺障害の認定でお悩みの方は、弁護士法人優誠法律事務所にご相談ください

橈骨遠位端骨折で手首が動かしにくい方、後遺障害の等級認定に不安のある方、保険会社の提示額に疑問のある方は、お気軽にご相談ください。

【関連記事】

投稿者プロフィール

弁護士甘利禎康の写真
 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベストベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

keyboard_arrow_up

0120570670 問い合わせバナー 無料法律相談について