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交通事故で肩の腱板損傷に…慰謝料や後遺障害認定のポイントを弁護士が解説!
今回のテーマは、交通事故で肩腱板損傷を負ってしまった場合の損害賠償についてです。
交通事故は、予期せぬ瞬間に私たちの日常生活を大きく変えてしまう可能性があります。交通事故による負傷の中でも、肩関節周辺の痛みや機能障害を引き起こす「肩腱板損傷」は、その後の生活に大きな影響を与えることがあります。
今回は、交通事故による肩腱板損傷について、その基礎知識から、診断・治療、後遺障害の認定、損害論(慰謝料や逸失利益)、そして弁護士の役割までを詳しく解説します。
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1.交通事故における肩腱板損傷とは
交通事故によって肩に強い衝撃が加わると、肩腱板を損傷する可能性があります。
ここでは、まず肩腱板の構造と機能、主な損傷の原因、そして交通事故における症状と影響について解説します。
(1)肩腱板の構造と機能
肩腱板とは、肩関節を構成する4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋及び小円筋)の腱が集まったものです。
「腱」とは、筋肉の先端部で繊維が細くなって線維化して骨に付着している部分をいい、つまり筋肉と骨とを繋いでいる組織であると考えてください。
これらの腱は、上腕骨頭(腕の骨の先端)を肩甲骨の関節窩(関節を構成する凹状のくぼみ部分)に安定させ、腕を上げたり、回したりする際の滑らかな動きを支える重要な役割を担っています。
腱板が正常に機能することで、私たちは日常生活における様々な動作をスムーズに行うことができます。
(2)主な損傷の原因
肩腱板損傷の主な原因は、加齢による腱の変性、使いすぎ(オーバーユース)、転倒やスポーツなどによる急激な外力などが挙げられます。
交通事故においては、衝突時の衝撃や、体を支えようとした際の無理な力が肩関節に加わることで、腱板が断裂したり、部分的に損傷したりすることがあります。
特に、直接的な打撃だけでなく、予測できない体勢での衝撃は、腱板に大きな負担を与える可能性があります。
ただし、一般的にはいわゆるシートベルト損傷によって、靱帯や腱が切れるということは珍しいとされており、二輪車や自転車などで転倒しているかどうかなどの受傷機転が明確に存在することが重要です。
(3)交通事故での症状と影響
交通事故による肩腱板損傷の症状は、損傷の程度によって様々です。
軽度の場合には、肩の痛みやわずかな可動域制限が見られる程度ですが、重度の場合には、激しい痛みで腕を上げることが困難になったり、夜間に痛みが強くなったりすることがあります。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 肩の痛み(安静時痛、運動時痛、夜間痛)
- 腕を上げる際の痛みやひっかかり感
- 肩関節の可動域制限(特に腕を上げる、外に開く、内側に回す動作が困難になる)
- 肩の力が入りにくい、脱力感
- 特定の動作での肩の不安定感
これらの症状は、日常生活における様々な動作、例えば着替え、入浴、食事、車の運転などを困難にするだけでなく、時には睡眠障害を引き起こし、精神的な負担となることもあります。
2.腱板損傷の診断と治療
交通事故による肩の痛みを感じたら、早期に整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
ここでは、腱板損傷の診断方法と検査内容、治療法の選択肢、そして肩関節の可動域制限について解説します。
(1)診断方法と検査内容
腱板損傷の診断のためには、一般的にMRIによる画像検査が必要です。
なぜなら、いわゆるレントゲンやCTなどのX線画像では、骨の状態しかわからないため、骨折を伴わない場合にはそれ以上の説明ができません。
靱帯や腱の断裂や損傷については、MRIでなければ映らないため、靱帯や腱の断裂や損傷が疑われる場合には一般的にMRIによる画像検査が行われます。
なお、肩腱板に損傷や炎症がある場合には、MRIのT2強調画像で損傷や炎症部位が白く(高信号で)映ります。
MRI検査結果等を総合的に判断し、腱板損傷の有無、程度、損傷部位などが特定されます。
ただ、事故から時間が経過してしまうと、事故との因果関係を疑われることがありますので、早期にMRI検査を行う必要があります。
(2)治療法の選択肢
腱板損傷の治療法は、損傷の程度や患者さんの年齢、活動レベルなどによって異なります。
主な治療法としては、保存療法と手術療法があります。
【保存療法】
手術を行わずに、自然治癒力を促したり、症状の緩和を図る治療法です。
- 安静: 損傷した腱板の負担を軽減するため、肩関節を安静に保ちます。
- 薬物療法: 痛みや炎症を抑えるために、鎮痛薬や湿布、内服薬などが用いられます。
- 注射療法: 痛みが強い場合には、局所麻酔薬やステロイド薬を肩関節周囲に注射することがあります。
- リハビリテーション: 痛みが落ち着いてきたら、肩関節の可動域を改善し、周囲の筋肉を強化するための運動療法を行います。理学療法士の指導のもと、段階的に運動を進めていくことが重要です。
【手術療法】
保存療法で十分な改善が見られない場合や、腱板の完全断裂など重度の損傷の場合には、手術が検討されます。手術の方法は、関節鏡視下手術(内視鏡を用いた手術)や、より開放的な手術などがあります。手術の目的は、断裂した腱板を修復し、肩関節の機能を回復させることです。術後も、リハビリテーションを継続して行うことが、良好な回復のためには不可欠です。
(3)肩関節の可動域制限について
腱は筋肉の収縮を骨に伝える役割がありますので、腱に損傷が生じると、関節の可動域に制限が生じることがあります。
なお、先に述べたとおり肩腱板は、肩関節を構成する4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋及び小円筋)の腱が集まったものですが、交通事故による損傷においては、そのほとんどが棘上筋腱損傷であると言われています。
腱板損傷によって生じる肩関節の可動域制限は、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
特に、腕を上げる、回すといった動作が困難になるため、着替えや洗髪、高い場所の物を取るなどの動作に苦労することがあるでしょう。
3.肩腱板損傷の後遺障害とその認定
交通事故による肩腱板損傷は、適切な治療を行っても、後遺障害が残ってしまうことがあります。
ここでは、後遺障害認定の必要性、後遺障害等級の説明、そして認定を受けるための条件について解説します。
(1)後遺障害認定の必要性
交通事故による怪我で後遺障害が残った場合、加害者の加入する自賠責保険に対して請求を行うことにより、その程度に応じて後遺障害等級が認定されることがあります。
後遺障害等級が認定されると、その等級に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益といった損害賠償を請求することができます。
肩腱板損傷の場合、肩関節の機能障害の程度によって後遺障害等級が認定される可能性があります。
適切な賠償を受けるためには、後遺障害認定の手続きを行うことが重要です。
(2)後遺障害等級の説明
肩関節の機能障害に関する後遺障害等級は、主に以下の3つに分類されます。
【第8級6号】 肩関節の用を廃したもの
「肩関節の用を廃した」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 関節が強直したもの
「関節が強直した」とは、関節の完全強直またはこれに近い状態にあるものとして、関節可動域が原則として健側(怪我をしていない側)の関節可動域角度の10%程度以下に制限されているものを言います。また、肩関節においては、肩甲上腕関節が癒合し骨製強直していることがX線写真により確認できるものを含みます。
- 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換し、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
【第10級10号】 肩関節の機能に著しい障害を残すもの
「肩関節の機能に著しい障害を残す」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 肩関節の可動域が健側の可動域確度の1/2以下に制限されているもの
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換し、上記第8級6号に該当しないもの
【第12級6号】肩関節の機能に障害を残すもの
・肩関節の可動域が健側の3/4以下に制限された場合をいいます。
これらの等級は、医師の診断書や関節の可動域測定の結果などに基づいて自賠責保険(損害保険料率算出機構の自賠責保険調査事務所)において判断されます。
(3)認定を受けるための条件
交通事故による肩腱板損傷で後遺障害の認定を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 交通事故と肩腱板損傷の因果関係が医学的に認められること: 事故の状況や受傷時の状態、その後の経過などから、肩腱板損傷が交通事故によって生じたものであると医学的に説明できる必要があります。
- 適切な治療を継続して行ったにもかかわらず、症状が改善せず、後遺症が残存していること: 漫然と治療を受けるのではなく、医師の指示に従い、必要な検査やリハビリテーションを継続して行うことが重要です。
- 残存した症状が、将来においても回復が見込めないと医学的に判断されること: 症状が一時的なものではなく、永続的なものであると医師が判断する必要があります。
- 後遺症の内容が、自賠責保険の後遺障害等級に該当するものであること: 提出された医学的な資料に基づいて、損害保険料率算出機構の自賠責保険調査事務所が各等級に該当するか否かを認定します。
後遺障害の認定を受けるためには、適切な診断書や検査結果などの医学的証拠を揃えることが重要です。
弁護士に相談することで、これらの手続きをスムーズに進めるためのアドバイスやサポートを受けることができます。
4.肩腱板損傷による後遺障害の損害賠償(慰謝料と逸失利益)
交通事故による肩腱板損傷で後遺障害が残った場合、慰謝料や逸失利益の請求を行うことができます。
ここでは、慰謝料の種類と実績、逸失利益とは何か、そして示談金の交渉と流れについて解説します。
(1)慰謝料の種類
交通事故における慰謝料には、主に以下の2種類があります。
- 入通院慰謝料: 怪我の治療のために、入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。入院期間や通院期間、治療内容などに基づいて算出されます。
- 後遺障害慰謝料: 後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に支払われる慰謝料です。後遺障害等級に応じて金額が定められており、等級が高いほど慰謝料の金額も高くなります。
慰謝料の算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、一般的に弁護士基準が最も高額になる傾向があります。
過去の裁判例などを参考に、個々の事案に応じた適切な慰謝料額を算定することが重要です。
なお、上記肩関節の機能障害に関する各後遺障害等級に該当する場合の弁護士基準(裁判基準)の一例を記すと以下のとおりです(地域や個別の事情によって異なる場合がありますのでご留意ください)。
- 第8級6号: 830万円
- 第10級10号: 550万円
- 第12級6号: 290万円
(2)逸失利益とは何か
逸失利益とは、後遺障害が残ったことにより、将来にわたって得られるはずだった収入が減少してしまう損害のことです。
肩腱板損傷による機能障害が、仕事に支障をきたし、収入の減少につながるとして逸失利益を請求することができます。
逸失利益の計算は、被害者の年齢、職業、事故前の収入、後遺障害等級などを考慮して行われます。
具体的には、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」という計算式を用いて算出されることが一般的です。
労働能力喪失率や労働能力喪失期間は、後遺障害等級に応じて定められています。
なお、こちらも一概には言えませんが、労働能力喪失期間は、始期を症状固定日として、その終期は原則として67歳として計算するのが一般的です。
また、上記肩関節の機能障害に関する各後遺障害等級に該当する場合の労働能力喪失率は一般的には以下の基準によって計算されます。
- 第8級6号: 45%
- 第10級10号: 27%
- 第12級6号: 14%
(3)示談金の交渉と流れ
交通事故による損害賠償金(慰謝料や逸失利益など)の支払いは、加害者側の保険会社との示談交渉によって決まることが一般的です。
保険会社は、自社の基準に基づいて損害額を提示してきますが、その金額が必ずしも適正とは限りません。
なお、弁護士が対応する場合の示談交渉の流れは以下のようになります。
- 損害額の算定: 治療費、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益など、発生した損害の総額を正確に算定します。
- 示談案の提示: 算定した損害額に基づいて、加害者側の保険会社に示談案を提示します。
- 交渉: 保険会社から提示された示談案(対案)に対して、増額交渉を行います。お互いの主張をぶつけ合い、合意点を探ります。
- 合意: 双方の合意が得られたら、示談書を作成し、示談が成立となります。
- 賠償金の支払い: 示談書に基づき、加害者側の保険会社から被害者へ賠償金が支払われます。
示談交渉は、法的な知識や交渉力が必要となるため、被害者自身で行うには負担が大きい場合があります。
弁護士に依頼することで、適切な損害額を算定し、有利な条件で示談を進めることが期待できます。
(4)解決の実績
ここでひとつ、解決事例をご紹介します。
【事案】
東京都内在住のAさん(40歳・会社員・年収約800万円)は、バイクで優先道路を走行中、路外から一時停止をせずに侵入してきた自動車と衝突しました。この事故により、Aさんは鎖骨骨折、肩腱板断裂などの重傷を負い、緊急搬送され手術を受けました。その後、約1年にわたりリハビリテーションを中心とした治療を継続されました。
【相談・依頼の経緯】
事故後、相手方保険会社から治療費や休業損害の支払いがありましたが、今後の後遺症や慰謝料について不安を感じたAさんは、当事務所の無料相談をご利用になりました。弁護士がAさんの状況を詳しくお伺いし、後遺障害等級認定の手続きや、適正な損害賠償額の請求についてサポートできることをご説明したところ、Aさんは正式に当事務所に依頼されました。
【弁護士の活動】
①後遺障害等級認定のサポート
Aさんの肩関節の可動域制限は著しく、日常生活や仕事にも支障をきたす可能性がありました。そこで、当事務所の弁護士は、Aさんの主治医と連携を取りながら、後遺障害等級認定に必要な医学的な資料を収集し、適切な等級認定を受けられるよう尽力しました。その結果、Aさんは後遺障害等級10級10号の認定を受けることができました。
②損害賠償請求と示談交渉
後遺障害等級が認定されたことを受け、当事務所は相手方保険会社に対し、以下の項目について損害賠償請求を行いました。※ただし、Aさんにも過失がありましたので、請求できたのは以下の損害に対する相手方の過失割合分となります。
- 治療費: 約200万円
- 交通費: 約20万円
- 入通院慰謝料: 約1年間の治療期間に対する慰謝料
- 後遺障害慰謝料: 後遺障害等級10級相当の慰謝料550万円
- 休業損害: 約3ヶ月の休業期間に対する損害
- 逸失利益: 後遺障害による将来の収入減少に対する損害(約3969万円)
相手方保険会社は当初、自社の基準に基づいた低い金額を提示してきました。しかし、当事務所の弁護士は裁判基準(弁護士基準)に基づいた適正な損害賠償額を算定し、粘り強く交渉を行いました。
特に、後遺障害慰謝料と逸失利益については、過去の裁判例やAさんの年齢、年収などを考慮し、詳細な主張を展開しました。
肩関節の機能障害がAさんの仕事に与える影響についても具体的に説明し、将来の収入減少の可能性を強く訴えました。
③最終的な示談成立
数回にわたる交渉の結果、最終的に相手方保険会社は当事務所の主張をほぼ全面的に認め、合計で約3000万円(自賠責保険金などの既払い金を除く)の示談金が支払われることで合意に至りました。
Aさんは、当初保険会社から説明を受けていた金額よりも大幅に増額された賠償金を受け取ることができ、今後の生活への不安を大きく軽減することができました。
5.交通事故被害者のための弁護士の役割
交通事故による肩腱板損傷は、被害者に大きな精神的・経済的負担を与えます。
弁護士は、このような被害者の被害に対して適切な賠償を得るために様々なサポートを行います。
ここでは、弁護士の選び方と相談方法、無料相談の活用方法、そして弁護士に依頼するメリットについて解説します。
(1)弁護士の選び方と相談方法
交通事故問題を専門とする弁護士を選ぶことが重要です。
ホームページや紹介などを通じて、交通事故の解決実績や専門知識を確認しましょう。
また、実際に相談してみて、親身になって話を聞いてくれるか、説明が丁寧で分かりやすいかなども判断材料となります。
弁護士への相談方法としては、電話、メール、オンライン相談、面談などがあります。
多くの法律事務所では、初回相談を無料で行っているため、まずは気軽に相談してみることをお勧めします。
相談の際には、事故の状況、怪我の状況、治療の経過、保険会社とのやり取りなど、できるだけ詳しく伝えることが大切です。
(2)無料相談の活用方法
無料相談は、弁護士に依頼するかどうかを検討する上で非常に有効な手段です。
無料相談を最大限に活用するために、以下の点に注意しましょう。
- 事前に相談内容を整理しておく: 聞きたいことや伝えたいことをメモにまとめておくと、限られた時間を有効に使えます。
- 関係書類を持参する: 事故証明書、診断書、保険会社の提示書など、関連する書類を持参すると、より具体的なアドバイスを受けることができます。
- 弁護士の経験や実績を確認する: 交通事故事件の解決経験や、特に肩腱板損傷のような事例の経験があるかなどを質問してみましょう。
- 費用体系について確認する: 弁護士に依頼した場合の費用(着手金、報酬金など)について、明確に説明を受けるようにしましょう。
(3)弁護士に依頼するメリット
交通事故の被害者が弁護士に依頼することには、以下のような多くのメリットがあります。
- 適正な損害賠償額の獲得: 弁護士は、法的な知識や過去の判例に基づいて、適正な損害賠償額を算定し、保険会社との交渉を有利に進めます。
- 煩雑な手続きからの解放: 示談交渉や後遺障害認定の手続きなど、複雑で時間のかかる作業を弁護士に任せることができます。
- 精神的な負担の軽減: 保険会社とのやり取りや、今後の見通しなどについて弁護士に相談することで、精神的な不安や負担を軽減することができます。
- 法的サポートによる安心感: 法的な専門家である弁護士がサポートすることで、安心して治療に専念することができます。
- 裁判になった場合の対応: 示談交渉が決裂し、裁判になった場合でも、弁護士が代理人として対応します。
交通事故による肩腱板損傷でお困りの方は、一人で悩まず、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士は、あなたの権利を守り、一日も早い問題解決のために尽力します。
私たち優誠法律事務所では、交通事故被害者の方からのご相談を初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで、交通事故・離婚・相続・労働などの民事事件を数多く手がけてきました。今までの経験をご紹介しつつ、皆様がお困りになることが多い法律問題について、少しでも分かりやすくお伝えしていきます。
■経歴
2009年03月 法政大学法学部法律学科 卒業
2011年03月 中央大学法科大学院 修了
2011年09月 司法試験合格
2012年12月 最高裁判所司法研修所(千葉地方裁判所所属) 修了
2012年12月 ベリーベスト法律事務所 入所
2020年06月 独立して都内に事務所を開設
2021年3月 優誠法律事務所設立
2025年04月 他事務所への出向を経て優誠法律事務所に復帰
■著書
こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
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私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
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死亡交通事故における高齢者の死亡逸失利益の算定方法について解説!~給与収入と年金収入の両方がある場合~
今回のテーマは、死亡交通事故における死亡逸失利益の算定方法です。
交通事故の被害者が亡くなった場合、その遺族は被害者が将来得られたであろう利益を死亡逸失利益として請求することができます。
今回は、その死亡逸失利益の算定について、特に被害者が高齢者で、給与収入と年金収入の両方がある場合に、どのように考えるべきかを裁判例も紹介しながら解説していきます。
なお、死亡事故の場合には、死亡慰謝料なども請求できます。
死亡事故の場合に請求できる費目については、以下の記事も参考にしていただければと思います。
1 死亡逸失利益とは
死亡逸失利益とは、被害者が交通事故に遭わなければ将来得られたはずの収入や利益を補償するものです。
死亡交通事故では、被害者が亡くなっていますので、亡くなった交通事故被害者の遺族が、加害者側に損害賠償として請求することになります。
この死亡逸失利益については、被害者が交通事故に遭わずに生存していた場合には収入の一部を生活費に使うことになり、収入の全てが手元に残る訳ではありませんので、この生活費に当たる部分は損害賠償から控除するという考え方が採用されています。
そのため、死亡逸失利益の計算は、基本的に以下の計算式で行われます。
死亡逸失利益 = 基礎収入額 × (1 – 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
2 生活費控除率
上記の計算式には「生活費控除率」というものが出てきます。
生活費控除率とは、被害者が交通事故に遭わずに生きていた場合に自分自身の生活のために使うはずだった収入の割合を指します。
この割合が小さいほど、獲得できる死亡逸失利益は高額になります。
生活費控除率の割合については、いわゆる赤い本によれば以下のように記載されています。
・被扶養者が1人の一家の支柱 40%
・被扶養者が2人以上の一家の支柱 30%
・女性(主婦、独身、幼児等を含む) 30%
・男性(独身、幼児等を含む) 50%
一家の支柱の場合で扶養する家族が増えるほど生活費控除率が減っているのは、被扶養者が増えれば自分の生活のみにあてられる金額が減少するだろうという考え方から来ています。
男女で割合が異なるのは前時代的かもしれませんが、この点は、平均賃金等の収入格差からくる賠償額の差を解消するために機能している等と説明されることがあります。
3 年金収入の生活費控除率
生活費控除率については概ね以上のように考えるのですが、被害者が高齢者で年金収入がある場合は別の考慮が必要になります。
というのも、年金は、稼働収入に比べて、生活費に使われる割合が大きいと考えられるためです。
そのため、通常より生活費控除率を高く設定される傾向にあります。
具体的には、50%から80%の範囲で、多くの事案では60%程度の割合を採用するケースが多いと思われます。
4 年金収入に加えて給与収入もある場合
それでは、被害者に年金収入に加えて給与収入もある場合は、生活費控除率をどのように考えるべきでしょうか。
当然、保険会社としては生活費控除率を少しでも高くして賠償金を少なくしたいと考えるわけで、この部分は争点になることが多いです。
これについてはいくつか考え方があり、年金と給与両方の収入を合算した上である程度高い生活費控除率を設定する場合や、年金と給与それぞれ異なる生活費控除率を設定する場合などがあります。
そのうち、年金と給与を分けて生活費控除率を検討した裁判例をご紹介いたします。
5 東京地方裁判所平成25年9月18日判決
本件の被害者は65歳の男性Aさんであり、遺族が加害者に損害賠償を求めて提訴しました。
裁判の中では、過失割合等に加え、死亡逸失利益を算定する上での生活費控除率をどのように設定するかが争点の1つとなりました。
Aさんには給与収入と年金収入の両方があり、原告側はいずれの収入についても生活費控除率を40%とすべきと主張しました。
他方で、被告側は、給与収入部分については50%,年金収入部分については60%とすべきであると主張しました。
以上の事案について、裁判所は、給与収入部分と年金収入部分についてそれぞれ生活費控除率を設定し、まずは給与収入部分について以下のとおり判示しました。
「証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,亡Aは,本件事故の約5年前に妻であるEを病気で喪い,本件事故当時,原告ら(注:ご長女及びご二女)と同居していたこと,原告X1(注:ご長女)は,本件事故当時,35歳であり,勤務を開始してから1年10か月程度であったこと,原告X2(注:ご二女)は,本件事故当時,32歳であり,Eの看病のため,その生前に仕事を辞めていたところ,本件事故の約1か月前に勤務を開始したこと,原告X2の平成20年の給与収入は,63万5630円であったことが認められる(なお,原告X1の同年の給与収入は,明らかではない。)。
そうすると,本件事故当時,亡Aにおいて原告らに対する生活援助が一定程度必要であったとしても,その程度は,通常の扶養の場合とは事情を異にするものと認めるのが相当であり,亡Aの生活費控除率については,50%とするのが相当である。」
給与収入部分については、稼働し始めて間もないお子さんと同居していたものの、お子さんは既に収入を得ており、一家の支柱とまでは言えないとして、生活費控除率を50%と設定したものと思われます。
次に、年金部分については以下のとおり判示しています。
「亡Aの年金収入分の逸失利益のうち,亡Aが給与収入を得られる蓋然性があった9年間(対応するライプニッツ係数は7.1078)については,生活費控除率を亡Aの給与収入分と異にする理由はなく,50%とするのが相当であるが,亡Aが年金収入のみを得ることとなる残りの約9年間(対応するライプニッツ係数は11.6896から7.1078を減じた4.5818とするのが相当である。)については,原告らに対する生活援助の必要性も減少しているものと推認するのが相当であるから,生活費控除率を60%とするのが相当である。」
年金収入部分については、給与収入を得られると考えられる期間とその後(働かずに年金収入だけになるであろうと考えられる期間)に分け、前者については給与部分と同じく50%、後者については60%と生活費控除率を設定しています。
判決では、年金収入のみになった後は、お子さんへの生活援助の必要性が減少するだろうということが理由として述べられていますが、給与と年金両方ある場合と年金のみの場合では、収入のうち自身の生活費に充てなければならない部分も変わってくると考えられるため、納得できるものと思われます。
6 まとめ
今回は、死亡逸失利益算定のための生活費控除率について、特に年金収入と給与収入の両方がある場合について解説しました。
ご紹介した裁判例は1つの例に過ぎないものではありますが、説得的な理由付けをしており、解決の参考になるかと思います。
その他、被害者がご高齢の場合の生活費控除率については、生前の貯蓄の推移なども資料になると思われます。
この点は、決まり切った取り扱いがある部分ではありませんので、保険会社と示談とする前に、ぜひ一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
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投稿者プロフィール

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
初回相談は無料で、弁護士費用特約にも対応しています。
全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
交通事故の休業損害は主婦(家事従事者)でも請求できる?裁判例を交えて解説
今回は、交通事故の被害に遭った場合に加害者側に賠償を求められる費目(治療費や慰謝料など)の中から、家事従事者の休業損害について、裁判例を交えて解説します。
主婦(家事従事者)の方が、交通事故による受傷のため家事ができなかった場合、一定の要件を満たせば、家事従事者の休業損害が認められることになります。
実務家の中では、このような家事従事者の休業損害は共通認識としてありますが、一般的にはそこまで広く知られていないという印象です。
これは、給与所得と異なり、家事労働自体には収入がないため、家事労働と休業損害が結びつきづらいことが背景にあるように思われます。
また、家事従事者の休業損害は、女性だけでなく男性についても認められることには注意が必要です。
「家事従事者」という用語はその表れで、妻ないし主婦であることに重きを置いていないことが分かります。
1.家事労働を金銭評価できるか否か
かつては、家事労働自体は現実収入を生むものではなく、事故によって収入の減少が生じるわけでもないことから、専業主婦を念頭におき、交通事故による後遺障害が残存してしまった場合において主婦に逸失利益が認められるか否かが争点となっていました。
逸失利益を否定する裁判例(大阪地裁昭和42年4月19日判決)は、次のとおり判示しています。
「主婦にも逸失利益を認める見解があるけれども、一般に逸失利益と呼ばれるものは、被害者が有していた稼働能力の抽象的価値自体の喪失による損害ではなくして、被害者が稼働能力を喪失したために将来収得することができたはずの収入を喪失したことによる損害を意味するのであるから、家事労働にのみ従事し独自の収入を得る見込みのほとんどない主婦につき、逸失利益を肯定するのは正当でないと考える。またかような意味での逸失利益ではなくして、稼働能力の抽象的価値自体の喪失による損害を財産的損害とみてこれを逸失利益と同様に取り扱うべきであるとする見解もあるが、稼働能力の抽象的価値自体の喪失から生ずる損害の本質は、非財産的なものと解するのが相当であるから、この見解も採用できない。」
しかしながら、同じく現実収入のない幼児の逸失利益の算定が最高裁で肯定されるようになり、また、有職者の損害額と専業主婦の損害額との間に大きな差が生じることの不合理性等が指摘されるようになりました。
その後、最高裁(昭和49年7月19日判決)は次のとおり判示し、現在の実務もこれに沿って運用がなされています。
「おもうに、結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によつて現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情によるものというべきであるから、対価が支払われないことを理由として、妻の家事労働が財産上の利益を生じないということはできない。のみならず、法律上も、妻の家計支出の節減等によって蓄積された財産は、離婚の際の財産分与又は夫の死亡の際の相続によって、妻に還元されるのである。かように、妻の家事労働は財産上の利益を生ずるものというべきであり、これを金銭的に評価することも不可能ということはできない。」
2.家事従事者の休業損害についての算定方法
次に、家事従事者の休業損害を計算するにあたり、基礎収入額(年収)をどのように考えるかが問題となります。
本来であれば、家事従事者が置かれている個別の家事労働の状況により、その質と量に応じて具体的に基礎収入額を認定すべきですが、このような認定に役立つ証拠は容易に得られないこと等から、一般的な統計資料(賃金センサス)を利用せざるを得ないのが実状でありポイントです。
裁判例では、①女性労働者の全年齢平均・賃金額を基礎とする例、②被害者の年齢に対応する女性労働者の全年齢平均・賃金額を基礎とする例が多いという印象です。
いわゆる「赤い本」と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部編)では、①の方式が記載されています。
この点、高齢の家事従事者について、裁判例では、平均賃金から2割程度減額したものを基礎収入額とする例もありますが、高齢者であるからといって一律に低い金額で評価すべきではなく、家事労働の実態を考慮して適当な金額を定めるべきです。
また、家庭を離れて他の職場で労働(兼業)している家事従事者については、現実の収入額と家事労働(労女性労働者の平均賃金額)のいずれか高い方が休業損害として認定されるのが一般的です。
裁判例(神戸地裁平成14年1月17日判決)では、事故前3ヶ月の収入が日額1826円しかなかった被害者について、加害者からは現実の収入額を基礎収入額として採用するべきとの主張がなされていたものの、次のとおり判示し、女性労働者の平均賃金額を基礎収入額として採用しています。
「休業損害証明書(乙3)によれば、原告の事故前3か月の収入の合計額は16万8015円であるから、これを92日で割ると、1日当たりの収入額は1826円となる。しかしながら、原告本人尋問の結果によると、原告は、働きながら実家で病気の父親の透析などの介護をしていたことが認められるから、休業損害を算出するにあたっての年収としては、女子労働者学歴計29歳の年収額332万7200円を用いるのが相当である。」
次に、家事従事者の休業損害についての具体的な算出方法ですが、①収入日額に実通院日数を乗じる方法、②収入日額に治療期間を乗じた上で一定の割合(支障割合等)を乗じる方法があります。
私見ですが、家事に支障が生じるのは通院日に限られないことを踏まえると、②の方が実態に合った計算方法であるように思います。
3.一人暮らしの場合
家事労働が財産上の利益を挙げていると評価されるのは、それが他人のために行う労働である場合であり、自分自身の身の回りのことを行うことはこれに当たりません。
そのため、一人暮らしの被害者については、基本的に家事従事者の休業損害が認められないことになります。
しかしながら、特殊な事例として、事故前は夫と2人暮らしであり、事故によって夫を亡くして1人暮らしをしていた被害者について、次のとおり判示し、家事従事者の休業損害を認めた裁判例(名古屋地裁平成23年4月1日判決)はあります。
「原告X1は、本件事故当時、Aと二人暮らしであり、自分とAのために家事を行っていたと認められるところ、Aは本件事故により本件事故の日に死亡したため、原告X1は上記休業期間である89日間については、独り暮らしとなり、他人のために家事を行うという状況ではなくなっている。このように、自分のためだけの家事を行う人については、原則として、家事を行えなくなったことによる休業損害は認められないというべきである(なお、自分のための家事ができないために家政婦などの補助者を雇わなければならないというようなことがあった場合には、その費用が積極損害と認められることはあり得ると考えられる。)。しかし、本件に関しては、原告X1は、本件事故前は夫であるAのために家事を行っていたのであり、夫のために家事に従事しないのであれば他で働いて収入を得るという選択肢もあったと考えられる。そして、本件事故により家事を提供する相手であるAを死亡させたのが被告であることを考慮すれば、本件事故以降原告X1が独り暮らしの立場になったからといって、休業損害を認めないのは相当ではないというべきである。」
4.男性の家事従事者について
社会の変化に伴い、家事労働に従事する男性が増えてきたこと、女性も外に仕事を持つことが多くなってきたこと、同じ内容の家事労働をしながら女性に限って休業損害を認めるのは不平等であること等から、男性についても、家事従事者の休業損害を認めることが一般的です。
ただ、依然として、男性が家事をするというイメージは、女性のそれよりも一般的でないことから、交渉や訴訟の場面において、女性よりも立証の必要性は高くなるという印象です。
男性の家事従事者についても、その算定方法は女性と同様です。
以下、兼業主夫の被害者について、次のとおり判示し、家事従事者の休業損害を認めた裁判例(名古屋地裁平成30年12月5日判決)を紹介します。
「原告X1は、本件事故前は、ダンスのインストラクターをするなどして1月当たり4万円程度の収入も得ていたが、そのほかの時間は、平成20年頃から交際し同居するUのために炊事や洗濯等の家事を行い、生活費についても、基本的には空港職員として勤務するUの給与に頼っていたものと認められるから、兼業主夫の状況にあったということができる。これに対し、被告らは、原告X1に主夫としての休業損害は認められない旨主張するが、原告X1とUの生活状況は上記のとおりであり、その関係性も、同居期間に照らすと婚姻に準ずる内縁関係といい得るものであるから、被告らが主張する原告X1が男性であることやUと婚姻をしていないことといった事情は、原告X1の家事労働について休業損害を認める妨げにはならないというべきである。したがって、原告X1の家事労働について、本件事故と相当因果関係の認められる範囲で休業損害を認めるのが相当である。」
5.まとめ
今回の記事では、家事従事者の休業損害について説明をしましたが、いかがでしたか。
家事従事者と一口にいっても、フルタイムで働いている場合、パートタイムで働いている場合、介護を要する老人と子供を抱えている場合、フルタイムで稼働する子供夫婦に代わって孫の面倒を見ている高齢の被害者である場合等、その態様は様々です。
家事に関する休業損害を請求するにあたっては、これらの家事の実態や損害額の算出方法を適切に主張・証明する必要があります。
そのため、保険会社に対して家事に関する休業損害の主張をされたい場合には、請求が認められる可能性を上げるためにも、交通事故を専門とする弁護士にご相談されることをお勧めします。
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【関連記事】
弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~頚椎捻挫・後遺障害14級9号・専業主婦~
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
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死亡事故における死亡慰謝料の基準を解説~一般的な相場より増額された裁判例もご紹介~
今回のテーマは、死亡交通事故における死亡慰謝料です。
交通事故の被害者がお亡くなりになった事故(死亡事故)の場合には、ご遺族は「死亡慰謝料」の請求ができます。
今回は、交通事故の死亡慰謝料の相場はどの程度とされているか、裁判所の基準などをご説明します。
また、相場と異なる判断をした裁判例(増額された事例)もいくつかご紹介し、その裁判例の判断の背景などもご説明します。
示談交渉の際、保険会社は、相場よりも低い金額の提示をしてくるケースもありますので、交渉には相場感を把握した上で臨むことが必要です。
被害者の死亡という重大な結果が生じてしまっている以上、いくら金銭(慰謝料)を増額しても、ご遺族が納得できるものではないとは思いますが、せめて保険会社の提示を受け入れて相場よりも低い基準で示談してしまわないよう、示談交渉の際の参考にしていただければと思います。
1 死亡慰謝料とは
死亡慰謝料とは、交通事故によって亡くなった被害者本人およびその遺族が被る精神的苦痛に対する賠償金のことです。
被害者本人の慰謝料に加え、遺族の精神的苦痛についても慰謝料を請求できます。
2 死亡慰謝料の基準
死亡慰謝料についても、傷害慰謝料や後遺障害慰謝料と同様に、自賠責基準、任意保険基準がありますが、最も高額な裁判所・弁護士基準では以下のとおり説明されます(いわゆる「赤い本」基準)。
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他 2000万円~2500万円
上記の金額は、被害者本人の慰謝料に加え、遺族の慰謝料も含めた金額です。
「一家の支柱」とは、通常、主に一家の生計を維持している者を指すと説明されます。
そのような方が亡くなった場合は遺族の事故後の生活への影響が大きいと考えられることから、高めの基準が示されています。
また、「その他」には独身の男女、子ども、幼児等が含まれます。
3 死亡慰謝料の増額事由
基本的には上記の基準が示されている死亡慰謝料ですが、事故態様が悪質な場合、慰謝料が増額されることがあります。
例えば以下のような場合です。
・飲酒運転
・著しい速度超過
・信号無視
・居眠り運転
・無免許運転
・わき見運転
事故後の加害者の対応が著しく不誠実、悪質な場合も、慰謝料が増額されることがあります。
以下のような場合が該当します。
・加害者が事故後に逃走した
・警察に虚偽の説明をしたり、証拠隠滅を図ろうとした
・事故後に被害者を罵倒するなどした
被害者側の事情から慰謝料が増額されるケースもあります。
以下のような場合です。
・被害者が妊娠しており、胎児と共に死亡した場合
・遺族が事故後に精神疾患を患った場合
また、独立していないお子さんが多いケース、被害者の社会的地位が高いケースなども、慰謝料増額があり得ると思います。
4 死亡慰謝料を増額した裁判例
ここからは、死亡慰謝料を増額した裁判例をいくつか紹介したいと思います。
①神戸地方裁判所平成25年3月11日判決
被害者の属性:66歳男性、無報酬の会社役員、年金・配当収入あり
原告の主張:被害者本人の慰謝料3000万円、遺族(注:原告は妻と子2人の計3名)固有の慰謝料各500万円の合計4500万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2500万円、妻300万円、子2人各100万円の合計3000万円
被害者を一家の支柱と考えても、上記の基準では2800万円の慰謝料額になるところですが、裁判所は合計3000万円の慰謝料を認めています。
判決理由中では、衝突時高速度であったこと、妻を扶養していたこと、報酬は得ていなかったものの取締役として外部の交渉一切を担当していたことが挙げられています。
被害者の社会的地位が慰謝料に影響すると判断したものと捉えられる判決だと思います。
②大阪地方裁判所平成25年3月25日判決
被害者の属性:30歳男性、妻と2歳の子あり
原告の主張:被害者本人の慰謝料8000万円、遺族(2人)固有の慰謝料各1000万円の合計1億円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料3500万円、遺族(2人)固有の慰謝料各250万円の合計4000万円
一家の支柱の基準額である2800万円から1200万円の増額を認めている裁判例になります。
事故態様として、無免許運転、飲酒運転があり、事故後逃走し約2.9kmにわたって故意に被害者を引きずるなど非常に悪質なものであること、30歳と若年で養育すべき妻子がいることなどが判決理由として挙げられています。
特に事故態様については、「通常の交通事犯の範疇を超えて殺人罪に該当する極めて悪質かつ残酷なものである」と判示されており、強く非難されています。
③神戸地方裁判所平成28年5月25日判決
被害者の属性:81歳男性、年金受給中
原告の主張:被害者本人の慰謝料2800万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各150万円の合計3400万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2200万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各150万円の合計2800万円
高齢の年金生活者について、2800万円と一家の支柱と同等の慰謝料額を認めた事例になります。
事故後の慰謝料の交渉では、被害者が高齢で年金生活者の場合に、稼働して収入を得ているわけではないので一家の支柱とは言えないとして、「その他」の2000万円~2500万円の基準でしか慰謝料は支払えないと保険会社が主張することが多くあります。
しかし、裁判例では、本判決のように、年金生活者であっても、主として被害者の収入によって世帯の生計が維持されている場合、「一家の支柱」の基準による慰謝料を認めるケースがあります。
保険会社の主張は一見あり得そうですが、このような裁判例もありますので、あきらめずに粘り強く交渉していくことが必要です。
④千葉地方裁判所松戸支部平成27年7月30日判決
被害者の属性:45歳男性、会社員
原告の主張:被害者本人の慰謝料3000万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各100万円の合計3500万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2800万円、妻固有の慰謝料250万円、子2人固有の慰謝料各100万円の合計3250万円
慰謝料金額に関する認定について、裁判所は、被害者が家族との平穏な生活を奪われ、妻と未だ独立していない2人の子を残し、本件事故3日後に意識を取り戻すことなく死亡したこと、妻については夫であり子らの父である被害者を失い、夫婦の平穏な生活を奪われ、大きな喪失感を抱いていること、子らについては未だ学生であったにもかかわらず頼るべき父親を失ったことを挙げています。
本事案に限りませんが、死亡慰謝料額を通常の基準よりも増額している判決では、原告側が遺族固有の慰謝料をしっかり主張している傾向にあると考えられます。
遺族の固有の事情についても、詳細に主張していくことが重要と考えられます。
⑤大阪地方裁判所令和4年2月18日判決
被害者の属性:39歳男性、給与所得者
原告の主張:被害者本人の慰謝料2800万円、妻及び子3人に固有の慰謝料各200万円の合計3600万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2100万円、妻固有の慰謝料400万円、子3人固有の慰謝料各200万円の合計3100万円
本件では、被害者の妻が、慰謝料とは別に、事故後3人の子を1人で養育することになり育児休業を1年延長したことについての休業損害として650万円弱を請求していました。
この点について裁判所は、事故前から予定されていた時期に職場復帰をすることは、決して容易ではないが不可能ではないと考えられるために、事故と妻の休業損害の因果関係を認めることは出来ず、休業損害を正面から認めることはできないとしています。
他方で、このような事情は慰謝料の金額面で考慮するとして、妻固有の慰謝料額を原告主張額よりも増額しています。
5 まとめ
今回は、死亡慰謝料について、算定基準と基準から増額された事案のご紹介をしました。
死亡慰謝料については、交渉では基準どおりの示談を行うことが多いですが、裁判となった場合には、基準からの増額を主張することが多い印象です。
決まり切った取り扱いがある部分ではありませんので、示談する前に、ぜひ一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
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投稿者プロフィール

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
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交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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交通事故における症状固定について解説!
今回は、交通事故における「症状固定」について解説します。
保険会社は、例えばむち打ち等のお怪我を負った交通事故被害者の方の場合、事故後3ヶ月~6ヶ月を経過すると、治療を打ち切るよう促してきたり、実際に治療費を打ち切ったりしてくることがあります。
これは主として、被害者の方が症状固定したと判断したことを理由とするものですが、当の本人である被害者の方は、症状固定の概念についてよく分かっていないことが多いという印象です。
私たちが症状固定についてご説明した際、「そのような説明は保険会社から全くされませんでした」と言われる被害者の方もいらっしゃいます。
症状固定という概念は、損害賠償論の中でも基本的かつ重要な概念になりますので、交通事故の被害に遭われて怪我をされた方は、本記事をご覧いただき、症状固定について理解しておくことをお勧めします。
1.症状固定とは
症状固定とは、文字どおり症状が固定した状態をいいます。
事故により傷害を負った場合、通常、治療を継続していくことにより徐々に症状が改善していきます。
その後、症状が残るとともに、かつ治療を継続してもその症状が改善しなくなってしまった状態を症状固定といいます。
この症状固定の意義について触れている裁判例をご紹介します。
⑴ 横浜地裁平成23年10月25日判決
「・・原告は、平成19年5月10日にA病院において症状固定と診断されたこと、また、B接骨院での施術も、平成19年5月9日には治療期間が5か月に及び長期になったことからとの理由で治療が中止されたこと、前記症状固定後はA病院での治療は一旦終了し、再度受診したのは5か月後の同年10月であったこと、平成20年4月7日付診断書は原告の依頼により作成されたことなどの事情によれば、原告の頚部痛は、最初の症状固定日の時点で、それ以上の治療効果が期待できない状態であったと推認できるから、頚部痛についても平成19年5月10日に症状固定したものと認めるのが相当である。」
⑵ 大阪地裁令和5年2月7日判決
「症状固定とは、それ以上の治療を継続しても医学的に治療効果を得ることが見込まれない状態をいうものであるが、上記症状経過によれば、平成30年10月時点から歩行状態(T字杖歩行)に著変がなく、この頃には症状固定に至っていたと評価することも十分に考え得る。もっとも、平成30年10月以降のK病院における通院リハビリは、同病院医師の判断に基づいて継続されたものと推察できる上、「筋力upしてきている」(甲19:25頁)、「筋肉痛↓」(同26頁)など全く治療効果が得られなかったとまでは認められないことによれば、平成31年3月29日までの通院リハビリ(K病院)について本件事故との間に相当因果関係がないとまではいえない。他方で、被告Y1は、その後も令和元年11月28日までH医療センターに通院しているが、その通院は「骨頭壊死と股関節症のフォロー」のためのものであり(甲15:287頁)、治療効果を得るための積極的治療行為が行われたものではないから、令和元年11月28日を症状固定日とすることはできず、以上によれば、被告Y1の損害については、平成31年3月29日を症状固定日とし、同日までの入通院治療につき本件事故との間に相当因果関係があるものとして算定するべきである。」
2.症状固定と損害賠償額
治療費との関係で重要なことは、症状固定「後」、原則として、仮に通院を続けていても、その費用は事故による損害の範囲内とは認められないということです。
上で述べた症状固定の意義を前提にすると、症状固定後の治療というのは、効果がなく、症状を改善させるものではないということになるためです。
休業損害や傷害慰謝料についても、原則として症状固定後は考慮されません。
このように、症状固定の時期をいつの時点にするかによって、損害賠償額に差が生じることから、症状固定時期がいつなのかが争点になることは多いです。
争点になる場合、通常、加害者側からは、被害者が主張する症状固定時期よりも早い時期に症状固定していたとの主張がなされます。このように主張することによって損害賠償額を減らそうとしてくる訳です。
また、後遺障害等級の認定申請は、担当医から症状固定の診断を受けた後に行うことができます。
そのため、被害者としては、治療によって症状が改善傾向にあるか、どの時点で後遺障害の認定申請をするかを総合的に考慮して、担当医と相談の上、症状固定の診断を受け、後遺障害診断書を作成してもらうか検討することになります。
3.手術による症状の改善が見込まれる場合
やや応用的な話になりますが、手術による症状の改善が見込まれるものの、身体に与える負担を考えると手術を受けたくないという意思が被害者にある場合、症状固定時期についてはどのように考えればよいかという問題が生じます。
これは例外的なケースですが、手術をしないで症状固定にすれば重い後遺障害等級が認定されて賠償金額が大きくなる可能性がある一方、手術をすれば症状が改善し軽い後遺障害等級しか認定されず賠償金額が少なくなる可能性がある場合に争点となり得ます。
争点になる場合、被害者側からは手術をしないでも症状固定になると主張し、加害者側からは手術をしなければ症状固定にならないと主張することになります。
一見、症状が改善する可能性のある治療方法が存在する以上、症状は固定していないと考えるのが素直であると思われます。
ただ一方で、身体の負担を考えると手術を受けたくないという被害者の意思も尊重すべきであるように思われます。
この点について判示している裁判例を、ご紹介します。
⑴ 東京地裁平成24年3月16日判決
「治療(特に手術)は、その性質上、身体への侵襲を伴うものであり、また、その効果の確実性を保障することができないものであるから、交通事故の被害者に対し、治療を受けることを強制することはできない。したがって、一般的に考えられ得る治療をすべて施しても症状の改善を望めない状態に至らなければ、症状固定とはいえないとすることは相当でなく、被害者がこれ以上の治療は受けないと判断した場合には、それを前提として症状固定をしたものと判断するほかなく、治療の内容及び身体への侵襲の程度、治療による症状改善の蓋然性の有無及び程度、被害者が上記判断をするに至った経緯や被害者の上記判断の合理性の有無等を、交通事故と相当因果関係のある損害の範囲を判断する際に斟酌するのが相当である・・以上を踏まえて検討するに、本件においては、上記(1)で認定した治療経過等に照らし、原告は、平成22年4月22日に症状固定に至ったものと認めるのが相当である。そして、上記(1)で認定したとおり、原告には、上記症状固定後も、右手関節の変形癒合(橈骨短縮変形)、これによる疼痛・可動域制限、右手の握力低下の症状が残存しているところ、右手関節の可動域(他動)は健側の可動域(他動)の2分の1以下に制限されていることから、症状固定後の上記症状は、後遺障害等級表でいえば10級10号に該当するものと認められる。」
⑵ 東京地裁平成24年7月17日判決
「被告らは、偽関節手術により症状が改善する可能性があることを理由に、原告の症状はまだ固定していない旨を主張する。被告らの上記主張の実質は、交通事故による受傷が治療によって改善する見込みがある以上、当該治療を受けた後に、症状の固定の有無を判断し、症状が固定したと認められる時点で残存している症状を後遺障害として評価すべきであり、当該治療を受けない限り、被害者の症状を後遺障害として評価し、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を認めることは許されないとすることにある。しかしながら、被害者が身体の侵襲を伴う手術を拒んでいるということを理由に、直ちに症状固定や後遺障害の存在を否定し、被害者に残存した症状による損害の発生を一切否定することは、実質的に、被害者に対して身体の侵襲を伴う治療を強いる結果となり、また、加害者を不当に利することにもなりかねず、相当ではない。そうすると、被害者が治療効果の期待できる手術を拒んでいる場合であっても、そのことを前提に症状固定を認めてその時点の症状を後遺障害として評価すべきであり、治療効果を期待できる手術を被害者が受けなかったことについては、交通事故と後遺障害(後遺障害による損害)の相当因果関係の有無・範囲や過失相殺の検討において考慮するのが相当である。したがって、被告らの上記主張は採用することはできない。」
このように、上記裁判例では、症状が改善する可能性のある治療方法が存在していても、(被害者がそれ以上の治療を拒否する等により)現実的に治療することが難しい場合には症状固定であると判断されています。
4.まとめ
実務では当たり前のように使われている症状固定について解説しました。
基本的かつ重要な概念ではありますが、どの時点で症状固定であるかを判断するのは容易なことではありません。
自覚症状については被害者の方しか感じることができず、第三者からは分からないということも、判断を難しくしている一要因であるものと思われます。
そのため、保険会社から治療費を打ち切られた場合に、一般の方が症状固定時期について保険会社に反論することは難しいと思いますから、症状固定時期について主張をされたい場合には、主治医や交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
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投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
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死亡交通事故における無職者(失業者)の死亡逸失利益の算定方法を解説!
交通事故で被害者の方が亡くなった場合、被害者遺族は加害者側に対して、死亡慰謝料や死亡逸失利益などの賠償を求めることができます。
以前の記事(死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算)で、若年労働者(概ね30歳未満)が死亡交通事故で亡くなった場合の死亡逸失利益の計算方法などについて解説しましたが、今回は交通事故被害に遭った際にたまたま失業中であった場合など、無職の方が被害者となってしまった死亡交通事故について、その死亡逸失利益の算定方法などを過去の裁判例もご紹介しながらご説明させていただきます。
死亡交通事故の損害賠償額の大部分を占めるのが死亡逸失利益になりますので、この逸失利益の金額が少ないと、全体的に示談金が少ないという印象を受けると思います。
死亡交通事故の賠償請求の場合、弁護士にご依頼になると使用する慰謝料の基準の違いなどで、保険会社の提示額より大幅に増額されることが多いですが、特に被害者が無職の場合は死亡逸失利益の計算方法で示談金が大きく変わる可能性があります。
また、死亡交通事故でなくても、被害者が後遺障害を負った交通事故であれば、同じように後遺障害による逸失利益の算定方法が問題になりますから、無職の方が交通事故に遭って後遺障害を負った場合にも、本記事の内容が参考になると思います。
交通事故の示談でお困りの方のご参考になれば幸いです。
【関連記事】
死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算
死亡事故における死亡慰謝料の基準を解説~一般的な相場より増額された裁判例もご紹介~
死亡交通事故における高齢者の死亡逸失利益の算定方法について解説!~給与収入と年金収入の両方がある場合~
1.死亡逸失利益の計算方法
⑴ 被害者遺族が賠償請求できるもの
死亡交通事故で被害者遺族が加害者側に賠償請求できるものは、主に死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用の3つになります。
死亡慰謝料などについては、以前の記事で解説していますので、そちらもご覧ください。
死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算
⑵ 死亡逸失利益の計算方法
死亡交通事故の被害者遺族が加害者側に請求できるもののうち、死亡逸失利益は、被害者が交通事故で死亡しなければ将来得られたであろう収入を補償するもので、以下の計算方法で算出されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入は、基本的に被害者の交通事故前年の年収額を用いて計算されます。
生活費控除は、被害者が死亡しなければ将来必要になったであろう生活費分を収入から差し引くという考え方です。
生活費控除率は、被害者の家族構成や性別、年齢などによって異なり、それぞれの状況によって30~50%くらいの範囲で計算されます。
就労可能年数は、裁判所が基本的に67歳まで就労可能と考えているため、被害者が死亡した当時の年齢から67歳までの期間で計算します(高齢者など平均余命の半分の期間の方が長くなる場合には平均余命の半分で計算します)。
⑶ 無職者の基礎収入の考え方
上でご説明したように、基本的に死亡逸失利益の基礎収入は、被害者の交通事故前年の年収額で計算されます。
しかし、たまたま交通事故に遭ったときに失業中であった場合など、無職者の場合は、収入がありませんので、基礎収入をどのように算定するかが問題となります。
病気や怪我など諸々の事情で、交通事故前から働いておらず、将来に渡って働く可能性がなかった人であれば、交通事故に遭わなかった場合でも将来収入を得られなかったということになりますから、死亡逸失利益は無いということも考えられます。
しかし、たまたま交通事故に遭ったときに失業中だったというだけで、労働能力と労働意欲があって、将来働く蓋然性があった被害者の場合には、死亡逸失利益が認められます。
この場合、本来的には再就職後に得られたであろう収入を基礎収入とするべきですので、転職先から内定が出ていた場合などは、その転職先の労働条件を参考にして算定されることになります。
具体的な転職先が決まっていなかった場合には、失業前の収入を参考として算定されることになります。
また、失業前の収入が平均賃金以下の場合で、将来的に平均賃金を得られる蓋然性があれば、男女別平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とする場合もあります。
次では、無職者の基礎収入について過去の裁判例でどのように扱われているかを紹介します。
2.税理士試験受験生(24歳男性)の場合
【東京地方裁判所平成19年6月27日判決】
この交通事故は、いわゆる右直事故と言われる類型で、被害者のAさんが自動二輪車で交差点を直進しようとしたところ、対向から同交差点に進行してきた相手方(被告)車両が右折してしまい、被告車両の左前部にAさん車両が衝突して、Aさんは車両とともに路上に転倒して、脳挫傷によって死亡してしまいました。
Aさんは、交通事故当時24歳でしたが、大学卒業後に会計事務所に7カ月ほど勤めた後、税理士試験の勉強に集中するために退職した直後で無職の状態でした。
この交通事故の裁判では、Aさんの遺族が、死亡逸失利益の算定について、事故の年の平成14年賃金センサスの大卒男子平均賃金(674万4700円)を基礎とすべきと主張しました。
一方、被告側はこれを争い、賃金センサスを用いるとしても平成16年度の平均年収額657万4800円とすべきと主張しました。
この裁判の判決では、裁判所がAさんの遺族側の主張を認め、「本件事故に遭わなければ、67歳まで43年間就労可能であったというべきであるから、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、賃金センサス平成14年第1巻第1表による産業計・男性労働者・大卒・全年齢平均年収額を基礎とし、生活費控除率を5割とし、~~~~5917万915円を認めるのが相当である。」と判示しました。
3.番組制作ADなど断続的に職を変えていた32歳男性の場合
【横浜地方裁判所平成18年2月13日判決】
この交通事故では、加害者車両が、駐車車両を避けるために一旦右に進路変更をして、駐車車両の横を通過した後、元の車線に戻ろうとした際に、左後方から走ってきた被害者のBさんの二輪車に気が付かず、道路左側に寄せて行ってしまい、Bさんが縁石に接触して転倒してしまいました。
そして、転倒したBさんの頭部を加害者車両の後輪が轢いてしまい、Bさんは開放性頭蓋骨骨折,脳挫傷の傷害を負って死亡してしまいました。
Bさんは、大学中退後、技術職や番組制作アシスタント・ビデオ制作アシスタントなどとして働いていましたが、職を転々としており、交通事故当時は無職でした。
この交通事故の裁判では、Bさんの遺族が、死亡逸失利益の算定について、事故前年の平成13年賃金センサスの男性学歴計平均賃金(565万9100円)を基礎収入とすべきと主張しました。
一方、被告側はこれを争いました。
この裁判の判決では、裁判所はBさんが大学中退後に技術職として働いていた当時に約1年間で合計342万3550円の収入があったことや、その後の8か月間に番組制作アシスタント・ビデオ制作アシスタントとして働いていた当時に合計131万8986円の収入があったこと、その後も職を変えて断続的に相当程度の収入を得ていたことなどから、平成13年の賃金センサスの男性高専・短大卒平均賃金(501万8300円)を基礎収入とするのが相当であると判断しました。
そして、稼働期間を67歳までの35年間、生活費控除率を50%とし、4151万8403円の死亡逸失利益を認めました。
4.元教職員(65歳男性)の場合
【神戸地方裁判所平成29年12月20日判決】
この交通事故では、信号機のない交差点で道路を横断していた当時65歳の歩行者の男性(Cさん)が、交差点を直進してきた加害者車両に衝突され、重傷頭部外傷の傷害を負って死亡してしまいました。
Cさんは、交通事故に遭う直前まで約40年に渡って教職に就いていましたが、事故当時は無職で就職活動を行っていました。交通事故前年の年収は282万9600円でした。
この裁判では、Cさんの遺族が死亡逸失利益について、Cさんに就労の蓋然性があったとして事故前年の平成27年度賃金センサスの男子年齢別平均賃金(372万0400円)を基礎収入として計算すべきと主張しました。
また、仮に賃金センサスを採用できなくても上記の事故前年の年収を基礎収入として算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、Cさんがハローワークで求職の申込みをしたのは雇用保険の受給が目的で特段の求職活動をしていなかったと主張して就労の意思を争い、死亡逸失利益は認められないと主張しました。
また、仮に死亡逸失利益を認めるとしても,賃金センサス男子労働者年齢別平均賃金程度の収入を得た蓋然性はなく、Cさんが就労先として希望していたのは年間27日程度の試験監督のアルバイトなどであるとして、そのアルバイト程度の収入を基に計算すべきと主張しました。
この裁判の判決では、裁判所は基本的にCさんの遺族側の主張を認め、Cさんは事故の前年度まで再雇用で教員として勤務していたことなどから、「就労の意思も能力もあり、本件事故による死亡がなければ、就労する機会及び事故前年の年収程度の収入を得る蓋然性は十分にあったものと認められる。」と死亡逸失利益を肯定しました。
その上で、事故前年の年収である282万9600円を基礎収入とし、稼働可能年数は平均余命の半分の10年間、生活控除率を40%として、1310万9593円の死亡逸失利益を認めました。
5.まとめ
今回は、交通事故当時に無職だった方が亡くなった死亡交通事故での死亡逸失利益の基礎収入について、実際の裁判例を踏まえて解説しました。
無職の方が亡くなった場合、今回のCさんのようにある程度高齢の被害者に対しては、相手方保険会社が無職である以上死亡逸失利益は無いと主張してくることもあります。
このような事案では、将来収入を得られた蓋然性があったことを主張する必要がありますが、被害者遺族がご自身で保険会社と交渉するのは大変だと思います。
交通事故の示談は、多くの事案で弁護士に依頼することで示談金が増額しますが、特に死亡交通事故の場合は、今回ご説明した死亡逸失利益の計算などで大きな違いが出ることがあり、増額幅が大きくなることが多いといえますから、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
初回相談は無料で、弁護士費用特約にも対応しています。
全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
後遺障害12級や14級の神経症状において通常より長期の労働能力喪失期間が認められた裁判例
今回は、交通事故による後遺障害等級12級や14級に該当する神経症状において、一般的な労働能力喪失期間(12級13号の労働能力喪失期間10年間、14級9号の労働能力喪失期間5年間)より長期の喪失期間が認められた裁判例をご紹介します。
後遺障害とは、交通事故によって負った傷害が完全に回復せず、身体や精神の機能に残った不完全な状態をいいます。
交通事故による加害者と被害者との間における問題は、基本的に金銭賠償として処理されることから、後遺障害の問題も金銭賠償によることとなります。
具体的には、被害者に残存している後遺障害が後遺障害等級表のどの等級に該当するかを認定し、それを損害算定に反映させるという手法が実務において定着しています。
労働能力喪失期間は、この後遺障害による損害の1つである後遺障害逸失利益の算定要素の1つです。
後遺障害逸失利益の算定は、
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(ライプニッツ係数)
によってなされます。
労働能力喪失期間については様々な考え方があるところであり、理解するのが難しい分野といえます。
被害者の後遺障害の状況によっては、通常の喪失期間よりも後遺障害による影響が長く続く場合もありますので、ご参考にしていただけますと幸いです。
【関連記事】
・神経症状の後遺障害(12級13号・14級9号)の逸失利益~労働能力喪失期間の相場~
・12級や14級の後遺障害等級において通常より高い労働能力喪失率が認められた裁判例
1.労働能力喪失期間の原則
後遺障害逸失利益の算定要素のうち、労働能力喪失期間については、「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)において次のとおり記載されています。
①労働能力喪失期間の始期は症状固定日
未就労者の就労の始期については原則18歳とするが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業時とする。
②労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳とする
症状固定時の年齢が67歳をこえる者については、原則として簡易生命表・・の平均余命2分の1を労働能力喪失期間とする。
症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表・・の平均余命の2分の1より短くなる者の労働能力喪失期間は、原則として平均余命の2分の1とする。
但し、労働能力喪失期間の終期は、職種、地位、健康状態、能力等により上記原則と異なった判断がなされる場合がある。
事案によっては期間に応じた喪失率の逓減を認めることもある。
このように、労働能力喪失期間は、原則として症状固定日以降の就労可能期間であり、就労可能期間の終期は原則として67歳までとされています。
一方、高齢の場合には、67歳までの年数と平均余命の2分の1とのいずれか長期の方を採用することが多いです。
これらの運用は、後遺障害が、傷害が治ったときに身体に存する障害と定義され、一般には症状が永続するものと考えられていることと整合します。
2.むち打ち症の場合の労働能力喪失期間
一方、いわゆるむち打ち症の場合の労働能力喪失期間については、「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)において次のとおり記載されています。
③むち打ち症の場合
12級で10年程度、14級で5年程度に制限する例が多く見られるが、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきである。
このように、むち打ち症の場合には、一定期間経過後に症状が緩和したり症状に慣れたりすると考えられており、14級9号に該当するものであれば5年に、12級13号に該当するものであれば10年に喪失期間を限定するのが通常です。
実務では、逆に相手方保険会社から、14級9号の場合に喪失期間を3~4年に限定すべきであると主張されることがありますが、裁判になれば、特別な事情がない限り殆どのケースで5年が認定されており、裁判所がこのような相手方の主張を認めることは少ないという印象です。
一方、症状固定時から長期間経過しているものの、なお症状改善の傾向が認められないという場合に、14級で5年を超える喪失期間を認定した裁判例(千葉地方裁判所平成21年12月17日判決)がありますので、本記事の後半で紹介いたします。
3.むち打ち症以外の神経症状の場合の労働能力喪失期間
むち打ち症以外の原因による神経症状で12級や14級に該当する場合についても、むち打ち症と同じように労働能力喪失期間を限定するかどうかについては、裁判例においても考え方が分かれています。
むち打ち症の場合と同様、労働能力喪失期間を限定するべきとの根拠としては、次のような考え方が挙げられます。
・単なる神経症状のようなものである場合には、将来における改善が期待される。特に若い場合には可塑性があり、訓練や日常生活によって回復する可能性がある。
・むち打ち症の場合、一定期間経過後に症状が緩和したり症状に慣れたりすることから労働能力喪失期間は制限されているが、これは神経症状一般に当てはまる。
・単なる神経症状の場合は自覚症状が中心であることから、長期の労働能力喪失期間を認めることは妥当でない。
しかしながら、そもそも後遺障害は症状が永続する状態を指すのですから、後遺障害として認定した以上、このことを前提に労働能力喪失期間も算定することが大前提といえます。
そのため、労働能力喪失期間は就労可能期間の終期である67歳までを原則とし、安易に労働能力喪失期間をむち打ち症のように限定するべきではありません。
実際、むち打ち症以外の神経症状について判断した裁判例の中でも、就労可能期間まで認めている裁判例(京都地方裁判所平成21年2月18日判決・横浜地方裁判所平成25年9月20日判決)がありますので、この後に紹介いたします。
4.長期の労働能力喪失期間を認めた裁判例の紹介
⑴ 千葉地方裁判所平成21年12月17日判決
本件事故は、調理師である被害者(原告)が原付バイクを運転中に、停車していた相手車両の左側を通過しようとしたところ、相手方(被告)が後方の安全を確認することなくドアを開けたために、原告車両がそのドアに衝突し、原告は前方にはね飛ばされてしまったというものです。
原告は、本件事故により頚椎捻挫(いわゆるむち打ち症)等の傷害を負い、後遺障害として頭痛や右手の握力低下等の神経症状が残り、14級9号が認定されました。
前述したとおり、むち打ち症の場合は労働能力喪失期間を14級で5年に制限することが一般的ですが、この裁判例では次のとおり判示し、労働能力喪失期間を15年と認定しました。
「原告に生じている右手の握力低下は、利き腕に関するものであり、その程度も左手の握力の半分程度となっているものであること、原告は調理師として稼働していたところ、包丁を握るなどの面で実際に支障が生じているものと認められること、握力低下の状態は、事故後5年以上が経過した現在も解消されておらず、今後も相当程度の期間にわたって継続することが見込まれることなどの事情を考慮し、原告に生じた後遺障害の実態に即して考えると、労働能力喪失率としては8%、労働能力喪失期間としては15年間(ライプニッツ係数10.3796)と解するのが相当である。」
⑵ 京都地方裁判所平成21年2月18日判決
本件事故は、会社員である被害者(原告)が夜間の横断歩道外を小走りに横断していたところ、相手車両に衝突されたことで発生したものです。
原告は本件事故により右脛骨高原骨折、頚部捻挫、右上腕打撲、右足背打撲の傷害を負い、後遺障害として、本件事故による右脛骨高原骨折に起因する右膝関節部痛、跛行が残る、走れない、荷重時痛が強い等が残存し、12級13号が認定されました。
前述したとおり、むち打ち症以外の神経症状の場合も、むち打ち症と同様に労働能力喪失期間を12級で10年に制限するという有力な考え方がありますが、この裁判例では次のとおり判示し、労働能力喪失期間を67歳までの25年間と認定しました。
「・・原告には、本件事故による右脛骨高原骨折に起因する右膝関節部痛、跛行が残る、走れない、荷重時痛が強い等の後遺障害が残存し、この後遺障害は平成19年3月31日に症状固定となったこと、この後遺障害は膝関節面の不整という客観的所見により認められるものであることが認められる。・・原告の症状固定時・・の年齢(42歳・・)に照らし、労働能力喪失期間は25年と認められる(対応するライプニッツ係数は14.094である。)。なお、この点につき、被告らは、原告に残存する神経症状は経年により緩和することに照らし、労働能力喪失期間は2年から3年までが限度とされるべきであると主張するものの、・・認定事実によれば、原告の膝関節面に不整が生じているというのであって、このことを前提とすると、必ずしも原告に残存する神経症状が経年により緩和するとまでは認められない。」
⑶ 横浜地方裁判所平成25年9月20日判決
本件事故は、自動車工場の塗装作業員である被害者(原告)が、原付自転車を運転して交差点を左折しようとしたところ、相手方(被告)の自動二輪車の右前部が、原告の左肘に衝突したことにより発生したものです。
原告は本件事故により尺骨肘頭骨折の傷害を負い、後遺障害として左尺骨肘頭骨折後の肘関節の痛みが残存し、14級9号が認定されました。
前述したとおり、むち打ち症以外の神経症状の場合も、むち打ち症と同様に労働能力喪失期間を14級で5年に制限するという有力な考え方がありますが、この裁判例では次のとおり判示し、労働能力喪失期間を67歳までの23年間と認定しました。
「原告X1には、後遺障害として、神経症状(左尺骨肘頭骨折後の肘関節の痛み)が残存しており、これが自賠責保険の後遺障害等級14級9号に認定されたこと・・は当事者間に争いがない。・・原告X1の仕事は、C自動車△△工場における車両の塗装作業であり、ボンネットなどの重い部品を運ぶ作業などをしていることが認められる。そうすると、痛みがある部位に常に負荷がかかっているのであるから、容易に神経症状が解消されるとは考えられず、労働能力喪失期間は23年間(対応するライプニッツ係数は13.4886)と認めるのが相当である。」
5.まとめ
以上のとおり、労働能力喪失期間は原則67歳まで認定されるものの、むち打ち症の場合は異なる取り扱いをすることについて、実務ではほぼ固まっているといえます。
もっとも、長期間経過しているにもかかわらず症状改善の傾向が認められないといった場合に、特別な配慮をしている裁判例があることは前述したとおりです。
一方、むち打ち症以外の神経症状の場合、むち打ち症の場合と同様に労働能力喪失期間を限定するか否かについては裁判例が分かれているところです。
このように分かれている要因としては、改善の兆候等といった、個々の事案における要素が関連していることも考えられます。
そのため、原則通りの労働能力喪失期間を主張する被害者としては、労働能力喪失期間の見込みについて適切な立証をする必要があります。
一般の方が、このような対応をすることは難しいと思われるため、適切な労働能力喪失期間を主張されたい場合には、交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
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全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算
今回のテーマは、死亡交通事故の被害者が若年労働者であった場合の死亡逸失利益の算定方法についてです。
不幸にも交通事故で被害者の方が亡くなってしまった場合、被害者遺族は加害者側に対して、死亡慰謝料や死亡逸失利益などの賠償を求めることができます。
以前の記事で(高齢者の死亡交通事故で家族が請求できるもの~示談金の相場~)、高齢者が死亡交通事故で亡くなった場合の死亡逸失利益の計算方法などについて解説しましたが、今回は若年労働者(概ね30歳未満を指します)が被害者となってしまった死亡交通事故について、その死亡逸失利益の考え方などについてご説明させていただきます。
死亡交通事故で被害者遺族の方からのご相談をお受けすると、加害者側の保険会社が提示してきた示談金が少ないのではないかとのご質問が多いです。
これは、保険会社の基準で示談金を提示して来ているためで、弁護士にご依頼になって裁判所の基準で算定すると大きく金額が加算させることも多いですが、特に被害者が若年の場合には死亡逸失利益の計算方法で示談金が大きく変わることがあります。
結論としては、若年労働者の場合、実際の収入額ではなく平均賃金を基に計算できる場合が多いですが、以下で過去の裁判例などもご紹介しつつ、ご説明します。
死亡交通事故の示談などでお困りの方のご参考になれば幸いです。
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死亡事故における死亡慰謝料の基準を解説~一般的な相場より増額された裁判例もご紹介~
死亡交通事故における高齢者の死亡逸失利益の算定方法について解説!~給与収入と年金収入の両方がある場合~
1.死亡逸失利益の計算方法
⑴ 被害者遺族が賠償請求できるもの
まず、死亡交通事故で被害者遺族が加害者側に賠償請求できるものは、大きく分けて以下の3つになります。
・死亡慰謝料
・死亡逸失利益
・葬儀費用
このうち、死亡慰謝料は、亡くなった被害者本人の死亡慰謝料と近親者の慰謝料があります。
慰謝料には、自賠責保険基準と任意保険会社基準、裁判所基準の3つの基準がありますが、裁判所基準では被害者の立場によって以下の金額が基準になるとされています(近親者の慰謝料も含んだ総額)。
・被害者が一家の支柱の場合:2800万円
・被害者が母親・配偶者の場合:2500万円
・被害者がその他の場合:2000~2500万円
(※その他とは、独身の男女、子供、高齢者などといいます。)
葬儀費用については、基本的に150万円が上限とされており、実際に支出した費用が150万円未満の場合には、実費での賠償となります。
そして、死亡交通事故の損害賠償の中で最も金額が大きくなるのが、死亡逸失利益です。
⑵ 死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、被害者が交通事故で死亡しなければ得られたはずの収入に対する賠償のことをいい、以下の計算方法で算出されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入は、被害者の収入額で、基本的に交通事故の前年の年収額を用いて計算されます。
生活費控除は、交通事故がなければ被害者がその後の生涯を生きていく上で生活費を支払う必要があり、事故後の収入の全てが手元に残るという訳ではないので、その生活費分を収入から控除するという考え方です。
被害者の生活費は、家族構成や性別、年齢などによって異なりますので、以下のようにそれぞれの被害者の立場によって生活費控除率も異なる割合で計算されます。
・被害者が一家の支柱の場合
扶養家族が一人:40%
扶養家族が二人以上:30%
・被害者が独身男性の場合:50%
・被害者が独身女性や主婦の場合:30%
就労可能年数については、裁判所が基本的に67歳まで就労可能と考えていますので、基本的に被害者が死亡した当時の年齢から67歳までの期間で計算します(高齢者の場合は別の計算方法を用います)。
⑶ 若年者の基礎収入の考え方
上でご説明したように、基本的に死亡逸失利益の基礎収入は、被害者の交通事故前年の年収額で計算されます。
しかし、まだ働き始める前の学生などの18歳未満の未就労者の場合には、収入がありませんので、将来平均賃金くらいの収入は得られたものとして、全労働者の平均賃金の値を基礎収入として計算することになっています。
この平均賃金は、毎年厚生労働省の調査によって算定されており、男女別・学歴別(中卒・高卒・短大卒・大卒)・年齢別などでそれぞれ金額が算出されています(これを「賃金センサス」といいます。)。
ですから、例えば「男性・大卒・40代前半」という同じ条件でも年によって金額が異なり、死亡逸失利益を算定する際には、交通事故の年の賃金センサスを用いることになります。
そして、18歳未満の未就労者の場合は、基本的に賃金センサスから男女別の全年齢・全学歴平均の数値を用いて計算することとなります。
そのため、令和5年の賃金センサスの数値を用いた場合、男性は569万8200円、女性は399万6500円を基礎収入として死亡逸失利益を計算することとなります。
一方、有職者の場合は、基本的に交通事故の前年の収入を基礎収入としますが、特に10代~20代の労働者の場合、全年齢平均より収入が少ない方が多く、実収入を基礎収入としてしまうと死亡逸失利益の計算上かなり不利になります。
一般的には年齢とともに収入が増えていくことが多く、交通事故で死亡していなければ得られたであろう将来の収入の賠償である死亡逸失利益を計算する上では、若年労働者について実収入を基礎収入とすることは不適切と考えられます。
また、学生ですら全年齢平均賃金を基礎収入にして計算することも考えると、不公平な結論になってしまいます。
そのため、概ね30歳未満の若年労働者の基礎収入については、慎重に検討する必要があり、学生の場合と同様に全年齢の平均収入の数値を用いることが原則とされています。
次では、若年労働者の基礎収入について実際の過去の裁判例でどのように扱われているかを紹介します。
2.居酒屋アルバイト(19歳女性)の場合
【東京地方裁判所平成26年3月28日判決】
この交通事故では、信号機のある交差点で、普通自動二輪車と普通乗用自動車が衝突し、自動二輪車の後部座席に同乗していた当時19歳の女性(Aさん)が高位頚椎損傷による呼吸障害により死亡してしまいました。
Aさんは、当時、モデルクラブに所属してモデルを目指しつつ、居酒屋でアルバイトをしていました。
この交通事故の裁判では、Aさんの遺族が、相手方乗用車の運転手とAさんが乗っていた自動二輪車の運転手の共同不法行為であるとして両者を訴えましたが、Aさんの死亡逸失利益の基礎収入についても争いになりました。
Aさんの遺族側は、基礎収入額を賃金センサス男女学歴計全年齢(男女別ではなく男女計・全学歴・全年齢)で計算するべきと主張しました。
一方、被告側は、自動二輪車の運転手は賃金センサス女子高卒全年齢の294万0600円とすべきと主張し、乗用車の運転手は本件事故直前の現実の収入額を基礎収入にするべきと主張しました。
そして、この裁判の判決では、裁判所がAさんの遺族側の主張を認め、基礎収入額は賃金センサス男女学歴計全年齢の470万9300円とすることが相当であると判断しました。
また、生活費控除率45%、労働可能年数48年(67歳まで)としたため、死亡逸失利益は4682万2026円が認められました。
3.専門学校卒の保育士(20歳女性)の場合
【東京地方裁判所平成23年10月7日判決】
この交通事故では、信号のある交差点で、横断歩道の歩行者用青色信号に従って自転車で進行していた当時20歳の女性(Bさん)が,交差点を右折してきた加害者車両が衝突されて死亡してしまいました。
Bさんは、交通事故に遭う3ヶ月前に専門学校卒業して,保育士として働き始めたばかりでした。
この交通事故の裁判では、Bさんの遺族が死亡逸失利益の算定について、基礎収入を賃金センサス女性高専・短大卒全年齢平均で算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、基礎収入を賃金センサス女性学歴計全年齢平均(女性・全学歴・全年齢)とすべきと主張しました。
つまり、この裁判では、被告側も平均賃金を用いることは争わず、高専・短大卒の平均賃金にするか、全学歴計の平均賃金にするかという点が争点になりました。
そして、この裁判の判決では、裁判所がBさんの遺族側の主張を認め、Bさんの専門学校卒の学歴は、高専・短大卒と同視できると判断して,基礎収入は賃金センサス女性高専・短大卒全年齢平均賃金額を採用すべきと判断しました。
また,生活控除率は30%、労働可能年数47年(67歳まで)としたため、死亡逸失利益は4840万4672円が認められました。
4.大卒の上場企業会社員(30歳男性)の場合
【東京地方裁判所平成25年1月11日判決】
この交通事故では、道路を横断していた当時30歳の男性(Cさん)が、道路を走行してきた大型貨物自動車に衝突されて死亡してしまいました。
Cさんは、大学卒業後、一部上場企業に就職して勤務しており、交通事故前年の年収は559万2483円でした。
この裁判では、Cさんの遺族が死亡逸失利益について、勤務先会社が設けている大卒事務総合職のモデル賃金に基づいて定年(60歳)までの給与額を計算すべきと主張しました。
また、60歳から67歳までは賃金センサス大卒男子年齢別平均値を基礎収入として算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、Cさんの勤務先会社の基本給は年齢給と職能給からなるところ,職能資格の上昇は本人の資質によるところが大きく予測が困難であるとして、モデル賃金で算定することを否定し、基礎収入を交通事故時の実収入として死亡逸失利益を算定すべきと主張しました。
そして、この裁判の判決では、裁判所は基本的にCさんの遺族側の主張を認め、60歳までの死亡逸失利益は勤務先会社のモデル賃金に基づいて算定すべきと判断しました。
また、60歳~67歳については、賃金センサス男女計学歴計を基礎収入として算定すべきと判断しました。
裁判所がモデル賃金での算定を認めたのは、被告側が主張したように職能給の存在などから将来支給される給与の具体的金額を予測することは相当困難であることは否めないとしつつも、モデル賃金には時間外労働の割増手当,通勤手当や海外勤務手当等は含まれておらず、控え目な数値であること,Cさんの交通事故時の収入額が30歳時点のモデル賃金を上回っていることなどから、モデル賃金が定める程度の給与を取得する蓋然性が認められると判断されたためでした。
また、生活控除率は50%とされ、差額退職金や60~67歳までの逸失利益も認められ、死亡逸失利益の総額は7686万3820円が認められました。
5.まとめ
今回は、若年労働者が亡くなった死亡交通事故での死亡逸失利益の基礎収入について、実際の裁判例を踏まえて解説しました。
死亡交通事故の示談金は、死亡逸失利益の金額次第で最終的な金額が大きく変わります。
特に、若年労働者の場合は、基礎収入をどのように設定して主張するかで逸失利益の金額が大きく増減しますので、慎重に検討する必要がありますが、ご家族を亡くされた被害者家族が色々と調べて加害者側保険会社と交渉するのは大変だと思います。
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投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

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12級や14級の後遺障害等級において通常より高い労働能力喪失率が認められた裁判例
今回は、12級や14級の後遺障害等級において通常(12級の労働能力喪失率14%、14級の労働能力喪失率5%)より高い労働能力喪失率が認められた裁判例をご紹介します。
後遺障害等級が認定された場合、通常は後遺障害による逸失利益を相手方に請求していくことになります。
ただ、その算定方法については、同じく後遺障害等級が認定された場合に請求する後遺障害慰謝料と比較すると、やや難解なところがあります。
そのため、今回はまず、後遺障害による逸失利益の算定方法について説明します。
この説明をご覧いただければ、労働能力喪失率というものが、後遺障害による逸失利益の算定方法の中でどのように位置付けられているかが分かるかと思います。
その上で、冒頭に記載したとおり、12級や14級の後遺障害等級において通常より高い労働能力喪失率が認められた裁判例をご紹介します。
交通事故被害者の方の中には、12級や14級の後遺障害等級が認定されたものの、これらの等級の通常の労働能力喪失率以上に労働能力が失われてしまっているという方もいらっしゃいますので、ご参考にしていただけますと幸いです。
【関連記事】
・後遺障害12級や14級の神経症状において通常より長期の労働能力喪失期間が認められた裁判例
・神経症状の後遺障害(12級13号・14級9号)の逸失利益~労働能力喪失期間の相場~
1.後遺障害による逸失利益の算定方法
後遺障害による逸失利益の算定方法については、次のとおり「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)に計算式が記載されています。
①有職者または就労可能者
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
②18歳未満(症状固定時)の未就労者
基礎収入額×労働能力喪失率×(67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数)
例えば、症状固定時の年齢が50歳で年収500万円の会社員の男性が傷害を負い、その後遺障害により労働能力が14%低下した場合の後遺障害逸失利益は、次の計算式になります。
500万円×0.14×13.1661=921万6270円
このように、基本的には、
第1に後遺障害がなければどれだけ所得があったか(基礎収入額)
第2にこれが後遺障害によってどのくらい減少したか(労働能力喪失率)
第3にその影響がどの程度継続するか(労働能力喪失期間)
を順次判断していくことになります。
2.労働能力喪失率とは
労働能力喪失率とは、労働能力の低下の程度をいいます。
基本的には、労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発551号)別表による、次の労働能力喪失率表記載の喪失率を認定基準として採用することが多いといえます。
| 等級 | 1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 |
| 喪失率 | 100% | 100% | 100% | 92% | 79% | 67% | 56% |
| 等級 | 8級 | 9級 | 10級 | 11級 | 12級 | 13級 | 14級 |
| 喪失率 | 45% | 35% | 27% | 20% | 14% | 9% | 5% |
もっとも、労働能力喪失率表は極めて概括的であり、工場労働者を対象に作成されたものである上、労災の補償日数をベースにしたものであって科学的根拠も乏しいものです。
また、後遺障害の部位・内容・程度が同じであっても、被害者の職業、年齢、性別等によって労働に対する影響の程度も異なります。
そのため、上記の表はあくまで参考資料にとどまり、労働能力喪失率は、被害者の年齢・職業、後遺障害の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体的にあてはめて評価すべきであると考えられています。
3.裁判例の紹介~14級において通常より高い労働能力喪失率が認定~
⑴ はじめに
上の労働能力喪失率表によりますと、14級の後遺障害等級における労働能力喪失率は5%です。
しかしながら、以下に抜粋した裁判例では、様々な事情を総合的に判断して、5%よりも高い労働能力喪失率を認定しています。
⑵ 甲府地方裁判所 平成17年10月12日判決
本件事故は、眼科医である被害者(原告)が自動車で病院に通勤していたところ、相手方の運転する自動車に追突されたことで発生したものです。
本件事故により原告には頚椎捻挫ないし外傷性頚部症候群の傷害が生じ、後遺障害として頚部痛、後頭部痛、眼精疲労、眼科医として手術をしようとする際の左手の振戦(ふるえ)などの症状が残り、14級の後遺障害等級が認定されました。
この裁判の判決では、労働能力喪失率については、次のとおり判示し、12%の労働能力喪失率を認めました。
「原告は現在も頚部痛、後頭部痛、眼精疲労を感じており、眼科医として手術をしようとすると左手の振戦が現れる。本件事故前は、原告は眼科医として数多くの手術をこなしていたが、本件事故後はこの左手の振戦により手術ができなくなった。そのため原告は手術をあきらめ研究職の眼科医に転向せざるをえなくなった。・・自賠責等級第14級の後遺症の労働能力喪失率は5%とされている。しかし、上記のような原告の症状、職業、職場環境を考慮すると、原告の場合、5%にとどまらない労働能力が失われているといえる。すなわち、従来、原告が高額の収入を得ることができたのは、手術のできる眼科医だったためである。しかし、本件事故後、後遺症である左手の振戦のために手術ができなくなり、この前提が崩れたため、平成11年当時と同様の収入が得られる保証はなくなった。平成17年5~8月の収入をみると、現実にかなりの収入の減少が生じていることが認められる。そこで、これらの事情を総合的に勘案し、さらに、原告の主張もふまえ、原告の労働能力喪失率は12%とする。」
⑶ 大阪地方裁判所 平成8年1月12日判決
本件事故は、型枠大工である被害者(原告)が自動車に同乗していたところ、相手方の運転する自動車に衝突されたことで発生したものです。
本件事故により原告には頚部損傷、左膝内障、腰部打撲の傷害が生じ、後遺障害として左膝に一定の運動可能領域の制限が存在し、左膝の引っ掛かり感をもっていること、長時間の歩行に困難をきたしている等の症状が残り、14級の後遺障害等級が認定されました。
この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、10%の労働能力喪失率を認めました。
「原告の後遺障害の程度は、等級表14級7号に該当するものであり、労災及び自賠責実務上その労働能力喪失割合は5%と取り扱われていることは当裁判所に顕著である。しかしながら、型枠大工の作業は膝の屈曲を多く伴なうものであって、右の障害があった場合、その作業能率の低下が5%にとどまるとは思えないこと、L病院においてもしゃがみこみの姿勢は半月板に負担をかけるのでこの動作を行わないように指導していること(証拠略)、しかも原告には生来の難聴という障害があり(証拠略)他に職を求めることが比較的困難であることを考え併せると、その労働能力喪失率は10%とみるべきである。」
4.裁判例の紹介~12級において通常より高い労働能力喪失率が認定~
⑴ はじめに
上記の労働能力喪失率表によりますと、12級の後遺障害等級における労働能力喪失率は14%です。
しかしながら、以下に抜粋した裁判例では、様々な事情を総合的に判断して、14%よりも高い労働能力喪失率を認定しています。
⑵ 東京地方裁判所 平成6年9月27日判決
本件事故は、タクシー運転手である被害者(原告)が自動車を運転していたところ、一時停止することなく交差点に進入した相手車両に左側面を衝突されたことで発生したものです。
原告は本件事故により右膝内側側副靭帯断裂、右膝内側半月板損傷、頚椎捻挫等の傷害を受け、後遺障害として①右膝関節に可動制限はないものの、正座や胡座は疼痛のため、短時間しかできない、②右膝内側側副靱帯部及び内側関節間隔に圧痛があり、長時間立っていたり、物を持って歩くと膝内側に圧痛がある、③頸部前屈時に左頸附根部に疼痛や圧痛があり、また、左母指、示指の末節にしびれ、知覚麻痺があるという症状が残り、12級が認定されました。
この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、25%の労働能力喪失率を認めました。
「原告は、本件事故のため、右膝関節に12級の後遺障害を残したが、同関節障害のためアクセルを踏み込む動作に支障を来たし、長時間の運転ができず、また、重量のある物の運搬に重大な支障を来たしている。このため、タクシー運転手としての業務遂行は不可能となったが、甲15、19、原告本人によれば、本件事故がなければ、64歳まではC会社の正勤の乗務員として、65歳からは嘱託の乗務員として正勤の乗務員と同一の給与のベースで、それぞれタクシーの運転手の業務を継続することができたことが認められる。そして、現在はC会社で車庫の管理の仕事を行い、月給22、3万円の賃金を得るに止まること、原告がタクシー運転手としての業務を継続するとしても、歩合給の率が高い右業務の賃金体系に照らせば、加齢とともに収入が減ることが予想されることを斟酌すると、平成元年度の給与を基礎とすれば本件事故により労働能力が25%喪失したものと認めるのが相当である。」
⑶ 仙台地方裁判所平成13年6月22日判決
本件事故は、理容店兼美容院を経営する被害者(原告)が自動2輪車を運転していたところ、後方から同一方向に進行してきた相手車両に追突されたことで発生したものです。
原告は本件事故により左腎損傷、頸椎捻挫、肋骨骨折、右小趾基節骨骨折、胸椎・腰椎捻挫、左肩・臀部・腹部・左膝打撲、急性胃炎等の傷害を受け、左腕神経損傷の後遺障害が残り、12級が認定されました。
この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、35%の労働能力喪失率を認めました。
「・・原告は、前記受傷により、左腕神経損傷の後遺障害が残存し、左腕の肩から指先にかけてのしびれ、左肩関節痛の自覚症状を有し、左上肢の皮膚温低下、感覚鈍麻、筋力低下、巧緻性の低下が認められること、理容師及び美容師の作業は、両手、指先の動きの巧緻さを要し、原告は、同後遺障害のため、作業中にはさみで自己の指を傷つける等理容師及び美容師としての技術を十分に駆使し得ない状態となったことの事実が認められる。そうすると、原告は、本件後遺障害により、少なくとも理容師及び美容師としての労働能力の35%を喪失したものと認めるのが相当である。」
5.まとめ
既に解説したとおり、労働能力喪失率については、労働能力喪失率表記載の喪失率を認定基準として採用することが多いです。
そのため、14級については5%、12級については14%が認定されることが多数です。
もっとも、今回紹介した裁判例においては、後遺障害の程度・部位と、被害者の職業に対する具体的な影響の程度を詳細に認定した上で、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る認定をしています。
これは裏返して言うと、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る主張をする被害者は、労働能力喪失の実態について適切な立証をしなければならないということです。
一般の方が、これらの立証をすることは難しいですから、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る主張をされたい場合には、交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
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交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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知らないと損する!?交通事故後の代替労働力に関する費用の請求
今回は、交通事故後に発生した代替労働力に関する費用(代替人件費)の請求について紹介します。
代替労働力に関する費用とは、交通事故の被害者である自営業者(個人事業主)が、事故の怪我によって全部又は一部働けなくなった分を補うために発生した人件費のことをいいます。
この代替労働力に関する費用が認められない場合、不合理な事態が生じることになります。
例えば、個人で新聞配達業を営んでいた方が、交通事故による傷病のため配達を行うことができなくなってしまったというケースを考えてみましょう。
このとき、新聞配達業を休業して現実に収入が喪失してしまった場合、通常は休業損害が認められることになります。
では、人件費をかけて代行の配達要員を補充することで、新聞配達業の休業を回避した場合はどうでしょうか。
この場合は休業していないことから収入が喪失しておらず、先程の意味での休業損害は認められないことになります。
そのため、ここで仮に代替労働力に関する費用が損害として認められないとなると、損害の拡大を防ぐために人員を補充した方が損をしてしまう結果となり、不合理であることが分かります。
そこで今回は、代替労働力に関する裁判例を紹介するとともに、当事務所が取り扱った代替労働力に関する事例を紹介します。
1.代替労働力に関する費用の裁判例
代替労働力に関する費用の裁判例として、「東京地方裁判所平成25年7月16日判決」交通事故民事裁判例集46巻4号915頁を紹介します。
この裁判例の事例では、東京都にクリニックを開業している内科医師である原告が、タクシーに客として乗車していたところ、運転手の過失でタクシーが走行中にスリップし、中央分離帯の側壁に衝突してしまい、頭部打撲、頚椎症、歯牙欠損等の傷害を負ったという事案です。
原告は、本件事故前から、もともとD医師に対して自身のクリニックでの週3回1時間の診療を依頼していました。
本件事故後、原告は通院する必要があったことや長時間の診療に耐えられなかったことにより、D医師に対して、上記のもともとの診療時間の他に、週3日合計9時間の代診を依頼せざるを得ず、その結果、追加分の代診費用として合計90万円をD医師に支払いました。
そのため、代替労働力に関する費用として90万円を請求したものです。
一方、被告側は、代診費用を支払うことで診療を行い、収益を上げておきながら、一方で収益を考慮せずに人件費を請求するのであれば、不当に利益を得ることとなるなどとして、代替労働力に関する費用の請求は認められないとの主張を展開しました。
これに対して、裁判所は、次のとおり判示し、代替労働力に関する費用として90万円を認定しました。
「原告が本件事故により負った傷害の内容及び程度・・に照らすと・・痛み等を抱えつつ、本件クリニックを受診する種々の患者に個々に対応し、診察や検査を行うという業務に従事し続けることは、相当の困難と労苦を伴ったであろうことは、容易に推認することができる。そうすると・・原告が自ら従事すべき診療業務の一部の代替を1回当たり5万円で他の医師に依頼し、本件クリニックの診療体制を維持することによりその収入の確保を図るということは、損害の拡大を防ぐという観点からも、なお相当性を有するものということができ、収入を確保するために余計に要した経費として・・休業損害とは別に本件事故によって生じた損害であるということができる。」
2.当事務所が取り扱った代替労働力に関する費用の事例
次に、当事務所が取り扱った代替労働力に関する費用の事例を紹介します。
個人事業主として飲食業を営んでいた依頼者Aさんは、高速道路で渋滞のため停車していたところ、後方から貨物自動車に追突されてしまい、本件事故が発生しました。
加害者は居眠り運転をしていたようであり、Aさんの車両はかなりの速度で追突されました。
この事故でAさんは頚椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性頚椎椎間板ヘルニア等の怪我を負い、約7ヶ月通院しました。
なお、Aさんの頚部痛・腰部痛などの頚部・腰部の神経症状の後遺障害については、当事務所が被害者請求で自賠責保険会社に対して後遺障害申請を行い、後遺障害等級14級9号が認定されるに至っています。
Aさんは、本件事故前から、数名の従業員を雇用して飲食店運営をしていました。
しかしながら、本件事故後、Aさんは通院する時間を確保しなければならない上、怪我による症状のため、包丁捌きがままならず調理作業ができなかったこと等により、業務に大きな支障が生じてしまいました。
そのため、Aさんは、従業員に通常よりも多くシフトに入ってもらったり、新たに別の従業員を雇ったりすることによって店舗運営を維持しましたが、その結果、約250万円もの代替労働力に関する費用が発生してしまいました。
そのため、私たちは、相手方保険会社に対し、代替労働力に関する費用として約250万円を請求することにしました。
3.相手方保険会社との交渉
しかしながら、相手方保険会社の担当者は、代替労働力に関する議論をあまり知らない様子であるとともに、「労務対価と経営者としての対価が確認できる資料」の開示を求めてくるなど、全く話が噛み合いませんでした。
たしかに、代替労働力に関する議論はメジャーな争点ではありませんが、いわゆる「赤い本」と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部編)に掲載されているものであり、保険会社の担当者が理解していなかったことには驚いた記憶があります。
また、「労務対価と経営者としての対価が確認できる資料」は、会社役員の報酬に関する議論に関するものであり、個人事業主であるAさんに関する議論には全く当てはまらないものでした。
最終的に、やむを得ず求められた資料を相手方保険会社に開示したものの、相手方保険会社からは一向に具体的な回答が示されることはありませんでした。
そのため、相手方保険会社に回答を督促したところ、相手方保険会社は回答を示すことのないまま弁護士を選任するに至りました。
4.相手方代理人との交渉
相手方の窓口が、相手方保険会社から相手方代理人(弁護士)に移行しましたが、相手方代理人は代替労働力に関する議論を把握していたようであり、話が噛み合わないということはありませんでした。
そのような意味では、通常、窓口が相手方保険会社から代理人弁護士に移行すると、交渉態度が硬直化するなど被害者側にとっては不利になることが多いものの、本件ではむしろ有利に働きました。
その後、私たちは、代替労働力に関する費用として請求している約250万円の根拠について、確定申告書を引用するなどして交渉を行いました。
その結果、代替労働力に関する費用について、相手方代理人との間で請求額通りの金額で示談することができました。
Aさんとしても、代替労働力に関する費用が全額認められたため、大変満足されている様子でした。
5.まとめ
このように、代替労働力に関する費用として、当事務所では、ご紹介した東京地裁の裁判例よりも大きな金額を相手方から回収することができました。
現状、代替労働力に関する議論は広く知られているという印象ではないため、被害者側が弁護士に依頼しないままご自身で相手方保険会社に請求することは困難を伴うものと思います。
ご紹介した事例のように、そもそも代替労働力に関する費用の議論を知らない保険会社の担当者もいるくらいです。
また、損害の発生については被害者が証明責任を負っているため、代替労働力の利用を余儀なくされた場合には、被害者側が、代替労働力を利用する必要性や金額の相当性等について立証しなければなりません。
一般の方が、これらの立証をすることは難しいと思われるため、交通事故を専門とする弁護士に相談するべき事例であるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
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交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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