肩腱板損傷の後遺障害 12級・14級・非該当の事例の比較

肩の腱板損傷は、バイクや自転車の交通事故の被害者の方に比較的多い傷病です。

当事務所の依頼者の方の中にも、腱板損傷による後遺症が残ってしまい、後遺障害の申請をお手伝いするケースは多く、これまでも当交通事故専門サイトや当事務所のブログで具体的な事例をご紹介してきましたが、後遺障害等級12級が認定された場合、後遺障害等級14級の認定でとどまった場合、非該当になってしまった場合など、依頼者によって結果は様々です。

そこで、今回は、最近の4人の腱板損傷の依頼者の方々のケースを比較しながら、後遺障害等級が認定された理由、認定されなかった理由などを考えてみたいと思います。

腱板損傷でお困りの方は、参考にしていただけますと幸いです。

腱板損傷とは?

腱板とは

腱板とは、肩の中にある筋肉(インナーマッスル)で、肩甲下筋腱(けんこうかきんけん)、棘上筋腱(きょくじょうきんけん)、棘下筋腱(きょくかきんけん)、小円筋腱(しょうえんきんけん)の4つのことを指します。

簡単に言うと、腱板は、肩関節がスムーズに動くように調整する役割を担っています。

腱板損傷の症状

この腱板が損傷してしまうと、肩に痛みが出ます。肩を挙げたときに強い痛みを感じたり、肩の痛みで夜も眠れないという被害者の方もいます。
また、損傷がひどい場合(腱板断裂)、肩関節の可動域が制限され、肩が挙がらなくなってしまうこともあります。 

腱板損傷の原因

腱板損傷の原因としては、交通事故のような外傷性の怪我によるものと、加齢性の変化によるもの、加齢性の変化が進んでいたところに外傷も加わって起こるものなどが考えられます。

腱板損傷の診断方法

腱板は、レントゲンには映りません。

そのため、レントゲンでは正確な診断はできず、MRIを撮影して診断する必要があります。

また、MRIによって腱板損傷が認められたとしても、ある程度の年齢の方になると、加齢性の変化による損傷ということも考えられます。

そのため、交通事故による腱板損傷であることを証明するためには、事故直後にMRIを撮影する必要があります。

事故直後のMRI画像で、腱板に輝度変化が認められれば、事故による外傷と認められ、症状固定時まで後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害等級が認定される可能性が高まります。

肩腱板損傷で認定される後遺障害等級(10級・12級・14級・非該当)

10級10号

腱板損傷によって、肩関節の可動域が2分の1以下に制限されていれば、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として10級10号が認定される可能性があります。

ただし、肩関節の可動域が制限されていれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像などの客観的な医学的所見から、そのような重度の可動域制限の原因が認められる場合に認定されます。

12級6号

腱板損傷によって、肩関節の可動域が4分の3以下に制限されていれば、「関節の機能に障害を残すもの」として12級6号が認定される可能性があります。

12級6号についても、肩関節の可動域制限があれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像など可動域制限の原因となる腱板損傷の所見が認められる場合に認定されます。

12級13号

腱板損傷による肩関節の可動域制限がない場合や4分の3以下までの制限はない場合、肩関節の痛みが残存していれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が認定される可能性があります。

12級13号についても、肩関節の痛みがあれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像など肩関節の痛みの原因となる腱板損傷の所見が認められる場合に認定されます。

14級9号

腱板損傷による肩関節の可動域制限がない場合や4分の3以下までの制限はない場合で、肩関節の痛みが残存しており、12級13号を認定するほどの腱板損傷の所見がない場合、「局部に神経症状を残すもの」として14級9号が認定される可能性があります。

14級9号についても、肩関節の痛みがあれば必ず認定されるというものではなく、受傷時の態様や治療の経過から痛みの訴えに一応の説明がつき、医学的に説明可能な障害を残す所見のある場合に認定されます。

つまり、MRI画像などで明確な腱板損傷までは認められなくても、損傷を疑う所見がある場合なども認定される可能性があります。

非該当

腱板損傷の診断があり、肩関節の可動域制限や痛みなどがあっても、その裏付けとなるMRI画像の所見などがない場合、後遺障害等級は認定されず、非該当となる場合があります。

最近の4名の依頼者の比較

当事務所の弁護士が最近担当させていただいた腱板損傷の被害者の4名を比較すると、以下の表のようになります。4名とも40~50代の男性です。

Bさんの事例については当交通事故専門サイトで、HさんとKさんの事例については当事務所のブログでご紹介していますので、そちらもご覧ください。

 事故時の状況初回申請結果異議申立て結果MRI撮影時期
Bさん自転車運転中14級9号12級13号2ヶ月後
Hさんバイク運転中非該当12級13号1ヶ月半後
Fさんバイク運転中14級9号14級9号1ヶ月以内
Kさん自動車運転中非該当非該当5ヶ月後

12級が認定されたケース

Bさんの場合(14級9号⇒12級13号)

Bさんの事例のご紹介はこちら(【速報】後遺障害等級認定事例(2)~右肩腱板損傷~

Bさんは、自転車運転中に赤信号の交差点で信号待ちをしていたところ、左折しようとした加害者車両に衝突され、頚椎や右肩などを負傷しました(頚椎捻挫・右肩腱板損傷)。

Bさんは、交通事故から約2ヶ月後に右肩のMRIを撮影しており、読影医のレポートでも「右肩腱板損傷」と診断されていました。

そして、症状固定時の右肩関節の症状は、肩関節の可動域制限(4分の3以下)と痛みが残存しているという状態でした。

しかし、初回の後遺障害申請では、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」との判断で、右肩については14級9号の認定にとどまりました。

その後、読影医のレポートと主治医のカルテを添付して、右肩腱板損傷が交通事故によるものであることを強く主張して異議申立てを行ったところ、12級13号が認定されました。

Bさんのケースは、MRIの撮影時期が若干遅かったものの、読影医のレポートで「右肩腱板損傷」と明確に診断されていたことと、事故直後のカルテに腱板損傷を裏付けるような記載が見られたことで、交通事故による腱板損傷と認められたものと思われます。

Hさんの場合(非該当⇒12級13号)

Hさんの事例のご紹介はこちら(弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~

Hさんは、バイク運転中の左折巻き込み事故によって、身体を地面に強く叩きつけられて、頚椎捻挫、腰椎捻挫、右肩腱板損傷、右手親指MP関節捻挫等の怪我を負いました。

Hさんは、交通事故から約1ヶ月半後に右肩のMRIを撮影しており、MRI画像から主治医が「右肩腱板損傷」と診断していました。

そして、症状固定時の右肩関節の症状は、肩関節の可動域制限はほとんどないものの、強い痛みが残存しているという状態でした。

しかし、初回の後遺障害申請は相手方保険会社の事前認定で行われ、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」との判断で、右肩については非該当とされていました。

その後、私たちの事務所でご依頼をお受けし、主治医にMRI画像上で損傷部位を指摘してもらう医療照会を行い、その回答を添付して、右肩腱板損傷が交通事故によるものであることを主張して異議申立てを行ったところ、12級13号が認定されました。

Hさんのケースは、事故から約1ヵ月半でMRIが撮影されており、MRI画像上「右肩腱板損傷」と明確に診断されていたことで、交通事故による腱板損傷と認められたものと思われます。

14級が認定されたケース

Fさんの場合(14級9号⇒14級9号)

Fさんは、バイク運転中に隣の車線を並走していた自動車が車線変更してきた際に衝突され、頚椎捻挫、腰椎捻挫、左肩腱板損傷の怪我を負いました。

Fさんは、交通事故直後に左肩のMRIを撮影しており、読影医のレポートには「左肩関節に棘上筋腱損傷及び肩甲下筋腱損傷を疑う所見を認めます」と記載されていました。

そして、症状固定時の左肩関節の症状は、肩関節の可動域制限はないものの、強い痛みが残存しているという状態でした。

その後、初回の後遺障害申請の結果は、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」ものの、治療状況や症状推移などを勘案すると将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられるとの判断で、左肩については14級9号が認定されました。

Fさんの場合は、MRIの読影医のレポートで明確な腱板損傷の診断がなかったことから、私たちは外部の医師に画像鑑定を依頼しました。

そうしたところ、鑑定を担当した医師が「棘上筋腱損傷・肩甲下筋損傷」と診断する鑑定書を作成してくれましたので、この鑑定書を添付して異議申立てを行いました。

しかし、異議申立ての結果、自賠責保険は、MRIの画像上「腱板の連続性は保たれている」と判断し、左肩の後遺障害等級は14級9号のままという結果となりました。

Fさんのケースは、MRI画像上、腱板損傷の程度が軽かったということで14級9号の認定にとどまったものと思われます。

非該当のケース

Kさんの場合(非該当⇒非該当)

Kさんの事例のご紹介はこちら(後遺障害等級が認定されなかった事例~左肩腱板損傷~

Kさんは、自動車運転中に路外から出てきた加害者車両に衝突され、左肩を負傷しました(左肩腱板損傷)。

Kさんは、主治医に腱板損傷と診断されていたものの、交通事故から約5ヶ月後まで左肩のMRIを撮影しておらず、事故からかなり時間が経過した後でMRI撮影をしましたが、MRI画像上、腱板損傷の所見がありました。

Kさんの症状固定時の左肩関節の症状は、肩関節の可動域制限が2分の1以下に制限され、強い痛みも残存しているという状態でした。

その後、初回の後遺障害申請は、相手方保険会社の事前認定で行われましたが、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」とされ、治療状況や症状推移などを勘案しても、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難いとの判断で、左肩については非該当となりました。

Kさんの場合は、MRIのレポートで腱板損傷の診断があったものの、事故からMRI撮影までの時間が空き過ぎていたため、事故による損傷と判断してもらえなかったと考えられました。

そこで、私たちは主治医に医療照会をお願いし、事故直後の左肩の症状について回答をもらい、カルテも取り付けて、事故による腱板損傷であると主張して異議申立てを行いました。

しかし、異議申立ての結果、自賠責保険は、左肩腱板損傷と事故との因果関係を認めず、左肩の後遺障害は非該当のままという結果となりました。

Kさんのケースは、MRI撮影が遅すぎたこと、自動車乗車中の事故で通常は腱板損傷が起きにくい事故態様であったこと、50代で加齢性の変化による損傷の可能性も否めないことなどの事情で、事故と腱板損傷の因果関係を認めてもらえなかったものと思われます。

まとめ

今回は、肩の腱板損傷の後遺障害についてご説明しました。

腱板損傷という同じお怪我でも、ご紹介した4名の依頼者は後遺障害等級の認定結果がそれぞれ違う経緯を辿り、違う最終結果となっています。

腱板損傷は、事故後にMRI撮影が速やかに行われないと、事故との因果関係を証明することが難しくなります。

今回ご紹介した非該当の事例のKさんも、事故直後に私たちにご相談されていれば、違う結果になっていたかもしれません。

私たちが、交通事故の被害者の方に対して、事故後の早い段階で弁護士にご相談なさるようお勧めしているのは、このように事故から時間が経過してしまうと取り返しがつかなくなる場合もあるからです。

私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は初回無料でお受けしております。

是非お気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

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