こんにちは、港区赤坂見附駅徒歩5分の優誠法律事務所です。
今回は、過失割合について自賠責保険の重過失減額を免れた事例をご紹介します。
この記事をご覧の方の中には、自賠責保険は最低基準ではあるものの、一定額(例えば、傷害部分で120万円)が必ずもらえると考えておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、自賠責保険の保険金にも、保険金が減額される可能性のある「重過失減額」という規定があり、請求者側の過失割合が70%以上の場合に、過失割合に応じて自賠責保険金が減額されてしまいます。
今回は、当事務所で取り扱った案件のうち、依頼者の方が過失が大きいと主張されていた事例で、この重過失減額を回避できたものをご紹介します。
こちら側の過失が大きい事故の解決では参考となり得ると思いますので、ぜひご覧ください。
このページの目次
1 事案の概要~先行右折車と追越直進者の事故~
⑴ 事故発生状況
本件の事故発生状況は、以下の図のとおりです。
Aさんが交差点で右折しようとしたところ、右側からAさんの車両を追い越そうとした相手方と衝突してしまいました。
Aさんは、そろそろ治療が終わるタイミングでしたが、交通事故に遭って怪我をして通院もしているのに、相手損保が治療費の対応をしてくれないということで当事務所にご相談されました。
なお、Aさんは人身傷害保険には加入されていませんでした。
そのため、Aさんは、相手方保険会社にもAさん側保険会社にも治療費を出してもらえない状態で、ご自身のご負担で治療をさせていました。
⑵ 相手方はAさんの過失90%を主張
本件では、Aさん車両搭載のドライブレコーダーがあったので確認すると、Aさんは右折の際にウインカーは出していましたが、右折前にあらかじめ右側に寄らずに右折していることが確認できました。
相手損保は、おそらくこの点を捉えて、Aさんの過失が大きいとして治療費を病院に直接支払うという対応(一括対応と言います。)をしていないのだろうと予想できました。
そのままAさんご本人で案件を進めるのは困難と思われ、そろそろ治療も終了というタイミングでしたので、まずは当事務所の弁護士と相手損保とで示談交渉を行い、過失割合が理由で交渉が難しければ、自賠責保険に対して被害者請求を行うという方針でご依頼となりました。
ご依頼の後、相手損保に対して認識を確認すると、やはりAさんの過失が大きいと捉えているので一括対応は行わなかったとの回答でした。
相手損保としては、Aさんがあらかじめ道路右側に寄らなかったことから、別冊判例タイムズ38号の137図(右折車80:追越直進車20)の適用を主張し、さらに直近右折による修正を加えてAさん90:相手方10の過失割合を考えているとのことでした。
⑶ 当方は判例タイムズ135図の適用を主張
これに対して、当方からは、本件は137図ではなく135図(先行右折車10:追越直進車90)が適用される類型であると主張しました。
135図の適用となれば、Aさんが右折前にあらかじめ右側に寄っていなかったために修正がなされたとしても、Aさんの過失は20%から30%に留まることになります。
本件で両図のどちらの適用があるかは、幅員が十分にあって直進車と右折車が横に並んで進行できるか否かで判断されることになります。
交渉の結果、相手損保担当者からは一定の理解を得られる部分もありましたが、保険契約者である相手方本人の意向であるとして、137図の基本過失割合に則ったAさん80:相手方20以上の譲歩はできないとのことでした。
示談交渉では、いくらこちらが理論的に正しい主張をしていても、相手が納得しなければ話がまとまりません。
したがって、そのような場合は、いわゆる「被害者請求」を行って自賠責保険金を回収し、さらに追加で請求し得るものがあれば裁判を行うという方法をとることが多いです。
しかし、過失割合が被害者80:加害者20となると、自賠責保険へ被害者請求を行うにしても注意が必要です。
それが「重過失減額」という自賠責保険の規定です。
2 重過失減額とは?
自賠責保険金は、被害者に過失があったとしても基本的に減額されることはありません。
これは、自賠責保険の制度趣旨が被害者救済にあるためです。
しかし、被害者に重大な過失、具体的には7割以上の過失がある場合には、一定割合が減額されます。
これを「重過失減額」と呼んでいます。
重過失減額による減額割合は以下の通りです。
減額適用上の被害者の過失割合 | 減 額 割 合 | |
後遺障害又は死亡に係るもの | 傷害に係るもの | |
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
被害者の過失割合分がそのまま差し引かれるわけではないのですが、それでも100%の金額よりは減額されてしまうことになります。
漫然と自賠責保険金を請求し、例えばAさんに80%の過失があるとされてしまうと、自賠責保険金の満額から20%が減額されてしまうことになります。
したがって、このようなケースでは、自賠責保険金を請求するにしても、相手損保任せの「事前認定」ではなく、被害者側が主体的に資料を提出する「被害者請求」の手続きをとり、かつ、被害者の過失が7割を下回ることを説明する意見書を提出することが有効です。
事前認定と被害者請求については、以下の記事もご覧いただければと思います。
3 自賠責への被害者請求
以上を踏まえ、本件では、自賠責保険金の請求において被害者請求を行い、その際、弁護士が過失割合について意見書を作成し、これを添付しました。
意見書では、車幅や道路の幅員等に言及しつつ、概ね以下の主張を行いました。
①本件では、加害者加入の保険会社は基本過失割合が右折車80:直進車20の別冊判例タイムズ38号137図を主張しているものの、そもそも137図は道路の幅員が十分ある場合についての類型であり、本件に適用はないこと。
②仮に、万が一137図の適用があるとしても、交差点での追い越しが禁止されていることに鑑み、直進車側に20%の加算修正がなされる(Aさん60:Bさん40)べきであること。
③本件は幅員が十分にあるケースではなく、別冊判例タイムズ38号の図で言えば、本件で適用のあるものは135図(基本過失割合右折車10:直進車90)であり、右折車であるAさんがあらかじめ右側に寄らずに修正がなされるとしても、Aさんの過失は20%から30%にとどまること。
以上の内容の意見書を添付し、自賠責に対して被害者請求を行ったところ、自賠責からは、重過失減額されることなく、自賠責基準全額の入金がありました。
その上で、裁判基準で過失相殺をした金額と、自賠責保険からの入金額を比較したところ、追加で請求できる部分はないことが確認できましたので、本件は自賠責からの入金で終了しました。
4 まとめ
今回は、自賠責への請求で見落としがちな「重過失減額」を回避して解決できた事例をご紹介しました。
こちら側に過失がある事案では、自賠責からの回収だけで終了してしまうこともありますが、その場合でも漫然と請求してしまうと重過失減額がなされ、受け取る額が少なくなってしまう恐れがあります。
そのような可能性がないか、自賠責に請求する前に弁護士にご相談のうえ検討されることをお勧めいたします。
優誠法律事務所では交通事故のご相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また、よろしければ、公式ブログで過失割合を修正できた交通事故事例も多数ご紹介しておりますので、そちらも是非ご覧ください。
過失割合を逆転させた事例~丁字路交差点で右折車の右側からバイクが追い抜こうとした際の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号なし・相手方に一時停止あり)の交通事故~
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投稿者プロフィール
2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)