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死亡事故における死亡慰謝料の基準を解説~一般的な相場より増額された裁判例もご紹介~
今回のテーマは、死亡交通事故における死亡慰謝料です。
交通事故の被害者がお亡くなりになった事故(死亡事故)の場合には、ご遺族は「死亡慰謝料」の請求ができます。
今回は、交通事故の死亡慰謝料の相場はどの程度とされているか、裁判所の基準などをご説明します。
また、相場と異なる判断をした裁判例(増額された事例)もいくつかご紹介し、その裁判例の判断の背景などもご説明します。
示談交渉の際、保険会社は、相場よりも低い金額の提示をしてくるケースもありますので、交渉には相場感を把握した上で臨むことが必要です。
被害者の死亡という重大な結果が生じてしまっている以上、いくら金銭(慰謝料)を増額しても、ご遺族が納得できるものではないとは思いますが、せめて保険会社の提示を受け入れて相場よりも低い基準で示談してしまわないよう、示談交渉の際の参考にしていただければと思います。
1 死亡慰謝料とは
死亡慰謝料とは、交通事故によって亡くなった被害者本人およびその遺族が被る精神的苦痛に対する賠償金のことです。
被害者本人の慰謝料に加え、遺族の精神的苦痛についても慰謝料を請求できます。
2 死亡慰謝料の基準
死亡慰謝料についても、傷害慰謝料や後遺障害慰謝料と同様に、自賠責基準、任意保険基準がありますが、最も高額な裁判所・弁護士基準では以下のとおり説明されます(いわゆる「赤い本」基準)。
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他 2000万円~2500万円
上記の金額は、被害者本人の慰謝料に加え、遺族の慰謝料も含めた金額です。
「一家の支柱」とは、通常、主に一家の生計を維持している者を指すと説明されます。
そのような方が亡くなった場合は遺族の事故後の生活への影響が大きいと考えられることから、高めの基準が示されています。
また、「その他」には独身の男女、子ども、幼児等が含まれます。
3 死亡慰謝料の増額事由
基本的には上記の基準が示されている死亡慰謝料ですが、事故態様が悪質な場合、慰謝料が増額されることがあります。
例えば以下のような場合です。
・飲酒運転
・著しい速度超過
・信号無視
・居眠り運転
・無免許運転
・わき見運転
事故後の加害者の対応が著しく不誠実、悪質な場合も、慰謝料が増額されることがあります。
以下のような場合が該当します。
・加害者が事故後に逃走した
・警察に虚偽の説明をしたり、証拠隠滅を図ろうとした
・事故後に被害者を罵倒するなどした
被害者側の事情から慰謝料が増額されるケースもあります。
以下のような場合です。
・被害者が妊娠しており、胎児と共に死亡した場合
・遺族が事故後に精神疾患を患った場合
また、独立していないお子さんが多いケース、被害者の社会的地位が高いケースなども、慰謝料増額があり得ると思います。
4 死亡慰謝料を増額した裁判例
ここからは、死亡慰謝料を増額した裁判例をいくつか紹介したいと思います。
①神戸地方裁判所平成25年3月11日判決
被害者の属性:66歳男性、無報酬の会社役員、年金・配当収入あり
原告の主張:被害者本人の慰謝料3000万円、遺族(注:原告は妻と子2人の計3名)固有の慰謝料各500万円の合計4500万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2500万円、妻300万円、子2人各100万円の合計3000万円
被害者を一家の支柱と考えても、上記の基準では2800万円の慰謝料額になるところですが、裁判所は合計3000万円の慰謝料を認めています。
判決理由中では、衝突時高速度であったこと、妻を扶養していたこと、報酬は得ていなかったものの取締役として外部の交渉一切を担当していたことが挙げられています。
被害者の社会的地位が慰謝料に影響すると判断したものと捉えられる判決だと思います。
②大阪地方裁判所平成25年3月25日判決
被害者の属性:30歳男性、妻と2歳の子あり
原告の主張:被害者本人の慰謝料8000万円、遺族(2人)固有の慰謝料各1000万円の合計1億円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料3500万円、遺族(2人)固有の慰謝料各250万円の合計4000万円
一家の支柱の基準額である2800万円から1200万円の増額を認めている裁判例になります。
事故態様として、無免許運転、飲酒運転があり、事故後逃走し約2.9kmにわたって故意に被害者を引きずるなど非常に悪質なものであること、30歳と若年で養育すべき妻子がいることなどが判決理由として挙げられています。
特に事故態様については、「通常の交通事犯の範疇を超えて殺人罪に該当する極めて悪質かつ残酷なものである」と判示されており、強く非難されています。
③神戸地方裁判所平成28年5月25日判決
被害者の属性:81歳男性、年金受給中
原告の主張:被害者本人の慰謝料2800万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各150万円の合計3400万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2200万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各150万円の合計2800万円
高齢の年金生活者について、2800万円と一家の支柱と同等の慰謝料額を認めた事例になります。
事故後の慰謝料の交渉では、被害者が高齢で年金生活者の場合に、稼働して収入を得ているわけではないので一家の支柱とは言えないとして、「その他」の2000万円~2500万円の基準でしか慰謝料は支払えないと保険会社が主張することが多くあります。
しかし、裁判例では、本判決のように、年金生活者であっても、主として被害者の収入によって世帯の生計が維持されている場合、「一家の支柱」の基準による慰謝料を認めるケースがあります。
保険会社の主張は一見あり得そうですが、このような裁判例もありますので、あきらめずに粘り強く交渉していくことが必要です。
④千葉地方裁判所松戸支部平成27年7月30日判決
被害者の属性:45歳男性、会社員
原告の主張:被害者本人の慰謝料3000万円、妻固有の慰謝料300万円、子2人固有の慰謝料各100万円の合計3500万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2800万円、妻固有の慰謝料250万円、子2人固有の慰謝料各100万円の合計3250万円
慰謝料金額に関する認定について、裁判所は、被害者が家族との平穏な生活を奪われ、妻と未だ独立していない2人の子を残し、本件事故3日後に意識を取り戻すことなく死亡したこと、妻については夫であり子らの父である被害者を失い、夫婦の平穏な生活を奪われ、大きな喪失感を抱いていること、子らについては未だ学生であったにもかかわらず頼るべき父親を失ったことを挙げています。
本事案に限りませんが、死亡慰謝料額を通常の基準よりも増額している判決では、原告側が遺族固有の慰謝料をしっかり主張している傾向にあると考えられます。
遺族の固有の事情についても、詳細に主張していくことが重要と考えられます。
⑤大阪地方裁判所令和4年2月18日判決
被害者の属性:39歳男性、給与所得者
原告の主張:被害者本人の慰謝料2800万円、妻及び子3人に固有の慰謝料各200万円の合計3600万円
裁判所の判断:被害者本人の慰謝料2100万円、妻固有の慰謝料400万円、子3人固有の慰謝料各200万円の合計3100万円
本件では、被害者の妻が、慰謝料とは別に、事故後3人の子を1人で養育することになり育児休業を1年延長したことについての休業損害として650万円弱を請求していました。
この点について裁判所は、事故前から予定されていた時期に職場復帰をすることは、決して容易ではないが不可能ではないと考えられるために、事故と妻の休業損害の因果関係を認めることは出来ず、休業損害を正面から認めることはできないとしています。
他方で、このような事情は慰謝料の金額面で考慮するとして、妻固有の慰謝料額を原告主張額よりも増額しています。
5 まとめ
今回は、死亡慰謝料について、算定基準と基準から増額された事案のご紹介をしました。
死亡慰謝料については、交渉では基準どおりの示談を行うことが多いですが、裁判となった場合には、基準からの増額を主張することが多い印象です。
決まり切った取り扱いがある部分ではありませんので、示談する前に、ぜひ一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
よろしければ、関連記事もご覧ください。
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投稿者プロフィール

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
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全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
交通事故における症状固定について解説!
今回は、交通事故における「症状固定」について解説します。
保険会社は、例えばむち打ち等のお怪我を負った交通事故被害者の方の場合、事故後3ヶ月~6ヶ月を経過すると、治療を打ち切るよう促してきたり、実際に治療費を打ち切ったりしてくることがあります。
これは主として、被害者の方が症状固定したと判断したことを理由とするものですが、当の本人である被害者の方は、症状固定の概念についてよく分かっていないことが多いという印象です。
私たちが症状固定についてご説明した際、「そのような説明は保険会社から全くされませんでした」と言われる被害者の方もいらっしゃいます。
症状固定という概念は、損害賠償論の中でも基本的かつ重要な概念になりますので、交通事故の被害に遭われて怪我をされた方は、本記事をご覧いただき、症状固定について理解しておくことをお勧めします。
1.症状固定とは
症状固定とは、文字どおり症状が固定した状態をいいます。
事故により傷害を負った場合、通常、治療を継続していくことにより徐々に症状が改善していきます。
その後、症状が残るとともに、かつ治療を継続してもその症状が改善しなくなってしまった状態を症状固定といいます。
この症状固定の意義について触れている裁判例をご紹介します。
⑴ 横浜地裁平成23年10月25日判決
「・・原告は、平成19年5月10日にA病院において症状固定と診断されたこと、また、B接骨院での施術も、平成19年5月9日には治療期間が5か月に及び長期になったことからとの理由で治療が中止されたこと、前記症状固定後はA病院での治療は一旦終了し、再度受診したのは5か月後の同年10月であったこと、平成20年4月7日付診断書は原告の依頼により作成されたことなどの事情によれば、原告の頚部痛は、最初の症状固定日の時点で、それ以上の治療効果が期待できない状態であったと推認できるから、頚部痛についても平成19年5月10日に症状固定したものと認めるのが相当である。」
⑵ 大阪地裁令和5年2月7日判決
「症状固定とは、それ以上の治療を継続しても医学的に治療効果を得ることが見込まれない状態をいうものであるが、上記症状経過によれば、平成30年10月時点から歩行状態(T字杖歩行)に著変がなく、この頃には症状固定に至っていたと評価することも十分に考え得る。もっとも、平成30年10月以降のK病院における通院リハビリは、同病院医師の判断に基づいて継続されたものと推察できる上、「筋力upしてきている」(甲19:25頁)、「筋肉痛↓」(同26頁)など全く治療効果が得られなかったとまでは認められないことによれば、平成31年3月29日までの通院リハビリ(K病院)について本件事故との間に相当因果関係がないとまではいえない。他方で、被告Y1は、その後も令和元年11月28日までH医療センターに通院しているが、その通院は「骨頭壊死と股関節症のフォロー」のためのものであり(甲15:287頁)、治療効果を得るための積極的治療行為が行われたものではないから、令和元年11月28日を症状固定日とすることはできず、以上によれば、被告Y1の損害については、平成31年3月29日を症状固定日とし、同日までの入通院治療につき本件事故との間に相当因果関係があるものとして算定するべきである。」
2.症状固定と損害賠償額
治療費との関係で重要なことは、症状固定「後」、原則として、仮に通院を続けていても、その費用は事故による損害の範囲内とは認められないということです。
上で述べた症状固定の意義を前提にすると、症状固定後の治療というのは、効果がなく、症状を改善させるものではないということになるためです。
休業損害や傷害慰謝料についても、原則として症状固定後は考慮されません。
このように、症状固定の時期をいつの時点にするかによって、損害賠償額に差が生じることから、症状固定時期がいつなのかが争点になることは多いです。
争点になる場合、通常、加害者側からは、被害者が主張する症状固定時期よりも早い時期に症状固定していたとの主張がなされます。このように主張することによって損害賠償額を減らそうとしてくる訳です。
また、後遺障害等級の認定申請は、担当医から症状固定の診断を受けた後に行うことができます。
そのため、被害者としては、治療によって症状が改善傾向にあるか、どの時点で後遺障害の認定申請をするかを総合的に考慮して、担当医と相談の上、症状固定の診断を受け、後遺障害診断書を作成してもらうか検討することになります。
3.手術による症状の改善が見込まれる場合
やや応用的な話になりますが、手術による症状の改善が見込まれるものの、身体に与える負担を考えると手術を受けたくないという意思が被害者にある場合、症状固定時期についてはどのように考えればよいかという問題が生じます。
これは例外的なケースですが、手術をしないで症状固定にすれば重い後遺障害等級が認定されて賠償金額が大きくなる可能性がある一方、手術をすれば症状が改善し軽い後遺障害等級しか認定されず賠償金額が少なくなる可能性がある場合に争点となり得ます。
争点になる場合、被害者側からは手術をしないでも症状固定になると主張し、加害者側からは手術をしなければ症状固定にならないと主張することになります。
一見、症状が改善する可能性のある治療方法が存在する以上、症状は固定していないと考えるのが素直であると思われます。
ただ一方で、身体の負担を考えると手術を受けたくないという被害者の意思も尊重すべきであるように思われます。
この点について判示している裁判例を、ご紹介します。
⑴ 東京地裁平成24年3月16日判決
「治療(特に手術)は、その性質上、身体への侵襲を伴うものであり、また、その効果の確実性を保障することができないものであるから、交通事故の被害者に対し、治療を受けることを強制することはできない。したがって、一般的に考えられ得る治療をすべて施しても症状の改善を望めない状態に至らなければ、症状固定とはいえないとすることは相当でなく、被害者がこれ以上の治療は受けないと判断した場合には、それを前提として症状固定をしたものと判断するほかなく、治療の内容及び身体への侵襲の程度、治療による症状改善の蓋然性の有無及び程度、被害者が上記判断をするに至った経緯や被害者の上記判断の合理性の有無等を、交通事故と相当因果関係のある損害の範囲を判断する際に斟酌するのが相当である・・以上を踏まえて検討するに、本件においては、上記(1)で認定した治療経過等に照らし、原告は、平成22年4月22日に症状固定に至ったものと認めるのが相当である。そして、上記(1)で認定したとおり、原告には、上記症状固定後も、右手関節の変形癒合(橈骨短縮変形)、これによる疼痛・可動域制限、右手の握力低下の症状が残存しているところ、右手関節の可動域(他動)は健側の可動域(他動)の2分の1以下に制限されていることから、症状固定後の上記症状は、後遺障害等級表でいえば10級10号に該当するものと認められる。」
⑵ 東京地裁平成24年7月17日判決
「被告らは、偽関節手術により症状が改善する可能性があることを理由に、原告の症状はまだ固定していない旨を主張する。被告らの上記主張の実質は、交通事故による受傷が治療によって改善する見込みがある以上、当該治療を受けた後に、症状の固定の有無を判断し、症状が固定したと認められる時点で残存している症状を後遺障害として評価すべきであり、当該治療を受けない限り、被害者の症状を後遺障害として評価し、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を認めることは許されないとすることにある。しかしながら、被害者が身体の侵襲を伴う手術を拒んでいるということを理由に、直ちに症状固定や後遺障害の存在を否定し、被害者に残存した症状による損害の発生を一切否定することは、実質的に、被害者に対して身体の侵襲を伴う治療を強いる結果となり、また、加害者を不当に利することにもなりかねず、相当ではない。そうすると、被害者が治療効果の期待できる手術を拒んでいる場合であっても、そのことを前提に症状固定を認めてその時点の症状を後遺障害として評価すべきであり、治療効果を期待できる手術を被害者が受けなかったことについては、交通事故と後遺障害(後遺障害による損害)の相当因果関係の有無・範囲や過失相殺の検討において考慮するのが相当である。したがって、被告らの上記主張は採用することはできない。」
このように、上記裁判例では、症状が改善する可能性のある治療方法が存在していても、(被害者がそれ以上の治療を拒否する等により)現実的に治療することが難しい場合には症状固定であると判断されています。
4.まとめ
実務では当たり前のように使われている症状固定について解説しました。
基本的かつ重要な概念ではありますが、どの時点で症状固定であるかを判断するのは容易なことではありません。
自覚症状については被害者の方しか感じることができず、第三者からは分からないということも、判断を難しくしている一要因であるものと思われます。
そのため、保険会社から治療費を打ち切られた場合に、一般の方が症状固定時期について保険会社に反論することは難しいと思いますから、症状固定時期について主張をされたい場合には、主治医や交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
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交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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死亡交通事故における無職者(失業者)の死亡逸失利益の算定方法を解説!
交通事故で被害者の方が亡くなった場合、被害者遺族は加害者側に対して、死亡慰謝料や死亡逸失利益などの賠償を求めることができます。
以前の記事(死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算)で、若年労働者(概ね30歳未満)が死亡交通事故で亡くなった場合の死亡逸失利益の計算方法などについて解説しましたが、今回は交通事故被害に遭った際にたまたま失業中であった場合など、無職の方が被害者となってしまった死亡交通事故について、その死亡逸失利益の算定方法などを過去の裁判例もご紹介しながらご説明させていただきます。
死亡交通事故の損害賠償額の大部分を占めるのが死亡逸失利益になりますので、この逸失利益の金額が少ないと、全体的に示談金が少ないという印象を受けると思います。
死亡交通事故の賠償請求の場合、弁護士にご依頼になると使用する慰謝料の基準の違いなどで、保険会社の提示額より大幅に増額されることが多いですが、特に被害者が無職の場合は死亡逸失利益の計算方法で示談金が大きく変わる可能性があります。
また、死亡交通事故でなくても、被害者が後遺障害を負った交通事故であれば、同じように後遺障害による逸失利益の算定方法が問題になりますから、無職の方が交通事故に遭って後遺障害を負った場合にも、本記事の内容が参考になると思います。
交通事故の示談でお困りの方のご参考になれば幸いです。
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1.死亡逸失利益の計算方法
⑴ 被害者遺族が賠償請求できるもの
死亡交通事故で被害者遺族が加害者側に賠償請求できるものは、主に死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用の3つになります。
死亡慰謝料などについては、以前の記事で解説していますので、そちらもご覧ください。
死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算
⑵ 死亡逸失利益の計算方法
死亡交通事故の被害者遺族が加害者側に請求できるもののうち、死亡逸失利益は、被害者が交通事故で死亡しなければ将来得られたであろう収入を補償するもので、以下の計算方法で算出されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入は、基本的に被害者の交通事故前年の年収額を用いて計算されます。
生活費控除は、被害者が死亡しなければ将来必要になったであろう生活費分を収入から差し引くという考え方です。
生活費控除率は、被害者の家族構成や性別、年齢などによって異なり、それぞれの状況によって30~50%くらいの範囲で計算されます。
就労可能年数は、裁判所が基本的に67歳まで就労可能と考えているため、被害者が死亡した当時の年齢から67歳までの期間で計算します(高齢者など平均余命の半分の期間の方が長くなる場合には平均余命の半分で計算します)。
⑶ 無職者の基礎収入の考え方
上でご説明したように、基本的に死亡逸失利益の基礎収入は、被害者の交通事故前年の年収額で計算されます。
しかし、たまたま交通事故に遭ったときに失業中であった場合など、無職者の場合は、収入がありませんので、基礎収入をどのように算定するかが問題となります。
病気や怪我など諸々の事情で、交通事故前から働いておらず、将来に渡って働く可能性がなかった人であれば、交通事故に遭わなかった場合でも将来収入を得られなかったということになりますから、死亡逸失利益は無いということも考えられます。
しかし、たまたま交通事故に遭ったときに失業中だったというだけで、労働能力と労働意欲があって、将来働く蓋然性があった被害者の場合には、死亡逸失利益が認められます。
この場合、本来的には再就職後に得られたであろう収入を基礎収入とするべきですので、転職先から内定が出ていた場合などは、その転職先の労働条件を参考にして算定されることになります。
具体的な転職先が決まっていなかった場合には、失業前の収入を参考として算定されることになります。
また、失業前の収入が平均賃金以下の場合で、将来的に平均賃金を得られる蓋然性があれば、男女別平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とする場合もあります。
次では、無職者の基礎収入について過去の裁判例でどのように扱われているかを紹介します。
2.税理士試験受験生(24歳男性)の場合
【東京地方裁判所平成19年6月27日判決】
この交通事故は、いわゆる右直事故と言われる類型で、被害者のAさんが自動二輪車で交差点を直進しようとしたところ、対向から同交差点に進行してきた相手方(被告)車両が右折してしまい、被告車両の左前部にAさん車両が衝突して、Aさんは車両とともに路上に転倒して、脳挫傷によって死亡してしまいました。
Aさんは、交通事故当時24歳でしたが、大学卒業後に会計事務所に7カ月ほど勤めた後、税理士試験の勉強に集中するために退職した直後で無職の状態でした。
この交通事故の裁判では、Aさんの遺族が、死亡逸失利益の算定について、事故の年の平成14年賃金センサスの大卒男子平均賃金(674万4700円)を基礎とすべきと主張しました。
一方、被告側はこれを争い、賃金センサスを用いるとしても平成16年度の平均年収額657万4800円とすべきと主張しました。
この裁判の判決では、裁判所がAさんの遺族側の主張を認め、「本件事故に遭わなければ、67歳まで43年間就労可能であったというべきであるから、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、賃金センサス平成14年第1巻第1表による産業計・男性労働者・大卒・全年齢平均年収額を基礎とし、生活費控除率を5割とし、~~~~5917万915円を認めるのが相当である。」と判示しました。
3.番組制作ADなど断続的に職を変えていた32歳男性の場合
【横浜地方裁判所平成18年2月13日判決】
この交通事故では、加害者車両が、駐車車両を避けるために一旦右に進路変更をして、駐車車両の横を通過した後、元の車線に戻ろうとした際に、左後方から走ってきた被害者のBさんの二輪車に気が付かず、道路左側に寄せて行ってしまい、Bさんが縁石に接触して転倒してしまいました。
そして、転倒したBさんの頭部を加害者車両の後輪が轢いてしまい、Bさんは開放性頭蓋骨骨折,脳挫傷の傷害を負って死亡してしまいました。
Bさんは、大学中退後、技術職や番組制作アシスタント・ビデオ制作アシスタントなどとして働いていましたが、職を転々としており、交通事故当時は無職でした。
この交通事故の裁判では、Bさんの遺族が、死亡逸失利益の算定について、事故前年の平成13年賃金センサスの男性学歴計平均賃金(565万9100円)を基礎収入とすべきと主張しました。
一方、被告側はこれを争いました。
この裁判の判決では、裁判所はBさんが大学中退後に技術職として働いていた当時に約1年間で合計342万3550円の収入があったことや、その後の8か月間に番組制作アシスタント・ビデオ制作アシスタントとして働いていた当時に合計131万8986円の収入があったこと、その後も職を変えて断続的に相当程度の収入を得ていたことなどから、平成13年の賃金センサスの男性高専・短大卒平均賃金(501万8300円)を基礎収入とするのが相当であると判断しました。
そして、稼働期間を67歳までの35年間、生活費控除率を50%とし、4151万8403円の死亡逸失利益を認めました。
4.元教職員(65歳男性)の場合
【神戸地方裁判所平成29年12月20日判決】
この交通事故では、信号機のない交差点で道路を横断していた当時65歳の歩行者の男性(Cさん)が、交差点を直進してきた加害者車両に衝突され、重傷頭部外傷の傷害を負って死亡してしまいました。
Cさんは、交通事故に遭う直前まで約40年に渡って教職に就いていましたが、事故当時は無職で就職活動を行っていました。交通事故前年の年収は282万9600円でした。
この裁判では、Cさんの遺族が死亡逸失利益について、Cさんに就労の蓋然性があったとして事故前年の平成27年度賃金センサスの男子年齢別平均賃金(372万0400円)を基礎収入として計算すべきと主張しました。
また、仮に賃金センサスを採用できなくても上記の事故前年の年収を基礎収入として算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、Cさんがハローワークで求職の申込みをしたのは雇用保険の受給が目的で特段の求職活動をしていなかったと主張して就労の意思を争い、死亡逸失利益は認められないと主張しました。
また、仮に死亡逸失利益を認めるとしても,賃金センサス男子労働者年齢別平均賃金程度の収入を得た蓋然性はなく、Cさんが就労先として希望していたのは年間27日程度の試験監督のアルバイトなどであるとして、そのアルバイト程度の収入を基に計算すべきと主張しました。
この裁判の判決では、裁判所は基本的にCさんの遺族側の主張を認め、Cさんは事故の前年度まで再雇用で教員として勤務していたことなどから、「就労の意思も能力もあり、本件事故による死亡がなければ、就労する機会及び事故前年の年収程度の収入を得る蓋然性は十分にあったものと認められる。」と死亡逸失利益を肯定しました。
その上で、事故前年の年収である282万9600円を基礎収入とし、稼働可能年数は平均余命の半分の10年間、生活控除率を40%として、1310万9593円の死亡逸失利益を認めました。
5.まとめ
今回は、交通事故当時に無職だった方が亡くなった死亡交通事故での死亡逸失利益の基礎収入について、実際の裁判例を踏まえて解説しました。
無職の方が亡くなった場合、今回のCさんのようにある程度高齢の被害者に対しては、相手方保険会社が無職である以上死亡逸失利益は無いと主張してくることもあります。
このような事案では、将来収入を得られた蓋然性があったことを主張する必要がありますが、被害者遺族がご自身で保険会社と交渉するのは大変だと思います。
交通事故の示談は、多くの事案で弁護士に依頼することで示談金が増額しますが、特に死亡交通事故の場合は、今回ご説明した死亡逸失利益の計算などで大きな違いが出ることがあり、増額幅が大きくなることが多いといえますから、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
初回相談は無料で、弁護士費用特約にも対応しています。
全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
後遺障害12級や14級の神経症状において通常より長期の労働能力喪失期間が認められた裁判例
今回は、交通事故による後遺障害等級12級や14級に該当する神経症状において、一般的な労働能力喪失期間(12級13号の労働能力喪失期間10年間、14級9号の労働能力喪失期間5年間)より長期の喪失期間が認められた裁判例をご紹介します。
後遺障害とは、交通事故によって負った傷害が完全に回復せず、身体や精神の機能に残った不完全な状態をいいます。
交通事故による加害者と被害者との間における問題は、基本的に金銭賠償として処理されることから、後遺障害の問題も金銭賠償によることとなります。
具体的には、被害者に残存している後遺障害が後遺障害等級表のどの等級に該当するかを認定し、それを損害算定に反映させるという手法が実務において定着しています。
労働能力喪失期間は、この後遺障害による損害の1つである後遺障害逸失利益の算定要素の1つです。
後遺障害逸失利益の算定は、
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(ライプニッツ係数)
によってなされます。
労働能力喪失期間については様々な考え方があるところであり、理解するのが難しい分野といえます。
被害者の後遺障害の状況によっては、通常の喪失期間よりも後遺障害による影響が長く続く場合もありますので、ご参考にしていただけますと幸いです。
【関連記事】
・神経症状の後遺障害(12級13号・14級9号)の逸失利益~労働能力喪失期間の相場~
・12級や14級の後遺障害等級において通常より高い労働能力喪失率が認められた裁判例
1.労働能力喪失期間の原則
後遺障害逸失利益の算定要素のうち、労働能力喪失期間については、「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)において次のとおり記載されています。
①労働能力喪失期間の始期は症状固定日
未就労者の就労の始期については原則18歳とするが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業時とする。
②労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳とする
症状固定時の年齢が67歳をこえる者については、原則として簡易生命表・・の平均余命2分の1を労働能力喪失期間とする。
症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表・・の平均余命の2分の1より短くなる者の労働能力喪失期間は、原則として平均余命の2分の1とする。
但し、労働能力喪失期間の終期は、職種、地位、健康状態、能力等により上記原則と異なった判断がなされる場合がある。
事案によっては期間に応じた喪失率の逓減を認めることもある。
このように、労働能力喪失期間は、原則として症状固定日以降の就労可能期間であり、就労可能期間の終期は原則として67歳までとされています。
一方、高齢の場合には、67歳までの年数と平均余命の2分の1とのいずれか長期の方を採用することが多いです。
これらの運用は、後遺障害が、傷害が治ったときに身体に存する障害と定義され、一般には症状が永続するものと考えられていることと整合します。
2.むち打ち症の場合の労働能力喪失期間
一方、いわゆるむち打ち症の場合の労働能力喪失期間については、「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)において次のとおり記載されています。
③むち打ち症の場合
12級で10年程度、14級で5年程度に制限する例が多く見られるが、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきである。
このように、むち打ち症の場合には、一定期間経過後に症状が緩和したり症状に慣れたりすると考えられており、14級9号に該当するものであれば5年に、12級13号に該当するものであれば10年に喪失期間を限定するのが通常です。
実務では、逆に相手方保険会社から、14級9号の場合に喪失期間を3~4年に限定すべきであると主張されることがありますが、裁判になれば、特別な事情がない限り殆どのケースで5年が認定されており、裁判所がこのような相手方の主張を認めることは少ないという印象です。
一方、症状固定時から長期間経過しているものの、なお症状改善の傾向が認められないという場合に、14級で5年を超える喪失期間を認定した裁判例(千葉地方裁判所平成21年12月17日判決)がありますので、本記事の後半で紹介いたします。
3.むち打ち症以外の神経症状の場合の労働能力喪失期間
むち打ち症以外の原因による神経症状で12級や14級に該当する場合についても、むち打ち症と同じように労働能力喪失期間を限定するかどうかについては、裁判例においても考え方が分かれています。
むち打ち症の場合と同様、労働能力喪失期間を限定するべきとの根拠としては、次のような考え方が挙げられます。
・単なる神経症状のようなものである場合には、将来における改善が期待される。特に若い場合には可塑性があり、訓練や日常生活によって回復する可能性がある。
・むち打ち症の場合、一定期間経過後に症状が緩和したり症状に慣れたりすることから労働能力喪失期間は制限されているが、これは神経症状一般に当てはまる。
・単なる神経症状の場合は自覚症状が中心であることから、長期の労働能力喪失期間を認めることは妥当でない。
しかしながら、そもそも後遺障害は症状が永続する状態を指すのですから、後遺障害として認定した以上、このことを前提に労働能力喪失期間も算定することが大前提といえます。
そのため、労働能力喪失期間は就労可能期間の終期である67歳までを原則とし、安易に労働能力喪失期間をむち打ち症のように限定するべきではありません。
実際、むち打ち症以外の神経症状について判断した裁判例の中でも、就労可能期間まで認めている裁判例(京都地方裁判所平成21年2月18日判決・横浜地方裁判所平成25年9月20日判決)がありますので、この後に紹介いたします。
4.長期の労働能力喪失期間を認めた裁判例の紹介
⑴ 千葉地方裁判所平成21年12月17日判決
本件事故は、調理師である被害者(原告)が原付バイクを運転中に、停車していた相手車両の左側を通過しようとしたところ、相手方(被告)が後方の安全を確認することなくドアを開けたために、原告車両がそのドアに衝突し、原告は前方にはね飛ばされてしまったというものです。
原告は、本件事故により頚椎捻挫(いわゆるむち打ち症)等の傷害を負い、後遺障害として頭痛や右手の握力低下等の神経症状が残り、14級9号が認定されました。
前述したとおり、むち打ち症の場合は労働能力喪失期間を14級で5年に制限することが一般的ですが、この裁判例では次のとおり判示し、労働能力喪失期間を15年と認定しました。
「原告に生じている右手の握力低下は、利き腕に関するものであり、その程度も左手の握力の半分程度となっているものであること、原告は調理師として稼働していたところ、包丁を握るなどの面で実際に支障が生じているものと認められること、握力低下の状態は、事故後5年以上が経過した現在も解消されておらず、今後も相当程度の期間にわたって継続することが見込まれることなどの事情を考慮し、原告に生じた後遺障害の実態に即して考えると、労働能力喪失率としては8%、労働能力喪失期間としては15年間(ライプニッツ係数10.3796)と解するのが相当である。」
⑵ 京都地方裁判所平成21年2月18日判決
本件事故は、会社員である被害者(原告)が夜間の横断歩道外を小走りに横断していたところ、相手車両に衝突されたことで発生したものです。
原告は本件事故により右脛骨高原骨折、頚部捻挫、右上腕打撲、右足背打撲の傷害を負い、後遺障害として、本件事故による右脛骨高原骨折に起因する右膝関節部痛、跛行が残る、走れない、荷重時痛が強い等が残存し、12級13号が認定されました。
前述したとおり、むち打ち症以外の神経症状の場合も、むち打ち症と同様に労働能力喪失期間を12級で10年に制限するという有力な考え方がありますが、この裁判例では次のとおり判示し、労働能力喪失期間を67歳までの25年間と認定しました。
「・・原告には、本件事故による右脛骨高原骨折に起因する右膝関節部痛、跛行が残る、走れない、荷重時痛が強い等の後遺障害が残存し、この後遺障害は平成19年3月31日に症状固定となったこと、この後遺障害は膝関節面の不整という客観的所見により認められるものであることが認められる。・・原告の症状固定時・・の年齢(42歳・・)に照らし、労働能力喪失期間は25年と認められる(対応するライプニッツ係数は14.094である。)。なお、この点につき、被告らは、原告に残存する神経症状は経年により緩和することに照らし、労働能力喪失期間は2年から3年までが限度とされるべきであると主張するものの、・・認定事実によれば、原告の膝関節面に不整が生じているというのであって、このことを前提とすると、必ずしも原告に残存する神経症状が経年により緩和するとまでは認められない。」
⑶ 横浜地方裁判所平成25年9月20日判決
本件事故は、自動車工場の塗装作業員である被害者(原告)が、原付自転車を運転して交差点を左折しようとしたところ、相手方(被告)の自動二輪車の右前部が、原告の左肘に衝突したことにより発生したものです。
原告は本件事故により尺骨肘頭骨折の傷害を負い、後遺障害として左尺骨肘頭骨折後の肘関節の痛みが残存し、14級9号が認定されました。
前述したとおり、むち打ち症以外の神経症状の場合も、むち打ち症と同様に労働能力喪失期間を14級で5年に制限するという有力な考え方がありますが、この裁判例では次のとおり判示し、労働能力喪失期間を67歳までの23年間と認定しました。
「原告X1には、後遺障害として、神経症状(左尺骨肘頭骨折後の肘関節の痛み)が残存しており、これが自賠責保険の後遺障害等級14級9号に認定されたこと・・は当事者間に争いがない。・・原告X1の仕事は、C自動車△△工場における車両の塗装作業であり、ボンネットなどの重い部品を運ぶ作業などをしていることが認められる。そうすると、痛みがある部位に常に負荷がかかっているのであるから、容易に神経症状が解消されるとは考えられず、労働能力喪失期間は23年間(対応するライプニッツ係数は13.4886)と認めるのが相当である。」
5.まとめ
以上のとおり、労働能力喪失期間は原則67歳まで認定されるものの、むち打ち症の場合は異なる取り扱いをすることについて、実務ではほぼ固まっているといえます。
もっとも、長期間経過しているにもかかわらず症状改善の傾向が認められないといった場合に、特別な配慮をしている裁判例があることは前述したとおりです。
一方、むち打ち症以外の神経症状の場合、むち打ち症の場合と同様に労働能力喪失期間を限定するか否かについては裁判例が分かれているところです。
このように分かれている要因としては、改善の兆候等といった、個々の事案における要素が関連していることも考えられます。
そのため、原則通りの労働能力喪失期間を主張する被害者としては、労働能力喪失期間の見込みについて適切な立証をする必要があります。
一般の方が、このような対応をすることは難しいと思われるため、適切な労働能力喪失期間を主張されたい場合には、交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
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交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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死亡交通事故における若年労働者の死亡逸失利益は平均賃金(賃金センサス)で計算
今回のテーマは、死亡交通事故の被害者が若年労働者であった場合の死亡逸失利益の算定方法についてです。
不幸にも交通事故で被害者の方が亡くなってしまった場合、被害者遺族は加害者側に対して、死亡慰謝料や死亡逸失利益などの賠償を求めることができます。
以前の記事で(高齢者の死亡交通事故で家族が請求できるもの~示談金の相場~)、高齢者が死亡交通事故で亡くなった場合の死亡逸失利益の計算方法などについて解説しましたが、今回は若年労働者(概ね30歳未満を指します)が被害者となってしまった死亡交通事故について、その死亡逸失利益の考え方などについてご説明させていただきます。
死亡交通事故で被害者遺族の方からのご相談をお受けすると、加害者側の保険会社が提示してきた示談金が少ないのではないかとのご質問が多いです。
これは、保険会社の基準で示談金を提示して来ているためで、弁護士にご依頼になって裁判所の基準で算定すると大きく金額が加算させることも多いですが、特に被害者が若年の場合には死亡逸失利益の計算方法で示談金が大きく変わることがあります。
結論としては、若年労働者の場合、実際の収入額ではなく平均賃金を基に計算できる場合が多いですが、以下で過去の裁判例などもご紹介しつつ、ご説明します。
死亡交通事故の示談などでお困りの方のご参考になれば幸いです。
【関連記事】
死亡交通事故における無職者(失業者)の死亡逸失利益の算定方法を解説!
死亡事故における死亡慰謝料の基準を解説~一般的な相場より増額された裁判例もご紹介~
死亡交通事故における高齢者の死亡逸失利益の算定方法について解説!~給与収入と年金収入の両方がある場合~
1.死亡逸失利益の計算方法
⑴ 被害者遺族が賠償請求できるもの
まず、死亡交通事故で被害者遺族が加害者側に賠償請求できるものは、大きく分けて以下の3つになります。
・死亡慰謝料
・死亡逸失利益
・葬儀費用
このうち、死亡慰謝料は、亡くなった被害者本人の死亡慰謝料と近親者の慰謝料があります。
慰謝料には、自賠責保険基準と任意保険会社基準、裁判所基準の3つの基準がありますが、裁判所基準では被害者の立場によって以下の金額が基準になるとされています(近親者の慰謝料も含んだ総額)。
・被害者が一家の支柱の場合:2800万円
・被害者が母親・配偶者の場合:2500万円
・被害者がその他の場合:2000~2500万円
(※その他とは、独身の男女、子供、高齢者などといいます。)
葬儀費用については、基本的に150万円が上限とされており、実際に支出した費用が150万円未満の場合には、実費での賠償となります。
そして、死亡交通事故の損害賠償の中で最も金額が大きくなるのが、死亡逸失利益です。
⑵ 死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、被害者が交通事故で死亡しなければ得られたはずの収入に対する賠償のことをいい、以下の計算方法で算出されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入は、被害者の収入額で、基本的に交通事故の前年の年収額を用いて計算されます。
生活費控除は、交通事故がなければ被害者がその後の生涯を生きていく上で生活費を支払う必要があり、事故後の収入の全てが手元に残るという訳ではないので、その生活費分を収入から控除するという考え方です。
被害者の生活費は、家族構成や性別、年齢などによって異なりますので、以下のようにそれぞれの被害者の立場によって生活費控除率も異なる割合で計算されます。
・被害者が一家の支柱の場合
扶養家族が一人:40%
扶養家族が二人以上:30%
・被害者が独身男性の場合:50%
・被害者が独身女性や主婦の場合:30%
就労可能年数については、裁判所が基本的に67歳まで就労可能と考えていますので、基本的に被害者が死亡した当時の年齢から67歳までの期間で計算します(高齢者の場合は別の計算方法を用います)。
⑶ 若年者の基礎収入の考え方
上でご説明したように、基本的に死亡逸失利益の基礎収入は、被害者の交通事故前年の年収額で計算されます。
しかし、まだ働き始める前の学生などの18歳未満の未就労者の場合には、収入がありませんので、将来平均賃金くらいの収入は得られたものとして、全労働者の平均賃金の値を基礎収入として計算することになっています。
この平均賃金は、毎年厚生労働省の調査によって算定されており、男女別・学歴別(中卒・高卒・短大卒・大卒)・年齢別などでそれぞれ金額が算出されています(これを「賃金センサス」といいます。)。
ですから、例えば「男性・大卒・40代前半」という同じ条件でも年によって金額が異なり、死亡逸失利益を算定する際には、交通事故の年の賃金センサスを用いることになります。
そして、18歳未満の未就労者の場合は、基本的に賃金センサスから男女別の全年齢・全学歴平均の数値を用いて計算することとなります。
そのため、令和5年の賃金センサスの数値を用いた場合、男性は569万8200円、女性は399万6500円を基礎収入として死亡逸失利益を計算することとなります。
一方、有職者の場合は、基本的に交通事故の前年の収入を基礎収入としますが、特に10代~20代の労働者の場合、全年齢平均より収入が少ない方が多く、実収入を基礎収入としてしまうと死亡逸失利益の計算上かなり不利になります。
一般的には年齢とともに収入が増えていくことが多く、交通事故で死亡していなければ得られたであろう将来の収入の賠償である死亡逸失利益を計算する上では、若年労働者について実収入を基礎収入とすることは不適切と考えられます。
また、学生ですら全年齢平均賃金を基礎収入にして計算することも考えると、不公平な結論になってしまいます。
そのため、概ね30歳未満の若年労働者の基礎収入については、慎重に検討する必要があり、学生の場合と同様に全年齢の平均収入の数値を用いることが原則とされています。
次では、若年労働者の基礎収入について実際の過去の裁判例でどのように扱われているかを紹介します。
2.居酒屋アルバイト(19歳女性)の場合
【東京地方裁判所平成26年3月28日判決】
この交通事故では、信号機のある交差点で、普通自動二輪車と普通乗用自動車が衝突し、自動二輪車の後部座席に同乗していた当時19歳の女性(Aさん)が高位頚椎損傷による呼吸障害により死亡してしまいました。
Aさんは、当時、モデルクラブに所属してモデルを目指しつつ、居酒屋でアルバイトをしていました。
この交通事故の裁判では、Aさんの遺族が、相手方乗用車の運転手とAさんが乗っていた自動二輪車の運転手の共同不法行為であるとして両者を訴えましたが、Aさんの死亡逸失利益の基礎収入についても争いになりました。
Aさんの遺族側は、基礎収入額を賃金センサス男女学歴計全年齢(男女別ではなく男女計・全学歴・全年齢)で計算するべきと主張しました。
一方、被告側は、自動二輪車の運転手は賃金センサス女子高卒全年齢の294万0600円とすべきと主張し、乗用車の運転手は本件事故直前の現実の収入額を基礎収入にするべきと主張しました。
そして、この裁判の判決では、裁判所がAさんの遺族側の主張を認め、基礎収入額は賃金センサス男女学歴計全年齢の470万9300円とすることが相当であると判断しました。
また、生活費控除率45%、労働可能年数48年(67歳まで)としたため、死亡逸失利益は4682万2026円が認められました。
3.専門学校卒の保育士(20歳女性)の場合
【東京地方裁判所平成23年10月7日判決】
この交通事故では、信号のある交差点で、横断歩道の歩行者用青色信号に従って自転車で進行していた当時20歳の女性(Bさん)が,交差点を右折してきた加害者車両が衝突されて死亡してしまいました。
Bさんは、交通事故に遭う3ヶ月前に専門学校卒業して,保育士として働き始めたばかりでした。
この交通事故の裁判では、Bさんの遺族が死亡逸失利益の算定について、基礎収入を賃金センサス女性高専・短大卒全年齢平均で算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、基礎収入を賃金センサス女性学歴計全年齢平均(女性・全学歴・全年齢)とすべきと主張しました。
つまり、この裁判では、被告側も平均賃金を用いることは争わず、高専・短大卒の平均賃金にするか、全学歴計の平均賃金にするかという点が争点になりました。
そして、この裁判の判決では、裁判所がBさんの遺族側の主張を認め、Bさんの専門学校卒の学歴は、高専・短大卒と同視できると判断して,基礎収入は賃金センサス女性高専・短大卒全年齢平均賃金額を採用すべきと判断しました。
また,生活控除率は30%、労働可能年数47年(67歳まで)としたため、死亡逸失利益は4840万4672円が認められました。
4.大卒の上場企業会社員(30歳男性)の場合
【東京地方裁判所平成25年1月11日判決】
この交通事故では、道路を横断していた当時30歳の男性(Cさん)が、道路を走行してきた大型貨物自動車に衝突されて死亡してしまいました。
Cさんは、大学卒業後、一部上場企業に就職して勤務しており、交通事故前年の年収は559万2483円でした。
この裁判では、Cさんの遺族が死亡逸失利益について、勤務先会社が設けている大卒事務総合職のモデル賃金に基づいて定年(60歳)までの給与額を計算すべきと主張しました。
また、60歳から67歳までは賃金センサス大卒男子年齢別平均値を基礎収入として算定するべきと主張しました。
一方、被告側は、Cさんの勤務先会社の基本給は年齢給と職能給からなるところ,職能資格の上昇は本人の資質によるところが大きく予測が困難であるとして、モデル賃金で算定することを否定し、基礎収入を交通事故時の実収入として死亡逸失利益を算定すべきと主張しました。
そして、この裁判の判決では、裁判所は基本的にCさんの遺族側の主張を認め、60歳までの死亡逸失利益は勤務先会社のモデル賃金に基づいて算定すべきと判断しました。
また、60歳~67歳については、賃金センサス男女計学歴計を基礎収入として算定すべきと判断しました。
裁判所がモデル賃金での算定を認めたのは、被告側が主張したように職能給の存在などから将来支給される給与の具体的金額を予測することは相当困難であることは否めないとしつつも、モデル賃金には時間外労働の割増手当,通勤手当や海外勤務手当等は含まれておらず、控え目な数値であること,Cさんの交通事故時の収入額が30歳時点のモデル賃金を上回っていることなどから、モデル賃金が定める程度の給与を取得する蓋然性が認められると判断されたためでした。
また、生活控除率は50%とされ、差額退職金や60~67歳までの逸失利益も認められ、死亡逸失利益の総額は7686万3820円が認められました。
5.まとめ
今回は、若年労働者が亡くなった死亡交通事故での死亡逸失利益の基礎収入について、実際の裁判例を踏まえて解説しました。
死亡交通事故の示談金は、死亡逸失利益の金額次第で最終的な金額が大きく変わります。
特に、若年労働者の場合は、基礎収入をどのように設定して主張するかで逸失利益の金額が大きく増減しますので、慎重に検討する必要がありますが、ご家族を亡くされた被害者家族が色々と調べて加害者側保険会社と交渉するのは大変だと思います。
弁護士へのご依頼で死亡慰謝料の増額も期待できますので、まずは一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
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■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
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12級や14級の後遺障害等級において通常より高い労働能力喪失率が認められた裁判例
今回は、12級や14級の後遺障害等級において通常(12級の労働能力喪失率14%、14級の労働能力喪失率5%)より高い労働能力喪失率が認められた裁判例をご紹介します。
後遺障害等級が認定された場合、通常は後遺障害による逸失利益を相手方に請求していくことになります。
ただ、その算定方法については、同じく後遺障害等級が認定された場合に請求する後遺障害慰謝料と比較すると、やや難解なところがあります。
そのため、今回はまず、後遺障害による逸失利益の算定方法について説明します。
この説明をご覧いただければ、労働能力喪失率というものが、後遺障害による逸失利益の算定方法の中でどのように位置付けられているかが分かるかと思います。
その上で、冒頭に記載したとおり、12級や14級の後遺障害等級において通常より高い労働能力喪失率が認められた裁判例をご紹介します。
交通事故被害者の方の中には、12級や14級の後遺障害等級が認定されたものの、これらの等級の通常の労働能力喪失率以上に労働能力が失われてしまっているという方もいらっしゃいますので、ご参考にしていただけますと幸いです。
【関連記事】
・後遺障害12級や14級の神経症状において通常より長期の労働能力喪失期間が認められた裁判例
・神経症状の後遺障害(12級13号・14級9号)の逸失利益~労働能力喪失期間の相場~
1.後遺障害による逸失利益の算定方法
後遺障害による逸失利益の算定方法については、次のとおり「民事交通事故訴訟賠償額算定基準」(通称「赤い本」)に計算式が記載されています。
①有職者または就労可能者
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
②18歳未満(症状固定時)の未就労者
基礎収入額×労働能力喪失率×(67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数)
例えば、症状固定時の年齢が50歳で年収500万円の会社員の男性が傷害を負い、その後遺障害により労働能力が14%低下した場合の後遺障害逸失利益は、次の計算式になります。
500万円×0.14×13.1661=921万6270円
このように、基本的には、
第1に後遺障害がなければどれだけ所得があったか(基礎収入額)
第2にこれが後遺障害によってどのくらい減少したか(労働能力喪失率)
第3にその影響がどの程度継続するか(労働能力喪失期間)
を順次判断していくことになります。
2.労働能力喪失率とは
労働能力喪失率とは、労働能力の低下の程度をいいます。
基本的には、労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発551号)別表による、次の労働能力喪失率表記載の喪失率を認定基準として採用することが多いといえます。
等級 | 1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 |
喪失率 | 100% | 100% | 100% | 92% | 79% | 67% | 56% |
等級 | 8級 | 9級 | 10級 | 11級 | 12級 | 13級 | 14級 |
喪失率 | 45% | 35% | 27% | 20% | 14% | 9% | 5% |
もっとも、労働能力喪失率表は極めて概括的であり、工場労働者を対象に作成されたものである上、労災の補償日数をベースにしたものであって科学的根拠も乏しいものです。
また、後遺障害の部位・内容・程度が同じであっても、被害者の職業、年齢、性別等によって労働に対する影響の程度も異なります。
そのため、上記の表はあくまで参考資料にとどまり、労働能力喪失率は、被害者の年齢・職業、後遺障害の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体的にあてはめて評価すべきであると考えられています。
3.裁判例の紹介~14級において通常より高い労働能力喪失率が認定~
⑴ はじめに
上の労働能力喪失率表によりますと、14級の後遺障害等級における労働能力喪失率は5%です。
しかしながら、以下に抜粋した裁判例では、様々な事情を総合的に判断して、5%よりも高い労働能力喪失率を認定しています。
⑵ 甲府地方裁判所 平成17年10月12日判決
本件事故は、眼科医である被害者(原告)が自動車で病院に通勤していたところ、相手方の運転する自動車に追突されたことで発生したものです。
本件事故により原告には頚椎捻挫ないし外傷性頚部症候群の傷害が生じ、後遺障害として頚部痛、後頭部痛、眼精疲労、眼科医として手術をしようとする際の左手の振戦(ふるえ)などの症状が残り、14級の後遺障害等級が認定されました。
この裁判の判決では、労働能力喪失率については、次のとおり判示し、12%の労働能力喪失率を認めました。
「原告は現在も頚部痛、後頭部痛、眼精疲労を感じており、眼科医として手術をしようとすると左手の振戦が現れる。本件事故前は、原告は眼科医として数多くの手術をこなしていたが、本件事故後はこの左手の振戦により手術ができなくなった。そのため原告は手術をあきらめ研究職の眼科医に転向せざるをえなくなった。・・自賠責等級第14級の後遺症の労働能力喪失率は5%とされている。しかし、上記のような原告の症状、職業、職場環境を考慮すると、原告の場合、5%にとどまらない労働能力が失われているといえる。すなわち、従来、原告が高額の収入を得ることができたのは、手術のできる眼科医だったためである。しかし、本件事故後、後遺症である左手の振戦のために手術ができなくなり、この前提が崩れたため、平成11年当時と同様の収入が得られる保証はなくなった。平成17年5~8月の収入をみると、現実にかなりの収入の減少が生じていることが認められる。そこで、これらの事情を総合的に勘案し、さらに、原告の主張もふまえ、原告の労働能力喪失率は12%とする。」
⑶ 大阪地方裁判所 平成8年1月12日判決
本件事故は、型枠大工である被害者(原告)が自動車に同乗していたところ、相手方の運転する自動車に衝突されたことで発生したものです。
本件事故により原告には頚部損傷、左膝内障、腰部打撲の傷害が生じ、後遺障害として左膝に一定の運動可能領域の制限が存在し、左膝の引っ掛かり感をもっていること、長時間の歩行に困難をきたしている等の症状が残り、14級の後遺障害等級が認定されました。
この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、10%の労働能力喪失率を認めました。
「原告の後遺障害の程度は、等級表14級7号に該当するものであり、労災及び自賠責実務上その労働能力喪失割合は5%と取り扱われていることは当裁判所に顕著である。しかしながら、型枠大工の作業は膝の屈曲を多く伴なうものであって、右の障害があった場合、その作業能率の低下が5%にとどまるとは思えないこと、L病院においてもしゃがみこみの姿勢は半月板に負担をかけるのでこの動作を行わないように指導していること(証拠略)、しかも原告には生来の難聴という障害があり(証拠略)他に職を求めることが比較的困難であることを考え併せると、その労働能力喪失率は10%とみるべきである。」
4.裁判例の紹介~12級において通常より高い労働能力喪失率が認定~
⑴ はじめに
上記の労働能力喪失率表によりますと、12級の後遺障害等級における労働能力喪失率は14%です。
しかしながら、以下に抜粋した裁判例では、様々な事情を総合的に判断して、14%よりも高い労働能力喪失率を認定しています。
⑵ 東京地方裁判所 平成6年9月27日判決
本件事故は、タクシー運転手である被害者(原告)が自動車を運転していたところ、一時停止することなく交差点に進入した相手車両に左側面を衝突されたことで発生したものです。
原告は本件事故により右膝内側側副靭帯断裂、右膝内側半月板損傷、頚椎捻挫等の傷害を受け、後遺障害として①右膝関節に可動制限はないものの、正座や胡座は疼痛のため、短時間しかできない、②右膝内側側副靱帯部及び内側関節間隔に圧痛があり、長時間立っていたり、物を持って歩くと膝内側に圧痛がある、③頸部前屈時に左頸附根部に疼痛や圧痛があり、また、左母指、示指の末節にしびれ、知覚麻痺があるという症状が残り、12級が認定されました。
この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、25%の労働能力喪失率を認めました。
「原告は、本件事故のため、右膝関節に12級の後遺障害を残したが、同関節障害のためアクセルを踏み込む動作に支障を来たし、長時間の運転ができず、また、重量のある物の運搬に重大な支障を来たしている。このため、タクシー運転手としての業務遂行は不可能となったが、甲15、19、原告本人によれば、本件事故がなければ、64歳まではC会社の正勤の乗務員として、65歳からは嘱託の乗務員として正勤の乗務員と同一の給与のベースで、それぞれタクシーの運転手の業務を継続することができたことが認められる。そして、現在はC会社で車庫の管理の仕事を行い、月給22、3万円の賃金を得るに止まること、原告がタクシー運転手としての業務を継続するとしても、歩合給の率が高い右業務の賃金体系に照らせば、加齢とともに収入が減ることが予想されることを斟酌すると、平成元年度の給与を基礎とすれば本件事故により労働能力が25%喪失したものと認めるのが相当である。」
⑶ 仙台地方裁判所平成13年6月22日判決
本件事故は、理容店兼美容院を経営する被害者(原告)が自動2輪車を運転していたところ、後方から同一方向に進行してきた相手車両に追突されたことで発生したものです。
原告は本件事故により左腎損傷、頸椎捻挫、肋骨骨折、右小趾基節骨骨折、胸椎・腰椎捻挫、左肩・臀部・腹部・左膝打撲、急性胃炎等の傷害を受け、左腕神経損傷の後遺障害が残り、12級が認定されました。
この裁判の判決では、労働能力喪失率については次のとおり判示し、35%の労働能力喪失率を認めました。
「・・原告は、前記受傷により、左腕神経損傷の後遺障害が残存し、左腕の肩から指先にかけてのしびれ、左肩関節痛の自覚症状を有し、左上肢の皮膚温低下、感覚鈍麻、筋力低下、巧緻性の低下が認められること、理容師及び美容師の作業は、両手、指先の動きの巧緻さを要し、原告は、同後遺障害のため、作業中にはさみで自己の指を傷つける等理容師及び美容師としての技術を十分に駆使し得ない状態となったことの事実が認められる。そうすると、原告は、本件後遺障害により、少なくとも理容師及び美容師としての労働能力の35%を喪失したものと認めるのが相当である。」
5.まとめ
既に解説したとおり、労働能力喪失率については、労働能力喪失率表記載の喪失率を認定基準として採用することが多いです。
そのため、14級については5%、12級については14%が認定されることが多数です。
もっとも、今回紹介した裁判例においては、後遺障害の程度・部位と、被害者の職業に対する具体的な影響の程度を詳細に認定した上で、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る認定をしています。
これは裏返して言うと、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る主張をする被害者は、労働能力喪失の実態について適切な立証をしなければならないということです。
一般の方が、これらの立証をすることは難しいですから、労働能力喪失率表記載の喪失率を上回る主張をされたい場合には、交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
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知らないと損する!?交通事故後の代替労働力に関する費用の請求
今回は、交通事故後に発生した代替労働力に関する費用(代替人件費)の請求について紹介します。
代替労働力に関する費用とは、交通事故の被害者である自営業者(個人事業主)が、事故の怪我によって全部又は一部働けなくなった分を補うために発生した人件費のことをいいます。
この代替労働力に関する費用が認められない場合、不合理な事態が生じることになります。
例えば、個人で新聞配達業を営んでいた方が、交通事故による傷病のため配達を行うことができなくなってしまったというケースを考えてみましょう。
このとき、新聞配達業を休業して現実に収入が喪失してしまった場合、通常は休業損害が認められることになります。
では、人件費をかけて代行の配達要員を補充することで、新聞配達業の休業を回避した場合はどうでしょうか。
この場合は休業していないことから収入が喪失しておらず、先程の意味での休業損害は認められないことになります。
そのため、ここで仮に代替労働力に関する費用が損害として認められないとなると、損害の拡大を防ぐために人員を補充した方が損をしてしまう結果となり、不合理であることが分かります。
そこで今回は、代替労働力に関する裁判例を紹介するとともに、当事務所が取り扱った代替労働力に関する事例を紹介します。
1.代替労働力に関する費用の裁判例
代替労働力に関する費用の裁判例として、「東京地方裁判所平成25年7月16日判決」交通事故民事裁判例集46巻4号915頁を紹介します。
この裁判例の事例では、東京都にクリニックを開業している内科医師である原告が、タクシーに客として乗車していたところ、運転手の過失でタクシーが走行中にスリップし、中央分離帯の側壁に衝突してしまい、頭部打撲、頚椎症、歯牙欠損等の傷害を負ったという事案です。
原告は、本件事故前から、もともとD医師に対して自身のクリニックでの週3回1時間の診療を依頼していました。
本件事故後、原告は通院する必要があったことや長時間の診療に耐えられなかったことにより、D医師に対して、上記のもともとの診療時間の他に、週3日合計9時間の代診を依頼せざるを得ず、その結果、追加分の代診費用として合計90万円をD医師に支払いました。
そのため、代替労働力に関する費用として90万円を請求したものです。
一方、被告側は、代診費用を支払うことで診療を行い、収益を上げておきながら、一方で収益を考慮せずに人件費を請求するのであれば、不当に利益を得ることとなるなどとして、代替労働力に関する費用の請求は認められないとの主張を展開しました。
これに対して、裁判所は、次のとおり判示し、代替労働力に関する費用として90万円を認定しました。
「原告が本件事故により負った傷害の内容及び程度・・に照らすと・・痛み等を抱えつつ、本件クリニックを受診する種々の患者に個々に対応し、診察や検査を行うという業務に従事し続けることは、相当の困難と労苦を伴ったであろうことは、容易に推認することができる。そうすると・・原告が自ら従事すべき診療業務の一部の代替を1回当たり5万円で他の医師に依頼し、本件クリニックの診療体制を維持することによりその収入の確保を図るということは、損害の拡大を防ぐという観点からも、なお相当性を有するものということができ、収入を確保するために余計に要した経費として・・休業損害とは別に本件事故によって生じた損害であるということができる。」
2.当事務所が取り扱った代替労働力に関する費用の事例
次に、当事務所が取り扱った代替労働力に関する費用の事例を紹介します。
個人事業主として飲食業を営んでいた依頼者Aさんは、高速道路で渋滞のため停車していたところ、後方から貨物自動車に追突されてしまい、本件事故が発生しました。
加害者は居眠り運転をしていたようであり、Aさんの車両はかなりの速度で追突されました。
この事故でAさんは頚椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性頚椎椎間板ヘルニア等の怪我を負い、約7ヶ月通院しました。
なお、Aさんの頚部痛・腰部痛などの頚部・腰部の神経症状の後遺障害については、当事務所が被害者請求で自賠責保険会社に対して後遺障害申請を行い、後遺障害等級14級9号が認定されるに至っています。
Aさんは、本件事故前から、数名の従業員を雇用して飲食店運営をしていました。
しかしながら、本件事故後、Aさんは通院する時間を確保しなければならない上、怪我による症状のため、包丁捌きがままならず調理作業ができなかったこと等により、業務に大きな支障が生じてしまいました。
そのため、Aさんは、従業員に通常よりも多くシフトに入ってもらったり、新たに別の従業員を雇ったりすることによって店舗運営を維持しましたが、その結果、約250万円もの代替労働力に関する費用が発生してしまいました。
そのため、私たちは、相手方保険会社に対し、代替労働力に関する費用として約250万円を請求することにしました。
3.相手方保険会社との交渉
しかしながら、相手方保険会社の担当者は、代替労働力に関する議論をあまり知らない様子であるとともに、「労務対価と経営者としての対価が確認できる資料」の開示を求めてくるなど、全く話が噛み合いませんでした。
たしかに、代替労働力に関する議論はメジャーな争点ではありませんが、いわゆる「赤い本」と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部編)に掲載されているものであり、保険会社の担当者が理解していなかったことには驚いた記憶があります。
また、「労務対価と経営者としての対価が確認できる資料」は、会社役員の報酬に関する議論に関するものであり、個人事業主であるAさんに関する議論には全く当てはまらないものでした。
最終的に、やむを得ず求められた資料を相手方保険会社に開示したものの、相手方保険会社からは一向に具体的な回答が示されることはありませんでした。
そのため、相手方保険会社に回答を督促したところ、相手方保険会社は回答を示すことのないまま弁護士を選任するに至りました。
4.相手方代理人との交渉
相手方の窓口が、相手方保険会社から相手方代理人(弁護士)に移行しましたが、相手方代理人は代替労働力に関する議論を把握していたようであり、話が噛み合わないということはありませんでした。
そのような意味では、通常、窓口が相手方保険会社から代理人弁護士に移行すると、交渉態度が硬直化するなど被害者側にとっては不利になることが多いものの、本件ではむしろ有利に働きました。
その後、私たちは、代替労働力に関する費用として請求している約250万円の根拠について、確定申告書を引用するなどして交渉を行いました。
その結果、代替労働力に関する費用について、相手方代理人との間で請求額通りの金額で示談することができました。
Aさんとしても、代替労働力に関する費用が全額認められたため、大変満足されている様子でした。
5.まとめ
このように、代替労働力に関する費用として、当事務所では、ご紹介した東京地裁の裁判例よりも大きな金額を相手方から回収することができました。
現状、代替労働力に関する議論は広く知られているという印象ではないため、被害者側が弁護士に依頼しないままご自身で相手方保険会社に請求することは困難を伴うものと思います。
ご紹介した事例のように、そもそも代替労働力に関する費用の議論を知らない保険会社の担当者もいるくらいです。
また、損害の発生については被害者が証明責任を負っているため、代替労働力の利用を余儀なくされた場合には、被害者側が、代替労働力を利用する必要性や金額の相当性等について立証しなければなりません。
一般の方が、これらの立証をすることは難しいと思われるため、交通事故を専門とする弁護士に相談するべき事例であるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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初年度登録から6年以上経過した国産車の評価損が認められた事例
今回は、初年度登録年月から6年以上経過した国産車の「評価損」が認められた事例をご紹介いたします。
交通事故において発生する損害は、人的損害と物的損害に分けられます。
このうち人的損害の方が中心的な問題として取り上げられ、様々な議論が深められているところです。
ですが、物的損害も、高価な車両の場合は算定方法により賠償金額は大きく異なりますし、所有者が損害額を強く争うこともあります。
本記事では、この物的損害の中でも争点になることが多い評価損を取り上げます。
評価損は「格落ち損害」と言われることもありますが、その概念については様々な見解があるところです。
また、どのような場合に評価損が認められるのか、評価損が認められる場合はどのような方法で金額を算定するのかについても種々の議論があります。
本記事では、これらの点について触れた後、冒頭の事例を紹介させていただきます。
1.評価損とは
そもそも評価損とは、どのような損害なのでしょうか?
大前提として、交通事故により車両が損傷を受けた場合、その損傷を修理することで当該車両が事故前の状態に戻るのであれば、修理費用が賠償されることで損害は回復することになります。
もっとも、修理をしても欠陥が残ってしまったり、事故歴があるという理由で中古車市場において価格が低下してしまったりすることもあります。
このような、事故当時の車両価格と修理後の車両価格との差額を評価損といいます。
2.評価損の分類
評価損は、技術上の評価損と、取引上の評価損に分けて考えることができるとされています。
技術上の評価損とは、修理によっても機能や外観に回復できない欠陥が存在していることにより生じた評価損のことをいいます。
技術上の評価損が認められること自体については、ほぼ争いがありません。
もっとも、現在は、修理技術の進歩等によって、技術的に修理できないというケースはかなり少ないと思われることから、技術上の評価損が認められるケースはほとんどないのではないかとの指摘がなされているところです。
次に、取引上の評価損とは、車両の修理をして欠陥が無くなったとしても、事故歴により商品価値が下落した場合の評価損のことをいいます。
評価損が争点となっている場合、この取引上の評価損が問題になっていることが多いです。
また、取引上の評価損については、そのような損害を否定する見解や裁判例もあるところであり、損害保険会社は否定的な考えを示す傾向が強いです。
その理由として挙げられるのが、事故後直ちに下取り等に出さず被害車両の使用を継続する場合は交換価値の低下という損害は現実化しないこと、修理によって原状回復され欠陥が残存していないのであるから客観的には価値の低下は存在していないことなどです。
一方、裁判所においては、取引上の評価損自体は肯定した上で、具体的な事情に応じて、その有無・金額を判断しているという印象です。
これは、技術上の評価損が存在していなかったとしても、中古車市場では事故歴のある車両として買取価格が低下するという傾向があることは否定できず、これによる交換価値の低下を一切保護しないということは妥当でないとの価値判断が働いているように思います。
3.評価損の算定方法
評価損の算定方法については、以下の考え方があるところです。
⑴ 原価方式
事故時の時価と修理後の時価との差額を損害とする方法
⑵ 時価基準方式
事故時の時価を基準として、その一定割合を損害とする方法
⑶ 金額表示方法
事故車両の種類、使用期間、被害の内容・程度、修理費用等諸般の事情を考慮して、損害を金額で示す方法
⑷ 修理費基準方式
修理費を基準として、その一定割合を損害とする方法
一般的に、車両の損傷の程度が大きいほど修理費は高額になり、車両の価値の低下も大きくなるといえることから、修理費の一定割合とする方法がとられることが多いです。
そして、取引上の評価損が認められるかどうか、認められるとしてその損害額はどのくらいか、を検討するにあたっては、初年度登録年月からの期間、走行距離、損傷の部位や程度(中古車販売業者に修復歴の表示義務があるか否か)、車種等の事情を総合考慮して判断することになります。
この点については、外国車又は国産人気車種で初年度登録年月から5年(走行距離6万キロメートル程度)以上、それ以外の国産車では3年以上(走行距離で4万キロメートル程度)を経過すると、評価損が認められにくい傾向があるとの指摘もあります。
4.事例の紹介~初年度登録年月から6年以上経過した国産車の評価損が認められた~
当事務所の依頼者Aさんは、スーパーの駐車場に自動車(車種はミニバン。以下「Aさん車両」といいます。)を駐車して買い物をしていたところ、加害者が、ブレーキとアクセルを踏み間違えたことにより、Aさん車両に衝突してしまいました。
この事故によりAさん車両は大きな損傷を受け、その修理費用は200万円を超えるほどでした。
このような大きな事故であったにもかかわらず、事故当時、Aさんは車外にいたため身体が無傷であったことは不幸中の幸いでした。
Aさんとしては、自動車が大きく損傷されてしまったことから、修理費用だけではなく、評価損の請求もされたいとのご希望でした。
しかしながら、Aさん車両は、初年度登録年月から6年以上経過している国産車であったため、評価損が認定されるハードルはかなり高いものでした。
もっとも、Aさんは、認定されるハードルが高くても請求をしたいとの強いお気持ちあり、弁護士費用特約に加入されていて費用倒れにならないことから、ご依頼をお引き受けすることになりました。
私たちは、委任契約書を取り交わした後、早速、相手方保険会社の担当者と交渉をしましたが、担当者から「自動車登録してからこんなに年月が経過している車両について、格落ちが認められている裁判例は見たことがない。」と言われ、全く話し合いに応じない様子でした。
そのため、裁判所外における話し合いの段階ではあるものの、準備を整えた上で裁判のように当方の主張内容を書面化し、相手方保険会社宛てに提出することにしました。
修理後の車両の価値を立証する1つの資料として、日本自動車査定協会による事故減価額証明書があります。
日本自動車査定協会は、自動車メーカー等が出資した財団法人で、経済産業省と国土交通省の指導下に設立され、自動車の客観的評価額を査定する団体です。
本事例においても、日本自動車査定協会にAさん車両の事故減価額証明書を作成してもらい、相手方保険会社宛てに提出することにしました。
また、中古車販売業者には一定の修復歴についての表示義務が課されており、このような場合には事故歴と交換価値の低下との関連性がより強く認められるところです。
そのため、Aさん車両の修理見積書から、骨格部位の損傷に関する具体的な記載を抽出した上で、相手方保険会社に対して主張することにしました。
これらの点も含めて準備が整ったことから、当方の主張内容を書面化した上で、相手方保険会社に対して評価損の主張をしました。
5.相手方保険会社との交渉結果~修理費用の10%が認められる~
交渉の結果、最終的に、相手方保険会社から評価損として修理費用の10%が提示されるに至りました(修理費基準方式)。
Aさん車両の修理費用は200万円を超えていたことから、評価損として20万円を超える金額を獲得できたことになります。
Aさんとしても、難しいと思われていた評価損が認められ、希望していたとおりの結果を引き出すことができたと喜ばれていました。
6.まとめ
このように、今回の事例では、初年度登録年月から6年以上経過した国産車であるにもかかわらず、評価損の存在を前提とした示談を成立させることができました。
取引上の評価損は、争点になることが多い上、金額等を含めた認定にあたっては様々な事情を総合的に考慮する必要があります。
このように、取引上の評価損は交通事故事件の中でも専門的な分野であるといえますから、取引上の評価損についての請求を検討されている場合には、交通事故を専門とする弁護士に相談するべきです。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
初回相談は無料で、弁護士費用特約にも対応しています。
全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
整骨院・接骨院で治療すると後遺障害等級が認定されないって本当?
交通事故で首(頚椎捻挫等)や腰(腰椎捻挫等)を負傷した被害者の中には、整骨院・接骨院での治療を希望して、主に整骨院・接骨院に通院される方もいらっしゃいます。
交通事故の治療で整骨院・接骨院に通院すること自体は何も問題はありませんが、インターネットなどで様々な情報をご覧になって、治療が一区切りとなる「症状固定」となった時点でも痛みなどの症状(後遺症)が残存してしまった場合に、整骨院・接骨院で治療していると自賠責に後遺障害申請をしても、後遺障害等級が認定されないのではないか?とご不安になる方も多いようで、当事務所でも時々そのようなご相談をお受けすることがあります。
結論から申し上げますと、整骨院・接骨院で治療したから後遺障害が認定されないということはありません。
主に整骨院・接骨院で治療した交通事故被害者の方でも、後遺障害等級(主に神経症状の14級9号)が認定される可能性はあります。
そこで、今回は、主に整骨院・接骨院で治療をしていた交通事故被害者が後遺障害申請をした場合に後遺障害等級が認定されるか?という点について、最近の当事務所のご依頼者様の具体的事例を基にご説明します。
同様のお悩みをお持ちの方のご参考にしていただけますと幸いです。
1.整骨院・接骨院での治療について
⑴ 整骨院・接骨院での治療を希望する理由
交通事故に遭った被害者の方が、主に首(頚椎捻挫等)や腰(腰椎捻挫等)の怪我をされた場合、整骨院・接骨院での治療を希望されるケースは珍しくありません。
整骨院・接骨院の先生(柔道整復師)は医師ではありませんので、基本的には整形外科の医師の下で治療をすることが望ましいですが、整形外科は診察やリハビリに長い時間がかかってしまうとか、診察時間が短いなどの理由で、通院しにくいと感じる方は多いようです。
特に仕事をしている方の場合、仕事を休んだり、遅刻・早退をしないと整形外科の診察時間中に通院できないとの理由で、遅い時間まで診療している整骨院・接骨院での治療を希望するということはよくあります。
また、診察時間には問題がなくても、整骨院・接骨院でのリハビリの方が長い時間施術をしてもらえるとの理由で、整形外科でのリハビリよりも効果を感じるということで整骨院・接骨院での治療を希望される方もいらっしゃいます。
⑵ 整骨院・接骨院での治療の可否
まず、整骨院・接骨院で治療をするためには、原則として医師の了承が必要です。
特に、骨折部位については、医師の許可がなければ、柔道整復師が施術をすることはできません。
骨折部位以外についても、整形外科の医師が整骨院・接骨院での治療を認めない場合、保険会社が整骨院・接骨院の治療費を払ってくれないことが多いため、やはり医師の了承を得てから整骨院・接骨院を受診するべきです。
そのため、交通事故被害者が整骨院・接骨院での治療を希望する場合でも、まずは整形外科を受診して医師に診断してもらい、整骨院・接骨院での治療について相談する必要があります。
なお、整骨院・接骨院での治療は認めないという医師もいます。
当事務所のご相談者・ご依頼者の事例で、保険会社に医師の了承を得たと嘘をついて整骨院に通ってしまい、後で示談の際に整骨院の治療費を慰謝料から減額すると主張されたケースや、相談せずに整骨院を受診したことに怒った医師が診断書に不利な記載をしたケースなどもありました。
医師の了承を得られない場合、無理に整骨院・接骨院に通うと、このように後々トラブルになる可能性が高いので注意が必要です。
⑶ 整骨院・接骨院で治療する際の注意点
主に整骨院・接骨院に通院する場合、整形外科を全く受診しなくなってしまう方もいるようですが、整形外科にも定期的に通院して医師の診察を受けることが重要です。
整骨院・接骨院の先生は医師ではありませんので、診断書を作成することはできません。
そのため、治療後に後遺障害が残存してしまって後遺障害申請したいという場合、後遺障害診断書は整形外科の医師に作成してもらう必要があります。
しかし、定期的に受診していない患者については、医師が、様子(症状経過や治療内容)が分からないなどの理由で診断書を書いてくれないというケースも珍しくありません。
また、最近は、裁判で整骨院・接骨院の施術費について厳しい判断が出る傾向もあります。
治療終了後に保険会社と示談できずに裁判までもつれる事例は稀ですが、万が一、裁判になった場合、整形外科を定期的に受診していないと、治療の必要性が認められない可能性が高まります。
このような事情から、最近では、整骨院・接骨院でも整形外科を定期的に受診するように促すことも多いようですが、当事務所でも月に数回は整形外科も受診するようお勧めしています。
2.後遺障害申請の方法
交通事故後、一定期間の治療を続けても症状が改善せず、これ以上の改善が見込めない状態となることを「症状固定」と言います。
医師が、症状固定の診断をした時点で残存してしまった症状については、「後遺障害」として評価されることになり、自賠責保険に後遺障害申請をすると、後遺障害等級に該当するか否か、該当する場合には1級から14級のどの後遺障害等級に該当するかが判断(認定)されます。
後遺障害の申請をする場合には、まず、医師に後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
また、後遺障害申請は、加害者側任意保険会社に任せる「事前認定」と、被害者側で申請する「被害者請求」の2つの方法がありますが、基本的には被害者請求で申請することをお勧めしています。
後遺障害申請については、別の記事でも解説していますので、こちらもご覧ください(後遺障害認定と弁護士に依頼するメリット)
3.Wさんの事例~初回申請で頚椎捻挫14級9号~
それでは、ここから具体例をご紹介します。
一人目の依頼者・福岡県在住のWさんは、友人の運転する自動車の助手席に乗って、道路の反対側のレストランに入るために一時停止して対向車の通過を待っていた際、先方不注視の後方車両に追突されてしまい、首の怪我を負いました。
最初に整形外科を受診して、頚椎捻挫の診断を受け、リハビリに通うように指示されましたが、お仕事の関係で、整形外科の診察時間に受診できる日が限られることから、勤務先近くの整骨院での治療を希望しました。
その後、整形外科にも定期的に通院しつつ、整骨院で治療を続けましたが、事故から約7ヶ月半後に加害者側保険会社から治療費を打ち切られてしまい、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
Wさんは、この時点でもまだ首の痛みなどの症状が残存しているとのことでしたので、後遺障害申請からご依頼いただくことになりました。
そして、主治医に後遺障害診断書を作成してもらい、被害者請求で後遺障害申請をしたところ、14級9号の認定を受けることができました。
Wさんの通院期間や通院回数は以下のとおりです。
・通院期間:227日(7ヶ月と17日)
・整形外科への通院回数:38回(週1回くらいの頻度)
・整骨院への通院回数:93回(週3回くらいの頻度)
4.Yさんの事例~異議申立てで併合14級~
二人目の依頼者・香川県在住のYさんは、ご自身が自動車を運転して、信号のない十字路を直進した際、左側の道から遅れて交差点に進入してきた車に衝突されてしまい、首と腰の怪我を負いました。
Yさんは、事故直後に総合病院に救急搬送されて、頚椎捻挫・腰椎捻挫の診断を受けました。
その後は、別の整形外科に転院しましたが、病院までが遠く、その整形外科がいつも混んでいて1回の受診にかなり時間がかかるため、ご自宅の最寄りの整骨院でのリハビリを希望されました。
その後、整形外科にも月に数回は通院しつつ、主に整骨院で治療を続けました。
しかし、まだ症状が残っていた事故から約半年の時点で、加害者側保険会社から治療費を打ち切られてしまいました。
そして、事前認定で後遺障害の申請をしましたが、非該当という結果になり、後遺障害等級は認定されません。
Yさんとしては、特に腰の症状が辛く、非該当という結果に納得できず、当事務所にご相談いただきましたので、後遺障害の異議申立てからご依頼いただくことになりました。
ご依頼後は、当事務所で主治医に医療照会を行うなどして、異議申立ての材料を準備し、被害者請求で異議申立てを行いました。
そうしたところ、Yさんの主張が認められ、首(頚椎捻挫)と腰(腰椎捻挫)でそれぞれ14級9号の認定(併合14級)を受けることができました。
Yさんの通院期間や通院回数は以下のとおりです。
・通院期間:178日(約6ヶ月)
・整形外科への通院回数:12回(月2回くらいの頻度)
・整骨院への通院回数:78回(週3~4回くらいの頻度)
5.まとめ
今回は、主に整骨院で治療をした交通事故被害者の方で、実際に後遺障害等級が認定された事例をご紹介しました。
ただ、正直なところ、当事務所のご依頼者様についても、主に整骨院・接骨院で治療した方の場合、主に整形外科で治療した方に比べると、後遺障害等級が認定されにくい傾向はあるかもしれません。
しかし、整骨院・接骨院中心で治療された場合でも、状況次第で後遺障害等級が認定される可能性は十分にあります。
また、今回ご紹介したYさんのように、交通事故に詳しい弁護士にご依頼になることで結果が変わることもありますので、後遺障害でお困りの方は是非お気軽にご相談ください。
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よろしければ、関連記事もご覧ください。
・自賠責に因果関係を否定された同名半盲が、訴訟で認められた事例
・過去の交通事故で後遺障害の認定を受けている場合、もう後遺障害が認定されないって本当?
・後遺障害診断書を作成してもらえず、裁判で後遺障害等級14級9号前提で和解できた事例
・異議申立てで14級が認定された事例(距骨骨折後の足関節の疼痛)
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

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修理費少額の軽微な事故で受傷前提の和解ができた事例
今回は、交通事故での受傷の有無が争点となりやすい軽微な事故の事案(加害者側保険会社から怪我をしていないと主張されるケース)についてご紹介します。
交通事故に遭った場合、被害者が怪我を負ってしまうことは珍しくありません。
しかしながら、被害車両の損傷が軽微な事故の場合、被害者が怪我を負っていたとしても、相手方保険会社が受傷自体を否定してくることが多く見受けられます。
このような事故の場合、どのような事情から受傷の有無は判断されるのでしょうか。
また、今回は、損傷が軽微な事故であるにもかかわらず、訴訟において怪我との因果関係が存在することを前提とした解決ができた事例をご紹介しますので、同様のことでお困りの皆様のご参考にしていただけますと幸いです。
なお、サイドミラー(ドアミラー)同士の接触事故で受傷前提の解決ができた事例については、別記事(サイドミラー(ドアミラー)同士の接触事故で受傷前提の解決ができた事例)で掲載していますので、こちらも併せてご参照ください。
1.主張立証責任について
民事裁判では、被害者が交通事故に基づく損害賠償請求をする場合、次の点について被害者側が主張立証責任を負うものとされています(被害者側が立証できなければ、主張が認められないということになります。)。
① 権利または法律上保護されるべき利益を有すること
② ①の権利または利益を侵害したこと
③ ②について故意があることまたは過失があることを基礎づける評価根拠事実
④ 損害が発生したことおよびその額
⑤ ②の加害行為と④の損害との間に相当因果関係が存在すること
受傷の有無が争点となる場合、上記のうち②、④、⑤が問題となるといえます。
もっとも、交通事故においては、被害者の身体が損なわれることが一般的であるといえることから、被害者が交通事故に遭ったことに加えて、医師が作成した診断書や診療報酬明細書等があれば、これらの点について一応の立証がなされたと考えられることが多いでしょう。
相手方保険会社が受傷の有無について特に争わず、損害賠償額の提示をするケースにおいては、相手方保険会社は上記のように考えているものといえます。
一方、受傷したか必ずしも明らかではない軽微な事故の場合は事情が異なります。
相手方側としては、事故態様を具体的に明らかにするとともに、被害者が主張する受傷機序の不自然性を主張すること等により、身体に対する侵害がないこと、すなわち②権利または利益の侵害がない旨の反論をすることになります。
2.受傷の有無が争点となった場合の考慮要素
受傷の有無が争点となった場合の重要な考慮要素として、被害者に加えられた衝撃の程度が挙げられます。
衝撃の程度を判断するに当たっては、衝突時における被害者の姿勢が問題となり、受傷機転として重要となります。
なお、一般論としては、ドアミラーへの衝突の場合は、車の構造上、車体本体は衝撃を受けませんが、ドアミラーに対する衝突であっても、衝突の部位・角度、速度等によっては被害者の身体に一定の衝撃が加わることも考えられるため、事案に応じて慎重に判断されるべきです。
次に、重要な考慮要素として、症状の内容・経過、治療経過が挙げられます。
例えば、特に理由もなく事故から相当期間を経過してから受診している場合、このように遅れて受診していることは受傷の存在を疑わせる事情となるため、受診が遅れた合理的な理由を説明する必要があります。
その他の考慮要素としては、既往症の有無、過去の交通事故歴や保険金請求歴、生活状況や稼働状況等を挙げることができます。
3.事例の紹介~修理費用6万円程度の損傷が軽微な事故~
依頼者Aさんは、駐車場の駐車区画に前向きに駐車していたところ、後方から相手車両がAさん車両に向かって後退してきました。
その後、相手車両の後部とAさん車両の後部が接触するに至り、本件事故が発生しました。
この事故でAさんは頚椎捻挫の怪我を負い、約4ヶ月通院しました。
しかしながら、相手方保険会社は、Aさん車両の修理費用が6万円程度であり、軽微な事故であることや、神経学的所見の検査に異常がないことを理由に、裁判外で解決するとしても一部の治療費しか支払えないと主張してきました。
そこで、Aさんの担当医に医療照会したところ、相手方保険会社が考えているよりも長く通院が必要との見解であったため、その旨の回答書面を作成してもらうことになりました。
その後も相手方保険会社が治療費の支払いをしなかったため、私たちが自賠責保険会社に対して被害者請求をしたところ、Aさんが通院していた約4ヶ月の期間について、本件事故と相当因果関係があることを前提とする認定がなされ、自賠責保険金(治療費・傷害慰謝料など)が支払われるに至りました。
もっとも、自賠責保険会社から支払われた傷害慰謝料は、裁判基準で計算した場合の傷害慰謝料と比較して30万円以上も下回っていました。
これは、慰謝料の基準が自賠責基準と裁判基準で大きく異なるためです。
この点については、別の記事でも解説していますので、こちらもご覧ください(「低額な慰謝料基準と高額な慰謝料基準」、「3つの慰謝料基準」)。
そのため、Aさんは、交通事故に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、裁判基準で計算した傷害慰謝料の請求をすることにしました。
4.本件訴訟における争点~受傷の有無~
今回の訴訟において、相手側は、Aさんが通院していたことは認めるが、本件事故による衝撃は非常に軽微であることを理由に、Aさんが本件事故で受傷したことを否認しました。
そのため、相手側はAさんの治療費は全て支払わない旨の主張を展開し、訴訟ではAさんの受傷の有無が争点となりました。
このように、裁判外では一部の治療費を認めていたにもかかわらず、訴訟では全ての治療費を否認することに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、裁判外で認めていたことが訴訟で撤回されることは珍しくありません。
相手側は、Aさんが通院していた約4ヶ月の期間について、自賠責保険会社が本件事故と相当因果関係があることを前提とする認定をしたことに関し、無関係の出来事である旨の主張をしました。
この点については、自賠責保険会社は、損害保険料率算出機構による調査をもとに自賠責保険金を支払うのであるから、事故との因果関係の有無について判断を示していることは明らかであり無関係ではない旨の反論をしました。
また、文献を引用した上で、少なくとも現在の工学的問題状況としては、低速度追突事案ではむち打ち傷害は発症しないとの一般的法則性は否定されていると言ってよいことを主張しました。
同じように修理費用が低額で軽微な事故について受傷を肯定した裁判例も引用しました。
それに加えて、事故当時のAさんの姿勢についても主張を展開しました。
本件事故当時、Aさんは、シートベルト外し、運転席に座りながら、助手席のダッシュボードの探し物を見つけるため、身体を助手席側に傾けていました。
Aさんは、このように体勢が不安定で衝撃に無防備な状態で被害車両から接触されたものであり、受けた衝撃の程度は大きかったのです。
5.本件訴訟の結果
双方からの主張が一段落した後、裁判所から、本件事故によってAさんが受傷したことを前提とする内容の和解案が提示されました。
Aさんとしても納得できる金額であり、相手方もこれを了承したため、この和解案の内容で訴訟上の和解が成立するに至りました。
6.まとめ
このように、修理費用6万円程度の損傷が軽微な事故であっても、本件事故によって受傷したことを前提とする和解を成立させることができました。
車両の損傷が軽微な事故は、他の事故類型と比較して治療費等の損害額は少ない傾向にありますが、争点や主張内容については奥深く難しいものです。
そのため、弁護士費用特約を利用することができる場合には、交通事故を専門とする弁護士に依頼するべき事故類型であるといえます。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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