交通事故で首(頚椎捻挫等)や腰(腰椎捻挫等)を負傷した被害者の中には、整骨院・接骨院での治療を希望して、主に整骨院・接骨院に通院される方もいらっしゃいます。
交通事故の治療で整骨院・接骨院に通院すること自体は何も問題はありませんが、インターネットなどで様々な情報をご覧になって、治療が一区切りとなる「症状固定」となった時点でも痛みなどの症状(後遺症)が残存してしまった場合に、整骨院・接骨院で治療していると自賠責に後遺障害申請をしても、後遺障害等級が認定されないのではないか?とご不安になる方も多いようで、当事務所でも時々そのようなご相談をお受けすることがあります。
結論から申し上げますと、整骨院・接骨院で治療したから後遺障害が認定されないということはありません。
主に整骨院・接骨院で治療した交通事故被害者の方でも、後遺障害等級(主に神経症状の14級9号)が認定される可能性はあります。
そこで、今回は、主に整骨院・接骨院で治療をしていた交通事故被害者が後遺障害申請をした場合に後遺障害等級が認定されるか?という点について、最近の当事務所のご依頼者様の具体的事例を基にご説明します。
同様のお悩みをお持ちの方のご参考にしていただけますと幸いです。
このページの目次
1.整骨院・接骨院での治療について
⑴ 整骨院・接骨院での治療を希望する理由
交通事故に遭った被害者の方が、主に首(頚椎捻挫等)や腰(腰椎捻挫等)の怪我をされた場合、整骨院・接骨院での治療を希望されるケースは珍しくありません。
整骨院・接骨院の先生(柔道整復師)は医師ではありませんので、基本的には整形外科の医師の下で治療をすることが望ましいですが、整形外科は診察やリハビリに長い時間がかかってしまうとか、診察時間が短いなどの理由で、通院しにくいと感じる方は多いようです。
特に仕事をしている方の場合、仕事を休んだり、遅刻・早退をしないと整形外科の診察時間中に通院できないとの理由で、遅い時間まで診療している整骨院・接骨院での治療を希望するということはよくあります。
また、診察時間には問題がなくても、整骨院・接骨院でのリハビリの方が長い時間施術をしてもらえるとの理由で、整形外科でのリハビリよりも効果を感じるということで整骨院・接骨院での治療を希望される方もいらっしゃいます。
⑵ 整骨院・接骨院での治療の可否
まず、整骨院・接骨院で治療をするためには、原則として医師の了承が必要です。
特に、骨折部位については、医師の許可がなければ、柔道整復師が施術をすることはできません。
骨折部位以外についても、整形外科の医師が整骨院・接骨院での治療を認めない場合、保険会社が整骨院・接骨院の治療費を払ってくれないことが多いため、やはり医師の了承を得てから整骨院・接骨院を受診するべきです。
そのため、交通事故被害者が整骨院・接骨院での治療を希望する場合でも、まずは整形外科を受診して医師に診断してもらい、整骨院・接骨院での治療について相談する必要があります。
なお、整骨院・接骨院での治療は認めないという医師もいます。
当事務所のご相談者・ご依頼者の事例で、保険会社に医師の了承を得たと嘘をついて整骨院に通ってしまい、後で示談の際に整骨院の治療費を慰謝料から減額すると主張されたケースや、相談せずに整骨院を受診したことに怒った医師が診断書に不利な記載をしたケースなどもありました。
医師の了承を得られない場合、無理に整骨院・接骨院に通うと、このように後々トラブルになる可能性が高いので注意が必要です。
⑶ 整骨院・接骨院で治療する際の注意点
主に整骨院・接骨院に通院する場合、整形外科を全く受診しなくなってしまう方もいるようですが、整形外科にも定期的に通院して医師の診察を受けることが重要です。
整骨院・接骨院の先生は医師ではありませんので、診断書を作成することはできません。
そのため、治療後に後遺障害が残存してしまって後遺障害申請したいという場合、後遺障害診断書は整形外科の医師に作成してもらう必要があります。
しかし、定期的に受診していない患者については、医師が、様子(症状経過や治療内容)が分からないなどの理由で診断書を書いてくれないというケースも珍しくありません。
また、最近は、裁判で整骨院・接骨院の施術費について厳しい判断が出る傾向もあります。
治療終了後に保険会社と示談できずに裁判までもつれる事例は稀ですが、万が一、裁判になった場合、整形外科を定期的に受診していないと、治療の必要性が認められない可能性が高まります。
このような事情から、最近では、整骨院・接骨院でも整形外科を定期的に受診するように促すことも多いようですが、当事務所でも月に数回は整形外科も受診するようお勧めしています。
2.後遺障害申請の方法
交通事故後、一定期間の治療を続けても症状が改善せず、これ以上の改善が見込めない状態となることを「症状固定」と言います。
医師が、症状固定の診断をした時点で残存してしまった症状については、「後遺障害」として評価されることになり、自賠責保険に後遺障害申請をすると、後遺障害等級に該当するか否か、該当する場合には1級から14級のどの後遺障害等級に該当するかが判断(認定)されます。
後遺障害の申請をする場合には、まず、医師に後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
また、後遺障害申請は、加害者側任意保険会社に任せる「事前認定」と、被害者側で申請する「被害者請求」の2つの方法がありますが、基本的には被害者請求で申請することをお勧めしています。
後遺障害申請については、別の記事でも解説していますので、こちらもご覧ください(後遺障害認定と弁護士に依頼するメリット)
3.Wさんの事例~初回申請で頚椎捻挫14級9号~
それでは、ここから具体例をご紹介します。
一人目の依頼者・福岡県在住のWさんは、友人の運転する自動車の助手席に乗って、道路の反対側のレストランに入るために一時停止して対向車の通過を待っていた際、先方不注視の後方車両に追突されてしまい、首の怪我を負いました。
最初に整形外科を受診して、頚椎捻挫の診断を受け、リハビリに通うように指示されましたが、お仕事の関係で、整形外科の診察時間に受診できる日が限られることから、勤務先近くの整骨院での治療を希望しました。
その後、整形外科にも定期的に通院しつつ、整骨院で治療を続けましたが、事故から約7ヶ月半後に加害者側保険会社から治療費を打ち切られてしまい、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
Wさんは、この時点でもまだ首の痛みなどの症状が残存しているとのことでしたので、後遺障害申請からご依頼いただくことになりました。
そして、主治医に後遺障害診断書を作成してもらい、被害者請求で後遺障害申請をしたところ、14級9号の認定を受けることができました。
Wさんの通院期間や通院回数は以下のとおりです。
・通院期間:227日(7ヶ月と17日)
・整形外科への通院回数:38回(週1回くらいの頻度)
・整骨院への通院回数:93回(週3回くらいの頻度)
4.Yさんの事例~異議申立てで併合14級~
二人目の依頼者・香川県在住のYさんは、ご自身が自動車を運転して、信号のない十字路を直進した際、左側の道から遅れて交差点に進入してきた車に衝突されてしまい、首と腰の怪我を負いました。
Yさんは、事故直後に総合病院に救急搬送されて、頚椎捻挫・腰椎捻挫の診断を受けました。
その後は、別の整形外科に転院しましたが、病院までが遠く、その整形外科がいつも混んでいて1回の受診にかなり時間がかかるため、ご自宅の最寄りの整骨院でのリハビリを希望されました。
その後、整形外科にも月に数回は通院しつつ、主に整骨院で治療を続けました。
しかし、まだ症状が残っていた事故から約半年の時点で、加害者側保険会社から治療費を打ち切られてしまいました。
そして、事前認定で後遺障害の申請をしましたが、非該当という結果になり、後遺障害等級は認定されません。
Yさんとしては、特に腰の症状が辛く、非該当という結果に納得できず、当事務所にご相談いただきましたので、後遺障害の異議申立てからご依頼いただくことになりました。
ご依頼後は、当事務所で主治医に医療照会を行うなどして、異議申立ての材料を準備し、被害者請求で異議申立てを行いました。
そうしたところ、Yさんの主張が認められ、首(頚椎捻挫)と腰(腰椎捻挫)でそれぞれ14級9号の認定(併合14級)を受けることができました。
Yさんの通院期間や通院回数は以下のとおりです。
・通院期間:178日(約6ヶ月)
・整形外科への通院回数:12回(月2回くらいの頻度)
・整骨院への通院回数:78回(週3~4回くらいの頻度)
5.まとめ
今回は、主に整骨院で治療をした交通事故被害者の方で、実際に後遺障害等級が認定された事例をご紹介しました。
ただ、正直なところ、当事務所のご依頼者様についても、主に整骨院・接骨院で治療した方の場合、主に整形外科で治療した方に比べると、後遺障害等級が認定されにくい傾向はあるかもしれません。
しかし、整骨院・接骨院中心で治療された場合でも、状況次第で後遺障害等級が認定される可能性は十分にあります。
また、今回ご紹介したYさんのように、交通事故に詳しい弁護士にご依頼になることで結果が変わることもありますので、後遺障害でお困りの方は是非お気軽にご相談ください。
私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は初回無料でお受けしております。
ぜひ、お気軽にお問合せください。
よろしければ、関連記事もご覧ください。
・自賠責に因果関係を否定された同名半盲が、訴訟で認められた事例
・過去の交通事故で後遺障害の認定を受けている場合、もう後遺障害が認定されないって本当?
・後遺障害診断書を作成してもらえず、裁判で後遺障害等級14級9号前提で和解できた事例
・異議申立てで14級が認定された事例(距骨骨折後の足関節の疼痛)
投稿者プロフィール
法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出