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肩腱板損傷で認定されやすい後遺障害等級~具体的な事例を踏まえて~
今回は、交通事故による肩腱板損傷の後遺障害について、裁判例を交えて解説いたします。
肩腱板損傷は、肩の腱板(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋という4つの筋肉の腱)が傷ついたり、部分的に、あるいは完全に断裂したりする損傷を指します。
この損傷は、日常生活において様々な苦労をもたらすことがあります。具体的には、痛み、可動域制限、筋力低下や脱力感等です。
このように、腱板損傷は、日常生活において大きな苦労を伴う損傷といえます。
したがって、交通事故や労災事故等によって肩腱板損傷を負った場合、その苦労に見合った適正な賠償額が保険会社から支払われなければなりませんし、そのための知識をつけておくこと重要です。
1.過去の裁判例から学ぶ~後遺障害認定の傾向と注意点~
冒頭で触れたように、交通事故によって負った肩腱板損傷は、その後の生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
適切な補償を受けるためには、後遺障害の認定が極めて重要ですが、その判断は非常に複雑です。
特に、事故前から存在した加齢による変性との区別が争点となるケースが多く、この争点について判断している裁判事例もあるところです。
後遺障害の等級は、症状の程度、治療経過、そして医学的所見等に基づいて総合的に判断されます。
肩腱板損傷の場合、主に以下の等級が検討の対象となります。
<8級6号>
肩関節の可動域が健側の10%程度以下に制限されている場合。
「関節の用を廃したもの」とされ、重度の機能障害が認められるケースに適用されます。
<10級10号>
肩関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されている場合。
「関節の機能に著しい障害を残すもの」とされ、比較的重度の機能障害が認められるケースに適用されます。
<12級6号>
肩関節の可動域が健側の4分の3以下に制限されている場合。
「関節の機能に障害を残すもの」とされ、10級10号ほどではないものの、機能制限が存在する場合に該当します。
<12級13号>
痛みが「局部に頑固な神経症状を残すもの」と認められる場合。
他覚的所見(MRIなど)で痛みの原因となる腱板損傷が確認でき、その痛みが継続している場合に認定されます。
<14級9号>
痛みが「局部に神経症状を残すもの」と認められる場合。
他覚的所見(MRIなど)で痛みの原因となる腱板損傷が確認できないものの、その痛みが継続している場合に認定されます。
これらの等級認定をするにあたり、裁判所が重視しているポイントをいくつかピックアップいたします。
① 肩腱板損傷と交通事故との因果関係に関する立証
肩腱板損傷は、外傷以外にも加齢による変性や日常生活での負荷によっても発生し得るため、事故によって生じた損傷であることの証明が最も重要です。事故直後からの症状の一貫性、事故態様と受傷内容の整合性、そして事故以前に同様の症状がなかったことの証明が重要です。
② 医学的所見の存在
特にMRI画像は、腱板損傷の有無、断裂の程度、損傷の新鮮さ、筋萎縮や脂肪浸潤の有無などを客観的に示す上で決定的な証拠となります。医師による診断書だけでなく、画像所見そのものが後遺障害認定に大きく影響します。そのため、事故直後にMRI検査を行うことが重要です。
③ 治療経過の一貫性と適切性
これは特に、神経症状に関する後遺障害等級において関連しますが、受傷直後から症状固定に至るまでの治療内容、治療効果、そして症状固定の時期の適切性です。漫然とした治療や、症状の訴えに一貫性がない場合は、認定が難しくなることがあります。
2.腱板損傷の慰謝料相場は?
慰謝料には「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」があります。以下にそれぞれの目安を紹介します。
・入通院慰謝料の目安
入院や通院日数・期間に応じて計算されます。
- 例えば、6か月通院した場合:約50万円〜116万円(自賠責基準・弁護士基準で異なります)
- 慰謝料の計算は治療の必要に応じて通院をした結果に基づくものではありますが、自賠責基準では通院回数が少ないと慰謝料が低く算定されるため、その点からも継続的な通院は大切です。
・後遺障害慰謝料の目安(等級別)
腱板損傷が後遺障害と認定されれば、慰謝料の金額は一気に上がります。
等級 | 慰謝料(弁護士基準) | 逸失利益の考慮 |
10級 | 約550万円 | 収入の27% |
12級 | 約290万円 | 収入の14% |
14級 | 約110万円 | 収入の5% |
3.慰謝料請求の流れと損害賠償の注意点
事故後は以下のような流れで進めるのが一般的です。
- 事故後すぐに通院:初診が遅れると事故との因果関係を疑われます。
- 診断書の取得:腱板損傷の診断が明記されたものが必要です。
- 症状固定の判断:ある程度(一般的には6ヶ月程度)治療を続けた後、医師により”これ以上の回復が見込めない”と判断された時点です。
- 後遺障害等級の申請:自賠責保険(損害保険料率算出機構)に申請します。
- 示談交渉:保険会社との間で慰謝料などを決定。専門家がいないと過少評価されるリスクが高いです。
4.裁判例に基づく後遺障害認定の可能性の評価~あなたのケースはどうなる?~
ご自身の肩腱板損傷が後遺障害として認定される可能性を評価する際には、裁判事例から見えてくる基準とご自身の状況を照らし合わせることが有効です。
裁判事例を踏まえ、後遺障害が認められる可能性が高いと考えられるケースの一般的な特徴は、次のとおりです。
① 受傷直後からの明確な症状
これは特に、神経症状に関する後遺障害等級において関連しますが、事故後、速やかに医療機関を受診し、その後も一貫して肩の痛みを訴えて症状が継続していること。
② 客観的な画像所見の存在
MRI画像において、明らかな腱板の断裂(完全断裂、部分断裂を問わず)や損傷が確認できる場合。新鮮な損傷を示す所見(出血、浮腫など)があれば、事故との因果関係がより強く裏付けられます。
③ 可動域制限の正確な測定
医師による正確な計測によって、肩関節の自動運動(自分で動かせる範囲)だけでなく、他動運動(他人に動かしてもらう範囲)にも明らかな制限が認められる場合。これにより、痛みのために動かせないだけではない器質的な問題があることが裏付けられます。
④ 主治医の積極的な意見
主治医が、後遺障害診断書に具体的に症状や他覚的所見を記載するとともに、事故との因果関係や症状の程度について医学的な見地から肯定的な意見を示している場合。
一方、後遺障害が認められる可能性が低いと考えられるケースの一般的な特徴は、次のとおりです。
① 事故から医療機関の受診までに時間が空いたケース
そもそも事故との因果関係が問題視されてしまうリスクが高いです。
② 事故前に肩に何らかの症状があった、または加齢による変性が顕著なケース
事故による新たな損傷か、既存の症状の悪化かを区別することが難しくなります。
③ 他覚的所見が確認できないケース
他覚的所見が無いため、可動域制限に関する後遺障害等級の認定は難しくなります。もっとも、神経症状に関する後遺障害等級14級9号については、他覚的所見が無くても認定される可能性が残ります。
④ 後遺障害診断書において、因果関係や症状の程度等が曖昧にされているケース
後遺障害診断書は、後遺障害等級を判断するにあたり非常に重要な書類であるため、その記載内容が不十分であると不利に影響します。
ご自身の状況がこれらのいずれに該当するかを確認し、特に「事故との因果関係の証明」と「客観的な医学的所見の提示」に力を入れることが、後遺障害認定の可能性を高める上で重要です。
5.事例紹介とその解説~具体的な裁判例から学ぶ~
それでは具体的な裁判事例を通して、肩腱板損傷の後遺障害認定がどのように判断されているかを見てみましょう。
これらの事例は、実際の裁判所での判断基準を理解する上で非常に参考になります。
【事例1:可動域制限の後遺障害を主張したものの14級9号が認定されたケース】
<事案概要>
50代男性(原告)がタクシーを運転して交差点を右折しようとしたところ、対向車線を直進してきた相手車両と衝突したことにより交通事故が発生しました。原告は、右肩腱板損傷に基づく可動域制限を主張し、その後遺障害等級に該当することを主張しました。
<裁判所の判断(東京地裁平成30年11月20日判決)>
「右肩甲部から右上肢の疼痛に関しては、①原告は、本件事故後から右肩関節部の疼痛、圧痛、運動時痛を一貫して訴えており、本事故以前にそのような痛みが生じていたものとはうかがわれないこと、②平成24年7月10日に実施された右肩のMRI検査の結果、右肩関節棘上筋腱に脂肪抑制T2WIにて高信号域が見られ、損傷の所見があるものとされ、右肩関節腱板損傷との所見が示されており、丁山四郎医師の意見書や戊田五郎医師による鑑定報告書においても、右肩棘上筋の損傷や関節唇の損傷がみられるとの所見が示されていること、③本件事故態様や衝撃の程度等からすると、原告には、本件事故により、右肩に腱板損傷が生じ、右肩の疼痛が生じたものと推認される。もっとも、右肩の可動域は、自動値については制限がみられるものの、他動値では大きな制限はみられず、右肩関節の機能障害が生じたものとまでは認めるに足りない。」、「原告には症状固定後も、①右肩甲部から右上肢の疼痛・・が残存したものと認められるところ、①については後遺障害等級14級9号・・に該当・・したものと認めるのが相当である。」
<解説>
この事例から、自動運動が制限されていても、他動運動が制限されていなければ、可動域制限に関する後遺障害等級が認定されることは難しいことが分かります。
【事例2:被告からの反論を退けて12級6号が認定されたケース】
<事案概要>
50代男性(原告)が自動二輪車に乗車して直進していたところ、対向車線から転回してきた相手車両に衝突されたことにより交通事故が発生しました。これにより、原告は、左肩腱板損傷等の傷害を負い、自賠責保険会社から、左肩関節機能障害について12級6号の認定を受けていました。これに対し、被告側は、左肩関節の可動域制限と本件事故との因果関係について反論をしていました。
<裁判所の判断(神戸地裁令和元年6月26日判決)>
「原告はE自賠責損害調査事務所によって後遺障害等級併合12級と認定されているところ、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告には、本件事故によって受傷した左肩腱板損傷後の左肩関節について、健側(右肩関節)の可動域と比較して3/4以下の可動域制限が残存するという機能障害とともに、右足関節外果部に瘢痕があり・・原告には、後遺障害等級12級6号及び14級5号にそれぞれ該当する後遺障害が残存し、これを併合12級と評価するのが相当である。」、「この点、被告らは、原告の左肩関節の可動域制限と本件事故との因果関係に疑問を呈するとともに、その実質は疼痛という神経症状の範疇に止まる旨主張するところ、なるほど、事故から約7ヶ月が経過した平成30年2月26日のC整形外科の診療録において初めて左肩可動域制限に関する記載があると認められ、それまでのB病院の診療録では可動域制限なしとされ、他に上記日時までは可動域制限に関する記載がC整形外科の診療録にも見当たらず、また原告は事故後2ヶ月余が経過した平成29年9月ころに左肩の痛みがやや軽減し、又はほぼない旨医師に告げていることが認められる。」、「もっとも、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故から2日後の平成29年7月13日にC整形外科においてMRI検査を受けた結果、左肩、肩甲下筋腱に損傷があると診断されており、そのころ相当程度の疼痛を訴えていたこと、腱板損傷による疼痛等のため、原告は左肩をできるだけ動かさず、安静にする必要があったこと、医学的知見として、①腱板損傷が生じると時間の経過とともに断裂は拡大し、筋の萎縮が進行する、②関節可動域の制限には発生進行に関節の不動が影響するものであり、関節の不動によって拘縮が発生し、不動期間が長期化するほど拘縮が進行する、とされていること等の事実が認められ、これらの事実に徴すると、原告には、損害保険料率算出機構が認定したとおりの左肩関節の機能障害が残存し、その程度は後遺障害等級12級6号に該当するとの認定は覆らない。」
<解説>
この事例は、診療録に可動域制限なしと記載されていても、左肩関節の機能障害が残存していると評価された点が重要です。このように、裁判所は、様々な事情を総合考慮した上で、可動域制限の後遺障害等級について判断していることが分かります。
6.まとめ
このように、肩腱板損傷の後遺障害等級認定は、様々な事情を総合考慮した上で審査が行われます。
そのため、肩腱板損傷を負った被害者としては、後遺障害等級認定に有利な事情を主張立証しなければなりません。
一般の方が、これらの主張立証をすることは難しいと思われるため、適切な主張立証をされたい場合には、交通事故を専門とする弁護士に相談するべきであるといえます。
弁護士法人優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
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この記事が、肩腱板損傷でお困りの被害者の皆様の解決に少しでもお役に立てれば幸いです。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

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私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
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交通事故による肩腱板損傷でお悩みの方へ
突然の交通事故は、私たちの日常を奪い、心身に大きな負担を強いることがあります。
特に、肩関節を構成する重要な腱の集まりである腱板の損傷は、その後の生活や仕事に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
上肢の機能障害にもつながる肩腱板損傷は、痛みだけでなく、肩の可動域制限を引き起こし、時に後遺障害を残すことも少なくありません。
もしあなたが交通事故で腱板損傷を負い、今後の治療や保険会社との交渉、そして適切な慰謝料の獲得について不安を感じているのであれば、この記事が解決への糸口になると思います。
弁護士法人優誠法律事務所は、交通事故の専門知識と豊富な解決事例に基づき、被害者の方々を全力でサポートしています。
この記事では、交通事故における肩腱板損傷の基礎知識から、後遺障害認定の必要性、保険会社との交渉のポイント、そして弁護士に依頼するメリットまでを詳細に解説します。
1.交通事故における肩腱板損傷とは
交通事故によって肩に強い衝撃が加わると、肩腱板を損傷する可能性があります。
ここでは、肩腱板の構造と機能、主な損傷の原因、そして交通事故における症状と影響について解説します。
(1)肩腱板の構造と機能
肩腱板とは、肩関節を構成する4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の腱が集合したものです。
これらの腱は、上腕骨頭(腕の骨の先端)を肩甲骨の関節窩に安定させ、腕を上げたり、回したりする際の滑らかな動きを支える重要な役割を担っています。
腱板が正常に機能することで、私たちは日常生活における様々な動作をスムーズに行うことができるのです。
(2)主な損傷の原因
肩腱板損傷の主な原因は、加齢による腱の変性、使いすぎ(オーバーユース)、転倒やスポーツなどによる急激な外力などが挙げられます。
交通事故においては、衝突時の衝撃や、体を支えようとした際の無理な力が肩関節に加わることで、腱板が断裂したり、部分的に損傷したりすることがあります。
特に、直接的な打撃だけでなく、予測できない体勢での衝撃は、腱板に大きな負担を与える可能性があります。
(3)交通事故での症状と影響
交通事故による肩腱板損傷の症状は、損傷の程度によって様々です。
軽度の場合には、肩の痛みやわずかな可動域制限が見られる程度ですが、重度の場合には、激しい痛みで腕を上げることが困難になったり、夜間に痛みが強くなったりすることがあります。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 肩の痛み(安静時痛、運動時痛、夜間痛)
- 腕を上げる際の痛みやひっかかり感
- 肩関節の可動域制限(特に腕を上げる、外に開く、内側に回す動作が困難になる)
- 肩の力が入りにくい、脱力感
- 特定の動作での肩の不安定感
これらの症状は、日常生活における様々な動作、例えば着替え、入浴、食事、車の運転などを困難にするだけでなく、睡眠障害を引き起こし、精神的な負担となることもあります。
また、受傷当日には症状が軽度でも、数日経過してから悪化することもあるため、注意が必要です。
鎖骨の骨折など、肩腱板の損傷に加えて骨折を伴うケースもあります。
2.交通事故における証明の重要性
交通事故によって腱板損傷を負った被害者が適切な損害賠償を獲得するためには、その怪我が交通事故によって生じたものであり、かつ後遺障害が残っていることを医学的に証明することが極めて重要です。
ここでは、医師の意見書の役割、証明に必要な書類、そして立証に向けた準備について解説します。
(1)医師の意見書の役割
医師が作成する後遺障害診断書や意見書は、後遺障害認定において非常に重要な役割を果たします。
これらは、被害者の症状が交通事故に起因するものであること、治療の経過、症状固定時の状態、そして将来にわたって残存する後遺症の程度や内容を医学的な見地から客観的に記載するものです。
特に、腱板損傷による可動域制限や痛みが後遺障害として認められるためには、医師が作成する詳細な診断書や意見書が不可欠となります。
弁護士は、医師との連携を通じて、後遺障害認定に必要な情報を的確に診断書や意見書に反映させられるようサポートします。
(2)証明に必要な書類
後遺障害認定の申請や損害賠償請求を行う際には、以下のような書類が必要または有効となります。
これらの書類は、被害者の怪我の状況、治療の経過、そして後遺症の存在を客観的に証明する根拠となります。
- 交通事故証明書:事故の事実を公的に証明する書類です。
- 診断書:初診時からの診断、怪我の部位や内容、症状などが記載されます。
- 診療報酬明細書:治療費の詳細が記載された書類です。
- レントゲン画像、MRI画像、CT画像など:腱板損傷の有無や程度を客観的に示す画像検査のデータです。特にMRIは腱板の損傷状況を詳細に評価する上で重要です。
- 各種検査結果:関節の可動域測定結果など、機能障害の程度を示すデータです。
- 後遺障害診断書:症状固定時に医師が作成する書類で、後遺症の内容や程度が詳細に記載されます。後遺障害認定の申請に不可欠な書類です。
- 意見書:医師が作成する、症状や治療に関する詳細な意見が記載された書類です。
- 診療録:入院していた場合に、身体の状況や介護の必要性などが記載されます。
これ以外の書類も状況に応じて必要になる場合がありますが、被害者自身で全てを収集するには負担が大きいため、弁護士に依頼してスムーズに収集できるようサポートしてもらうことをお勧めします。
(3)立証に向けた準備
後遺障害の立証に向けた準備は、治療中から始まります。
- 早期の受診と継続的な治療:事故後、肩に痛みや違和感を感じたら、速やかに整形外科を受診しましょう。そして、医師の指示に従い、中断することなく治療を継続することが重要です。事故発生から2週間以上経過した段階での受診や、治療中1か月以上の治療の中断は、交通事故と怪我の因果関係を否定される可能性があるため注意が必要です。
- 医師との密な連携:症状の変化や治療の経過について、医師に詳細に伝え、診断書や意見書に正確に反映してもらうよう依頼しましょう。
- 症状の記録:日々の痛みの程度、可動域制限の状況、日常生活での支障などをメモに残しておくことが有効です。これは、後遺障害認定の際の参考資料となり得ます。
- 専門医への紹介:必要に応じて、腱板損傷の専門医や高次医療機関への紹介を受け、より専門的な診断や治療を受けることも検討しましょう。
これらの準備が十分になされていないと、後遺障害が認められなかったり、適切な等級が認定されなかったりする可能性があります。
3.保険会社とのやり取り
交通事故の被害者にとって、保険会社とのやり取りは精神的な負担が大きく、専門知識が必要となる場面が多々あります。
ここでは、保険会社の対応と注意点、交渉のポイント、そして保険金請求の流れについて解説します。
(1)保険会社の対応と注意点
交通事故の後、加害者側の保険会社から連絡が入り、治療費の支払いや休業損害・慰謝料に関する提示が行われます。
しかし、保険会社は営利企業であり、自社の基準で損害額を提示してくることがほとんどです。
この提示額は、弁護士が交渉して獲得できる金額よりも低い場合が多く、特に示談交渉の最終段階で提示される示談金は、被害者にとって不利な内容である可能性があります。
注意点としては、以下が挙げられます。
- 安易に署名・捺印をしない:保険会社から送られてくる書類には、安易に署名・捺印をしないように注意しましょう。
- 安易に症状固定の打診に応じない:保険会社は、治療期間が長引くと、治療費の支払いを打ち切るために「症状固定」を打診してくることがあります。しかし、症状固定の判断は、医師が行うべきものであり、保険会社の都合で決定されるものではありません。
- 安易に示談を了承しない:保険会社からの初期の示談提案は、自賠責保険の基準や任意保険の独自基準(いわゆる相場)に基づくことが多く、裁判基準(弁護士基準)と比較して大幅に低い金額である可能性が高いです。
(2)交渉のポイント
保険会社との交渉を有利に進めるためには、慰謝料の増額も視野に入れた戦略が重要です。以下のポイントを押さえることが重要です。
- 適正な損害額の算定:治療費、交通費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益など、発生した損害の総額を正確に算定することが不可欠です。特に後遺障害が残った場合には、後遺障害等級に応じた逸失利益の計算が重要となります。
- 後遺障害等級の認定:肩腱板損傷の後遺障害は、肩関節の可動域制限などによって10級10号などの等級が認定される可能性があり、12級6号が認定される事例もあります。適切な等級認定を受けることが、高額な後遺障害慰謝料や逸失利益の獲得に直結します。
- 裁判基準(弁護士基準)の適用:保険会社が提示する金額は、自賠責保険基準や任意保険基準であることがほとんどです。しかし、弁護士が介入することで、過去の裁判例に基づいた最も高額な基準である裁判基準(弁護士基準)で交渉を進めることが可能になります。
- 専門家による交渉:弁護士は、法的な知識と交渉経験を活かし、保険会社の主張に対して的確に反論し、被害者の権利を守るために粘り強く交渉します。
(3)保険金請求の流れ
交通事故の損害賠償請求は、一般的に以下のような流れで進行します。
- 事故発生・警察への連絡:事故が発生したら、速やかに警察に連絡し、事故状況の確認を行ってもらいます。
- 病院での診察・治療:痛みや違和感がなくても、必ず病院で診察を受けましょう。腱板損傷などの怪我は、後になって症状が現れることもあります。診断書は必ず保管してください。
- 保険会社への連絡:自身の保険会社と相手方の保険会社に事故が発生したことを連絡します。
- 治療の継続:医師の指示に従い、症状が固定するまで治療を継続します。症状や状況に応じて、整骨院等での治療を検討できる場合もあります。
- 症状固定・後遺障害診断:医師がこれ以上の治療による改善が見込めないと判断した時点で「症状固定」となります。この時点で後遺症が残っていれば、後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害認定の申請を行います。
- 後遺障害等級の認定:損害保険料率算出機構(自賠責保険調査事務所)が提出された書類に基づき、後遺障害等級の審査を行います。等級が認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益の請求が可能になります。
- 示談交渉:後遺障害等級が認定された後、治療費、慰謝料、休業損害、逸失利益などの損害賠償額について、保険会社と示談交渉を行います。
- 示談成立・賠償金支払い:示談が成立すれば、示談書を締結し、保険会社から賠償金が支払われます。
この流れの中で、弁護士は被害者の立場に立ち、各段階で適切なアドバイスとサポートを提供します。
4.交通事故後の弁護士の役割
交通事故による肩腱板損傷は、被害者に大きな精神的・経済的な負担を与えます。
弁護士は、被害者の権利を守り、適切な賠償を得るために様々なサポートを行います。
ここでは、弁護士の選び方と相談方法、無料相談の活用方法、そして弁護士に依頼するメリットについて解説します。
(1)弁護士の選び方と相談方法
交通事故問題を専門とする弁護士を選ぶことが重要です。
当弁護士法人のように、交通事故の解決実績が豊富で、専門知識を持つ事務所を選ぶことが重要です。
ホームページや紹介などを通じて、弁護士の専門性や実績を確認しましょう。
また、実際に相談してみて、親身になって話を聞いてくれるか、説明が丁寧で分かりやすいかなども判断材料となります。
弁護士への相談方法としては、電話、メール、オンライン相談、面談などがあります。
多くの法律事務所では、初回相談を無料で行っているため、まずは気軽に相談してみることをお勧めします。
相談の際には、事故の状況、怪我の状況、治療の経過、保険会社とのやり取りなど、できるだけ詳しく伝えることが大切です。
(2)無料相談の活用方法
無料相談は、弁護士に依頼するかどうかを検討する上で非常に有効な手段です。
無料相談を最大限に活用するために、以下の点に注意しましょう。
- 事前に相談内容を整理しておく:聞きたいことや伝えたいことをメモにまとめておくと、限られた時間を有効に使えます。
- 関係書類を持参する:事故証明書、診断書、保険会社の提示書など、関連する書類を持参すると、より具体的なアドバイスを受けることができます。
- 弁護士の経験や実績を確認する:交通事故事件の解決経験や、特に肩腱板損傷のような事例の経験があるかなどを質問してみましょう。
- 費用体系について確認する:弁護士に依頼した場合の費用(着手金、報酬金など)やその理由について、明確に説明を受けるようにしましょう。
複数の弁護士に相談してみることも、自分に合った弁護士を見つけるためには有効な方法です。
(3)弁護士に依頼するメリット
交通事故の被害者が弁護士に依頼することには、以下のような多くのメリットがあります。
- 適正な損害賠償額の獲得:弁護士は、法的な知識や過去の判例・裁判例に基づいて、適正な損害賠償額を算定し、保険会社との交渉を有利に進めます。
- 煩雑な手続きからの解放:示談交渉や後遺障害認定の手続きなど、複雑で時間のかかる作業を弁護士に任せることができます。これにより、被害者は治療に専念することが可能となります。
- 精神的な負担の軽減:保険会社とのやり取りや、今後の見通しなどについて弁護士に相談することで、精神的な不安や負担を軽減することができます。
- 裁判になった場合の対応:示談交渉が決裂し、裁判になった場合でも、弁護士が代理人として対応します。
交通事故による肩腱板損傷は、症状が重い場合、後遺障害として残る可能性も十分に考えられ、損害賠償額も高額になるケースが多くなります。
弁護士費用が気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、弁護士費用特約に加入していれば、費用は保険で賄われることがほとんどです。
特約がない場合でも、着手金無料や成功報酬型の料金体系を採用している事務所もありますので、まずは無料相談をご利用いただき、費用について確認してみましょう。
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投稿者プロフィール

これまで、交通事故・離婚・相続・労働などの民事事件を数多く手がけてきました。今までの経験をご紹介しつつ、皆様がお困りになることが多い法律問題について、少しでも分かりやすくお伝えしていきます。
■経歴
2009年03月 法政大学法学部法律学科 卒業
2011年03月 中央大学法科大学院 修了
2011年09月 司法試験合格
2012年12月 最高裁判所司法研修所(千葉地方裁判所所属) 修了
2012年12月 ベリーベスト法律事務所 入所
2020年06月 独立して都内に事務所を開設
2021年3月 優誠法律事務所設立
2025年04月 他事務所への出向を経て優誠法律事務所に復帰
■著書
こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)

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交通事故で肩の腱板損傷に…慰謝料や後遺障害認定のポイントを弁護士が解説!
今回のテーマは、交通事故で肩腱板損傷を負ってしまった場合の損害賠償についてです。
交通事故は、予期せぬ瞬間に私たちの日常生活を大きく変えてしまう可能性があります。交通事故による負傷の中でも、肩関節周辺の痛みや機能障害を引き起こす「肩腱板損傷」は、その後の生活に大きな影響を与えることがあります。
今回は、交通事故による肩腱板損傷について、その基礎知識から、診断・治療、後遺障害の認定、損害論(慰謝料や逸失利益)、そして弁護士の役割までを詳しく解説します。
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弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~
1.交通事故における肩腱板損傷とは
交通事故によって肩に強い衝撃が加わると、肩腱板を損傷する可能性があります。
ここでは、まず肩腱板の構造と機能、主な損傷の原因、そして交通事故における症状と影響について解説します。
(1)肩腱板の構造と機能
肩腱板とは、肩関節を構成する4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋及び小円筋)の腱が集まったものです。
「腱」とは、筋肉の先端部で繊維が細くなって線維化して骨に付着している部分をいい、つまり筋肉と骨とを繋いでいる組織であると考えてください。
これらの腱は、上腕骨頭(腕の骨の先端)を肩甲骨の関節窩(関節を構成する凹状のくぼみ部分)に安定させ、腕を上げたり、回したりする際の滑らかな動きを支える重要な役割を担っています。
腱板が正常に機能することで、私たちは日常生活における様々な動作をスムーズに行うことができます。
(2)主な損傷の原因
肩腱板損傷の主な原因は、加齢による腱の変性、使いすぎ(オーバーユース)、転倒やスポーツなどによる急激な外力などが挙げられます。
交通事故においては、衝突時の衝撃や、体を支えようとした際の無理な力が肩関節に加わることで、腱板が断裂したり、部分的に損傷したりすることがあります。
特に、直接的な打撃だけでなく、予測できない体勢での衝撃は、腱板に大きな負担を与える可能性があります。
ただし、一般的にはいわゆるシートベルト損傷によって、靱帯や腱が切れるということは珍しいとされており、二輪車や自転車などで転倒しているかどうかなどの受傷機転が明確に存在することが重要です。
(3)交通事故での症状と影響
交通事故による肩腱板損傷の症状は、損傷の程度によって様々です。
軽度の場合には、肩の痛みやわずかな可動域制限が見られる程度ですが、重度の場合には、激しい痛みで腕を上げることが困難になったり、夜間に痛みが強くなったりすることがあります。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 肩の痛み(安静時痛、運動時痛、夜間痛)
- 腕を上げる際の痛みやひっかかり感
- 肩関節の可動域制限(特に腕を上げる、外に開く、内側に回す動作が困難になる)
- 肩の力が入りにくい、脱力感
- 特定の動作での肩の不安定感
これらの症状は、日常生活における様々な動作、例えば着替え、入浴、食事、車の運転などを困難にするだけでなく、時には睡眠障害を引き起こし、精神的な負担となることもあります。
2.腱板損傷の診断と治療
交通事故による肩の痛みを感じたら、早期に整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
ここでは、腱板損傷の診断方法と検査内容、治療法の選択肢、そして肩関節の可動域制限について解説します。
(1)診断方法と検査内容
腱板損傷の診断のためには、一般的にMRIによる画像検査が必要です。
なぜなら、いわゆるレントゲンやCTなどのX線画像では、骨の状態しかわからないため、骨折を伴わない場合にはそれ以上の説明ができません。
靱帯や腱の断裂や損傷については、MRIでなければ映らないため、靱帯や腱の断裂や損傷が疑われる場合には一般的にMRIによる画像検査が行われます。
なお、肩腱板に損傷や炎症がある場合には、MRIのT2強調画像で損傷や炎症部位が白く(高信号で)映ります。
MRI検査結果等を総合的に判断し、腱板損傷の有無、程度、損傷部位などが特定されます。
ただ、事故から時間が経過してしまうと、事故との因果関係を疑われることがありますので、早期にMRI検査を行う必要があります。
(2)治療法の選択肢
腱板損傷の治療法は、損傷の程度や患者さんの年齢、活動レベルなどによって異なります。
主な治療法としては、保存療法と手術療法があります。
【保存療法】
手術を行わずに、自然治癒力を促したり、症状の緩和を図る治療法です。
- 安静: 損傷した腱板の負担を軽減するため、肩関節を安静に保ちます。
- 薬物療法: 痛みや炎症を抑えるために、鎮痛薬や湿布、内服薬などが用いられます。
- 注射療法: 痛みが強い場合には、局所麻酔薬やステロイド薬を肩関節周囲に注射することがあります。
- リハビリテーション: 痛みが落ち着いてきたら、肩関節の可動域を改善し、周囲の筋肉を強化するための運動療法を行います。理学療法士の指導のもと、段階的に運動を進めていくことが重要です。
【手術療法】
保存療法で十分な改善が見られない場合や、腱板の完全断裂など重度の損傷の場合には、手術が検討されます。手術の方法は、関節鏡視下手術(内視鏡を用いた手術)や、より開放的な手術などがあります。手術の目的は、断裂した腱板を修復し、肩関節の機能を回復させることです。術後も、リハビリテーションを継続して行うことが、良好な回復のためには不可欠です。
(3)肩関節の可動域制限について
腱は筋肉の収縮を骨に伝える役割がありますので、腱に損傷が生じると、関節の可動域に制限が生じることがあります。
なお、先に述べたとおり肩腱板は、肩関節を構成する4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋及び小円筋)の腱が集まったものですが、交通事故による損傷においては、そのほとんどが棘上筋腱損傷であると言われています。
腱板損傷によって生じる肩関節の可動域制限は、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
特に、腕を上げる、回すといった動作が困難になるため、着替えや洗髪、高い場所の物を取るなどの動作に苦労することがあるでしょう。
3.肩腱板損傷の後遺障害とその認定
交通事故による肩腱板損傷は、適切な治療を行っても、後遺障害が残ってしまうことがあります。
ここでは、後遺障害認定の必要性、後遺障害等級の説明、そして認定を受けるための条件について解説します。
(1)後遺障害認定の必要性
交通事故による怪我で後遺障害が残った場合、加害者の加入する自賠責保険に対して請求を行うことにより、その程度に応じて後遺障害等級が認定されることがあります。
後遺障害等級が認定されると、その等級に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益といった損害賠償を請求することができます。
肩腱板損傷の場合、肩関節の機能障害の程度によって後遺障害等級が認定される可能性があります。
適切な賠償を受けるためには、後遺障害認定の手続きを行うことが重要です。
(2)後遺障害等級の説明
肩関節の機能障害に関する後遺障害等級は、主に以下の3つに分類されます。
【第8級6号】 肩関節の用を廃したもの
「肩関節の用を廃した」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 関節が強直したもの
「関節が強直した」とは、関節の完全強直またはこれに近い状態にあるものとして、関節可動域が原則として健側(怪我をしていない側)の関節可動域角度の10%程度以下に制限されているものを言います。また、肩関節においては、肩甲上腕関節が癒合し骨製強直していることがX線写真により確認できるものを含みます。
- 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換し、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
【第10級10号】 肩関節の機能に著しい障害を残すもの
「肩関節の機能に著しい障害を残す」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 肩関節の可動域が健側の可動域確度の1/2以下に制限されているもの
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換し、上記第8級6号に該当しないもの
【第12級6号】肩関節の機能に障害を残すもの
・肩関節の可動域が健側の3/4以下に制限された場合をいいます。
これらの等級は、医師の診断書や関節の可動域測定の結果などに基づいて自賠責保険(損害保険料率算出機構の自賠責保険調査事務所)において判断されます。
(3)認定を受けるための条件
交通事故による肩腱板損傷で後遺障害の認定を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 交通事故と肩腱板損傷の因果関係が医学的に認められること: 事故の状況や受傷時の状態、その後の経過などから、肩腱板損傷が交通事故によって生じたものであると医学的に説明できる必要があります。
- 適切な治療を継続して行ったにもかかわらず、症状が改善せず、後遺症が残存していること: 漫然と治療を受けるのではなく、医師の指示に従い、必要な検査やリハビリテーションを継続して行うことが重要です。
- 残存した症状が、将来においても回復が見込めないと医学的に判断されること: 症状が一時的なものではなく、永続的なものであると医師が判断する必要があります。
- 後遺症の内容が、自賠責保険の後遺障害等級に該当するものであること: 提出された医学的な資料に基づいて、損害保険料率算出機構の自賠責保険調査事務所が各等級に該当するか否かを認定します。
後遺障害の認定を受けるためには、適切な診断書や検査結果などの医学的証拠を揃えることが重要です。
弁護士に相談することで、これらの手続きをスムーズに進めるためのアドバイスやサポートを受けることができます。
4.肩腱板損傷による後遺障害の損害賠償(慰謝料と逸失利益)
交通事故による肩腱板損傷で後遺障害が残った場合、慰謝料や逸失利益の請求を行うことができます。
ここでは、慰謝料の種類と実績、逸失利益とは何か、そして示談金の交渉と流れについて解説します。
(1)慰謝料の種類
交通事故における慰謝料には、主に以下の2種類があります。
- 入通院慰謝料: 怪我の治療のために、入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。入院期間や通院期間、治療内容などに基づいて算出されます。
- 後遺障害慰謝料: 後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に支払われる慰謝料です。後遺障害等級に応じて金額が定められており、等級が高いほど慰謝料の金額も高くなります。
慰謝料の算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、一般的に弁護士基準が最も高額になる傾向があります。
過去の裁判例などを参考に、個々の事案に応じた適切な慰謝料額を算定することが重要です。
なお、上記肩関節の機能障害に関する各後遺障害等級に該当する場合の弁護士基準(裁判基準)の一例を記すと以下のとおりです(地域や個別の事情によって異なる場合がありますのでご留意ください)。
- 第8級6号: 830万円
- 第10級10号: 550万円
- 第12級6号: 290万円
(2)逸失利益とは何か
逸失利益とは、後遺障害が残ったことにより、将来にわたって得られるはずだった収入が減少してしまう損害のことです。
肩腱板損傷による機能障害が、仕事に支障をきたし、収入の減少につながるとして逸失利益を請求することができます。
逸失利益の計算は、被害者の年齢、職業、事故前の収入、後遺障害等級などを考慮して行われます。
具体的には、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」という計算式を用いて算出されることが一般的です。
労働能力喪失率や労働能力喪失期間は、後遺障害等級に応じて定められています。
なお、こちらも一概には言えませんが、労働能力喪失期間は、始期を症状固定日として、その終期は原則として67歳として計算するのが一般的です。
また、上記肩関節の機能障害に関する各後遺障害等級に該当する場合の労働能力喪失率は一般的には以下の基準によって計算されます。
- 第8級6号: 45%
- 第10級10号: 27%
- 第12級6号: 14%
(3)示談金の交渉と流れ
交通事故による損害賠償金(慰謝料や逸失利益など)の支払いは、加害者側の保険会社との示談交渉によって決まることが一般的です。
保険会社は、自社の基準に基づいて損害額を提示してきますが、その金額が必ずしも適正とは限りません。
なお、弁護士が対応する場合の示談交渉の流れは以下のようになります。
- 損害額の算定: 治療費、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益など、発生した損害の総額を正確に算定します。
- 示談案の提示: 算定した損害額に基づいて、加害者側の保険会社に示談案を提示します。
- 交渉: 保険会社から提示された示談案(対案)に対して、増額交渉を行います。お互いの主張をぶつけ合い、合意点を探ります。
- 合意: 双方の合意が得られたら、示談書を作成し、示談が成立となります。
- 賠償金の支払い: 示談書に基づき、加害者側の保険会社から被害者へ賠償金が支払われます。
示談交渉は、法的な知識や交渉力が必要となるため、被害者自身で行うには負担が大きい場合があります。
弁護士に依頼することで、適切な損害額を算定し、有利な条件で示談を進めることが期待できます。
(4)解決の実績
ここでひとつ、解決事例をご紹介します。
【事案】
東京都内在住のAさん(40歳・会社員・年収約800万円)は、バイクで優先道路を走行中、路外から一時停止をせずに侵入してきた自動車と衝突しました。この事故により、Aさんは鎖骨骨折、肩腱板断裂などの重傷を負い、緊急搬送され手術を受けました。その後、約1年にわたりリハビリテーションを中心とした治療を継続されました。
【相談・依頼の経緯】
事故後、相手方保険会社から治療費や休業損害の支払いがありましたが、今後の後遺症や慰謝料について不安を感じたAさんは、当事務所の無料相談をご利用になりました。弁護士がAさんの状況を詳しくお伺いし、後遺障害等級認定の手続きや、適正な損害賠償額の請求についてサポートできることをご説明したところ、Aさんは正式に当事務所に依頼されました。
【弁護士の活動】
①後遺障害等級認定のサポート
Aさんの肩関節の可動域制限は著しく、日常生活や仕事にも支障をきたす可能性がありました。そこで、当事務所の弁護士は、Aさんの主治医と連携を取りながら、後遺障害等級認定に必要な医学的な資料を収集し、適切な等級認定を受けられるよう尽力しました。その結果、Aさんは後遺障害等級10級10号の認定を受けることができました。
②損害賠償請求と示談交渉
後遺障害等級が認定されたことを受け、当事務所は相手方保険会社に対し、以下の項目について損害賠償請求を行いました。※ただし、Aさんにも過失がありましたので、請求できたのは以下の損害に対する相手方の過失割合分となります。
- 治療費: 約200万円
- 交通費: 約20万円
- 入通院慰謝料: 約1年間の治療期間に対する慰謝料
- 後遺障害慰謝料: 後遺障害等級10級相当の慰謝料550万円
- 休業損害: 約3ヶ月の休業期間に対する損害
- 逸失利益: 後遺障害による将来の収入減少に対する損害(約3969万円)
相手方保険会社は当初、自社の基準に基づいた低い金額を提示してきました。しかし、当事務所の弁護士は裁判基準(弁護士基準)に基づいた適正な損害賠償額を算定し、粘り強く交渉を行いました。
特に、後遺障害慰謝料と逸失利益については、過去の裁判例やAさんの年齢、年収などを考慮し、詳細な主張を展開しました。
肩関節の機能障害がAさんの仕事に与える影響についても具体的に説明し、将来の収入減少の可能性を強く訴えました。
③最終的な示談成立
数回にわたる交渉の結果、最終的に相手方保険会社は当事務所の主張をほぼ全面的に認め、合計で約3000万円(自賠責保険金などの既払い金を除く)の示談金が支払われることで合意に至りました。
Aさんは、当初保険会社から説明を受けていた金額よりも大幅に増額された賠償金を受け取ることができ、今後の生活への不安を大きく軽減することができました。
5.交通事故被害者のための弁護士の役割
交通事故による肩腱板損傷は、被害者に大きな精神的・経済的負担を与えます。
弁護士は、このような被害者の被害に対して適切な賠償を得るために様々なサポートを行います。
ここでは、弁護士の選び方と相談方法、無料相談の活用方法、そして弁護士に依頼するメリットについて解説します。
(1)弁護士の選び方と相談方法
交通事故問題を専門とする弁護士を選ぶことが重要です。
ホームページや紹介などを通じて、交通事故の解決実績や専門知識を確認しましょう。
また、実際に相談してみて、親身になって話を聞いてくれるか、説明が丁寧で分かりやすいかなども判断材料となります。
弁護士への相談方法としては、電話、メール、オンライン相談、面談などがあります。
多くの法律事務所では、初回相談を無料で行っているため、まずは気軽に相談してみることをお勧めします。
相談の際には、事故の状況、怪我の状況、治療の経過、保険会社とのやり取りなど、できるだけ詳しく伝えることが大切です。
(2)無料相談の活用方法
無料相談は、弁護士に依頼するかどうかを検討する上で非常に有効な手段です。
無料相談を最大限に活用するために、以下の点に注意しましょう。
- 事前に相談内容を整理しておく: 聞きたいことや伝えたいことをメモにまとめておくと、限られた時間を有効に使えます。
- 関係書類を持参する: 事故証明書、診断書、保険会社の提示書など、関連する書類を持参すると、より具体的なアドバイスを受けることができます。
- 弁護士の経験や実績を確認する: 交通事故事件の解決経験や、特に肩腱板損傷のような事例の経験があるかなどを質問してみましょう。
- 費用体系について確認する: 弁護士に依頼した場合の費用(着手金、報酬金など)について、明確に説明を受けるようにしましょう。
(3)弁護士に依頼するメリット
交通事故の被害者が弁護士に依頼することには、以下のような多くのメリットがあります。
- 適正な損害賠償額の獲得: 弁護士は、法的な知識や過去の判例に基づいて、適正な損害賠償額を算定し、保険会社との交渉を有利に進めます。
- 煩雑な手続きからの解放: 示談交渉や後遺障害認定の手続きなど、複雑で時間のかかる作業を弁護士に任せることができます。
- 精神的な負担の軽減: 保険会社とのやり取りや、今後の見通しなどについて弁護士に相談することで、精神的な不安や負担を軽減することができます。
- 法的サポートによる安心感: 法的な専門家である弁護士がサポートすることで、安心して治療に専念することができます。
- 裁判になった場合の対応: 示談交渉が決裂し、裁判になった場合でも、弁護士が代理人として対応します。
交通事故による肩腱板損傷でお困りの方は、一人で悩まず、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士は、あなたの権利を守り、一日も早い問題解決のために尽力します。
私たち優誠法律事務所では、交通事故被害者の方からのご相談を初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで、交通事故・離婚・相続・労働などの民事事件を数多く手がけてきました。今までの経験をご紹介しつつ、皆様がお困りになることが多い法律問題について、少しでも分かりやすくお伝えしていきます。
■経歴
2009年03月 法政大学法学部法律学科 卒業
2011年03月 中央大学法科大学院 修了
2011年09月 司法試験合格
2012年12月 最高裁判所司法研修所(千葉地方裁判所所属) 修了
2012年12月 ベリーベスト法律事務所 入所
2020年06月 独立して都内に事務所を開設
2021年3月 優誠法律事務所設立
2025年04月 他事務所への出向を経て優誠法律事務所に復帰
■著書
こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)

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肩腱板損傷の後遺障害 12級・14級・非該当の事例の比較
肩の腱板損傷は、バイクや自転車の交通事故の被害者の方に比較的多い傷病です。
当事務所の依頼者の方の中にも、腱板損傷による後遺症が残ってしまい、後遺障害の申請をお手伝いするケースは多く、これまでも当交通事故専門サイトや当事務所のブログで具体的な事例をご紹介してきましたが、後遺障害等級12級が認定された場合、後遺障害等級14級の認定でとどまった場合、非該当になってしまった場合など、依頼者によって結果は様々です。
そこで、今回は、最近の4人の腱板損傷の依頼者の方々のケースを比較しながら、後遺障害等級が認定された理由、認定されなかった理由などを考えてみたいと思います。
腱板損傷でお困りの方は、参考にしていただけますと幸いです。
腱板損傷とは?
腱板とは
腱板とは、肩の中にある筋肉(インナーマッスル)で、肩甲下筋腱(けんこうかきんけん)、棘上筋腱(きょくじょうきんけん)、棘下筋腱(きょくかきんけん)、小円筋腱(しょうえんきんけん)の4つのことを指します。
簡単に言うと、腱板は、肩関節がスムーズに動くように調整する役割を担っています。
腱板損傷の症状
この腱板が損傷してしまうと、肩に痛みが出ます。肩を挙げたときに強い痛みを感じたり、肩の痛みで夜も眠れないという被害者の方もいます。
また、損傷がひどい場合(腱板断裂)、肩関節の可動域が制限され、肩が挙がらなくなってしまうこともあります。
腱板損傷の原因
腱板損傷の原因としては、交通事故のような外傷性の怪我によるものと、加齢性の変化によるもの、加齢性の変化が進んでいたところに外傷も加わって起こるものなどが考えられます。
腱板損傷の診断方法
腱板は、レントゲンには映りません。
そのため、レントゲンでは正確な診断はできず、MRIを撮影して診断する必要があります。
また、MRIによって腱板損傷が認められたとしても、ある程度の年齢の方になると、加齢性の変化による損傷ということも考えられます。
そのため、交通事故による腱板損傷であることを証明するためには、事故直後にMRIを撮影する必要があります。
事故直後のMRI画像で、腱板に輝度変化が認められれば、事故による外傷と認められ、症状固定時まで後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害等級が認定される可能性が高まります。
肩腱板損傷で認定される後遺障害等級(10級・12級・14級・非該当)
10級10号
腱板損傷によって、肩関節の可動域が2分の1以下に制限されていれば、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として10級10号が認定される可能性があります。
ただし、肩関節の可動域が制限されていれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像などの客観的な医学的所見から、そのような重度の可動域制限の原因が認められる場合に認定されます。
12級6号
腱板損傷によって、肩関節の可動域が4分の3以下に制限されていれば、「関節の機能に障害を残すもの」として12級6号が認定される可能性があります。
12級6号についても、肩関節の可動域制限があれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像など可動域制限の原因となる腱板損傷の所見が認められる場合に認定されます。
12級13号
腱板損傷による肩関節の可動域制限がない場合や4分の3以下までの制限はない場合、肩関節の痛みが残存していれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が認定される可能性があります。
12級13号についても、肩関節の痛みがあれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像など肩関節の痛みの原因となる腱板損傷の所見が認められる場合に認定されます。
14級9号
腱板損傷による肩関節の可動域制限がない場合や4分の3以下までの制限はない場合で、肩関節の痛みが残存しており、12級13号を認定するほどの腱板損傷の所見がない場合、「局部に神経症状を残すもの」として14級9号が認定される可能性があります。
14級9号についても、肩関節の痛みがあれば必ず認定されるというものではなく、受傷時の態様や治療の経過から痛みの訴えに一応の説明がつき、医学的に説明可能な障害を残す所見のある場合に認定されます。
つまり、MRI画像などで明確な腱板損傷までは認められなくても、損傷を疑う所見がある場合なども認定される可能性があります。
非該当
腱板損傷の診断があり、肩関節の可動域制限や痛みなどがあっても、その裏付けとなるMRI画像の所見などがない場合、後遺障害等級は認定されず、非該当となる場合があります。
最近の4名の依頼者の比較
当事務所の弁護士が最近担当させていただいた腱板損傷の被害者の4名を比較すると、以下の表のようになります。4名とも40~50代の男性です。
Bさんの事例については当交通事故専門サイトで、HさんとKさんの事例については当事務所のブログでご紹介していますので、そちらもご覧ください。
事故時の状況 | 初回申請結果 | 異議申立て結果 | MRI撮影時期 | |
Bさん | 自転車運転中 | 14級9号 | 12級13号 | 2ヶ月後 |
Hさん | バイク運転中 | 非該当 | 12級13号 | 1ヶ月半後 |
Fさん | バイク運転中 | 14級9号 | 14級9号 | 1ヶ月以内 |
Kさん | 自動車運転中 | 非該当 | 非該当 | 5ヶ月後 |
12級が認定されたケース
Bさんの場合(14級9号⇒12級13号)
Bさんの事例のご紹介はこちら(【速報】後遺障害等級認定事例(2)~右肩腱板損傷~)
Bさんは、自転車運転中に赤信号の交差点で信号待ちをしていたところ、左折しようとした加害者車両に衝突され、頚椎や右肩などを負傷しました(頚椎捻挫・右肩腱板損傷)。
Bさんは、交通事故から約2ヶ月後に右肩のMRIを撮影しており、読影医のレポートでも「右肩腱板損傷」と診断されていました。
そして、症状固定時の右肩関節の症状は、肩関節の可動域制限(4分の3以下)と痛みが残存しているという状態でした。
しかし、初回の後遺障害申請では、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」との判断で、右肩については14級9号の認定にとどまりました。
その後、読影医のレポートと主治医のカルテを添付して、右肩腱板損傷が交通事故によるものであることを強く主張して異議申立てを行ったところ、12級13号が認定されました。
Bさんのケースは、MRIの撮影時期が若干遅かったものの、読影医のレポートで「右肩腱板損傷」と明確に診断されていたことと、事故直後のカルテに腱板損傷を裏付けるような記載が見られたことで、交通事故による腱板損傷と認められたものと思われます。
Hさんの場合(非該当⇒12級13号)
Hさんの事例のご紹介はこちら(弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~)
Hさんは、バイク運転中の左折巻き込み事故によって、身体を地面に強く叩きつけられて、頚椎捻挫、腰椎捻挫、右肩腱板損傷、右手親指MP関節捻挫等の怪我を負いました。
Hさんは、交通事故から約1ヶ月半後に右肩のMRIを撮影しており、MRI画像から主治医が「右肩腱板損傷」と診断していました。
そして、症状固定時の右肩関節の症状は、肩関節の可動域制限はほとんどないものの、強い痛みが残存しているという状態でした。
しかし、初回の後遺障害申請は相手方保険会社の事前認定で行われ、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」との判断で、右肩については非該当とされていました。
その後、私たちの事務所でご依頼をお受けし、主治医にMRI画像上で損傷部位を指摘してもらう医療照会を行い、その回答を添付して、右肩腱板損傷が交通事故によるものであることを主張して異議申立てを行ったところ、12級13号が認定されました。
Hさんのケースは、事故から約1ヵ月半でMRIが撮影されており、MRI画像上「右肩腱板損傷」と明確に診断されていたことで、交通事故による腱板損傷と認められたものと思われます。
14級が認定されたケース
Fさんの場合(14級9号⇒14級9号)
Fさんは、バイク運転中に隣の車線を並走していた自動車が車線変更してきた際に衝突され、頚椎捻挫、腰椎捻挫、左肩腱板損傷の怪我を負いました。
Fさんは、交通事故直後に左肩のMRIを撮影しており、読影医のレポートには「左肩関節に棘上筋腱損傷及び肩甲下筋腱損傷を疑う所見を認めます」と記載されていました。
そして、症状固定時の左肩関節の症状は、肩関節の可動域制限はないものの、強い痛みが残存しているという状態でした。
その後、初回の後遺障害申請の結果は、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」ものの、治療状況や症状推移などを勘案すると将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられるとの判断で、左肩については14級9号が認定されました。
Fさんの場合は、MRIの読影医のレポートで明確な腱板損傷の診断がなかったことから、私たちは外部の医師に画像鑑定を依頼しました。
そうしたところ、鑑定を担当した医師が「棘上筋腱損傷・肩甲下筋損傷」と診断する鑑定書を作成してくれましたので、この鑑定書を添付して異議申立てを行いました。
しかし、異議申立ての結果、自賠責保険は、MRIの画像上「腱板の連続性は保たれている」と判断し、左肩の後遺障害等級は14級9号のままという結果となりました。
Fさんのケースは、MRI画像上、腱板損傷の程度が軽かったということで14級9号の認定にとどまったものと思われます。
非該当のケース
Kさんの場合(非該当⇒非該当)
Kさんの事例のご紹介はこちら(後遺障害等級が認定されなかった事例~左肩腱板損傷~)
Kさんは、自動車運転中に路外から出てきた加害者車両に衝突され、左肩を負傷しました(左肩腱板損傷)。
Kさんは、主治医に腱板損傷と診断されていたものの、交通事故から約5ヶ月後まで左肩のMRIを撮影しておらず、事故からかなり時間が経過した後でMRI撮影をしましたが、MRI画像上、腱板損傷の所見がありました。
Kさんの症状固定時の左肩関節の症状は、肩関節の可動域制限が2分の1以下に制限され、強い痛みも残存しているという状態でした。
その後、初回の後遺障害申請は、相手方保険会社の事前認定で行われましたが、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」とされ、治療状況や症状推移などを勘案しても、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難いとの判断で、左肩については非該当となりました。
Kさんの場合は、MRIのレポートで腱板損傷の診断があったものの、事故からMRI撮影までの時間が空き過ぎていたため、事故による損傷と判断してもらえなかったと考えられました。
そこで、私たちは主治医に医療照会をお願いし、事故直後の左肩の症状について回答をもらい、カルテも取り付けて、事故による腱板損傷であると主張して異議申立てを行いました。
しかし、異議申立ての結果、自賠責保険は、左肩腱板損傷と事故との因果関係を認めず、左肩の後遺障害は非該当のままという結果となりました。
Kさんのケースは、MRI撮影が遅すぎたこと、自動車乗車中の事故で通常は腱板損傷が起きにくい事故態様であったこと、50代で加齢性の変化による損傷の可能性も否めないことなどの事情で、事故と腱板損傷の因果関係を認めてもらえなかったものと思われます。
まとめ
今回は、肩の腱板損傷の後遺障害についてご説明しました。
腱板損傷という同じお怪我でも、ご紹介した4名の依頼者は後遺障害等級の認定結果がそれぞれ違う経緯を辿り、違う最終結果となっています。
腱板損傷は、事故後にMRI撮影が速やかに行われないと、事故との因果関係を証明することが難しくなります。
今回ご紹介した非該当の事例のKさんも、事故直後に私たちにご相談されていれば、違う結果になっていたかもしれません。
私たちが、交通事故の被害者の方に対して、事故後の早い段階で弁護士にご相談なさるようお勧めしているのは、このように事故から時間が経過してしまうと取り返しがつかなくなる場合もあるからです。
私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は初回無料でお受けしております。
是非お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

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保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
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【速報】後遺障害等級認定事例(2)~右肩腱板損傷~
皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。
前回から私が2021年に後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介していますが、今回は頚椎捻挫・右肩腱板損傷の怪我を負った被害者のBさんの事例をご紹介します。
Bさん:併合14級(頚椎・右肩)⇒併合12級(頚椎14級9号・右肩12級13号)
1.初回の申請は併合14級(頚椎・右肩)
Bさんは、自転車を運転していて、信号のある交差点が赤信号だったため、自転車から降りて信号待ちをしていました。その際に、その交差点のBさんが立っていた角を左折しようした加害者車両が、内回りし過ぎて信号待ちをしていたBさんの自転車に衝突してしまいました。Bさんはそのまま自転車ごと転倒して、頚椎や右肩などを負傷してしまいました(頚椎捻挫・右肩腱板損傷)。
その後、Bさんは整形外科で治療を続けていましたが、首の痛みや右肩の痛みがなかなか改善しませんでした。しかも、右肩の痛みが強く、事故直後から肩が90度(水平)以上上がらない状態が続いていました。Bさんとしては、特に右肩の可動域制限が仕事にも日常生活にも大きな支障があり、少しでも改善しようとリハビリを続けましたが、交通事故から6ヶ月が経過した時点でも改善せず、主治医が症状固定と診断しました。
Bさんとしては、適切な損害賠償を求めたいということで、この時点で私たちの事務所にご相談にいらっしゃいました。私たちは、ご依頼いただいた後、後遺障害申請に必要な書類を揃え、被害者請求で後遺障害申請をしました。

その結果、初回の申請では首の痛みと右肩の痛みについて、それぞれ14級9号の後遺障害等級が認定されて、併合14級の結果が通知されました。しかし、右肩の腱板損傷については、腱板損傷自体を否定するのか、腱板損傷自体は認めるものの今回の交通事故で損傷したことを否定するのか、どちらか理由は分からないものの、「本件事故による腱板損傷は認められない」との判断となり、右肩の可動域制限は後遺障害として認められませんでした。
Bさんとしては、右肩の可動域制限が残り、その当時でも90度(水平)から少し上くらいまでしか肩が上がらない状態でしたので、右肩腱板損傷が認定されなかった結果には納得できないということで、異議申立てを行うことになりました。
2.異議申立ての結果、右肩に12級13号が認定
私たちは、異議申立てをするにあたり、まずBさんが右肩のMRI撮影をした画像診断専門のクリニックの読影レポートを取り寄せました。この読影レポートを確認したところ、右肩の画像上に腱板損傷があるとの読影結果が明確に記載されていました。
ただ、MRI撮影が行われたのが今回の交通事故から約2ヶ月後であったため、おそらく初回の申請では自賠責調査事務所が交通事故以外による損傷の可能性も否定できないという判断をして、腱板損傷と交通事故の因果関係を認めなかったのではないかと考えられました。
そこで、私たちは、主治医からカルテを寄り寄せ、交通事故直後のBさんの右肩の症状について、腫れなどの外傷を裏付けるような症状の記載がないか確認しました。そうしたところ、カルテに明確な外傷所見についての記載はなかったものの、事故直後の診察の際に、「腕神経叢引き抜き損傷の疑いあり」との記載と「右肩の可動域制限あり」との記載を見つけました。
この腕神経叢引き抜き損傷は、バイクの転倒事故などで生じることがあり、上肢のしびれや肩が上がらないなどの症状が生じます。主治医がカルテにそのような記載をするということは、交通事故直後にBさんの右肩に外傷による所見が見られたことを裏付けるものと考えられました。また、交通事故直後に既に可動域制限があったことも裏付けられました。
そこで、私たちは、MRIの読影レポートと主治医のカルテを添付して、Bさんの右肩腱板損傷は、交通事故によるものであることを強く主張する異議申立書を作成して異議申立てをしました。
その結果、右肩腱板損傷が今回の交通事故によるものと認められ、Bさんの右肩腱板損傷後の痛みについて12級13号が認定されました。
しかし、MRI画像上の腱板損傷の程度が軽く、肩の可動域制限が生じるほどではないと判断され、可動域制限については等級が認定されませんでした(可動域制限についても等級が認定される場合には、12級6号が認定されます。)。
この結果に対して、Bさんは、可動域制限の等級は認められなかったものの、右肩腱板損傷が交通事故によるものと判断されて、同じ12級が取れたということで結果を受け入れ、首の14級9号と合わせて併合12級で示談交渉をするということになりました。
3.可動域制限と神経症状の後遺障害等級と示談金の関係
今回のBさんは、右肩腱板損傷による痛み(神経症状)で12級13号が認定されましたが、右肩の可動域が4分の3以下に制限された場合に認定される12級6号は認定されませんでした。
12級6号と12級13号は、同じ12級ですから、裁判所基準の後遺障害慰謝料は同じ290万円となり、違いがないようにも思えますが、後遺障害を負ったことによる将来の減収部分の補償である「逸失利益」の算定では大きな違いが発生します。
逸失利益は、「基礎年収×後遺障害等級ごとの喪失率×喪失期間」で計算され、
通常、12級の後遺障害の逸失利益は、
「被害者の交通事故前年の年収×14%×67歳まで年数のライプニッツ係数」
で計算されますが、神経症状の12級13号の場合には、喪失期間が67歳までではなく、10年間程度に制限されるのが一般的です。
例えば、症状固定の時に47歳だった被害者の場合、一般的な後遺障害では喪失期間が20年間とされるのに対し、12級13号の場合には10年間に制限されることが多いです。そのため、この被害者の交通事故前年の年収が500万円だったとすると、喪失期間が20年間の場合には、
500万円×14%×14.877(20年のライプニッツ係数)=1041万3900円
喪失期間が10年間の場合には、
500万円×14%×8.530(10年のライプニッツ係数)=597万1000円
となり、逸失利益で大きな差が出る場合があります。
ですから、同じ12級でも可動域制限での後遺障害等級が認定されるか、神経症状での後遺障害等級が認定されるかは重要です。
今回のBさんの場合は、実際に可動域制限も残っていたため、再度の異議申立てを行うか、紛争処理機構に審査してもらうよう申立てをするという選択肢もありましたが、画像から腱板損傷が軽微と判断されたのであれば、もう仕方ないと結果を受け入れることにしましたので、後遺障害等級については併合12級で確定させ、示談交渉を開始することになりました。
4.まとめ
今回は、右肩の腱板損傷で14級9号の認定から、異議申立てで12級13号が認定された事例をご紹介しました。
実は、今回のBさんの初回申請の結果のように、腱板損傷の事例では、交通事故から時間が経ってからMRIを撮影したケースで、交通事故と腱板損傷の関係性が否定されるという例は珍しくありません。そのため、私たちは腱板損傷を負った被害者の方には、なるべく早期にMRI撮影をするように勧めています。同じように肩の後遺障害で困っている方も多いと思いますので、今回の記事が同じようなことでお困りの方の参考になれば幸いです。
そして、そのようなアドバイスをするためには、交通事故後なるべく早い段階でご相談いただく必要がありますから、交通事故に遭ったら早期に弁護士にご相談いただくことを強くオススメしています。
私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は無料でお受けしておりますので、お気軽にお問合せください。
また、当事務所のブログでも、異議申立てで肩腱板損傷について後遺障害12級が認定された事例(弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~)や逆に残念ながら肩腱板損傷で後遺障害が認定されなかった事例(後遺障害等級が認定されなかった事例~左肩腱板損傷~)をご紹介しておりますので、よろしければご覧ください。
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法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

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