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交通事故で遷延性意識障害などの寝たきりになった場合の慰謝料請求の相場と手続

2023-04-12

交通事故は突然の出来事であり、重大な被害をもたらすことも少なくありません。

本記事では、交通事故の被害者が、遷延性意識障害などのいわゆる寝たきり状態となってしまったケースにつき、慰謝料の相場や請求方法について解説していきます。

1.はじめに

⑴ 寝たきり(遷延性意識障害)とは

寝たきり状態の中でも意思疎通ができない症状は、過去には「植物状態」などと呼ばれ,診断名としては「遷延性意識障害」といわれます。

日本では、1972年に日本脳神経外科学会から、「植物状態」の定義が発表されており、同発表によると、その定義は以下のとおりです。

Useful Lifeを送っていた人が脳損傷を受けた後で、以下に述べる6項目を満たす状態に陥り、ほとんど改善が見られないまま満3か月以上経過したもの。

 1)自力移動不可能

 2)自力摂食不可能

 3)し尿失禁状態にある

 4)たとえ声は出しても意味のある発語は不可能

 5)「目を開け」「手を握れ」などの命令にはかろうじて応じることもあるが、それ以上の意志の疎通は不可能

 6)眼球はかろうじて物を追っても認識はできない

⑵ 交通事故で寝たきり(遷延性意識障害)になる原因

交通事故で寝たきり(遷延性意識障害)になる原因はさまざまですが、主なものとしては頭部への強い衝撃、すなわち頭部外傷による脳損傷が挙げられます。

例えば、歩行者と自動車との事故によって、歩行者の頭部がフロントガラスに打ち付けられるなど、交通事故被害者の頭部に強度の外力が加わった時に発症することがあります。

2.寝たきり(遷延性意識障害)になった被害者の権利

⑴ 慰謝料の請求権

交通事故の被害者は、加害者や加害者の加入する保険会社に対し、自身が被った精神的な損害を賠償するよう請求することができます。

この精神的な損害のことを「慰謝料」と呼びます。

⑵ その他の損害賠償

加害者が、上記のとおり慰謝料の支払義務を負うのは、民法の不法行為責任(709条)や、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます。)の運行供用者責任(3条)に基づくものです。

これらの法律では、交通事故の加害者は、被害者に生じた「損害」を賠償する義務を負います。

そのため、交通事故加害者は、慰謝料のほかにも、治療費・通院交通費・入院雑費・休業損害・後遺障害逸失利益・後遺障害慰謝料など被害者が被った損害を賠償しなければなりません。

3.寝たきり(遷延性意識障害)になった場合の慰謝料相場

⑴ 一般的な慰謝料相場

寝たきりになってしまったときに、加害者に請求することができる慰謝料には、次の傷害慰謝料と後遺障害慰謝料があります。

ア 傷害慰謝料

 傷害慰謝料は、けがを負ったことに対する慰謝料を指します。

 慰謝料の額は、一般的には、その入通院の期間等によって計算されます。

 寝たきり状態になってしまう場合には、交通事故後直ちに救急搬送され、その後も入院が継続されていることが多いと思います。

 また、慰謝料基準については、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準などと呼ばれる基準があります。一般的には、自賠責保険基準が最も低く、裁判所基準が最も高い金額になります。

 裁判所基準で、入院期間1年として計算しますと、傷害慰謝料の額は、およそ321万円です。

イ 後遺障害慰謝料

 後遺障害慰謝料は、後遺障害が残存する場合、すなわち治療を継続してもこれ以上良くならないという状態(これを一般的に「症状固定」といいます)になった時に、残存した症状が自賠法上の後遺障害に該当する場合には、これを請求することができます。

 自賠法上の後遺障害は、最も重い1級から14級まで等級が定められています。

 遷延性意識障害である場合には、1級に該当する場合が多いでしょう。

 裁判所基準で後遺障害1級に該当するものとして計算しますと、後遺障害慰謝料の額は、およそ2800万円です。

 なお、このように重大な後遺障害が残存した場合には、交通事故被害者の慰謝料のほか、近親者の慰謝料が認められる場合も少なくありません。

⑵ 被害者の属性や事故状況による相場の変動

その他、事故状況が特に悪質である場合には、慰謝料基準を増額することがありますし、被害者の属性(年齢・収入・同居家族の有無)によって、近親者の慰謝料の額も増減することがあります。

4.慰謝料等の請求手続

⑴ 治療・症状固定

傷害慰謝料は入通院期間等を基に算定され、また、後遺障害慰謝料は症状固定を迎えて後遺障害等級が確定しなければ算定することができませんので、慰謝料の請求をするのは治療が終了した後になります。

そのため、原則として、治療中に、相手方に対して慰謝料を請求することは出来ません。  

⑵ 後遺障害の認定

治療が終わったら、残存した症状がどのような後遺障害に該当するのかを明らかにするため、通常、加害者の加入する自賠責保険に対して、後遺障害申請を行います。

⑶ 損害計算・保険会社との交渉

治療が終わり、後遺障害も認定されたら、交通事故によって交通事故被害者の方が被った損害額を算定することができるようになります。

損害額を算定したら、加害者または加害者の加入する任意保険会社に対し、その損害を賠償するよう求めましょう。

5.弁護士のサポートが重要な理由

⑴ 適切な慰謝料額を算定

上記のとおり、交通事故の被害者が加害者に対して慰謝料を含む適切な損害賠償を求めるためには、適切な損害計算をしなければなりません。しかしながら、適切な損害計算を自ら行うということは簡単なことではありません。

また、慰謝料は、弁護士が用いる裁判所基準のほか、それよりも低い任意保険会社基準によって計算されることがありますので、相手方に計算を任せたり、それを簡単に信用することはお勧めしません。

弁護士に依頼すれば、適切な慰謝料を請求することができます。

⑵ スムーズな手続きの進行

慰謝料の請求までには、治療を行い、後遺障害の認定を受ける必要があります。

家族が寝たきりになってしまったときには、生活が一変します。

そのような中で、相手方の保険会社とやり取りをしたり、後遺障害の認定を受けるために必要な書類を確認し、用意することは簡単なことではありません。

弁護士に依頼すれば、この先どのように手続きが進むのか先行きが明確になりますし、その多くの手続を弁護士に任せることが可能です。

⑶ 保険会社との交渉力

慰謝料の交渉もそうですが、相手方保険会社との交渉を行うことは容易ではありません。交通事故によって寝たきりになってしまったときに、加害者側から、将来の損害分(将来治療費や後遺障害逸失利益)について、寝たきりになってしまった場合には今後の死亡リスクが高いものとして、これらの期間を短くすべきとの主張がなされることがあります。

結論として、このような主張が通る可能性は高くありませんが、突然このような主張をされたら「そうなのかも」と思ってしまうのも無理はありません。

弁護士に依頼すれば、専門的な知見に基づき、保険会社と交渉してくれますので、適切な損害賠償を求めていくことができます。

6.まとめ

交通事故で寝たきりになった場合の慰謝料請求は、多くの要素が関わるため繊細で複雑なものです。

適切な慰謝料の賠償を求めるためには専門的な知識が必要です。

また、適切な慰謝料額の算定や保険会社との交渉など、弁護士のサポートが不可欠です。

被害者やその家族が十分な補償を受けるために、弁護士と連携し、慰謝料請求の手続きを進めていくことが重要です。

もし、ご家族や近しい方が交通事故によって寝たきりになってしまったときには、是非早期に当事務所にご相談ください。

投稿者プロフィール

 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

TFCC損傷とは?後遺障害として認められる?

2023-03-12

自転車やバイクでの転倒事故の被害に遭ってしまった場合、手首を痛めてしまうことがあります。

バイク事故などで生じる手首の怪我の中でも、TFCC損傷はよくある傷病といえます。

そこで、今回は、バイクの転倒事故によって、TFCC損傷との診断を受けた場合、どのような損害を賠償請求することができるのかについて解説してきます。

1.TFCC損傷とは

TFCCは、三角線維軟骨複合体(「Triangular Fibro Cartilage Complex」の頭文字をとるとTFCCになります)といい、TFCC損傷は、この三角線維軟骨複合体が損傷することを言います。

三角線維軟骨複合体は、手首の小指側に位置し、橈骨と尺骨という2つの骨の間を結んでいる靭帯や腱、軟骨などの軟部組織の総称です。

2.TFCC損傷の後遺障害

TFCCは、手首の小指側に位置していますので、自転車やバイクの乗車中に事故に遭い、転倒した際に地面に手をついたりしてしまうと、損傷してしまうことがあります。

TFCC損傷の主な症状は、手首の小指側の痛みです。

特に、ドアノブを回すように手首をひねる動作をする場合に痛みを生じます。

TFCC損傷の場合、手首の関節可動域制限を伴う場合も伴わない場合もあります。

3.後遺障害の認定のポイント

⑴ 認定される可能性のある後遺障害の等級

① 後遺障害とは

交通事故の被害に遭った場合、懸命に治療をしても、「これ以上治療を継続しても改善しない」状態になることがあります。

このような状態に至ることを、「症状固定」と言い、症状固定時に残存した症状のうち、自動車損害賠償保障法施行令の別表に定める症状が、将来にわたり改善しないと認められる場合には、後遺障害が認定されます。

② 12級13号

上記のとおり、残存した症状が後遺障害として認められるためには、自動車損害賠償保障法施行令別表に記載された症状に該当する必要があります。なお、この別表には、1級から14級まで症状の軽重に応じて全部で133類型の症状が記載されています。

そして、TFCC損傷の主な症状は、「痛み」という神経症状です。

自動車損害賠償保障法施行令別表2の12級13号には、「局部に頑固な神経症状を残すもの」と記載されています。

「頑固な神経症状」とは、医学的に残存した神経症状を立証することができるものをいい、基本的には、画像所見等の客観的ないし他覚的な所見の有無によって判断されます。

そのため、TFCC損傷が、レントゲンないしMRI等によってわかる場合には、12級13号が認定される可能性が高いと言えます。

③ 14級9号

自動車損害賠償保障法施行令別表2の14級9号には、「局部に神経症状を残すもの」と記載されています。

(頑固ではない)「神経症状」とは、医学的に残存した神経症状を説明することができるものをいい、症状の程度、外力の程度、治療の経過や症状の推移等を総合的に判断します。

TFCC損傷は、確定診断がつかないことも多く、「TFCC損傷の疑い」などと診断されることも珍しくありません。

画像所見上明らかでない場合には、「TFCC損傷の疑い」と診断されることがありますが、その場合でも他の事情からTFCC部に痛みが生じ、これが将来にわたっても残存する可能性があることを医学的に説明することが可能である場合には、14級9号が認定されます。

⑵ 後遺障害認定のポイント

① 他覚所見の有無がポイント

上記のとおり、同じTFCC損傷という傷病名であっても、他覚所見がある場合には12級13号の認定がなされる可能性があります。

後述のとおり、後遺障害が認定されると、後遺障害慰謝料及び後遺障害逸失利益を請求することが可能になり、その金額は等級によって異なります。

もし、TFCC損傷と診断されたにもかかわらず、画像検査を行っていない場合には、医師に画像検査を依頼しておきましょう

② 被害者請求の方法で請求することがポイント

後遺障害の請求方法は、交通事故被害者が自ら請求する「被害者請求」と加害者側の任意保険会社に手続きを任せることができる「事前認定」の2つの方法があります。

このように聞くと、「事前認定」の方が手続きの負担が少なく良いように思われるかもしれませんが、後遺障害の請求をする際には、「被害者請求」がおすすめです。

理由は以下のとおりです。

まず、後遺障害の請求には、必要書類が決まっていますが、追加の資料を添付することは禁止されていません。

事前認定では、後遺障害が認定されると賠償額が大きくなるという不利益を被る立場の保険会社が主導して行う手続きになりますので、積極的に後遺障害が認定されるための資料を作成・添付してくれません。

他方、被害者請求は、どのような資料を提出するかを被害者側でコントロールすることができます。

そして、後遺障害の請求は、基本的に書面審査です。どのような資料を添付するかが、後遺障害の認定にとっては非常に重要なのです。

以上のとおりですから、後遺障害の請求をするときには、非常に重要な資料の作成・添付をコントロールすることができる「被害者請求」がおすすめです。

4.TFCC損傷後に後遺障害が認定された場合の損賠賠償額

後遺障害が認定されると、後遺障害慰謝料及び後遺障害逸失利益を請求することが可能になります。

⑴ 後遺障害慰謝料

後遺障害の額は、認定された後遺障害の等級に応じて異なります。

例えば、自動車損害賠償保障法施行令別表2の12級13号が認定されたとき、後遺障害が残存したことによって生じる慰謝料の額は、290万円(裁判所・弁護士基準)がひとつの基準となっています。

また、自動車損害賠償保障法施行令別表2の14級9号が認定されたときには、110万円(裁判所・弁護士基準)がひとつの基準となっています。

⑵ 後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残存したことによって、被害者の将来の労働能力が減退することによって生じる(であろう)減収を損害として捉えたものです。

後遺障害逸失利益は、以下の計算式によって算出できます。

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間

基礎収入とは、稼働能力であり、実際に働いている方は、事故直前の年収を指すことが多いです。

そして、労働能力喪失率及び労働能力喪失期間は、認定された後遺障害の等級によって変わります。

12級13号の場合には、労働能力喪失率が14%、労働能力喪失期間が10年というものがひとつの基準となっています。

また、14級9号の場合には、労働能力喪失率が5%、労働能力喪失期間が5年というものがひとつの基準となっています。

例えば、基礎収入額が400万円の方がTFCC損傷の怪我を負った場合には、12級13号に認定されたときには約477万円が逸失利益の金額となり、同14級9号の場合には約91万円が逸失利益の額となります。

5.まとめ

いかがでしたでしょうか。

TFCC損傷という傷病は、交通事故に遭って初めて聞いたという方も多いと思います。

交通事故に遭ってあまり聞きなれない診断がなされると、不安に思うこともありますよね。

優誠法律事務所では、多くの交通事故の被害に遭われた方からご相談・ご依頼をお受けしています。

バイクや自転車の転倒事故に遭って、TFCC損傷の診断を受けた方は、お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

 栗田道匡 弁護士

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

肩腱板損傷の後遺障害 12級・14級・非該当の事例の比較

2023-03-04

肩の腱板損傷は、バイクや自転車の交通事故の被害者の方に比較的多い傷病です。

当事務所の依頼者の方の中にも、腱板損傷による後遺症が残ってしまい、後遺障害の申請をお手伝いするケースは多く、これまでも当交通事故専門サイトや当事務所のブログで具体的な事例をご紹介してきましたが、後遺障害等級12級が認定された場合、後遺障害等級14級の認定でとどまった場合、非該当になってしまった場合など、依頼者によって結果は様々です。

そこで、今回は、最近の4人の腱板損傷の依頼者の方々のケースを比較しながら、後遺障害等級が認定された理由、認定されなかった理由などを考えてみたいと思います。

腱板損傷でお困りの方は、参考にしていただけますと幸いです。

腱板損傷とは?

腱板とは

腱板とは、肩の中にある筋肉(インナーマッスル)で、肩甲下筋腱(けんこうかきんけん)、棘上筋腱(きょくじょうきんけん)、棘下筋腱(きょくかきんけん)、小円筋腱(しょうえんきんけん)の4つのことを指します。

簡単に言うと、腱板は、肩関節がスムーズに動くように調整する役割を担っています。

腱板損傷の症状

この腱板が損傷してしまうと、肩に痛みが出ます。肩を挙げたときに強い痛みを感じたり、肩の痛みで夜も眠れないという被害者の方もいます。
また、損傷がひどい場合(腱板断裂)、肩関節の可動域が制限され、肩が挙がらなくなってしまうこともあります。 

腱板損傷の原因

腱板損傷の原因としては、交通事故のような外傷性の怪我によるものと、加齢性の変化によるもの、加齢性の変化が進んでいたところに外傷も加わって起こるものなどが考えられます。

腱板損傷の診断方法

腱板は、レントゲンには映りません。

そのため、レントゲンでは正確な診断はできず、MRIを撮影して診断する必要があります。

また、MRIによって腱板損傷が認められたとしても、ある程度の年齢の方になると、加齢性の変化による損傷ということも考えられます。

そのため、交通事故による腱板損傷であることを証明するためには、事故直後にMRIを撮影する必要があります。

事故直後のMRI画像で、腱板に輝度変化が認められれば、事故による外傷と認められ、症状固定時まで後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害等級が認定される可能性が高まります。

肩腱板損傷で認定される後遺障害等級(10級・12級・14級・非該当)

10級10号

腱板損傷によって、肩関節の可動域が2分の1以下に制限されていれば、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として10級10号が認定される可能性があります。

ただし、肩関節の可動域が制限されていれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像などの客観的な医学的所見から、そのような重度の可動域制限の原因が認められる場合に認定されます。

12級6号

腱板損傷によって、肩関節の可動域が4分の3以下に制限されていれば、「関節の機能に障害を残すもの」として12級6号が認定される可能性があります。

12級6号についても、肩関節の可動域制限があれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像など可動域制限の原因となる腱板損傷の所見が認められる場合に認定されます。

12級13号

腱板損傷による肩関節の可動域制限がない場合や4分の3以下までの制限はない場合、肩関節の痛みが残存していれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が認定される可能性があります。

12級13号についても、肩関節の痛みがあれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像など肩関節の痛みの原因となる腱板損傷の所見が認められる場合に認定されます。

14級9号

腱板損傷による肩関節の可動域制限がない場合や4分の3以下までの制限はない場合で、肩関節の痛みが残存しており、12級13号を認定するほどの腱板損傷の所見がない場合、「局部に神経症状を残すもの」として14級9号が認定される可能性があります。

14級9号についても、肩関節の痛みがあれば必ず認定されるというものではなく、受傷時の態様や治療の経過から痛みの訴えに一応の説明がつき、医学的に説明可能な障害を残す所見のある場合に認定されます。

つまり、MRI画像などで明確な腱板損傷までは認められなくても、損傷を疑う所見がある場合なども認定される可能性があります。

非該当

腱板損傷の診断があり、肩関節の可動域制限や痛みなどがあっても、その裏付けとなるMRI画像の所見などがない場合、後遺障害等級は認定されず、非該当となる場合があります。

最近の4名の依頼者の比較

当事務所の弁護士が最近担当させていただいた腱板損傷の被害者の4名を比較すると、以下の表のようになります。4名とも40~50代の男性です。

Bさんの事例については当交通事故専門サイトで、HさんとKさんの事例については当事務所のブログでご紹介していますので、そちらもご覧ください。

 事故時の状況初回申請結果異議申立て結果MRI撮影時期
Bさん自転車運転中14級9号12級13号2ヶ月後
Hさんバイク運転中非該当12級13号1ヶ月半後
Fさんバイク運転中14級9号14級9号1ヶ月以内
Kさん自動車運転中非該当非該当5ヶ月後

12級が認定されたケース

Bさんの場合(14級9号⇒12級13号)

Bさんの事例のご紹介はこちら(【速報】後遺障害等級認定事例(2)~右肩腱板損傷~

Bさんは、自転車運転中に赤信号の交差点で信号待ちをしていたところ、左折しようとした加害者車両に衝突され、頚椎や右肩などを負傷しました(頚椎捻挫・右肩腱板損傷)。

Bさんは、交通事故から約2ヶ月後に右肩のMRIを撮影しており、読影医のレポートでも「右肩腱板損傷」と診断されていました。

そして、症状固定時の右肩関節の症状は、肩関節の可動域制限(4分の3以下)と痛みが残存しているという状態でした。

しかし、初回の後遺障害申請では、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」との判断で、右肩については14級9号の認定にとどまりました。

その後、読影医のレポートと主治医のカルテを添付して、右肩腱板損傷が交通事故によるものであることを強く主張して異議申立てを行ったところ、12級13号が認定されました。

Bさんのケースは、MRIの撮影時期が若干遅かったものの、読影医のレポートで「右肩腱板損傷」と明確に診断されていたことと、事故直後のカルテに腱板損傷を裏付けるような記載が見られたことで、交通事故による腱板損傷と認められたものと思われます。

Hさんの場合(非該当⇒12級13号)

Hさんの事例のご紹介はこちら(弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~

Hさんは、バイク運転中の左折巻き込み事故によって、身体を地面に強く叩きつけられて、頚椎捻挫、腰椎捻挫、右肩腱板損傷、右手親指MP関節捻挫等の怪我を負いました。

Hさんは、交通事故から約1ヶ月半後に右肩のMRIを撮影しており、MRI画像から主治医が「右肩腱板損傷」と診断していました。

そして、症状固定時の右肩関節の症状は、肩関節の可動域制限はほとんどないものの、強い痛みが残存しているという状態でした。

しかし、初回の後遺障害申請は相手方保険会社の事前認定で行われ、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」との判断で、右肩については非該当とされていました。

その後、私たちの事務所でご依頼をお受けし、主治医にMRI画像上で損傷部位を指摘してもらう医療照会を行い、その回答を添付して、右肩腱板損傷が交通事故によるものであることを主張して異議申立てを行ったところ、12級13号が認定されました。

Hさんのケースは、事故から約1ヵ月半でMRIが撮影されており、MRI画像上「右肩腱板損傷」と明確に診断されていたことで、交通事故による腱板損傷と認められたものと思われます。

14級が認定されたケース

Fさんの場合(14級9号⇒14級9号)

Fさんは、バイク運転中に隣の車線を並走していた自動車が車線変更してきた際に衝突され、頚椎捻挫、腰椎捻挫、左肩腱板損傷の怪我を負いました。

Fさんは、交通事故直後に左肩のMRIを撮影しており、読影医のレポートには「左肩関節に棘上筋腱損傷及び肩甲下筋腱損傷を疑う所見を認めます」と記載されていました。

そして、症状固定時の左肩関節の症状は、肩関節の可動域制限はないものの、強い痛みが残存しているという状態でした。

その後、初回の後遺障害申請の結果は、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」ものの、治療状況や症状推移などを勘案すると将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられるとの判断で、左肩については14級9号が認定されました。

Fさんの場合は、MRIの読影医のレポートで明確な腱板損傷の診断がなかったことから、私たちは外部の医師に画像鑑定を依頼しました。

そうしたところ、鑑定を担当した医師が「棘上筋腱損傷・肩甲下筋損傷」と診断する鑑定書を作成してくれましたので、この鑑定書を添付して異議申立てを行いました。

しかし、異議申立ての結果、自賠責保険は、MRIの画像上「腱板の連続性は保たれている」と判断し、左肩の後遺障害等級は14級9号のままという結果となりました。

Fさんのケースは、MRI画像上、腱板損傷の程度が軽かったということで14級9号の認定にとどまったものと思われます。

非該当のケース

Kさんの場合(非該当⇒非該当)

Kさんの事例のご紹介はこちら(後遺障害等級が認定されなかった事例~左肩腱板損傷~

Kさんは、自動車運転中に路外から出てきた加害者車両に衝突され、左肩を負傷しました(左肩腱板損傷)。

Kさんは、主治医に腱板損傷と診断されていたものの、交通事故から約5ヶ月後まで左肩のMRIを撮影しておらず、事故からかなり時間が経過した後でMRI撮影をしましたが、MRI画像上、腱板損傷の所見がありました。

Kさんの症状固定時の左肩関節の症状は、肩関節の可動域制限が2分の1以下に制限され、強い痛みも残存しているという状態でした。

その後、初回の後遺障害申請は、相手方保険会社の事前認定で行われましたが、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」とされ、治療状況や症状推移などを勘案しても、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難いとの判断で、左肩については非該当となりました。

Kさんの場合は、MRIのレポートで腱板損傷の診断があったものの、事故からMRI撮影までの時間が空き過ぎていたため、事故による損傷と判断してもらえなかったと考えられました。

そこで、私たちは主治医に医療照会をお願いし、事故直後の左肩の症状について回答をもらい、カルテも取り付けて、事故による腱板損傷であると主張して異議申立てを行いました。

しかし、異議申立ての結果、自賠責保険は、左肩腱板損傷と事故との因果関係を認めず、左肩の後遺障害は非該当のままという結果となりました。

Kさんのケースは、MRI撮影が遅すぎたこと、自動車乗車中の事故で通常は腱板損傷が起きにくい事故態様であったこと、50代で加齢性の変化による損傷の可能性も否めないことなどの事情で、事故と腱板損傷の因果関係を認めてもらえなかったものと思われます。

まとめ

今回は、肩の腱板損傷の後遺障害についてご説明しました。

腱板損傷という同じお怪我でも、ご紹介した4名の依頼者は後遺障害等級の認定結果がそれぞれ違う経緯を辿り、違う最終結果となっています。

腱板損傷は、事故後にMRI撮影が速やかに行われないと、事故との因果関係を証明することが難しくなります。

今回ご紹介した非該当の事例のKさんも、事故直後に私たちにご相談されていれば、違う結果になっていたかもしれません。

私たちが、交通事故の被害者の方に対して、事故後の早い段階で弁護士にご相談なさるようお勧めしているのは、このように事故から時間が経過してしまうと取り返しがつかなくなる場合もあるからです。

私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は初回無料でお受けしております。

是非お気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

【速報】後遺障害等級認定事例(5) ~外貌醜状(顔面の醜状痕)~

2022-07-18

皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。

ここまで私が2021年に担当して後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介してきましたが、最後は頭部挫傷の怪我を負い、顔面に醜状痕外貌醜状)が残ってしまった被害者のEさん(小学生)の事例をご紹介します。

Eさん:12級14号⇒外貌醜状9級16号

1.初回の申請は12級14号

 小学生のEさんは、自宅マンションの敷地で近所の子どもたちと遊んでいたところ、マンションの前の道路を走行してきた相手方車両が、対向車とすれ違うためにマンションの敷地内に入ってきて衝突されてしまいました。

 相手方は、道路幅が狭いことから、スムーズに対向車とすれ違うためにマンションの敷地に乗り入れましたが、そのマンションの敷地で子どもたちが遊んでいることに気が付かず、おもちゃの車に乗って遊んでいたEさんに衝突してしまいました。Eさんは地面に顔面を撃ちつけるなどして、救急搬送され、搬送先の病院で頭部挫傷と診断されました。

 幸いなことに、Eさんは頭部に異常はなかったため、しばらく経過観察となりました。そして、その後も頭部の異常はなく、特に症状も出なかったため、交通事故から約半年が経過した時点で主治医が症状固定の診断をしました。

 しかし、残念ながら、交通事故の際に顔面を地面に撃ちつけたことで、Eさんの額(おでこ)の右側と眉間から右眉にかけて、複数の線状の傷痕(線状痕)や瘢痕が残ってしまいました。これらの傷痕は、交通事故直後よりは改善したものの、症状固定となった交通事故から約半年後の時点でもさほど変わりませんでした。

 Eさんのお父さんは、保険会社から送られてきた後遺障害診断書を主治医に書いてもらいましたが、出来上がってきた診断書の記載を確認したところ、傷跡の長さや面積が書かれておらず、図も適当に書かれてしまっていると感じ、これでは適切な後遺障害等級が認定されないのではないかと不安を感じたため、私たちの事務所に相談にいらっしゃいました。Eさんのお父さんとしては、相手方保険会社の担当者にも不信感があったため、保険会社とのやり取りも全て弁護士に任せたいというご希望でご依頼いただきました。

 ご依頼後、私たちは、Eさんの主治医に後遺障害診断書の修正をお願いしたところ、直接説明に来て欲しいと言われたため、病院まで医師面談に伺い、診断書の書き方を説明して修正・加筆をお願いしました。このように、記載が不十分なままで申請してしまうと、そもそも後遺障害の審査対象にしてもらえない場合もありますので、適切に記載してもらうことは重要です。

 Eさんの後遺障害診断書の修正後、私たちは被害者請求で後遺障害申請をしました。そして、初回の申請では、右前額部の線状痕について、隣接する複数の線状痕の長さを合算することで長さ3センチメール以上の線状痕があるものと評価できるとして、「外貌に醜状を残すもの」として12級14号が認定されました。

2.異議申立ての結果、9級16号が認定

 Eさんの場合、初回申請で額の線状痕について12級14号が認定されましたが、外貌醜状の場合、長さが5センチメートル以上の線状痕であれば、9級16号が認定されます。つまり、初回申請で12級14号の認定にとどまったのは、人目につく程度の線状痕の長さが、3センチメートル以上5センチメートル未満だと判断されたためだと考えられました。

 しかし、後遺障害診断書に記載してもらった額の線状痕と眉間から右眉にかけての線状痕の長さを合算すると、8センチメートル以上にはなっていたため、Eさんのお父さんとしては、12級14号の認定には納得できませんでした。なお、外貌醜状の場合はサイズだけではなく、「人目につく程度以上のもの」でなければなりませんので、Eさんの顔の写真から、この要件で線状痕としてカウントされなかった傷痕もあったのではないかと推測されました。

 外貌醜状の後遺障害の場合、コロナ禍になる前は、基本的に自賠責保険の調査事務所において面接を行い、傷痕のサイズをメジャー等で測定して、等級認定が行われていました。しかし、コロナの感染防止の観点もあり、最近ではあまり面接は行われず、傷痕のサイズが記載された診断書と写真のみで認定が行われることが多くなっており、今回のEさんも初回申請では面接は行われませんでした。

 そこで、私たちは、異議申立書において、複数の線状痕の長さを合算すると5センチメートル以上になることを主張し、加えて、人目につくものであるから、実際に面接をして確認して欲しいと申し入れました。

 そうしたところ、自賠責調査事務所での面接が行われることとなり、私(弁護士)も同席して、該当する傷痕を指摘しながら長さの測定を行いました。

 その結果、私たちの主張が認められ、Eさんの顔面の線状痕について、5センチメートル以上であるとして9級16号が認定されました。

3.まとめ

 今回は、外貌醜状(顔面の醜状痕)で初回申請12級14号から、異議申立てで9級16号が認定された事例をご紹介しました。

 今回のEさんの場合、お父さんご自身で相手方保険会社とやり取りして進めていた場合、不十分な後遺障害診断書で後遺障害申請を進めることになっていましたから、後遺障害は非該当だったかもしれません。9級になると、後遺障害慰謝料だけでも裁判所基準で690万円になりますから、非該当だった場合と比べると最終的な示談額にはかなり大きな差が出ます。

 この記事をご覧になっている方も、医師であればしっかり診断書を作成してくれると思っている方が多いと思いますが、実は、今回のEさんの主治医のように後遺障害診断書の記載方法についてしっかり理解していない医師もいます。医師としても、保険会社が後遺障害診断書の書き方をレクチャーしてくれる訳ではありませんから、交通事故の患者さんの対応経験が少ない場合は仕方がないのかもしれません。そのためか、私たちが記載例などを持っていくと喜ばれることもあります(逆に、弁護士に指図されたくないと怒り出す医師もいますが・・・)。

 今回、私たちは医師面談にも自賠責調査事務所での面談にも同席しましたが、おそらくここまで対応する弁護士はかなり少数派だと思います。私たちの過去の経験上、調査事務所の面接でも、こちらから指摘しないと一部の傷痕を測ってもらえない場合もありましたので、私たちはできる限り同席するようにしています。

 ここまで読んでいただくとお分かりになるかもしれませんが、正直、交通事故は、弁護士に依頼するかしないかによっても示談額が変わりますが、依頼する弁護士によっても結果が変わってしまうことがあると思います。だからこそ、私たちはご依頼者様のためにベストを尽くすよう努めております。

 当事務所では、交通事故のご相談は無料でお受けしておりますので、お困りのこと、お悩みのことなどがございましたら、是非お気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

【速報】後遺障害等級認定事例(4)右直事故~外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)~

2022-06-25

皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。

ここまで私が2021年に後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介してきましたが、今回は直進の原付バイクと右折の自動車の事故(いわゆる右直事故)で外傷性頚部症候群頚椎捻挫)の怪我を負った被害者のDさんの事例をご紹介します。

Dさん:非該当⇒頚椎14級9号

1.初回の申請は非該当

 Dさんは、原付バイクで走行中に信号のある交差点を直進しようとしたところ、対向車線から右折してきた相手方車両に衝突されてしまいました。

 事故現場となった交差点は、相手方側からは直進してくる車両が見えにくく、相手方は直進車に注意して右折する必要がありましたが、相手方は右折する先にある横断歩道に歩行者がいないか確認するために右方向を見ていて、対向車線を走ってくるDさんのバイクに気付くのが遅れて衝突してしまいました。

 Dさんのバイクは、相手方車両のフロント中央に衝突し、身体が投げ出されて地面に叩きつけられました。この時、Dさんは身体を地面に強く打ちつけてしまい、頚椎などを負傷してしまいました(外傷性頚部症候群、左膝打撲)。

 交通事故の直後、Dさんは救急搬送されて治療を受け、その後は整形外科で治療を続けていましたが、首や左膝の痛みがなかなか改善しませんでした。
 Dさんは、当時映像制作の専門学校の学生でしたが、首の痛みが強く、長時間PCで作業をすることが難しくなってしまったため、早く症状を改善させたいとの思いでリハビリを続けました。
 しかし、残念ながら、交通事故から約半年が経過した時点でも首の痛みが改善しませんでした。そして、相手方保険会社が、交通事故から半年以上は治療費を支払えないと主張して、一方的に治療費を打ち切られてしまいました。

 Dさんは、保険会社に治療費を打ち切られた後も健康保険に切り替えて治療を継続しましたが、さらに半年(交通事故から1年)が経過した時点でも症状が残ってしまい、主治医はそのタイミングで症状固定と診断しました。

 Dさんは、それまでの言動から相手方保険会社の担当者が信用できないと感じており、相手方保険会社に任せる「事前認定」ではなく、ご自身で方法を調べて被害者請求で後遺障害申請をしました。

 しかし、初回申請では、Dさんの外傷性頚部症候群に起因する首の痛みについて、「将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」として非該当と判断されてしまいました。

 また、相手方保険会社からこの交通事故の過失割合について、15(Dさん):85(相手方)と主張されており、Dさんとしては過失割合についても不満がありました。

 そこで、後遺障害の異議申立てや示談交渉などの手続きを弁護士に任せたいというご希望で私たちの事務所にご相談にいらっしゃいました。 

2.異議申立ての結果、14級9号が認定

 以前ご紹介したAさんの記事(【速報】後遺障害等級認定事例(1)~頚椎捻挫~)でご説明しましたが、私たちの経験上、相手方保険会社から治療費を打ち切られた後にも、自費で通院を継続した被害者の方が痛み(神経症状)による後遺障害等級(14級9号)を認定されやすいという感覚があります。
 また、以前ご紹介したCさんの記事(【速報】後遺障害等級認定事例(3)非接触事故~頚椎捻挫・腰椎捻挫~)でご説明しましたが、通院回数の多い人、通勤期間の長い人も、後遺障害等級(14級9号)が認定されやすいという感覚があります。

 今回のDさんは、治療費の支払いを打ち切られてから半年間に渡って自費で治療を続けており、交通事故から症状固定まで約1年間治療をしていましたので、私たちは、主治医からカルテを取り寄せ、首の痛みが交通事故から一貫して長期間に渡って続けていることを主張して異議申立てを行いました。

 また、相手方車両のフロント中央部分が大きく凹んでおり、今回の交通事故でDさんが身体に強い衝撃を受けたことの証拠になりそうでしたので、相手方車両の写真も異議申立書に添付しました。

 その結果、私たちの主張が認められ、Dさんの外傷性頚部症候群に起因する首の痛みについて14級9号が認定されました。

3.示談交渉(過失割合の修正に成功)

 異議申立てで後遺障害14級9号が認定されましたので、私たちは後遺障害慰謝料逸失利益通院慰謝料などを計算して相手方保険会社と示談交渉を始めました。

 Dさんは過失割合について、相手方保険会社から15:85と言われていたことに強い不満がありましたので、私たちは弁護士会照会で刑事記録(実況見分調書)を取り寄せて、過失割合についても交渉しました。

 過失割合については、典型的な交通事故の場合、過去に同種の裁判例が多数あることから、裁判例を踏まえてそれぞれの事故状況ごとに何%:何%と基本となる過失割合が示されており、この基本過失割合を基に検討することになります。
 過失割合の交渉については、当事務所の公式ブログでも解説していますので、是非そちらもご覧ください(過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その1~

 今回のDさんの交通事故のようなバイクと自動車の右直事故の場合、双方の信号が青であれば、基本過失割合は15:85になります。つまり、相手方保険会社としては、基本過失割合を根拠に15:85と主張していた訳です。

判例タイムズ175図 基本過失割合A15:B85

 しかし、実況見分調書によると、相手方はDさんに衝突する直前まで右折する先の横断歩道を見ていて、Dさんに気が付いたのは衝突とほぼ同時くらいだったことが分かりました。
 今回の交通事故現場は、坂の頂点のようになっていて、右折車(相手方側)から対向車線の直進車を確認しにくい状況でしたので、直進車の信号に赤になった後、右折矢印が出るようになっていました。相手方としては、青信号のうちに右折するのであれば、対向車の有無をしっかり確認してから右折を開始する必要がありましたが、相手方は対向車線の確認を怠って右折を開始した結果(著しい前方不注視)、Dさんに衝突してしまいました。

 さらに、実況見分調書によると、相手方はDさんがかなり近づいていたタイミングで右折を開始しており、「直近右折」に該当し得るのではないかと思われました。

 私たちとしては、これらの事情を根拠に過失割合を修正するべきだと主張して交渉しました。

 その結果、相手方保険会社も理解を示し、結局、過失割合は5(Dさん):95(相手方)まで修正することができました。

4 まとめ

 今回は、外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)で初回申請非該当から、異議申立てで14級9号が認定された事例をご紹介しました。

 今回のDさんのように、後遺障害申請について相手方保険会社の事前認定ではなく、ご自身で被害者請求をされる方は珍しいですが、この場合であっても異議申立てから弁護士に依頼することは可能です。

 Dさんの場合、私たちにご依頼いただいたことで、異議で後遺障害等級が認定され、過失割合についても修正できましたので、大変喜んでいただきました。

 ただ、異議申立てで結果が覆る可能性は高くないですから、弁護士の立場からお話しすると、初回申請の段階からご依頼いただいた方が、適切な等級が認定される可能性が高まりますので、早めにご相談いただきたいというのが本音ではあります。

私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は無料でお受けしておりますので、是非お気軽にご相談ください。

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整骨院・接骨院で治療すると後遺障害等級が認定されないって本当?

投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

【速報】後遺障害等級認定事例(3)非接触事故~頚椎捻挫・腰椎捻挫~

2022-05-03

皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。

前々回から私が2021年に後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介していますが、今回は頚椎捻挫・腰椎捻挫の怪我を負った被害者のCさんの事例をご紹介します。

Cさん:非該当⇒併合14級(頚椎14級9号・腰椎14級9号)

1.初回の申請は非該当

 Cさんは、ご家族が運転する自動車の後部座席に乗っていたところ、隣の車線を走っていた加害者車両が急に車線変更してきたため、Cさんの車両の運転手の方が、衝突を避けるために急ブレーキをかけました。幸い急ブレーキによって衝突を回避することはできたものの、後部座席に乗っていたCさんは、急ブレーキの反動で体が前方に大きく振られて、前の座席に顔面を強打してしまい、顔や頚椎、腰椎を負傷してしまいました(外傷性顎関節症・頚椎捻挫・腰椎捻挫)。

 その後、Cさんは整形外科と口腔外科で治療を続けていましたが、首や腰の痛みがなかなか改善しませんでした。Cさんは、前の仕事を辞めて転職活動をしているタイミングでしたが、首や腰の痛みもあって転職活動を中断せざるを得ず、早く症状を改善させたいとの思いでリハビリを続けました。しかし、交通事故から約1年が経過した時点でも首と腰の痛みが改善しませんでした。そうしたところ、相手方保険会社に治療費の打切りを通告され、主治医もそのタイミングで症状固定と診断しました。

 Cさんは、治療費を打ち切られて症状固定となったことで、その後の後遺障害申請や示談交渉などの手続きを弁護士に任せたいというお考えで私たちの事務所にご相談にいらっしゃいました。ご依頼いただいた後、私たちは必要な書類を揃え、被害者請求で後遺障害申請をしました。

 その結果、残念ながら初回の申請では首の痛みと腰の痛みについて、それぞれ「将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」として非該当と判断されました。

 Cさんとしては、首も腰も痛みが残存していて日常生活に支障があるにもかかわらず、非該当という結果では納得できないということで、異議申立てを行うことになりました。

2.異議申立ての結果、併合14級が認定

 頚椎捻挫や腰椎捻挫の場合、交通事故から通常6ヶ月程度で症状固定と診断されることが多いですが、Cさんの場合は交通事故から約1年間も治療を続けており、リハビリの回数も通算170回以上にも上っていました。長年交通事故の後遺障害申請を担当してきた私たちの経験上、通院回数の多い人は痛み(神経症状)による後遺障害等級(14級9号)が認定されやすいという感覚があります。通院回数が多いということは、それだけ痛みが強かったことを推認する事情でもあると考えられるためではないかと思います。ただし、通院回数が多かったり、通院期間が長くても、症状が改善傾向にあったり、訴えている症状に一貫性がなかったりすると、後遺障害とは認定されにくくなります。

 そこで、私たちはCさんの異議申立てをするにあたり、主治医に頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状の推移についての照会書の作成をお願いし、併せてカルテを取り寄せて、症状の経過や一貫性があるか否かを確認しました。その結果、Cさんは交通事故直後から症状固定まで一貫して首と腰の痛みを訴えて治療を続けていたことが分かり、主治医から症状が慢性化していて改善は見込めないとの回答を得ました。

 また、Cさんの交通事故は、急ブレーキで自動車同士の衝突を避けられており、非接触の交通事故であったため、自賠責保険は「後遺障害が残るほどの怪我が発生する事故ではない」と判断したのではないかと考えられました。

 そこで、私たちは、交通事故当時の状況をCさんから詳しく聞き取り、Cさんが靴を脱いで後部座席に座っていたこと、シートベルトをしていなかったこともあって急ブレーキで前方に押し出されて前の座席に顔面を強打したこと、この前方座席に強打した際に首や腰も負傷したことなど、自動車同士は非接触であっても後遺障害が残るほどの怪我を負っても不自然ではないことを細かく主張する異議申立書を作成して異議申立てを行いました。

 その結果、私たちの主張が認められ、Cさんの頚椎捻挫後の首の痛みと腰椎捻挫後の腰の痛みについてそれぞれ14級9号が認定されて、併合14級の認定となりました。

3.まとめ

 今回は、頚椎捻挫・腰椎捻挫で初回申請非該当から、異議申立てでそれぞれ14級9号が認定された事例をご紹介しました。

 今回のCさんのように、交通事故の被害者の多くが頚椎捻挫・腰椎捻挫の怪我を負っていますが、首や腰の症状は回復するまで長い時間がかかることも多く、首や腰の痛みが残ってしまう方も少なくありません。

 その場合、多くの方は相手方保険会社に任せて後遺障害の申請を行いますが(この保険会社に任せる方法を「事前認定」といいます。)、この事前認定では必要最低限の書類を揃えて提出するという対応以上は期待できません。

また、少なくとも私たちの経験では、初回の事前認定が非該当だったケースで、相手方保険会社が異議申立てをしてくれて後遺障害等級が認定されたというケースは見たことがありません。

 ですから、やはり後遺障害の申請は弁護士に依頼した方が適切な等級が認定される可能性が高まるといえるのではないかと思います。

 Cさんと同じように首や腰の後遺障害で困っている方も多いと思いますので、今回の記事が同じようなことでお困りの方の参考になれば幸いです。

 私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は無料でお受けしております。ぜひ、お気軽にお問合せください。

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整骨院・接骨院で治療すると後遺障害等級が認定されないって本当?

投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

【速報】後遺障害等級認定事例(2)~右肩腱板損傷~

2022-04-18

皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。

前回から私が2021年に後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介していますが、今回は頚椎捻挫・右肩腱板損傷の怪我を負った被害者のBさんの事例をご紹介します。

Bさん:併合14級(頚椎・右肩)⇒併合12級(頚椎14級9号・右肩12級13号)

1.初回の申請は併合14級(頚椎・右肩)

 Bさんは、自転車を運転していて、信号のある交差点が赤信号だったため、自転車から降りて信号待ちをしていました。その際に、その交差点のBさんが立っていた角を左折しようした加害者車両が、内回りし過ぎて信号待ちをしていたBさんの自転車に衝突してしまいました。Bさんはそのまま自転車ごと転倒して、頚椎や右肩などを負傷してしまいました(頚椎捻挫・右肩腱板損傷)。

 その後、Bさんは整形外科で治療を続けていましたが、首の痛みや右肩の痛みがなかなか改善しませんでした。しかも、右肩の痛みが強く、事故直後から肩が90度(水平)以上上がらない状態が続いていました。Bさんとしては、特に右肩の可動域制限が仕事にも日常生活にも大きな支障があり、少しでも改善しようとリハビリを続けましたが、交通事故から6ヶ月が経過した時点でも改善せず、主治医が症状固定と診断しました。

 Bさんとしては、適切な損害賠償を求めたいということで、この時点で私たちの事務所にご相談にいらっしゃいました。私たちは、ご依頼いただいた後、後遺障害申請に必要な書類を揃え、被害者請求で後遺障害申請をしました。

 その結果、初回の申請では首の痛みと右肩の痛みについて、それぞれ14級9号の後遺障害等級が認定されて、併合14級の結果が通知されました。しかし、右肩の腱板損傷については、腱板損傷自体を否定するのか、腱板損傷自体は認めるものの今回の交通事故で損傷したことを否定するのか、どちらか理由は分からないものの、「本件事故による腱板損傷は認められない」との判断となり、右肩の可動域制限は後遺障害として認められませんでした。

 Bさんとしては、右肩の可動域制限が残り、その当時でも90度(水平)から少し上くらいまでしか肩が上がらない状態でしたので、右肩腱板損傷が認定されなかった結果には納得できないということで、異議申立てを行うことになりました。

2.異議申立ての結果、右肩に12級13号が認定

 私たちは、異議申立てをするにあたり、まずBさんが右肩のMRI撮影をした画像診断専門のクリニックの読影レポートを取り寄せました。この読影レポートを確認したところ、右肩の画像上に腱板損傷があるとの読影結果が明確に記載されていました。

 ただ、MRI撮影が行われたのが今回の交通事故から約2ヶ月後であったため、おそらく初回の申請では自賠責調査事務所が交通事故以外による損傷の可能性も否定できないという判断をして、腱板損傷と交通事故の因果関係を認めなかったのではないかと考えられました。

 そこで、私たちは、主治医からカルテを寄り寄せ、交通事故直後のBさんの右肩の症状について、腫れなどの外傷を裏付けるような症状の記載がないか確認しました。そうしたところ、カルテに明確な外傷所見についての記載はなかったものの、事故直後の診察の際に、「腕神経叢引き抜き損傷の疑いあり」との記載と「右肩の可動域制限あり」との記載を見つけました。

 この腕神経叢引き抜き損傷は、バイクの転倒事故などで生じることがあり、上肢のしびれや肩が上がらないなどの症状が生じます。主治医がカルテにそのような記載をするということは、交通事故直後にBさんの右肩に外傷による所見が見られたことを裏付けるものと考えられました。また、交通事故直後に既に可動域制限があったことも裏付けられました。

 そこで、私たちは、MRIの読影レポートと主治医のカルテを添付して、Bさんの右肩腱板損傷は、交通事故によるものであることを強く主張する異議申立書を作成して異議申立てをしました。

 その結果、右肩腱板損傷が今回の交通事故によるものと認められ、Bさんの右肩腱板損傷後の痛みについて12級13号が認定されました。

 しかし、MRI画像上の腱板損傷の程度が軽く、肩の可動域制限が生じるほどではないと判断され、可動域制限については等級が認定されませんでした(可動域制限についても等級が認定される場合には、12級6号が認定されます。)。

 この結果に対して、Bさんは、可動域制限の等級は認められなかったものの、右肩腱板損傷が交通事故によるものと判断されて、同じ12級が取れたということで結果を受け入れ、首の14級9号と合わせて併合12級で示談交渉をするということになりました。

3.可動域制限と神経症状の後遺障害等級と示談金の関係

 今回のBさんは、右肩腱板損傷による痛み(神経症状)で12級13号が認定されましたが、右肩の可動域が4分の3以下に制限された場合に認定される12級6号は認定されませんでした。

 12級6号と12級13号は、同じ12級ですから、裁判所基準の後遺障害慰謝料は同じ290万円となり、違いがないようにも思えますが、後遺障害を負ったことによる将来の減収部分の補償である「逸失利益」の算定では大きな違いが発生します。

逸失利益は、「基礎年収×後遺障害等級ごとの喪失率×喪失期間」で計算され、

通常、12級の後遺障害の逸失利益は、

被害者の交通事故前年の年収×14%×67歳まで年数のライプニッツ係数

で計算されますが、神経症状の12級13号の場合には、喪失期間が67歳までではなく、10年間程度に制限されるのが一般的です。

 例えば、症状固定の時に47歳だった被害者の場合、一般的な後遺障害では喪失期間が20年間とされるのに対し、12級13号の場合には10年間に制限されることが多いです。そのため、この被害者の交通事故前年の年収が500万円だったとすると、喪失期間が20年間の場合には、

 500万円×14%×14.877(20年のライプニッツ係数)=1041万3900円

喪失期間が10年間の場合には、

 500万円×14%×8.530(10年のライプニッツ係数)=597万1000円

となり、逸失利益で大きな差が出る場合があります。

 ですから、同じ12級でも可動域制限での後遺障害等級が認定されるか、神経症状での後遺障害等級が認定されるかは重要です。

 今回のBさんの場合は、実際に可動域制限も残っていたため、再度の異議申立てを行うか、紛争処理機構に審査してもらうよう申立てをするという選択肢もありましたが、画像から腱板損傷が軽微と判断されたのであれば、もう仕方ないと結果を受け入れることにしましたので、後遺障害等級については併合12級で確定させ、示談交渉を開始することになりました。

4.まとめ

 今回は、右肩の腱板損傷で14級9号の認定から、異議申立てで12級13号が認定された事例をご紹介しました。

 実は、今回のBさんの初回申請の結果のように、腱板損傷の事例では、交通事故から時間が経ってからMRIを撮影したケースで、交通事故と腱板損傷の関係性が否定されるという例は珍しくありません。そのため、私たちは腱板損傷を負った被害者の方には、なるべく早期にMRI撮影をするように勧めています。同じように肩の後遺障害で困っている方も多いと思いますので、今回の記事が同じようなことでお困りの方の参考になれば幸いです。

 そして、そのようなアドバイスをするためには、交通事故後なるべく早い段階でご相談いただく必要がありますから、交通事故に遭ったら早期に弁護士にご相談いただくことを強くオススメしています。

 私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は無料でお受けしておりますので、お気軽にお問合せください。

 また、当事務所のブログでも、異議申立てで肩腱板損傷について後遺障害12級が認定された事例(弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~)や逆に残念ながら肩腱板損傷で後遺障害が認定されなかった事例(後遺障害等級が認定されなかった事例~左肩腱板損傷~)をご紹介しておりますので、よろしければご覧ください。

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投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

【速報】後遺障害等級認定事例(1)~頚椎捻挫~

2022-03-28

皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。

これから何回に分けて、私が2021年に担当した交通事故事案のうち、後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介したいと思います。

2021年に私が担当した事案で異議申立てを行った事例は5件ありましたが、実は、以下のようにその5件とも異議が認められるという結果を得ました。

Aさん:非該当⇒14級9号(頚椎)
⇒本記事

Bさん:併合14級(頚椎・右肩)⇒併合12級(頚椎14級9号・右肩12級13号)
【速報】後遺障害等級認定事例(2)~右肩腱板損傷~

Cさん:非該当⇒併合14級(頚椎・腰椎)
【速報】後遺障害等級認定事例(3)非接触事故~頚椎捻挫・腰椎捻挫~

Dさん:非該当⇒14級9号(頚椎)
【速報】後遺障害等級認定事例(4)右直事故~外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)~

Eさん:12級14号⇒9級16号(外貌醜状)
【速報】後遺障害等級認定事例(5) ~外貌醜状(顔面の醜状痕)~

異議申立てが認められる確率はかなり低く、2020年の統計では15%程度とされています。ですから、成功率100%は本当に偶然ではありますが、それでも当事務所所属の弁護士たちの異議申立て成功率は通算で50%くらいですので、全体の統計よりもかなり高い確率で成功しています。

それでは、今回はAさんの事例をご紹介します。

1.初回の申請は非該当

 Aさんは、信号のない交差点で右側の道路から一時停止無視で進入して来た加害者車両と衝突してしまいました。加害者車両は、Aさんの車両の運転席付近に衝突し、Aさんの車両は大きく損傷しました。運転していたAさんはかなり強い衝撃を受け、頚椎を負傷してしまいました(頚椎捻挫)。

 その後、Aさんは整形外科で治療を続けていましたが、首から肩にかけての痛みや腕の痺れがなかなか改善しませんでした。ところが、相手方保険会社は、交通事故から8ヶ月が経過した時点で治療費を一方的に打ち切ってしまいました。Aさんとしては、もう少し治療を続けたいという希望があり、当事務所に相談にいらっしゃいました。

 私たちは、ご依頼いただいた直後、相手方保険会社にもう少し治療費の支払いを延ばすように交渉しました。しかし、もう8ヶ月経過しているということで治療費の延長には応じませんでした。そこで、Aさんには一旦健康保険に切り替えて治療を継続してもらいました。

 それから2ヶ月ほどしてもAさんの症状にほとんど変化が見られなかったことから、主治医も交通事故から10ヶ月経過した時点で症状固定の診断をしました。

 そして、当事務所にて被害者請求で後遺障害申請をしました。しかし、残念ながら初回の申請では後遺障害等級は認められず、非該当という結果が通知されました。

 Aさんは、その間も自費で治療を続けるほど症状が残っており、非該当という結果には納得できないということで、異議申立てを行うことになりました。

 そこで、私たちは主治医に医療照会を行い、Aさんの交通事故直後から症状固定までの症状の経過などを回答書に記載してもらいました。また、症状固定後に自費で治療を続けている状況やAさんの異議申立て時点での症状についても報告書を作成して、異議申立てを行いました。

2.異議申立ての結果、14級9号が認定

 上記のように、私たちがAさんの後遺障害非該当の認定に対して異議申立てを行ったところ、異議が認められ、Aさんの頚椎捻挫後の症状について14級9号が認定されました。

 14級9号の場合には、骨折や脱臼などのいわゆる器質的損傷がXPやMRIなどの画像で証明できなくても認定されますが、受傷状況(事故状況)や症状経過等から総合的に判断されることになります。

 具体的な認定の基準は公表されていませんので、ここからは私たちの私見にはなりますが、過去の私たちの経験上は、症状固定後も自費で治療を継続している被害者の方が、症状固定時点で治療をやめた被害者の方に比べて異議申立てが認められやすい傾向があるように思います。

 交通事故の加害者側が被害者の治療費を負担しなければならないのは症状固定までで、症状固定後は相手方保険会社が治療費を負担してくれることはありません。ですから、その時点で治療をやめる方も多いですが、症状固定の診断を受けたからといって治癒する訳ではなく、症状は残ります。治療費が自己負担になったとしても治療を続けているという事情は、それだけ症状が重いという裏付けと考えられているのかもしれません。

 今回のAさんも、症状固定後も数ヶ月間自費で治療を継続しており、これが有利に働いた可能性があります。また、主治医が作成してくれた回答書にしっかりAさんの症状が残存していることが記載されていた点も異議が認められた要因になったと思います。

3.後遺障害等級と示談金の関係

 後遺障害等級が認定されるか否か、認定されるとして何級が認定されるかは、最終的な示談金の金額に大きく関わります。

 例えば、首のムチウチ(「頚椎捻挫」の診断)で治療期間が交通事故から半年くらいだった過失割合0:100の被害者の方の場合、後遺障害等級非該当(もしくは申請しなかった場合)であれば、示談金は通院慰謝料の約90万円程度となることが多いですが、14級9号の後遺障害が認定された場合には後遺障害慰謝料や逸失利益なども加わり、最終的な示談金は300万円以上になることが多いです。

 このように、後遺障害等級が認定されるかどうかは交通事故被害者の示談にとってかなり重要です。

 今回のAさんの場合は、初回の後遺障害申請も当事務所で行いましたが、相手方保険会社に初回申請を任せて(これを「事前認定」といいます)納得の行く結果にならなかった場合でも、弁護士に依頼して異議申立てをすることができます。

4.まとめ

 今回は、後遺障害非該当から異議申立てによって14級9号が認定された事例をご紹介しました。

 統計では、交通事故被害者の半数以上の方が頸椎(首)を負傷しているというデータもあり、今回のAさんと同じように首の後遺障害で困っている方も多いと思いますので、今回の記事が首の後遺障害でお困りの方の参考になれば幸いです。

 私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は無料でお受けしております。お困りことがございましたら、是非お気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

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