神経症状の後遺障害(12級13号・14級9号)の逸失利益~労働能力喪失期間の相場~

交通事故で首や腰を負傷し、症状固定まで治療を継続しても痛みなどの症状が残存してしまった場合、後遺障害等級としては14級9号の認定を受ける方が大多数です。

また、骨折や靭帯損傷などの器質的損傷を伴うお怪我をされた被害者の場合は、症状固定後も負傷した部位に痛みなどが残存してしまったときに認定される後遺障害等級としては、基本的に12級13号か14級9号となります。

この12級13号や14級9号は、痛みや痺れなどのいわゆる神経症状による後遺障害であることから、加害者側保険会社が後遺障害の逸失利益について、喪失期間を10年(12級13号)や5年(14級9号)に限定するべきだと主張してきます。

しかし、神経症状であっても、必ずしも10年や5年に逸失利益が限定される訳でもありません。

そこで、今回は神経症状による後遺障害等級(12級13号・14級9号)が認定された場合の労働能力喪失期間について、実例を基にご紹介します。

1.後遺障害逸失利益とは?

⑴ 後遺障害逸失利益の計算方法

逸失利益とは、交通事故に遭って後遺障害を負わなければ得られたであろう利益のことをいいます。

後遺障害を負うということは、その分の労働能力が失われ、将来の収入が減ると考えられますので、これを補填するものが後遺障害逸失利益ということになります。

交通事故被害者は、それぞれ状況が違いますので、後遺障害によって完全に仕事を失ってしまう人もいれば、逆にほとんど仕事に影響が出ない人もいて現実の影響は様々ですが、公平の観点から基準となる逸失利益の計算方法が決められています。

具体的には、実務上逸失利益の計算は以下の方法によって算定されています。

逸失利益=「基礎収入」×「後遺障害に応じた労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間のライプニッツ係数」

⑵ 基礎収入とは

後遺障害逸失利益を算定する際、基になる基礎収入は、基本的に被害者の交通事故前年の年収を用いることになります。

逸失利益は、交通事故で後遺障害を負わなければ将来得られたであろう利益ですので、交通事故の影響がない事故前年の年収を基にすべきという考えによるものです。

ただ、転職などで交通事故の前年に働いていない期間がある場合など、事故前年の年収が本来の稼働能力に見合ったものではないケースもありますので、その場合は過去の年収や平均賃金を参考に算定する場合もあります。

⑶ 労働能力喪失率

労働能力喪失率は、後遺障害によってどの程度労働能力が失われているかということですが、端的にどの程度収入が減るかということと同じ意味と考えられます。

後遺障害を負った場合に、現実にどの程度収入に影響を受けるか(収入が何%減るか)は、被害者によって異なりますが、基本的に逸失利益を算定する際には、認定されている後遺障害等級によって労働能力喪失率を定めます。

各後遺障害等級による労働能力喪失率は、以下の表のとおりです。

後遺障害等級に対する労働能力喪失率
障害等級労働能力喪失率障害等級労働能力喪失率
第1級100%第8級45%
第2級100%第9級35%
第3級100%第10級27%
第4級92%第11級20%
第5級79%第12級14%
第6級67%第13級9%
第7級56%第14級5%

⑷ 労働能力喪失期間

労働能力喪失期間は、後遺障害の影響を受けて収入が減るであろう期間ということになりますが、裁判所は基本的に症状固定から67歳までと考えています(平均余命の半分の方が長い場合は、平均余命の半分の期間を採用します)。

しかし、12級13号や14級9号のような神経症状の後遺障害の場合には、労働能力への影響が限定的と考えられており、12級13号で10年間、14級9号で5年間とされることが多いといえます。

2.神経症状の後遺障害

⑴ 12級13号

骨折や脱臼、靭帯損傷などの器質的損傷を伴うお怪我の場合、一定期間治療をして症状固定を迎えても、患部の痛みなどの症状が残ってしまうことがあります。

この場合、残存している症状によっては、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級12級13号が認定される可能性があります。

ただし、器質的損傷があって痛みがあれば必ず12級13号が認定されるというものではなく、残存している痛みの原因が画像所見などで認められる場合に認定されます。そのため、医師が靭帯損傷の診断をしていたとしても、画像上で靭帯損傷の所見がはっきりしなければ認定されません。

また、事故によって骨折しても、きれいに骨癒合が得られている場合などは、12級13号は認定されにくく、次の14級9号の認定にとどまるということもあります。

⑵ 14級9号

交通事故の被害者の大多数が、首や腰のいわゆるムチウチのお怪我をされて、頚椎捻挫や腰椎捻挫という診断を受けます。

この頚椎や腰椎についても、症状固定に至るまで治療を続けても、首・腰の痛みや手足の痺れなどの症状が残ってしまうことがあります。

この場合、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級14級9号が認定される可能性があります。なお、頚部や腰椎のお怪我でも、明確な画像所見がある場合などには「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が認定されることもありますが、かなり稀なケースといえます。

また、14級9号についても、痛みや痺れがあれば必ず認定されるというものではなく、受傷時の事故態様や治療の経過から痛みの訴えに一応の説明がつき、医学的に説明可能な障害を残す所見のある場合に認定されます。なお、頚部や腰部以外のお怪我でも、症状次第では14級9号が認定されることもあります。

3.12級13号の労働能力喪失期間

⑴ 10年間で認定されることが多い

上でもご説明しましたが、裁判所は、後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間について、基本的に症状固定時の年齢から67歳までの期間と考えています。

しかし、神経症状の後遺障害である12級13号の場合は、後遺障害による労働能力の喪失が限定的ということで、10年間とされることが多く、加害者側の保険会社はほとんどの場合、12級13号は10年間という主張をしてきます。

裁判所も、12級13号の場合は10年を一つの基準と考えていると思われます。

⑵ 10年を超えて認められる事例

12級13号の後遺障害であっても、骨折後に骨癒合したものの関節面に不整が残ってしまった場合や靭帯損傷・神経損傷など、器質的損傷が残存してしまった場合、症状固定から10年を経過しても神経症状が改善しないこともあり得ます。

そのため、裁判所も12級13号であれば労働能力喪失期間は10年間と決めつけている訳ではなく、個別の事例に基づいて痛みや痺れの原因となっている器質的損傷が長期間に渡って残存することを証明できれば、10年を超えて労働能力喪失期間を認めてくれますし、事案によっては、機能障害(可動域制限等)などの後遺障害と同様に症状固定から67歳までの期間を労働能力喪失期間として認めることもあり得ます。

また、加害者側保険会社は、12級13号では基本的に10年間以下の労働能力喪失期間しか認めませんが、交渉によってはそれ以上の労働能力喪失期間を認める場合もあります。以前、当事務所の公式ブログでご紹介した事例(弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~)では、裁判をせずに、交渉で最初の10年間は労働能力喪失率14%、11年目から67歳までは労働能力喪失率7%、という内容で逸失利益を獲得できています。

なかなか交渉で67歳まで14%の逸失利益を認めさせることは難しいですが、私たちがお手伝いした他の事例でも10年間14%以上の逸失利益を得られた事例も複数あります。

4.14級9号の労働能力喪失期間

⑴ 5年間で認定されることが多い

14級9号の後遺障害の場合、裁判所も基本的には労働能力喪失期間を5年間と考えていますので、判決や和解案も5年が基本となります。

加害者側保険会社も、同様に基本的には14級9号は5年間と主張してくることが多く、酷い担当者は3年間程度で主張してくる場合もあります。

⑵ 5年を超えて認められる事例

14級9号の後遺障害でも、裁判では個別事案の具体的な事情を基に判断されますので、5年を超える労働能力喪失期間が認められるケースはあります。

特に、頚椎や腰椎以外の部位で14級9号が認定されている場合、骨折や脱臼、靭帯損傷などの器質的損傷が伴っていることが多いですから、痛みや痺れの原因となっている点を主張・立証することで長期の労働能力喪失期間が認められている裁判例も多く存在します。

当事務所の最近の依頼者の事例でも、左距骨骨折後の左足関節痛で14級9号、腰椎捻挫後の腰部痛でも14級9号で併合14級が認定された事例で、加害者側保険会社との交渉で7年間の労働能力喪失期間を認めさせることができたものがあります。

5.まとめ

今回は、神経症状の後遺障害(12級13号・14級9号)の逸失利益の労働能力喪失期間についてご説明しました。

上でご紹介したように、当事務所の弁護士は神経症状の後遺障害でも長期の逸失利益を獲得した経験がありますが、神経症状の場合、本来はもう少し長く逸失利益が認められるべき事案でも、実務上、12級13号で10年間、14級9号で5年間と機械的に決められてしまっていることが多いのが実情です。

交通事故に詳しい弁護士が対応することによって、結果が変わることもありますので、後遺障害でお困りの方は是非お気軽にご相談ください。

私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は初回無料でお受けしております。

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投稿者プロフィール

 甘利禎康 弁護士

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

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