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駐車場内の交通事故の過失割合を修正できた事例
今回のテーマは、駐車場内の交通事故の過失割合です。
当事務所の公式ブログ(身近な法律問題を解説!~弁護士法人優誠法律事務所からの情報発信ブログ~)で過去に駐車場内の交通事故の事例をいくつかご紹介したこともあり、当事務所には駐車場内の交通事故に関するお問合せを数多くいただいております。
駐車場内の交通事故は、道路上の交通事故と比べると大怪我を負うケースは少ないですが、過失割合については、道路上の交通事故と同様、問題となることが多いという印象です。
今回も、駐車場内の交通事故の過失割合が問題になった事例をご紹介しますので、皆様のご参考にしていただけますと幸いです。
1.今回の依頼者~駐車場内で車VS車の交通事故~
今回の依頼者Mさんは、神奈川県在住で
・交通事故はショッピングセンターの広い駐車場の中
・相手方に過失割合5:5を主張されている
・交通事故による怪我はなし
・弁護士特約が使用可能
という内容でした。
【本件の争点】過失割合

上が本件の交通事故の現場となった駐車場です(事故当時の写真ではありませんので、実際の当事者双方の車両は写っていません。)。
事故が起きたのは、画像中央にある通路の交差部分になります。

Mさんは、駐車場から出るため、出口に向かって駐車場内を進行していました。
そうしたところ、Mさんが走行していた通路と交差する右側の通路から、同じく出口に向かうため、右折しようとして出てきた相手方に衝突されてしまいました。
過失割合については、双方の保険会社同士で話し合いが行われていましたが、Mさんは20%(Mさん):80%(相手方)を希望していたものの、相手方保険会社からは50%:50%の主張がなされているとのことでした。
Mさんとしては、相手方が一時停止規制を無視して交差部分に進入したとの認識であったため、50%:50%という過失割合に納得することができず、当事務所にご相談されました。
幸い自動車保険には弁護士費用特約が付いていましたので、弁護士費用のご負担なく弁護士に依頼できる状態でした。
2.基本過失割合は?
ご相談いただいた際、まずは今回の交通事故の基本過失割合について検討しました。
(「基本過失割合とは?」については、以前の公式ブログの記事で説明していますので、こちらもご覧ください。)
今回の事故は、駐車場の通路を走行している車両同士の交通事故ですので、別冊判例タイムズの334図が基本になりますが、別冊判例タイムズ334図の基本過失割合は50:50になっています(別冊判例タイムズ334図の基本過失割合については以前の公式ブログの記事「過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その5~」でご説明していますので、そちらもご覧ください。)。

基本過失割合50(A):50(B)
一方、相手方保険会社が提示していた過失割合も50%:50%であったため、相手方保険会社は、この別冊判例タイムズ334図の基本過失割合を根拠に主張していることが推察されました。
3.基本過失割合からの修正要素
しかしながら、別冊判例タイムズ334図の50%:50%は、あくまでも基本的な過失割合であるため、修正要素がある場合にはその数値が増減することになります(別冊判例タイムズ334図の修正要素については以前の記事「過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その5~」でご説明していますので、そちらもご覧ください。)。
Mさんからご依頼いただいた後、どのような修正要素があるか検討するため、交通事故が発生した駐車場を訪れて、事故現場の確認を行いました。
そうしたところ、下の写真のとおり、相手方が走行してきた通路には、「止まれ」との路面標示が描かれていたことに加えて、「合流注意」と記載された看板も置かれていたことが判明しました。

このことを踏まえ、相手方保険会社に対しては、以下の修正要素が存在することを主張しました。
・Mさんは、丁字路の直線路を直進していたこと
・相手方は、「止まれ」との路面標示があるにもかかわらず、これに従わなかったこと
・それに加えて、「合流注意」との看板が置かれて注意喚起もなされていたことから、相手方には著しい過失も認められること
その上で、Mさんの過失割合は20%を上回らないと主張しました。
4.交渉の結果~過失割合20:80で解決~
その後、相手方保険会社は、私たちの主張を受け入れ、基本過失割合から30%過失を修正し、20%(Mさん):80%(相手方)で了承すると回答しました。
Mさんとしても、当初の希望通りの過失割合であったため、裁判にならずに示談が成立しました。
5.まとめ
今回のMさんの場合、結果的に50:50から20:80に過失割合を修正することができました。
このように大幅に過失割合を修正することができたのは、交通事故が発生した場所を訪れて事故現場の確認を行ったことにより、当方に有利な主張内容を構成することができたためであると感じました。
私たちの優誠法律事務所では、交通事故のご相談は無料です。
全国からご相談いただいておりますので、お気軽にご相談ください。
よろしければ、関連記事もご覧ください。
道路進行車と路外からの進入車の交通事故の過失割合を修正できた事例
交通事故紛争処理センターで過失割合を争った事例~路外進出車と直進二輪車の交通事故~
信号のない丁字路交差点での右折車同士の交通事故で過失割合を修正できた事例
駐車場内の交通事故の過失割合を逆転させた事例(80:20⇒10:90)
また、公式ブログにて過失割合を修正できた交通事故事例も多数ご紹介しておりますので、そちらもご覧ください。
過失割合を逆転させた事例~丁字路交差点で右折車の右側からバイクが追い抜こうとした際の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号なし・相手方に一時停止あり)の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号なし・一時停止なし・同幅員(左方優先の交差点))の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号あり・双方青信号・右直事故)の交通事故~
過失割合を修正できた事例~十字路交差点(信号あり・双方青信号)での右直事故の右折車側~
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
初回相談は無料で、弁護士費用特約にも対応しています。
全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
TFCC損傷とは?後遺障害として認められる?
自転車やバイクでの転倒事故の被害に遭ってしまった場合、手首を痛めてしまうことがあります。
バイク事故などで生じる手首の怪我の中でも、TFCC損傷はよくある傷病といえます。
そこで、今回は、バイクの転倒事故によって、TFCC損傷との診断を受けた場合、どのような損害を賠償請求することができるのかについて解説してきます。
1.TFCC損傷とは
TFCCは、三角線維軟骨複合体(「Triangular Fibro Cartilage Complex」の頭文字をとるとTFCCになります)といい、TFCC損傷は、この三角線維軟骨複合体が損傷することを言います。
三角線維軟骨複合体は、手首の小指側に位置し、橈骨と尺骨という2つの骨の間を結んでいる靭帯や腱、軟骨などの軟部組織の総称です。
2.TFCC損傷の後遺障害
TFCCは、手首の小指側に位置していますので、自転車やバイクの乗車中に事故に遭い、転倒した際に地面に手をついたりしてしまうと、損傷してしまうことがあります。
TFCC損傷の主な症状は、手首の小指側の痛みです。
特に、ドアノブを回すように手首をひねる動作をする場合に痛みを生じます。
TFCC損傷の場合、手首の関節可動域制限を伴う場合も伴わない場合もあります。

3.後遺障害の認定のポイント
⑴ 認定される可能性のある後遺障害の等級
① 後遺障害とは
交通事故の被害に遭った場合、懸命に治療をしても、「これ以上治療を継続しても改善しない」状態になることがあります。
このような状態に至ることを、「症状固定」と言い、症状固定時に残存した症状のうち、自動車損害賠償保障法施行令の別表に定める症状が、将来にわたり改善しないと認められる場合には、後遺障害が認定されます。
② 12級13号
上記のとおり、残存した症状が後遺障害として認められるためには、自動車損害賠償保障法施行令別表に記載された症状に該当する必要があります。なお、この別表には、1級から14級まで症状の軽重に応じて全部で133類型の症状が記載されています。
そして、TFCC損傷の主な症状は、「痛み」という神経症状です。
自動車損害賠償保障法施行令別表2の12級13号には、「局部に頑固な神経症状を残すもの」と記載されています。
「頑固な神経症状」とは、医学的に残存した神経症状を立証することができるものをいい、基本的には、画像所見等の客観的ないし他覚的な所見の有無によって判断されます。
そのため、TFCC損傷が、レントゲンないしMRI等によってわかる場合には、12級13号が認定される可能性が高いと言えます。
③ 14級9号
自動車損害賠償保障法施行令別表2の14級9号には、「局部に神経症状を残すもの」と記載されています。
(頑固ではない)「神経症状」とは、医学的に残存した神経症状を説明することができるものをいい、症状の程度、外力の程度、治療の経過や症状の推移等を総合的に判断します。
TFCC損傷は、確定診断がつかないことも多く、「TFCC損傷の疑い」などと診断されることも珍しくありません。
画像所見上明らかでない場合には、「TFCC損傷の疑い」と診断されることがありますが、その場合でも他の事情からTFCC部に痛みが生じ、これが将来にわたっても残存する可能性があることを医学的に説明することが可能である場合には、14級9号が認定されます。
⑵ 後遺障害認定のポイント
① 他覚所見の有無がポイント
上記のとおり、同じTFCC損傷という傷病名であっても、他覚所見がある場合には12級13号の認定がなされる可能性があります。
後述のとおり、後遺障害が認定されると、後遺障害慰謝料及び後遺障害逸失利益を請求することが可能になり、その金額は等級によって異なります。
もし、TFCC損傷と診断されたにもかかわらず、画像検査を行っていない場合には、医師に画像検査を依頼しておきましょう。
② 被害者請求の方法で請求することがポイント
後遺障害の請求方法は、交通事故被害者が自ら請求する「被害者請求」と加害者側の任意保険会社に手続きを任せることができる「事前認定」の2つの方法があります。
このように聞くと、「事前認定」の方が手続きの負担が少なく良いように思われるかもしれませんが、後遺障害の請求をする際には、「被害者請求」がおすすめです。
理由は以下のとおりです。
まず、後遺障害の請求には、必要書類が決まっていますが、追加の資料を添付することは禁止されていません。
事前認定では、後遺障害が認定されると賠償額が大きくなるという不利益を被る立場の保険会社が主導して行う手続きになりますので、積極的に後遺障害が認定されるための資料を作成・添付してくれません。
他方、被害者請求は、どのような資料を提出するかを被害者側でコントロールすることができます。
そして、後遺障害の請求は、基本的に書面審査です。どのような資料を添付するかが、後遺障害の認定にとっては非常に重要なのです。
以上のとおりですから、後遺障害の請求をするときには、非常に重要な資料の作成・添付をコントロールすることができる「被害者請求」がおすすめです。
4.TFCC損傷後に後遺障害が認定された場合の損賠賠償額
後遺障害が認定されると、後遺障害慰謝料及び後遺障害逸失利益を請求することが可能になります。
⑴ 後遺障害慰謝料
後遺障害の額は、認定された後遺障害の等級に応じて異なります。
例えば、自動車損害賠償保障法施行令別表2の12級13号が認定されたとき、後遺障害が残存したことによって生じる慰謝料の額は、290万円(裁判所・弁護士基準)がひとつの基準となっています。
また、自動車損害賠償保障法施行令別表2の14級9号が認定されたときには、110万円(裁判所・弁護士基準)がひとつの基準となっています。
⑵ 後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残存したことによって、被害者の将来の労働能力が減退することによって生じる(であろう)減収を損害として捉えたものです。
後遺障害逸失利益は、以下の計算式によって算出できます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間
基礎収入とは、稼働能力であり、実際に働いている方は、事故直前の年収を指すことが多いです。
そして、労働能力喪失率及び労働能力喪失期間は、認定された後遺障害の等級によって変わります。
12級13号の場合には、労働能力喪失率が14%、労働能力喪失期間が10年というものがひとつの基準となっています。
また、14級9号の場合には、労働能力喪失率が5%、労働能力喪失期間が5年というものがひとつの基準となっています。
例えば、基礎収入額が400万円の方がTFCC損傷の怪我を負った場合には、12級13号に認定されたときには約477万円が逸失利益の金額となり、同14級9号の場合には約91万円が逸失利益の額となります。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。
TFCC損傷という傷病は、交通事故に遭って初めて聞いたという方も多いと思います。
交通事故に遭ってあまり聞きなれない診断がなされると、不安に思うこともありますよね。
優誠法律事務所では、多くの交通事故の被害に遭われた方からご相談・ご依頼をお受けしています。
バイクや自転車の転倒事故に遭って、TFCC損傷の診断を受けた方は、お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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肩腱板損傷の後遺障害 12級・14級・非該当の事例の比較
肩の腱板損傷は、バイクや自転車の交通事故の被害者の方に比較的多い傷病です。
当事務所の依頼者の方の中にも、腱板損傷による後遺症が残ってしまい、後遺障害の申請をお手伝いするケースは多く、これまでも当交通事故専門サイトや当事務所のブログで具体的な事例をご紹介してきましたが、後遺障害等級12級が認定された場合、後遺障害等級14級の認定でとどまった場合、非該当になってしまった場合など、依頼者によって結果は様々です。
そこで、今回は、最近の4人の腱板損傷の依頼者の方々のケースを比較しながら、後遺障害等級が認定された理由、認定されなかった理由などを考えてみたいと思います。
腱板損傷でお困りの方は、参考にしていただけますと幸いです。
腱板損傷とは?
腱板とは
腱板とは、肩の中にある筋肉(インナーマッスル)で、肩甲下筋腱(けんこうかきんけん)、棘上筋腱(きょくじょうきんけん)、棘下筋腱(きょくかきんけん)、小円筋腱(しょうえんきんけん)の4つのことを指します。
簡単に言うと、腱板は、肩関節がスムーズに動くように調整する役割を担っています。
腱板損傷の症状
この腱板が損傷してしまうと、肩に痛みが出ます。肩を挙げたときに強い痛みを感じたり、肩の痛みで夜も眠れないという被害者の方もいます。
また、損傷がひどい場合(腱板断裂)、肩関節の可動域が制限され、肩が挙がらなくなってしまうこともあります。
腱板損傷の原因
腱板損傷の原因としては、交通事故のような外傷性の怪我によるものと、加齢性の変化によるもの、加齢性の変化が進んでいたところに外傷も加わって起こるものなどが考えられます。
腱板損傷の診断方法
腱板は、レントゲンには映りません。
そのため、レントゲンでは正確な診断はできず、MRIを撮影して診断する必要があります。
また、MRIによって腱板損傷が認められたとしても、ある程度の年齢の方になると、加齢性の変化による損傷ということも考えられます。
そのため、交通事故による腱板損傷であることを証明するためには、事故直後にMRIを撮影する必要があります。
事故直後のMRI画像で、腱板に輝度変化が認められれば、事故による外傷と認められ、症状固定時まで後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害等級が認定される可能性が高まります。
肩腱板損傷で認定される後遺障害等級(10級・12級・14級・非該当)
10級10号
腱板損傷によって、肩関節の可動域が2分の1以下に制限されていれば、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として10級10号が認定される可能性があります。
ただし、肩関節の可動域が制限されていれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像などの客観的な医学的所見から、そのような重度の可動域制限の原因が認められる場合に認定されます。
12級6号
腱板損傷によって、肩関節の可動域が4分の3以下に制限されていれば、「関節の機能に障害を残すもの」として12級6号が認定される可能性があります。
12級6号についても、肩関節の可動域制限があれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像など可動域制限の原因となる腱板損傷の所見が認められる場合に認定されます。
12級13号
腱板損傷による肩関節の可動域制限がない場合や4分の3以下までの制限はない場合、肩関節の痛みが残存していれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が認定される可能性があります。
12級13号についても、肩関節の痛みがあれば必ず認定されるというものではなく、MRI画像など肩関節の痛みの原因となる腱板損傷の所見が認められる場合に認定されます。
14級9号
腱板損傷による肩関節の可動域制限がない場合や4分の3以下までの制限はない場合で、肩関節の痛みが残存しており、12級13号を認定するほどの腱板損傷の所見がない場合、「局部に神経症状を残すもの」として14級9号が認定される可能性があります。
14級9号についても、肩関節の痛みがあれば必ず認定されるというものではなく、受傷時の態様や治療の経過から痛みの訴えに一応の説明がつき、医学的に説明可能な障害を残す所見のある場合に認定されます。
つまり、MRI画像などで明確な腱板損傷までは認められなくても、損傷を疑う所見がある場合なども認定される可能性があります。
非該当
腱板損傷の診断があり、肩関節の可動域制限や痛みなどがあっても、その裏付けとなるMRI画像の所見などがない場合、後遺障害等級は認定されず、非該当となる場合があります。
最近の4名の依頼者の比較
当事務所の弁護士が最近担当させていただいた腱板損傷の被害者の4名を比較すると、以下の表のようになります。4名とも40~50代の男性です。
Bさんの事例については当交通事故専門サイトで、HさんとKさんの事例については当事務所のブログでご紹介していますので、そちらもご覧ください。
事故時の状況 | 初回申請結果 | 異議申立て結果 | MRI撮影時期 | |
Bさん | 自転車運転中 | 14級9号 | 12級13号 | 2ヶ月後 |
Hさん | バイク運転中 | 非該当 | 12級13号 | 1ヶ月半後 |
Fさん | バイク運転中 | 14級9号 | 14級9号 | 1ヶ月以内 |
Kさん | 自動車運転中 | 非該当 | 非該当 | 5ヶ月後 |
12級が認定されたケース
Bさんの場合(14級9号⇒12級13号)
Bさんの事例のご紹介はこちら(【速報】後遺障害等級認定事例(2)~右肩腱板損傷~)
Bさんは、自転車運転中に赤信号の交差点で信号待ちをしていたところ、左折しようとした加害者車両に衝突され、頚椎や右肩などを負傷しました(頚椎捻挫・右肩腱板損傷)。
Bさんは、交通事故から約2ヶ月後に右肩のMRIを撮影しており、読影医のレポートでも「右肩腱板損傷」と診断されていました。
そして、症状固定時の右肩関節の症状は、肩関節の可動域制限(4分の3以下)と痛みが残存しているという状態でした。
しかし、初回の後遺障害申請では、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」との判断で、右肩については14級9号の認定にとどまりました。
その後、読影医のレポートと主治医のカルテを添付して、右肩腱板損傷が交通事故によるものであることを強く主張して異議申立てを行ったところ、12級13号が認定されました。
Bさんのケースは、MRIの撮影時期が若干遅かったものの、読影医のレポートで「右肩腱板損傷」と明確に診断されていたことと、事故直後のカルテに腱板損傷を裏付けるような記載が見られたことで、交通事故による腱板損傷と認められたものと思われます。
Hさんの場合(非該当⇒12級13号)
Hさんの事例のご紹介はこちら(弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~)
Hさんは、バイク運転中の左折巻き込み事故によって、身体を地面に強く叩きつけられて、頚椎捻挫、腰椎捻挫、右肩腱板損傷、右手親指MP関節捻挫等の怪我を負いました。
Hさんは、交通事故から約1ヶ月半後に右肩のMRIを撮影しており、MRI画像から主治医が「右肩腱板損傷」と診断していました。
そして、症状固定時の右肩関節の症状は、肩関節の可動域制限はほとんどないものの、強い痛みが残存しているという状態でした。
しかし、初回の後遺障害申請は相手方保険会社の事前認定で行われ、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」との判断で、右肩については非該当とされていました。
その後、私たちの事務所でご依頼をお受けし、主治医にMRI画像上で損傷部位を指摘してもらう医療照会を行い、その回答を添付して、右肩腱板損傷が交通事故によるものであることを主張して異議申立てを行ったところ、12級13号が認定されました。
Hさんのケースは、事故から約1ヵ月半でMRIが撮影されており、MRI画像上「右肩腱板損傷」と明確に診断されていたことで、交通事故による腱板損傷と認められたものと思われます。
14級が認定されたケース
Fさんの場合(14級9号⇒14級9号)
Fさんは、バイク運転中に隣の車線を並走していた自動車が車線変更してきた際に衝突され、頚椎捻挫、腰椎捻挫、左肩腱板損傷の怪我を負いました。
Fさんは、交通事故直後に左肩のMRIを撮影しており、読影医のレポートには「左肩関節に棘上筋腱損傷及び肩甲下筋腱損傷を疑う所見を認めます」と記載されていました。
そして、症状固定時の左肩関節の症状は、肩関節の可動域制限はないものの、強い痛みが残存しているという状態でした。
その後、初回の後遺障害申請の結果は、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」ものの、治療状況や症状推移などを勘案すると将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられるとの判断で、左肩については14級9号が認定されました。
Fさんの場合は、MRIの読影医のレポートで明確な腱板損傷の診断がなかったことから、私たちは外部の医師に画像鑑定を依頼しました。
そうしたところ、鑑定を担当した医師が「棘上筋腱損傷・肩甲下筋損傷」と診断する鑑定書を作成してくれましたので、この鑑定書を添付して異議申立てを行いました。
しかし、異議申立ての結果、自賠責保険は、MRIの画像上「腱板の連続性は保たれている」と判断し、左肩の後遺障害等級は14級9号のままという結果となりました。
Fさんのケースは、MRI画像上、腱板損傷の程度が軽かったということで14級9号の認定にとどまったものと思われます。
非該当のケース
Kさんの場合(非該当⇒非該当)
Kさんの事例のご紹介はこちら(後遺障害等級が認定されなかった事例~左肩腱板損傷~)
Kさんは、自動車運転中に路外から出てきた加害者車両に衝突され、左肩を負傷しました(左肩腱板損傷)。
Kさんは、主治医に腱板損傷と診断されていたものの、交通事故から約5ヶ月後まで左肩のMRIを撮影しておらず、事故からかなり時間が経過した後でMRI撮影をしましたが、MRI画像上、腱板損傷の所見がありました。
Kさんの症状固定時の左肩関節の症状は、肩関節の可動域制限が2分の1以下に制限され、強い痛みも残存しているという状態でした。
その後、初回の後遺障害申請は、相手方保険会社の事前認定で行われましたが、MRI画像上「本件事故よる腱板損傷は認められない」とされ、治療状況や症状推移などを勘案しても、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難いとの判断で、左肩については非該当となりました。
Kさんの場合は、MRIのレポートで腱板損傷の診断があったものの、事故からMRI撮影までの時間が空き過ぎていたため、事故による損傷と判断してもらえなかったと考えられました。
そこで、私たちは主治医に医療照会をお願いし、事故直後の左肩の症状について回答をもらい、カルテも取り付けて、事故による腱板損傷であると主張して異議申立てを行いました。
しかし、異議申立ての結果、自賠責保険は、左肩腱板損傷と事故との因果関係を認めず、左肩の後遺障害は非該当のままという結果となりました。
Kさんのケースは、MRI撮影が遅すぎたこと、自動車乗車中の事故で通常は腱板損傷が起きにくい事故態様であったこと、50代で加齢性の変化による損傷の可能性も否めないことなどの事情で、事故と腱板損傷の因果関係を認めてもらえなかったものと思われます。
まとめ
今回は、肩の腱板損傷の後遺障害についてご説明しました。
腱板損傷という同じお怪我でも、ご紹介した4名の依頼者は後遺障害等級の認定結果がそれぞれ違う経緯を辿り、違う最終結果となっています。
腱板損傷は、事故後にMRI撮影が速やかに行われないと、事故との因果関係を証明することが難しくなります。
今回ご紹介した非該当の事例のKさんも、事故直後に私たちにご相談されていれば、違う結果になっていたかもしれません。
私たちが、交通事故の被害者の方に対して、事故後の早い段階で弁護士にご相談なさるようお勧めしているのは、このように事故から時間が経過してしまうと取り返しがつかなくなる場合もあるからです。
私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は初回無料でお受けしております。
是非お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
初回相談は無料で、弁護士費用特約にも対応しています。
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サイドミラー(ドアミラー)同士の接触事故で受傷前提の解決ができた事例
交通事故のご相談を多数お受けしていると、サイドミラー(ドアミラー)同士の接触事故を扱うことがあります。
しかし、この交通事故類型では、怪我をしたという主張に対して、「サイドミラー同士が接触したに過ぎないのだから、それで怪我をする訳がない」と相手方保険会社から言われ、そもそも怪我をしたことが争われるとともに,交通事故と怪我との因果関係も争われることが多いです。
今回は、サイドミラー同士の接触事故であるにもかかわらず、訴訟において怪我との因果関係が存在することを前提とした解決ができた事例をご紹介しますので、皆様のご参考にしていただけますと幸いです。
1.サイドミラー同士の接触事故の特徴
そもそも、サイドミラー同士の接触事故の場合、どうして受傷の事実や怪我との因果関係が争われることが多いのでしょうか。
その理由は、サイドミラーの構造にあります。
道路運送車両の保安基準44条2項では、サイドミラーの構造に関して、「・・乗車人員、歩行者等に傷害を与えるおそれの少ないものとして、当該後写鏡による運転者の視野、乗車人員等の保護に係る性能等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。」と定められ、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示では、「衝撃緩和式後写鏡の技術基準」を満たさなければならない旨の定めがなされています。
そのため、仮にサイドミラーに衝撃が加わった場合でも、サイドミラーが衝撃を吸収し、車両本体には衝撃が及ばないと考えられることが多いのです。
したがって、相手方からは、車両本体に衝撃が及ばない以上、当該車両に乗車していた人が怪我をする訳がないという主張がなされます。
2.事例の紹介~サイドミラー同士の接触事故~
今回の依頼者Sさんは、Sさん車両を運転中、信号待ちにより停車していたところ、対向車線を走行していた相手車両が、前方から向かってきました。
その後、相手車両がすれ違う際に、相手車両のサイドミラーが、Sさん車両のサイドミラーに接触してしまいました。
この事故でSさんは頚椎捻挫や腰部挫傷等の怪我を負い、約10ヶ月通院しました。
しかしながら、相手方保険会社は、サイドミラー同士の接触事故であることを理由に、受傷の事実はないとして賠償義務を否定しました。
その後、相手方は、Sさんに対して、債務不存在確認訴訟を提起しました。
債務不存在確認訴訟とは、債務が存在しないことを裁判所に確認してもらうための訴訟です。
本件では、相手方は、Sさんに対する交通事故(不法行為)に基づく損害賠償債務が存在しないことを主張していました。
3.本件訴訟における争点
債務不存在確認訴訟では、Sさんの受傷の有無が争点となりました。
相手方代理人からは、仮にサイドミラーに強度の衝撃が加わった場合、サイドミラーから車体本体に衝撃が伝わるのではなく、サイドミラーが入力方向に沿って倒れるか脱落し、サイドミラーが衝撃を受け止める構造となっていることから、Sさんは受傷していないとの主張がなされました。
この主張に対し、以下の反論を行いました。
・一口に「サイドミラー同士の接触事故」と言っても、その態様は様々であること。
・当初、相手方保険会社は、Sさんが受傷したことを前提とする対応をしていたこと。
・衝突したSさん車両のサイドミラーは、Sさんが座っていた運転席側に付いていたこともあり、Sさんは接触時の凄まじい衝撃音を聞いて自身の身体が跳ね上がったこと。
・仮に賠償金目的の詐病であれば、Sさんにとって、相手方保険会社から受傷事実はないと言われた後も通院を継続するメリットはないこと。
また、文献や裁判例を証拠として提示した上で、以下の反論も行いました。
・低速度車両衝突等の軽微事故であっても、それに起因する頚椎捻挫及び腰椎捻挫等が十分発生しうること。
・受傷機転が物理的な衝撃によるものではないと認定したサイドミラー同士接触の交通事故であっても、事故と傷害との間の相当因果関係を認めた裁判例が存在すること。
4.本件訴訟の結果
本件では、上記のような双方からの主張が一段落した後、裁判所が、こちらの主張を認め、本件事故によってSさんが受傷したことを前提とする和解案が提示されました。
そして、これはSさんとしても納得できる金額であったため、裁判所和解案の内容で訴訟上の和解が成立するに至りました。
5.まとめ
このように、サイドミラー同士の接触事故であるにもかかわらず、交通事故によって受傷したことを前提とする和解を成立させることができました。
サイドミラー同士の接触事故は、他の事故類型と比較して損害額は少ない傾向にありますが、争点や主張内容については奥深く難しいものです。
そのため、弁護士費用特約を利用することができ、弁護士費用の心配がない方の場合は、交通事故を専門とする弁護士に依頼するべきであるといえます(なお、当事務所ではSBI損害保険とアクサ損害保険の弁護士費用特約については、保険会社側が弁護士会の報酬基準に従わない場合、お取り扱いができない場合がございます。)。
私たちの優誠法律事務所では、全国から交通事故のご相談を多数お受けしておりますので、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

これまで一般民事事件や刑事事件を中心に、数多くの案件を担当して参りました。
これらの経験を踏まえ、難しい法律問題について、時には具体例を交えながら、分かりやすい内容の記事を掲載させていただきます。
■経歴
2009年3月 明治大学法学部法律学科卒業
2011年3月 東北大学法科大学院修了
2014年1月 弁護士登録(都内上場企業・都内法律事務所にて勤務)
2018年3月 ベリーベスト法律事務所入所
2022年6月 優誠法律事務所参画
■著書・論文
LIBRA2016年6月号掲載 近時の労働判例「東京地裁平成27年6月2日判決(KPIソリューションズ事件)」

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
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人身傷害保険から保険金を受け取った後にも慰謝料請求できる?
交通事故の被害者の方の中には、交通事故で怪我をしてしまったものの、過失割合に争いがあるためにご自身で加入されている人身傷害保険を使って通院している、という方もいらっしゃると思います。
そこで、今回は、人身傷害保険を使用している場合に加害者の保険会社に対して慰謝料等を請求できないのか、事例を交えて説明していきます。
1.人身傷害保険、対人賠償保険とは
まず、ここで登場する保険の種類について説明しておきましょう。
対人賠償保険とは、交通事故で他人を死傷させた場合に、治療費や慰謝料等の賠償額について保険金が支払われる保険です。
例えば、被害者側の過失がない事故などでは、通院中の治療費を加害者加入の対人賠償保険が負担し(これを「一括対応」と言います。)、治療が終わった段階で慰謝料等を支払ってもらって示談するケースがほとんどです。
他方で人身傷害保険とは、交通事故によるご自身の治療費や慰謝料等の損害について補償を受けることのできる保険です。
例えば、自損事故など加害者が存在しない場合に使ったり、加害者が対人賠償保険に加入していない場合に使ったりすることが多いです。
加害者が対人賠償保険に加入している場合でも、被害者側の過失割合が大きい場合は、加害者加入の対人賠償保険が治療費の一括対応を拒むことがあります。
この場合も、被害者の方が人身傷害保険に加入していれば、人身傷害保険に治療費の一括対応をお願いすることが可能です。
2.人身傷害保険の支払額は約款で決められた額
ただし、人身傷害保険の慰謝料額の基準は、いわゆる裁判所・弁護士基準ではなく、あくまでも約款で決められた金額に留まります。
したがって、人身傷害保険を受け取った後は、加害者側に対して裁判所・弁護士基準との差額が請求できることになります。
例えば、被害者側に過失は0だったものの、加害者が対人賠償保険に加入していないためにやむを得ず人身傷害保険を使った場合は、人身傷害保険から治療費や慰謝料を受け取った後、加害者に対し、受け取った人身傷害保険金と裁判所・弁護士基準の賠償額との差額を請求できます。
3.過失がある場合の注意点‐訴訟基準差額説
ただ、被害者側にも過失がある場合は差額の請求について1つ問題があります。
わかりやすく単純な事例で説明すると、
・裁判所・弁護士基準の治療費や慰謝料等の損害合計が100万円
・過失割合は5:5
・加害者加入の対人賠償保険が治療費一括対応を拒んだため、被害者は人身傷害保険を使用
・被害者は人身傷害保険から60万円を受け取ったのち、加害者加入の対人賠償保険に対して差額を請求した
という場合で考えてみます。
このとき、加害者加入の対人賠償保険会社は、
「うちからあなたに支払うことのできる金額上限は100万円の50%の50万円で、
今回あなたは50万円を超える60万円を人身傷害保険から受け取っているので、うちから追加で払えるものはありません。」
というような説明をして、支払いを免れようとします。
しかし、この説明は間違っています。
少し難しい話になりますが、この問題は、人身傷害保険金を加害者と被害者どちらの過失分から先に充当するかという論点になります。
上記の対人賠償保険の主張は、人身傷害保険金は加害者の過失分から充当すべき、との主張です。
しかし、そもそも人身傷害保険は、被害者の過失が大きいようなケースでも、被害者が治療費や慰謝料の補償を受けられるようになるために加入する保険のはずです。
そうであれば、人身傷害保険金は、被害者側の過失分から充当されるべきです。
最高裁判所もそのように考えています(最高裁平成24年2月20日参照)。
このような考え方を、訴訟基準差額説と言います。
上記の例を判例である訴訟基準差額説で説明すると、被害者が受け取った人身傷害保険金60万円は、被害者の過失分50万円から充当されることになります。
そうすると、人身傷害保険金から加害者過失分(50万円)に充当される金額は、残りの10万円(人身傷害保険金60万円-被害者過失分50万円)ということになります。
したがって、被害者は50万円-10万円の40万円を加害者加入の対人賠償保険会社に対して請求することができ、人身傷害保険金と合わせると、損害額合計100万円の全額を受領することができます。
計算はややこしいのですが、誤解を恐れずにいうと、訴訟基準差額説では、「人身傷害保険金を受領した後に加害者加入の対人賠償保険に差額を請求した場合、多くのケースで人身傷害保険金と賠償金併せて損害額100%の補償を受けることができる」ということになります。
4.現場の視点
弊所でも、人身傷害保険金受領後に加害者の対人賠償保険に対して差額請求をするケースは多くあります。
ただ、対人賠償保険会社からは、「訴訟基準差額説は裁判にならないと採用できない」と言われるケースが非常に多いです(理屈は全く通っていません)。
言い換えると、「裁判にしなければお金を払うつもりはない」ということになるので、加害者側対人賠償保険会社がこのような主張に固執するのであれば、裁判を起こすことになります。
もっとも、対人賠償保険会社への請求は人身傷害保険金を受領した後の差額請求となり、請求額がそこまで大きくないケースも多いです。
そのような弁護士費用を支払うと費用倒れになってしまうようなケースにも対応できるようにするため、弁護士費用特約に加入されることが非常に有用と思われます。
また、被害者の方が人身傷害保険金を受領しているケースは、加害者側から治療費の支払いを拒否されているケース、もっと言えば「被害者側の過失の方が大きい」と言われているケースが多いです。
したがって、過失割合をどうするかということで争いがあることもあり、物損が未解決のままということもあります。
そのような場合は、裁判で過失割合を決め、物損も同時に解決することになります。
5.まとめ
今回は、人身傷害保険を使った後に加害者加入の対人賠償保険に対して賠償請求するケースについてご説明しました。
ご相談いただいた方から、他の弁護士に相談した際は訴訟基準差額説について説明がなかったと伺うこともあります。
少しマニアックな知識かもしれませんが、被害者の方の損害を少しでも回復するためには必要な知識だと考えています。
優誠法律事務所では交通事故のご相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
投稿者プロフィール

2011年12月に弁護士登録後、都内大手法律事務所に勤務し、横浜支店長等を経て優誠法律事務所参画。
交通事故は予期できるものではなく、全く突然のものです。
突然トラブルに巻き込まれた方のお力になれるように、少しでもお役に立てるような記事を発信していきたいと思います。
■経歴
2008年3月 上智大学法学部卒業
2010年3月 上智大学法科大学院修了
2011年12月 弁護士登録、都内大手事務所勤務
2021年10月 優誠法律事務所に参画
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
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高齢者の死亡交通事故で家族が請求できるもの~示談金の相場~
死亡交通事故でご家族を亡くされた方からのご相談をお受けすると、多くの場合、示談金が少ないのではないかとのご質問をいただきます。
特に、年金で生活されている高齢者が交通事故で亡くなった場合、死亡逸失利益というものが少なくなりますので、死亡事故なのに示談金が少ないという印象を受ける方が多いのだと思います。
これまで私たちがご依頼やご相談をお受けしてきた死亡交通事故の中では、圧倒的に被害者が高齢者(年金生活者)である場合が多いのですが、これは死亡交通事故の被害者が高齢者である場合が多いということに加えて、現役世代と比べて「人が亡くなっているのに示談金が少ない!」というご不満を感じて、弁護士に相談しようと思う方が多いからではないかと思います。
そこで、今回は、高齢者の死亡交通事故で被害者家族が請求できるものや示談金の相場などについてご説明します。
1.死亡交通事故で請求できるもの
死亡交通事故で被害者家族が、加害者側に請求できるものとしては、以下の3つのものがあります。
・死亡慰謝料
・死亡逸失利益
・葬儀費用
これらに加えて、即死ではなく、事故から数日後に被害者が亡くなった場合には、亡くなるまでの期間の治療費・休業損害・入院慰謝料なども請求できることになります。
以下、それぞれご説明します。
⑴死亡慰謝料
①被害者本人の死亡慰謝料
これは、文字通り、亡くなった方の交通事故で死亡したことによる精神的苦痛に対する慰謝料ですが、被害者ご本人は亡くなっていますので、ご家族がこの慰謝料請求権を相続して請求するということになります。
死亡交通事故の慰謝料には、自賠責保険基準と任意保険会社基準、裁判所基準の3つがあります。
自賠責保険基準は、最低限の補償ということで一番低く、任意保険会社の基準は、自賠責基準より少し高いか同じくらいの水準になります。
被害者のご家族が、弁護士に依頼せずに加害者側保険会社と示談する場合は、この自賠責保険基準か任意保険会社基準で示談することになります。
裁判所の基準は、裁判所が妥当な慰謝料として考えている基準で3つの基準中で一番高くなります。
弁護士は、裁判前の示談交渉の段階でもこの裁判所基準で加害者側保険会社に慰謝料を請求します。
・自賠責保険基準
死亡交通事故の被害者本人の慰謝料:400万円
(※2020年3月31日以前の事故は350万円)
・任意保険会社基準
社内基準のため非公開。自賠責基準より少し高い程度。
・裁判所基準(近親者の慰謝料も含んだ総額)
被害者が一家の支柱の場合:2800万円
被害者が母親・配偶者の場合:2500万円
被害者がその他の場合:2000~2500万円
(※その他とは、独身の男女、子供、高齢者などとされています。)
②近親者の慰謝料
死亡交通事故の場合、亡くなった被害者本人の他に、被害者のご家族にもご家族としての慰謝料が認められます。
これは、近親者を亡くしたことによる精神的苦痛に対する慰謝料で、被害者本人の死亡慰謝料とは別のものですが、相手方保険会社から慰謝料を提示される際には、特に区別されずに、「死亡慰謝料:2000万円」などと被害者本人の死亡慰謝料と合計した金額で提示されることが多いと思います。
この近親者の慰謝料は、必ずしも民法上の相続人に限られる訳ではなく、自賠責保険では被害者の配偶者、被害者の子、被害者の父母となっていますし、裁判例では、生前の被害者との関係性などによって、兄弟姉妹や祖父母などにも近親者としての慰謝料が認められているものもあります。
なお、死亡交通事故で損害賠償請求ができる相続人や死亡慰謝料の相場については、こちらの記事(死亡事故で損害賠償できる相続人について)でも説明していますので、よろしければご覧ください。
⑵死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者が交通事故で死亡しなければ、得られたはずの収入のことをいいます。
死亡逸失利益は、以下の計算で算出されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入とは、被害者の年収額で、基本的には交通事故の前年の年収額を基に計算されます。
生活費控除とは、被害者が交通事故で死亡しなければ、その後も収入から生活費を支払って生活するため、将来の収入の全てが手元に残る訳ではないので、その生活費分は将来得られたはずの収入額から差し引くということです。
被害者が負担する生活費は、被害者の家族構成や性別、年齢などによって違いますので、それぞれの状況から収入に対する生活費の割合を出しますが、この割合を生活費控除率といいます。
具体的には、被害者が一家の支柱の場合、扶養家族が一人なら生活費控除率40%、扶養家族が二人以上なら30%とされており、独身男性の場合は50%、独身女性や主婦の場合は30%とされています。
就労可能年数は、裁判所は基本的に67歳まで就労可能としていますので、死亡時の年齢から67歳までの年数で計算します。
ただし、高齢者の場合は、簡易生命表で定められているその年齢の平均余命の半分を就労可能年数とします。
また、67歳以下でも、67歳までの年数よりその年齢の平均余命の半分の方が長い場合には、平均余命の半分の年数で計算します。
簡易生命表〈男性〉
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-06.pdf
簡易生命表〈女性〉
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-07.pdf
ライプニッツ係数や生活控除率については、他の記事(死亡事故は早期に弁護士へご相談ください)でもご説明していますので、こちらも併せてご覧ください。
⑶葬儀費用
葬儀費用については、基本的に150万円が上限とされています。
実際に支出した費用が150万円未満の場合には、実費での賠償となります。
ただ、過去の裁判例では、亡くなった被害者の個別事情によって150万円を超える葬儀費用が認められている事例もあります。
2.高齢者(年金生活者)の死亡逸失利益の計算方法
⑴有職者の場合
高齢者であっても有職者の場合は、基本的に交通事故前年の収入を基礎収入として計算します。
なお、事故当時は無職であっても、就労の蓋然性があれば、平均賃金などを基礎収入として計算できる場合もあります。
例えば、死亡した被害者が70歳男性で、交通事故前年の年収が250万円、扶養しているのが奥さん一人であった場合、以下の計算になります。
基礎収入250万円×(1-生活費控除率40%)×平均余命の半分の8年のライプニッツ係数(7.0197)=1052万9550円
⑵主婦(家事従事者)の場合
主婦の場合、家で家事をしてもお金をもらえるわけではありませんが、家政婦さんなど別の人に家事を頼めば当然費用がかかりますから、主婦の家事労働も経済的価値があるものと考えられており、その金額は女性の平均賃金とされています。
ただし、誰かのために家事をしていることが前提になりますので、一人暮らしの高齢者の場合は家事をやっていても家事従事者にはなりません。
例えば、死亡した被害者が70歳の主婦だった場合、以下の計算になります。
基礎収入388万0100円×(1-生活費控除率30%)×平均余命の半分の11年のライプニッツ係数(9.2526)=2513万0709円
⑶年金について
年金収入については、その内容によって逸失利益として考えられるかという点に争いがあります。
老齢年金や恩給については、逸失利益として認められている裁判例がある一方で、遺族年金などは、受給者の生存中の生計の維持を目的とするものという考え方で逸失利益性を否定されている裁判例があります。特に、受給者が年金保険料を拠出していない無拠出制のものについては逸失利益性を否定されています。
3.高齢者の死亡交通事故の示談金の相場
上記でご説明したとおり、死亡交通事故の示談金は、基本的に死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用を合計した金額となりますが、死亡慰謝料や死亡逸失利益については、弁護士に依頼するかしないかで大きな差が出ることが多いといえます。
これは、弁護士が死亡慰謝料について裁判所基準で交渉することが大きな理由です。
ご家族が加害者側保険会社と交渉する場合は、保険会社は裁判所基準よりもかなり低額な任意保険基準で示談金を支払いますので、この慰謝料の基準による違いが大きな差となります。
また、弁護士は、死亡逸失利益についても、裁判例を参考にして、基礎収入や生活費控除率、喪失期間(就労可能年数)が適正なものになるよう交渉します。
その結果、弁護士に死亡交通事故の示談を依頼した場合、依頼せずにご家族が示談するより示談金が高額になります。
そして、弁護士に依頼した場合、高齢者の死亡交通事故の示談金の相場がどのくらいの金額になるかという点についてですが、私たちが過去にご依頼いただいて示談交渉をしてきた事例を考えると、総額で4000万円前後(3500万円~4500万円)くらいが目安ではないかと思います(過失割合0:100の場合)。
直近の死亡当時73歳の女性(主婦)のケースでも、最終的な示談金がちょうど4000万円になりました。
もちろん、示談金は、亡くなった被害者の年齢や性別、収入によって大きく異なりますので、これは参考程度とご理解ください。
4.まとめ
今回は、被害者が高齢者である事例を中心に死亡交通事故で被害者のご家族が請求できるものやその基準などについてご説明しました。
特に、高齢者が被害者のケースでは、死亡慰謝料や死亡逸失利益の金額次第で最終的な示談金は大きく変わります。
一度示談してしまうと、もうやり直すことはできませんので、示談する前に一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
私たち優誠法律事務所では、死亡交通事故に関するご相談も初回無料でお受けしております。是非お気軽にご相談ください。
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法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
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交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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【速報】後遺障害等級認定事例(5) ~外貌醜状(顔面の醜状痕)~
皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。
ここまで私が2021年に担当して後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介してきましたが、最後は頭部挫傷の怪我を負い、顔面に醜状痕(外貌醜状)が残ってしまった被害者のEさん(小学生)の事例をご紹介します。
Eさん:12級14号⇒外貌醜状9級16号
1.初回の申請は12級14号
小学生のEさんは、自宅マンションの敷地で近所の子どもたちと遊んでいたところ、マンションの前の道路を走行してきた相手方車両が、対向車とすれ違うためにマンションの敷地内に入ってきて衝突されてしまいました。
相手方は、道路幅が狭いことから、スムーズに対向車とすれ違うためにマンションの敷地に乗り入れましたが、そのマンションの敷地で子どもたちが遊んでいることに気が付かず、おもちゃの車に乗って遊んでいたEさんに衝突してしまいました。Eさんは地面に顔面を撃ちつけるなどして、救急搬送され、搬送先の病院で頭部挫傷と診断されました。
幸いなことに、Eさんは頭部に異常はなかったため、しばらく経過観察となりました。そして、その後も頭部の異常はなく、特に症状も出なかったため、交通事故から約半年が経過した時点で主治医が症状固定の診断をしました。
しかし、残念ながら、交通事故の際に顔面を地面に撃ちつけたことで、Eさんの額(おでこ)の右側と眉間から右眉にかけて、複数の線状の傷痕(線状痕)や瘢痕が残ってしまいました。これらの傷痕は、交通事故直後よりは改善したものの、症状固定となった交通事故から約半年後の時点でもさほど変わりませんでした。
Eさんのお父さんは、保険会社から送られてきた後遺障害診断書を主治医に書いてもらいましたが、出来上がってきた診断書の記載を確認したところ、傷跡の長さや面積が書かれておらず、図も適当に書かれてしまっていると感じ、これでは適切な後遺障害等級が認定されないのではないかと不安を感じたため、私たちの事務所に相談にいらっしゃいました。Eさんのお父さんとしては、相手方保険会社の担当者にも不信感があったため、保険会社とのやり取りも全て弁護士に任せたいというご希望でご依頼いただきました。
ご依頼後、私たちは、Eさんの主治医に後遺障害診断書の修正をお願いしたところ、直接説明に来て欲しいと言われたため、病院まで医師面談に伺い、診断書の書き方を説明して修正・加筆をお願いしました。このように、記載が不十分なままで申請してしまうと、そもそも後遺障害の審査対象にしてもらえない場合もありますので、適切に記載してもらうことは重要です。
Eさんの後遺障害診断書の修正後、私たちは被害者請求で後遺障害申請をしました。そして、初回の申請では、右前額部の線状痕について、隣接する複数の線状痕の長さを合算することで長さ3センチメール以上の線状痕があるものと評価できるとして、「外貌に醜状を残すもの」として12級14号が認定されました。
2.異議申立ての結果、9級16号が認定
Eさんの場合、初回申請で額の線状痕について12級14号が認定されましたが、外貌醜状の場合、長さが5センチメートル以上の線状痕であれば、9級16号が認定されます。つまり、初回申請で12級14号の認定にとどまったのは、人目につく程度の線状痕の長さが、3センチメートル以上5センチメートル未満だと判断されたためだと考えられました。
しかし、後遺障害診断書に記載してもらった額の線状痕と眉間から右眉にかけての線状痕の長さを合算すると、8センチメートル以上にはなっていたため、Eさんのお父さんとしては、12級14号の認定には納得できませんでした。なお、外貌醜状の場合はサイズだけではなく、「人目につく程度以上のもの」でなければなりませんので、Eさんの顔の写真から、この要件で線状痕としてカウントされなかった傷痕もあったのではないかと推測されました。
外貌醜状の後遺障害の場合、コロナ禍になる前は、基本的に自賠責保険の調査事務所において面接を行い、傷痕のサイズをメジャー等で測定して、等級認定が行われていました。しかし、コロナの感染防止の観点もあり、最近ではあまり面接は行われず、傷痕のサイズが記載された診断書と写真のみで認定が行われることが多くなっており、今回のEさんも初回申請では面接は行われませんでした。
そこで、私たちは、異議申立書において、複数の線状痕の長さを合算すると5センチメートル以上になることを主張し、加えて、人目につくものであるから、実際に面接をして確認して欲しいと申し入れました。
そうしたところ、自賠責調査事務所での面接が行われることとなり、私(弁護士)も同席して、該当する傷痕を指摘しながら長さの測定を行いました。
その結果、私たちの主張が認められ、Eさんの顔面の線状痕について、5センチメートル以上であるとして9級16号が認定されました。
3.まとめ
今回は、外貌醜状(顔面の醜状痕)で初回申請12級14号から、異議申立てで9級16号が認定された事例をご紹介しました。
今回のEさんの場合、お父さんご自身で相手方保険会社とやり取りして進めていた場合、不十分な後遺障害診断書で後遺障害申請を進めることになっていましたから、後遺障害は非該当だったかもしれません。9級になると、後遺障害慰謝料だけでも裁判所基準で690万円になりますから、非該当だった場合と比べると最終的な示談額にはかなり大きな差が出ます。
この記事をご覧になっている方も、医師であればしっかり診断書を作成してくれると思っている方が多いと思いますが、実は、今回のEさんの主治医のように後遺障害診断書の記載方法についてしっかり理解していない医師もいます。医師としても、保険会社が後遺障害診断書の書き方をレクチャーしてくれる訳ではありませんから、交通事故の患者さんの対応経験が少ない場合は仕方がないのかもしれません。そのためか、私たちが記載例などを持っていくと喜ばれることもあります(逆に、弁護士に指図されたくないと怒り出す医師もいますが・・・)。
今回、私たちは医師面談にも自賠責調査事務所での面談にも同席しましたが、おそらくここまで対応する弁護士はかなり少数派だと思います。私たちの過去の経験上、調査事務所の面接でも、こちらから指摘しないと一部の傷痕を測ってもらえない場合もありましたので、私たちはできる限り同席するようにしています。
ここまで読んでいただくとお分かりになるかもしれませんが、正直、交通事故は、弁護士に依頼するかしないかによっても示談額が変わりますが、依頼する弁護士によっても結果が変わってしまうことがあると思います。だからこそ、私たちはご依頼者様のためにベストを尽くすよう努めております。
当事務所では、交通事故のご相談は無料でお受けしておりますので、お困りのこと、お悩みのことなどがございましたら、是非お気軽にご相談ください。
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法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
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2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
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交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」「費用が心配だ」と感じる方もご安心ください。
初回相談は無料で、弁護士費用特約にも対応しています。
全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
【速報】後遺障害等級認定事例(4)右直事故~外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)~
皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。
ここまで私が2021年に後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介してきましたが、今回は直進の原付バイクと右折の自動車の事故(いわゆる右直事故)で外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)の怪我を負った被害者のDさんの事例をご紹介します。
Dさん:非該当⇒頚椎14級9号
1.初回の申請は非該当
Dさんは、原付バイクで走行中に信号のある交差点を直進しようとしたところ、対向車線から右折してきた相手方車両に衝突されてしまいました。
事故現場となった交差点は、相手方側からは直進してくる車両が見えにくく、相手方は直進車に注意して右折する必要がありましたが、相手方は右折する先にある横断歩道に歩行者がいないか確認するために右方向を見ていて、対向車線を走ってくるDさんのバイクに気付くのが遅れて衝突してしまいました。
Dさんのバイクは、相手方車両のフロント中央に衝突し、身体が投げ出されて地面に叩きつけられました。この時、Dさんは身体を地面に強く打ちつけてしまい、頚椎などを負傷してしまいました(外傷性頚部症候群、左膝打撲)。
交通事故の直後、Dさんは救急搬送されて治療を受け、その後は整形外科で治療を続けていましたが、首や左膝の痛みがなかなか改善しませんでした。
Dさんは、当時映像制作の専門学校の学生でしたが、首の痛みが強く、長時間PCで作業をすることが難しくなってしまったため、早く症状を改善させたいとの思いでリハビリを続けました。
しかし、残念ながら、交通事故から約半年が経過した時点でも首の痛みが改善しませんでした。そして、相手方保険会社が、交通事故から半年以上は治療費を支払えないと主張して、一方的に治療費を打ち切られてしまいました。
Dさんは、保険会社に治療費を打ち切られた後も健康保険に切り替えて治療を継続しましたが、さらに半年(交通事故から1年)が経過した時点でも症状が残ってしまい、主治医はそのタイミングで症状固定と診断しました。
Dさんは、それまでの言動から相手方保険会社の担当者が信用できないと感じており、相手方保険会社に任せる「事前認定」ではなく、ご自身で方法を調べて被害者請求で後遺障害申請をしました。
しかし、初回申請では、Dさんの外傷性頚部症候群に起因する首の痛みについて、「将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」として非該当と判断されてしまいました。
また、相手方保険会社からこの交通事故の過失割合について、15(Dさん):85(相手方)と主張されており、Dさんとしては過失割合についても不満がありました。
そこで、後遺障害の異議申立てや示談交渉などの手続きを弁護士に任せたいというご希望で私たちの事務所にご相談にいらっしゃいました。
2.異議申立ての結果、14級9号が認定
以前ご紹介したAさんの記事(【速報】後遺障害等級認定事例(1)~頚椎捻挫~)でご説明しましたが、私たちの経験上、相手方保険会社から治療費を打ち切られた後にも、自費で通院を継続した被害者の方が痛み(神経症状)による後遺障害等級(14級9号)を認定されやすいという感覚があります。
また、以前ご紹介したCさんの記事(【速報】後遺障害等級認定事例(3)非接触事故~頚椎捻挫・腰椎捻挫~)でご説明しましたが、通院回数の多い人、通勤期間の長い人も、後遺障害等級(14級9号)が認定されやすいという感覚があります。
今回のDさんは、治療費の支払いを打ち切られてから半年間に渡って自費で治療を続けており、交通事故から症状固定まで約1年間治療をしていましたので、私たちは、主治医からカルテを取り寄せ、首の痛みが交通事故から一貫して長期間に渡って続けていることを主張して異議申立てを行いました。
また、相手方車両のフロント中央部分が大きく凹んでおり、今回の交通事故でDさんが身体に強い衝撃を受けたことの証拠になりそうでしたので、相手方車両の写真も異議申立書に添付しました。
その結果、私たちの主張が認められ、Dさんの外傷性頚部症候群に起因する首の痛みについて14級9号が認定されました。
3.示談交渉(過失割合の修正に成功)
異議申立てで後遺障害14級9号が認定されましたので、私たちは後遺障害慰謝料・逸失利益・通院慰謝料などを計算して相手方保険会社と示談交渉を始めました。
Dさんは過失割合について、相手方保険会社から15:85と言われていたことに強い不満がありましたので、私たちは弁護士会照会で刑事記録(実況見分調書)を取り寄せて、過失割合についても交渉しました。
過失割合については、典型的な交通事故の場合、過去に同種の裁判例が多数あることから、裁判例を踏まえてそれぞれの事故状況ごとに何%:何%と基本となる過失割合が示されており、この基本過失割合を基に検討することになります。
過失割合の交渉については、当事務所の公式ブログでも解説していますので、是非そちらもご覧ください(過失割合を修正できた事例~駐車場内の交通事故その1~)
今回のDさんの交通事故のようなバイクと自動車の右直事故の場合、双方の信号が青であれば、基本過失割合は15:85になります。つまり、相手方保険会社としては、基本過失割合を根拠に15:85と主張していた訳です。

しかし、実況見分調書によると、相手方はDさんに衝突する直前まで右折する先の横断歩道を見ていて、Dさんに気が付いたのは衝突とほぼ同時くらいだったことが分かりました。
今回の交通事故現場は、坂の頂点のようになっていて、右折車(相手方側)から対向車線の直進車を確認しにくい状況でしたので、直進車の信号に赤になった後、右折矢印が出るようになっていました。相手方としては、青信号のうちに右折するのであれば、対向車の有無をしっかり確認してから右折を開始する必要がありましたが、相手方は対向車線の確認を怠って右折を開始した結果(著しい前方不注視)、Dさんに衝突してしまいました。
さらに、実況見分調書によると、相手方はDさんがかなり近づいていたタイミングで右折を開始しており、「直近右折」に該当し得るのではないかと思われました。
私たちとしては、これらの事情を根拠に過失割合を修正するべきだと主張して交渉しました。
その結果、相手方保険会社も理解を示し、結局、過失割合は5(Dさん):95(相手方)まで修正することができました。
4 まとめ
今回は、外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)で初回申請非該当から、異議申立てで14級9号が認定された事例をご紹介しました。
今回のDさんのように、後遺障害申請について相手方保険会社の事前認定ではなく、ご自身で被害者請求をされる方は珍しいですが、この場合であっても異議申立てから弁護士に依頼することは可能です。
Dさんの場合、私たちにご依頼いただいたことで、異議で後遺障害等級が認定され、過失割合についても修正できましたので、大変喜んでいただきました。
ただ、異議申立てで結果が覆る可能性は高くないですから、弁護士の立場からお話しすると、初回申請の段階からご依頼いただいた方が、適切な等級が認定される可能性が高まりますので、早めにご相談いただきたいというのが本音ではあります。
私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は無料でお受けしておりますので、是非お気軽にご相談ください。
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整骨院・接骨院で治療すると後遺障害等級が認定されないって本当?
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
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交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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【速報】後遺障害等級認定事例(3)非接触事故~頚椎捻挫・腰椎捻挫~
皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。
前々回から私が2021年に後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介していますが、今回は頚椎捻挫・腰椎捻挫の怪我を負った被害者のCさんの事例をご紹介します。
Cさん:非該当⇒併合14級(頚椎14級9号・腰椎14級9号)
1.初回の申請は非該当
Cさんは、ご家族が運転する自動車の後部座席に乗っていたところ、隣の車線を走っていた加害者車両が急に車線変更してきたため、Cさんの車両の運転手の方が、衝突を避けるために急ブレーキをかけました。幸い急ブレーキによって衝突を回避することはできたものの、後部座席に乗っていたCさんは、急ブレーキの反動で体が前方に大きく振られて、前の座席に顔面を強打してしまい、顔や頚椎、腰椎を負傷してしまいました(外傷性顎関節症・頚椎捻挫・腰椎捻挫)。
その後、Cさんは整形外科と口腔外科で治療を続けていましたが、首や腰の痛みがなかなか改善しませんでした。Cさんは、前の仕事を辞めて転職活動をしているタイミングでしたが、首や腰の痛みもあって転職活動を中断せざるを得ず、早く症状を改善させたいとの思いでリハビリを続けました。しかし、交通事故から約1年が経過した時点でも首と腰の痛みが改善しませんでした。そうしたところ、相手方保険会社に治療費の打切りを通告され、主治医もそのタイミングで症状固定と診断しました。
Cさんは、治療費を打ち切られて症状固定となったことで、その後の後遺障害申請や示談交渉などの手続きを弁護士に任せたいというお考えで私たちの事務所にご相談にいらっしゃいました。ご依頼いただいた後、私たちは必要な書類を揃え、被害者請求で後遺障害申請をしました。
その結果、残念ながら初回の申請では首の痛みと腰の痛みについて、それぞれ「将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」として非該当と判断されました。
Cさんとしては、首も腰も痛みが残存していて日常生活に支障があるにもかかわらず、非該当という結果では納得できないということで、異議申立てを行うことになりました。
2.異議申立ての結果、併合14級が認定
頚椎捻挫や腰椎捻挫の場合、交通事故から通常6ヶ月程度で症状固定と診断されることが多いですが、Cさんの場合は交通事故から約1年間も治療を続けており、リハビリの回数も通算170回以上にも上っていました。長年交通事故の後遺障害申請を担当してきた私たちの経験上、通院回数の多い人は痛み(神経症状)による後遺障害等級(14級9号)が認定されやすいという感覚があります。通院回数が多いということは、それだけ痛みが強かったことを推認する事情でもあると考えられるためではないかと思います。ただし、通院回数が多かったり、通院期間が長くても、症状が改善傾向にあったり、訴えている症状に一貫性がなかったりすると、後遺障害とは認定されにくくなります。
そこで、私たちはCさんの異議申立てをするにあたり、主治医に頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状の推移についての照会書の作成をお願いし、併せてカルテを取り寄せて、症状の経過や一貫性があるか否かを確認しました。その結果、Cさんは交通事故直後から症状固定まで一貫して首と腰の痛みを訴えて治療を続けていたことが分かり、主治医から症状が慢性化していて改善は見込めないとの回答を得ました。
また、Cさんの交通事故は、急ブレーキで自動車同士の衝突を避けられており、非接触の交通事故であったため、自賠責保険は「後遺障害が残るほどの怪我が発生する事故ではない」と判断したのではないかと考えられました。
そこで、私たちは、交通事故当時の状況をCさんから詳しく聞き取り、Cさんが靴を脱いで後部座席に座っていたこと、シートベルトをしていなかったこともあって急ブレーキで前方に押し出されて前の座席に顔面を強打したこと、この前方座席に強打した際に首や腰も負傷したことなど、自動車同士は非接触であっても後遺障害が残るほどの怪我を負っても不自然ではないことを細かく主張する異議申立書を作成して異議申立てを行いました。
その結果、私たちの主張が認められ、Cさんの頚椎捻挫後の首の痛みと腰椎捻挫後の腰の痛みについてそれぞれ14級9号が認定されて、併合14級の認定となりました。
3.まとめ
今回は、頚椎捻挫・腰椎捻挫で初回申請非該当から、異議申立てでそれぞれ14級9号が認定された事例をご紹介しました。
今回のCさんのように、交通事故の被害者の多くが頚椎捻挫・腰椎捻挫の怪我を負っていますが、首や腰の症状は回復するまで長い時間がかかることも多く、首や腰の痛みが残ってしまう方も少なくありません。
その場合、多くの方は相手方保険会社に任せて後遺障害の申請を行いますが(この保険会社に任せる方法を「事前認定」といいます。)、この事前認定では必要最低限の書類を揃えて提出するという対応以上は期待できません。
また、少なくとも私たちの経験では、初回の事前認定が非該当だったケースで、相手方保険会社が異議申立てをしてくれて後遺障害等級が認定されたというケースは見たことがありません。
ですから、やはり後遺障害の申請は弁護士に依頼した方が適切な等級が認定される可能性が高まるといえるのではないかと思います。
Cさんと同じように首や腰の後遺障害で困っている方も多いと思いますので、今回の記事が同じようなことでお困りの方の参考になれば幸いです。
私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は無料でお受けしております。ぜひ、お気軽にお問合せください。
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【速報】後遺障害等級認定事例(5) ~外貌醜状(顔面の醜状痕)~
神経症状の後遺障害(12級13号・14級9号)の逸失利益~労働能力喪失期間の相場~
後遺障害診断書を作成してもらえず、裁判で後遺障害等級14級9号前提で和解できた事例
整骨院・接骨院で治療すると後遺障害等級が認定されないって本当?
投稿者プロフィール

法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
長年交通事故案件に関わっており、多くの方からご依頼いただいてきましたので、その経験から皆様のお役に立つ情報を発信していきます。
■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

交通事故で心身ともに大きな負担を抱えている被害者の方々。
保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
私たち弁護士法人優誠法律事務所は、そんな被害者の方々が正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたします。
交通事故案件の解決実績は2,000件以上。所属弁護士全員が10年以上の経験を持ち、専門的な知識と豊富なノウハウを蓄積しています。
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初回相談は無料で、弁護士費用特約にも対応しています。
全国どこからでもご相談いただけますので、不安を抱え込まず、まずは一度お気軽にお問い合わせください。
【速報】後遺障害等級認定事例(2)~右肩腱板損傷~
皆さん、こんにちは。弁護士の甘利禎康です。
前回から私が2021年に後遺障害の異議申立てを行った事例をご紹介していますが、今回は頚椎捻挫・右肩腱板損傷の怪我を負った被害者のBさんの事例をご紹介します。
Bさん:併合14級(頚椎・右肩)⇒併合12級(頚椎14級9号・右肩12級13号)
1.初回の申請は併合14級(頚椎・右肩)
Bさんは、自転車を運転していて、信号のある交差点が赤信号だったため、自転車から降りて信号待ちをしていました。その際に、その交差点のBさんが立っていた角を左折しようした加害者車両が、内回りし過ぎて信号待ちをしていたBさんの自転車に衝突してしまいました。Bさんはそのまま自転車ごと転倒して、頚椎や右肩などを負傷してしまいました(頚椎捻挫・右肩腱板損傷)。
その後、Bさんは整形外科で治療を続けていましたが、首の痛みや右肩の痛みがなかなか改善しませんでした。しかも、右肩の痛みが強く、事故直後から肩が90度(水平)以上上がらない状態が続いていました。Bさんとしては、特に右肩の可動域制限が仕事にも日常生活にも大きな支障があり、少しでも改善しようとリハビリを続けましたが、交通事故から6ヶ月が経過した時点でも改善せず、主治医が症状固定と診断しました。
Bさんとしては、適切な損害賠償を求めたいということで、この時点で私たちの事務所にご相談にいらっしゃいました。私たちは、ご依頼いただいた後、後遺障害申請に必要な書類を揃え、被害者請求で後遺障害申請をしました。

その結果、初回の申請では首の痛みと右肩の痛みについて、それぞれ14級9号の後遺障害等級が認定されて、併合14級の結果が通知されました。しかし、右肩の腱板損傷については、腱板損傷自体を否定するのか、腱板損傷自体は認めるものの今回の交通事故で損傷したことを否定するのか、どちらか理由は分からないものの、「本件事故による腱板損傷は認められない」との判断となり、右肩の可動域制限は後遺障害として認められませんでした。
Bさんとしては、右肩の可動域制限が残り、その当時でも90度(水平)から少し上くらいまでしか肩が上がらない状態でしたので、右肩腱板損傷が認定されなかった結果には納得できないということで、異議申立てを行うことになりました。
2.異議申立ての結果、右肩に12級13号が認定
私たちは、異議申立てをするにあたり、まずBさんが右肩のMRI撮影をした画像診断専門のクリニックの読影レポートを取り寄せました。この読影レポートを確認したところ、右肩の画像上に腱板損傷があるとの読影結果が明確に記載されていました。
ただ、MRI撮影が行われたのが今回の交通事故から約2ヶ月後であったため、おそらく初回の申請では自賠責調査事務所が交通事故以外による損傷の可能性も否定できないという判断をして、腱板損傷と交通事故の因果関係を認めなかったのではないかと考えられました。
そこで、私たちは、主治医からカルテを寄り寄せ、交通事故直後のBさんの右肩の症状について、腫れなどの外傷を裏付けるような症状の記載がないか確認しました。そうしたところ、カルテに明確な外傷所見についての記載はなかったものの、事故直後の診察の際に、「腕神経叢引き抜き損傷の疑いあり」との記載と「右肩の可動域制限あり」との記載を見つけました。
この腕神経叢引き抜き損傷は、バイクの転倒事故などで生じることがあり、上肢のしびれや肩が上がらないなどの症状が生じます。主治医がカルテにそのような記載をするということは、交通事故直後にBさんの右肩に外傷による所見が見られたことを裏付けるものと考えられました。また、交通事故直後に既に可動域制限があったことも裏付けられました。
そこで、私たちは、MRIの読影レポートと主治医のカルテを添付して、Bさんの右肩腱板損傷は、交通事故によるものであることを強く主張する異議申立書を作成して異議申立てをしました。
その結果、右肩腱板損傷が今回の交通事故によるものと認められ、Bさんの右肩腱板損傷後の痛みについて12級13号が認定されました。
しかし、MRI画像上の腱板損傷の程度が軽く、肩の可動域制限が生じるほどではないと判断され、可動域制限については等級が認定されませんでした(可動域制限についても等級が認定される場合には、12級6号が認定されます。)。
この結果に対して、Bさんは、可動域制限の等級は認められなかったものの、右肩腱板損傷が交通事故によるものと判断されて、同じ12級が取れたということで結果を受け入れ、首の14級9号と合わせて併合12級で示談交渉をするということになりました。
3.可動域制限と神経症状の後遺障害等級と示談金の関係
今回のBさんは、右肩腱板損傷による痛み(神経症状)で12級13号が認定されましたが、右肩の可動域が4分の3以下に制限された場合に認定される12級6号は認定されませんでした。
12級6号と12級13号は、同じ12級ですから、裁判所基準の後遺障害慰謝料は同じ290万円となり、違いがないようにも思えますが、後遺障害を負ったことによる将来の減収部分の補償である「逸失利益」の算定では大きな違いが発生します。
逸失利益は、「基礎年収×後遺障害等級ごとの喪失率×喪失期間」で計算され、
通常、12級の後遺障害の逸失利益は、
「被害者の交通事故前年の年収×14%×67歳まで年数のライプニッツ係数」
で計算されますが、神経症状の12級13号の場合には、喪失期間が67歳までではなく、10年間程度に制限されるのが一般的です。
例えば、症状固定の時に47歳だった被害者の場合、一般的な後遺障害では喪失期間が20年間とされるのに対し、12級13号の場合には10年間に制限されることが多いです。そのため、この被害者の交通事故前年の年収が500万円だったとすると、喪失期間が20年間の場合には、
500万円×14%×14.877(20年のライプニッツ係数)=1041万3900円
喪失期間が10年間の場合には、
500万円×14%×8.530(10年のライプニッツ係数)=597万1000円
となり、逸失利益で大きな差が出る場合があります。
ですから、同じ12級でも可動域制限での後遺障害等級が認定されるか、神経症状での後遺障害等級が認定されるかは重要です。
今回のBさんの場合は、実際に可動域制限も残っていたため、再度の異議申立てを行うか、紛争処理機構に審査してもらうよう申立てをするという選択肢もありましたが、画像から腱板損傷が軽微と判断されたのであれば、もう仕方ないと結果を受け入れることにしましたので、後遺障害等級については併合12級で確定させ、示談交渉を開始することになりました。
4.まとめ
今回は、右肩の腱板損傷で14級9号の認定から、異議申立てで12級13号が認定された事例をご紹介しました。
実は、今回のBさんの初回申請の結果のように、腱板損傷の事例では、交通事故から時間が経ってからMRIを撮影したケースで、交通事故と腱板損傷の関係性が否定されるという例は珍しくありません。そのため、私たちは腱板損傷を負った被害者の方には、なるべく早期にMRI撮影をするように勧めています。同じように肩の後遺障害で困っている方も多いと思いますので、今回の記事が同じようなことでお困りの方の参考になれば幸いです。
そして、そのようなアドバイスをするためには、交通事故後なるべく早い段階でご相談いただく必要がありますから、交通事故に遭ったら早期に弁護士にご相談いただくことを強くオススメしています。
私たち優誠法律事務所では、交通事故に関するご相談は無料でお受けしておりますので、お気軽にお問合せください。
また、当事務所のブログでも、異議申立てで肩腱板損傷について後遺障害12級が認定された事例(弁護士に依頼することで示談金が増額した事例~右肩腱板損傷・異議申立て・後遺障害12級13号~)や逆に残念ながら肩腱板損傷で後遺障害が認定されなかった事例(後遺障害等級が認定されなかった事例~左肩腱板損傷~)をご紹介しておりますので、よろしければご覧ください。
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法律の問題は、一般の方にとって分かりにくいことも多いと思いますので、できる限り分かりやすい言葉でご説明することを心がけております。
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■経歴
2005年3月 早稲田大学社会科学部卒業
2005年4月 信濃毎日新聞社入社
2009年3月 東北大学法科大学院修了
2010年12月 弁護士登録(ベリーベスト法律事務所にて勤務)
2021年3月 優誠法律事務所設立
■著書
交通事故に遭ったら読む本 (共著、出版社:日本実業出版社)

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保険会社とのやり取りや後遺障害の申請など、慣れない手続きに途方に暮れてしまう方も少なくありません。
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